「私は調整の続きもあるから、もう帰るわね。」
紫が立ち上がりその場にスキマを開く。
「紫、貴方ちゃんと玄関から出ていきなさい。」
行儀が悪いと私が言えば。
「いいじゃない面倒臭い。2人もまたね。」
「はい、さようなら紫さん。」
「さよならー。また学校に来てね紫さん。」
2人に手を振りながら紫がスキマに入ると、すぐにスキマが閉じる。
「そうそう、花子、貴方この件が片付くまで別荘(ウチ)にいなさい。」
「え、なんで?」
「さっき攫われそうになったばっかりでしょう。危機感を持ちなさい、連中がまた貴方を狙ってくる可能性を考えれば私の元に避難した方がいいわ。」
「ああ、そっか。うーん、じゃあ、お邪魔しようかな。」
「ゲスト用の離れを用意させておくわ。」
「えっ、そんな悪いよ。隅っこの部屋とかでも十分だから。」
花子が日本人的な謙虚さを見せるがそうはいかない。
「駄目よ客人を無碍にするなど私の沽券にかかわる。しっかりとおもてなしさせてもらうわよ。」
「えっと、うん、わかった。暫くの間お世話になります。」
「ええ、我が家だと思って寛いで頂戴。それと、荷物を取りに戻るなら一声かけなさい、護衛を用意するから。」
「あっ、護衛だったら私がしてあげるよ。」
レナが手を上げて護衛役に立候補したけど。
「駄目よ。花子は私の客よ、であれば護衛も此方から出すのがスジでしょう。」
「うっ、わかりました。」
口ではわかったと言っているけど、心配なようね。
まあ、友人を心配する気持ちはわからないでもないけれど。
「そんなに心配する必要は無いわ。腕利きの護衛を付けるから。」
「はい。わかりました。」
「ありがとう、レミリアさん。誰が護衛してくれるの?」
レナを安心させるためでもあるのか花子が聞いてくる。
「そうね、私とフランクが護衛するわ。」
「えっ、レミリアさんとフランクさんが私を守ってくれるの。ありがとう。」
私が護衛に付くと思っていなかったのか花子が少し驚きの声を上げる。
「大丈夫だよレナちゃん。レミリアさんとフランクさん、あっ!レナちゃんは知らないか。咲夜さんの部下でフランシス・ヴィーゼさんっていう狼男さんがいるんだけど。とっても強くて優しい頼りになる人?がいるんだ。」
レナは、笑顔で言う花子を見て納得したのか。
「うん、わかった。レミリアさん、花子ちゃんをお願いします。」
「別に、友人として当然の事よ。それより、今日のところはここまでにしましょう。」
「うん、そうだね。もう3時過ぎちゃったし、レナちゃん今日も学校でしょ。」
「え、あっ!ああー、宿題まだ残ってるのに!」
レナが頭を抱えて絶叫する。
咲夜が咄嗟に私の耳を塞ぐが、それでもうるさい。
「うるさいわよ、静かにしなさい。」
「あ、ご、ごめんなさい。ええっと、じゃあ私は帰るね。」
レナは慌てて立ち上がり帰ろうとするけど、いやいや、ちょっと待ちなさい。
「レナ、貴方その恰好で街中を歩くつもりなの?」
「え、あっ、まだ変身したままだった。」
レナが右腕を上げると彼女の体が淡い光に包まれる。
光がおさまると彼女の服装は落ち着いた色合いのブレザーとスカートになっていた。
通っている学校の制服か?
しかし、光に包まれている間に体のラインが丸わかりなのは如何なものかと思うぞ。
「時間も時間だし。急いでいるんでしょう、こちらで車を用意するわ。」
「えっ、やったー。ありがとうございます。」
「じゃあ、車を用意するから待っていなさい。咲夜。」
「かしこまりました。レミリアお嬢様。」
「!?」
一瞬で咲夜の姿が消えるのを見てレナが口を半開きに、目を丸くして驚いている。
「えっ、えっ、どういう事。メイドさんが消えちゃったけど。花子ちゃん、あのメイドさんも妖怪なの?」」
突然の事に主である私にではなく友人の花子に聞いているけど。
「あははは、レナちゃんその顔ぐふふふっ、ゲホゲホ。」
レナの顔が笑いのツボにはまったたのか。両手でお腹を抱え涙目になって笑っている花子に答える余裕があるとは思えない。
「花子ちゃんヒドイ。」
取りあえず回復しない花子の事は放っておいて。
「主である私が話すわ。咲夜は時間を操る程度の能力を持っているのよ。」
「時間を操る程度の能力、ですか?」
「そう、録音した音楽を一時停止したり早送りする様に時間を停めたり、早めたりすることが出来るのよ。他にも時間と密接な関係にある空間も操れるわ。実際、この家の屋内も咲夜が能力を使って広くしているしね。」
「なにそれ・・」
咲夜の能力について説明してあげたらレナが絶句している。
「あっ、じゃあ花子ちゃんも何か特殊な能力とか持ってたりするの?」
「ひーひー、えっ、私?私は能力は持ってないよ。妖怪全員が持ってるわけじゃないし。」
回復した花子が涙を拭いながら答える。
「そうなんだ。レミリアさんは特殊な能力を持っているんですか?」
「ええ、持っているわ。私の能力は運命を操る程度の能力よ。」
「運命ですか・・何だか、凄いですね。」
繰り返し頷いているけど、この娘、絶対に理解してないわね。
