「な、んだよ・・・あれ・・・」
目の前の光景に、一夏は呆然と呟く。
突如。倒したと思ったボーデヴィッヒから黒い泥が溢れだし、その形を変え、ボーデヴィッヒを覆い尽くして行く。
『一夏!』
不意に、一夏に護瑠の声が聞こえた。
『一夏、あれはVTシステムだ!』
「・・・VTシステム?」
『ああ、過去のモンド・グロッソ出場選手の動きをプログラムとして使い、再現するものだ。そして、あれは恐らくーーー』
護瑠の話の途中で、その羽化は終わりを迎える。
弱者《さなぎ》から強者《ちょう》へと、その姿を作り替える。
話の途中ではあったが、護瑠が何を言おうとしていたのかは、理解出来た。
そう、これは。この姿はーーー
「・・・千冬、姉?」
ーーー織斑千冬。その全盛期の姿、暮桜だった。
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「簪!」
「うん、すぐ出られる」
この事態が起こってから、護瑠と簪の動きは早かった。
教師陣は侵入者がいるのか分からない状況ではすぐに動けない。
だから、ボーデヴィッヒを止められるのは実質俺たちと一夏たちだけだと、護瑠はそう判断していた。
「杜野、更識」
だが足早に管制室を出ようとする二人を千冬が呼び止める。
「ーーーあいつを頼んだ」
「勿論です。みんなで、今度は無傷で帰ってきますよ」
本当は自分が行きたいのだろう。
ボーデヴィッヒがこうなった事に、自責の念があるのだろう。
だから俺たちがその代わりをしよう。
学園の平和を維持するのが、俺たちの役目だからな。
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「あ・・・のやろうっ」
一夏は目の前の光景に激怒する。
何故か?
それは姉に心酔しているボーデヴィッヒが、挙げ句の果てにその姉の姿で人に危害を加えようとしているからだ。
VTシステム。つまり、あれがボーデヴィッヒにとっての『力』の象徴なのだろう。
けれど、一夏は知っている。
「千冬姉の力は、人を傷付けるものじゃねぇ!!」
許せなかった。
俺を助けてくれたあの姿で、人に害を成そうというボーデヴィッヒが。
一夏は感情のままに瞬時加速で飛び出し、偽暮桜に迫る。
それが普通の生徒、もしくは代表候補生が相手なら、その一刀の元に切り伏せただろう。
それほどまでに一夏の剣は鋭さをもって偽暮桜に迫っていた。
ーーーそう、普通の人間が相手なら、それで終わっていたのだ。
しかし、今一夏と対峙しているのは世界最強。例え偽者であっても、その技量は本物だ。
瞬時加速で迫った一夏の剣は半歩下がられただけで避けられ、逆に袈裟懸けに偽暮桜の刃が迫る。
「一夏、後ろに跳べ!!」
「!?」
全力で下がる。けれどその刃を完全に避ける事は不可能だ。
ーーー勿論、それは一夏一人の場合の話だが。
護瑠の投擲した槍が偽暮桜の刃に当たり、その軌道を逸らす。そして重なるように撃ち込まれる山嵐の小型ミサイルと、シャルロットの援護射撃。
体勢の崩れた一夏を、箒が掴んで下がらせる。
『一夏、俺が時間を稼ぐ。その間に体勢を整えろ』
「護瑠、俺はーーー」
一夏は護瑠に食い下がる。
自分が決着を着けたいと思ってるのだ。
勿論護瑠も理解しているし、元々そのつもりだ。ボーデヴィッヒとは一夏が決着を着ける。
それが今後二人の間に禍根を残さない、恐らく唯一の方法だ。
だから護瑠は時間稼ぎを買って出る。
『良いから任せろ。ーーーったく、ぐずぐずするな。早くしないと、俺がボーデヴィッヒを倒すかも知れないぞ?』
「ーーー分かった」
『ああ。任せろ』
一夏は消費したエネルギーを回復する為に一旦引き、シャルロットからエネルギーも分けてもらう。
そしてその間、あの偽暮桜を足止めしなければならない。
「簪、後方支援は頼んだぞ」
「うん。護瑠も、気を付けて」
そうして護瑠は前に出る。
相手は偽者とはいえ世界最強の再現だ。
気は抜けーーー
「ーーーうおっ!?」