「レナ、貴方ちゃんと理解していないでしょう。」
「あ、あははは・・」
私から目を逸らしながら笑って誤魔化そうとするレナ。
「仕方がないわね。」
私は意識をテーブルの上にあるメモ用紙と万年筆に向けると。
1枚のメモ用紙が私の目の前まで宙を移動して静止する。
万年筆は同じく宙を移動して私の右手に収まる。
空中で静止したメモ用紙に書き終えてレナを見ると、また口を半開きに、目を丸くして驚いている。
隣では花子が。
「あははは、またその顔ぶふっふうははは。」
また、両手でお腹を抱え涙目になって笑っているとレナが。
『ビシィッ』
無言でデコピンをする。
どうやら2度も笑われて頭に来たようね。
「いったーい。ヒドイよレナちゃん。」
「レミリアさん、あの、手を触れずに物を動かしてますけど、どうやって動かしているんですか?」
額を押さえて抗議の声を上げた花子を無視してレナが私に聞いてくる。
「テレキネシスよ。吸血鬼なんだからこれ位、出来て当然よ。」
「・・吸血鬼って凄いんですね。」
「ええ、凄いのよ。」
笑顔で言いながらメモをレナの目の前に移動させる。
メモにはこう書かれている。
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花子がレミリアに石を投げつけた。
レミリアは、
右に避けた━┳━┳┳━┳━━┳┳━┳━┳レミリアの肩に当たった
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何もしない━┻┳┻┻┳┻┳┳┻┻┳┻┳┻レミリアの頭に当たった
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左に避けた━┳┻━┳┻┳┻┻┳┳┻┳┻━石は当たらなかった
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しゃがんだ━┻━━┻━┻━━┻┻━┻━━レミリアのお腹に当たった
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「いい、このくじの様に人妖に拘わらず、選択肢を選ぶ事は出来ても結果を選ぶことは出来ないわ。でも、私の能力は運命を操る程度の能力を使えばこうする事が出来るの。」
『パチン』
私が指を鳴らすと。
メモが、
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
花子がレミリアに石を投げつけた。
レミリアは、
右に避けた━┳━┳┳━┳━━┳┳━┳━┳石は当たらなかった
┃ ┃┃ ┃ ┃┃ ┃ ┃
何もしない━┻┳┻┻┳┻┳┳┻┻┳┻┳┻石は当たらなかった
┃ ┃ ┃┃ ┃ ┃
左に避けた━┳┻━┳┻┳┻┻┳┳┻┳┻━石は当たらなかった
┃ ┃ ┃ ┃┃ ┃
しゃがんだ━┻━━┻━┻━━┻┻━┻━━石は当たらなかった
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
と、変わった。
「ええっ!そんなぁ、卑怯よ。こんなの。」
「レミリアお嬢様、お車のご用意が出来ました。」
「ひぁっ!・・あぁ、また。」
突然現れた咲夜にまたレナが驚いている。
「ありがとう咲夜。」
私がソファから立ち上がるとつられる様に花子とレナが立ち上がる。
「咲夜、急いでいるから全員玄関までお願い。」
「かしこまりました。レミリアお嬢様。」
次の瞬間、私達は部屋ではなく玄関に移動していた。
何のことは無い、咲夜が時間を止めて私、花子、レナを玄関まで運んだだけだ。
玄関の扉は既に開いていて、屋根付きのロータリーにはT○Y○TAの高級セダンが1台停車している。
「あれ?・・ああ、咲夜さんですね。」
花子は何がおきたのかわかったようだけど。
「はへ!?」
わかっていないレナは目を白黒させて周りを見ている。
「レナちゃん、咲夜さんが時間を止めて私達を運んでくれたんだよ。」
「えっ、そうなの。」
「うん、そうですよね。」
花子の問いに咲夜が。
「はい、お急ぎの様でしたので。」
「え、ええと、ありがとうございます。」
咲夜に、何と言っていいかわからない微妙な顔をしてお礼を言った後に表情を改めたレナは。
「じゃあ、私は帰るね花子ちゃん。ええと、レミリアさん助けて頂いてありがとうございました。おじゃましました。」
「うん、またねー。」
「別に貴方を助けたわけではないのだけど。お礼は受け取っておくわ。」
レナが花子には手をふって、私には一礼して車の後席に座ると咲夜がドアを閉め、すぐに車は夜の闇に消えて行った。
「私はもう寝るわ。花子はどうするの?」
「お風呂に入れるなら入りたいかな。流石にこのまま寝るのはちょっと。」
「わかったわ。咲夜、花子に誰かつけて頂戴。」
咲夜が呼んだ妖精メイドを1人、臨時の花子専属メイドにする。
「それじゃ、おやすみ。」
「ありがとうレミリアさん。おやすみなさい。」