集中を切らせたつもりは無かった。
しかし呼吸の隙間、その一瞬に存在する隙を突かれ、気付いた時には肉薄されていた。
何とか槍を振るって迫る刃を弾くも、あまりの衝撃に吹き飛ばされる。
しかし、体勢を崩されたものの追撃は無かった。
簪の山嵐と春雷による牽制で、偽暮桜は足を止めていた。
「(舐めてなんかいなかったのにこれか・・・)」
世界最強の名は伊達ではないという事だ。
チラッと一夏を見る。どうやら、エネルギーの補給にはもう少しかかりそうに見える。
「(少しだけ、無茶するか・・・)」
怪我をすればまた簪が悲しむ。だからこれは最小限の無茶だ。
そう自分で割り切って、偽暮桜が小型ミサイルを切り伏せた爆煙に乗じて接近する。
上段から下段へと剣が振り下ろされる。
それを護瑠は避ける素振りも見せず、手に持った槍を思い切り偽暮桜の左足に突き刺す。
剣は厭離穢土の部分展開で受け止め、二本目を突き刺す。
それを繰り返すこと二度。
両足を縫い止めた護瑠は、最後の剣を槍で弾くと後退する。
これからはーーー
「お前の役目だ。行け、一夏」
「おう!!」
エネルギーも十分。零落白夜を全開にした一夏は、偽暮桜へと迫る。
偽暮桜は迫る一夏に神速の剣をもって迎撃する。
だがそれは、一夏に届かない。
「ボーデヴィッヒ、お前が憧れた千冬姉はこんな風に力を振るったりしない。だからーーーお前もそうなれるはずだ」
振り下ろされた剣を弾き、返す刃で一撃必殺の止めを刺す。
偽暮桜は切り裂かれ、一夏は切り口からボーデヴィッヒを引きずり出す。
ボーデヴィッヒという依り代を失った偽暮桜はその形を崩し、元の泥へと戻ってーーー
「俺がお前を守ってやるよ」
ISの暴走という一大事は、終息へと向かっていった。
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「はい、報告ありがとね~」
夕暮れの生徒会室。
護瑠は楯無と共に、今回の暴走事件の概要を説明していた。
「今回、ボーデヴィッヒに過失は無いという事で良いですよね?」
「そうね、機体に組み込まれたVTシステムもかなり高度なプログラミング能力を持っていないと組み込めないようなデータの深部に眠っていたし、恐らく、搭乗者の強い思いがトリガーとなるように設定されていたんでしょうから」
その言葉に、護瑠はホッと胸を撫で下ろす。
「あら、簪ちゃんから目移りしちゃった?」
「まさか、そんなわけ無いでしょう」
迷いの無い、即答だった。
ボーデヴィッヒが聞いたら流石にショックを受けるんじゃないかと思うほどの切れ味だった。
「ふふ、相変わらずね」
「・・・まあ、それは良いでしょ。ーーーそれで、少し気になった事が」
「あら、何かしら」
「報告書に載せてはいませんが、ボーデヴィッヒを救助した一夏が気になることを言っていたんです」
『何か、不思議な空間・・・って言うのかな。そこで、ボーデヴィッヒの本音を聞いたんだ。だから決めたんだ、俺がこいつを守ってやろうって』
その話を聞いて、楯無は溜め息を吐く。
「一夏君、まぁた無自覚に女の子を落としにいったのね」
「気持ちは分かりますけど、本題はそこじゃないんですよ。一夏の言っていた不思議な空間って、操縦者同士の共感現象の事ですよね? 少しおかしく無いですか?」
「ーーー確かに・・・」
護瑠の言葉に、楯無の表情が変わる。
操縦者同士の共感現象は、これまでも何度か報告されている現象で、数は少ないが特別レアという訳ではない。
けれど、これまで報告があったのは、肉親などの肉体的に近い者同士ばかりだ。
稀に性格の似た者同士に発現が認められる事もあるが、一夏とボーデヴィッヒはあまり性格が似ている訳ではない。
だからどうしてこの二人に起こったのか、護瑠は不思議に感じていた。
「ですので楯無さん。少し調べて欲しい事がーーー」
少年たちは少女たちと出会い、物語は動き始める。
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