給養研究会の報告書   作:waf

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はぁ…この前の遠征では迷惑をかけてしまった…
料理が不格好というだけでなんで泣いてしまったんだろう…
着任したてで練度も低く、あらぬ迷惑もかけてしまっては…
…いけない。気をしっかり持たねば…これ以上は…ん?司令?手招きしている?

「やあ、磯風。我が基地には慣れたかい?」
「はい、まだ練度が低く迷惑をかけるが、皆さんの助力も合ってやっていけている。」
「いいねいいね、なんか悩みとかある?」
「…いや、大丈夫だ。」
「そうか、そんな君にはこれをあげよう」
「…?なんだ、これは?」
「いいことがある招待状だよ。」
「いいこと、か…?」
「そ。一つは絶対いいことがある。あとは悩みも解決するかもよ?」
「!?…それは、どういう…?」
「ま、その招待状の日時に書いてある場所においで。」
「…了解した。
「命令じゃないよぉ…これ。俺の趣味の延長上だからさ」
「趣味…?」
「そそ、どうしても気が乗らないなら無理しないでいいよ。」
「はぁ…?」
「あ、その招待状あまり人目につかないようにね?結構プレミアついてるらしいから。」
「ぷれみあ‥?」
「それがどういうものなのか知りたいなら、一番信用できる人に聞いてごらん」
「…そうする…」
「おっけー、じゃ、お暇ならよろしくねー」

…悩みが解決するかも…か…
しかし、うちの司令はつかみどころのない人だ。
悪人ではないんだろうが、なぜか悪い顔をする…



報告書2 「遠征食」 二頁

十一時五十五分 川内艦隊司令基地 南棟33号室

 

川内艦隊司令基地南棟、別名”給養棟”。

大食堂と酒保があるこの棟は、川内艦隊司令基地の食の中心地と言っても過言ではない。

その南棟1Fに謎の部屋がある。

大食堂の奥にある大厨房の奥にある廊下の奥まったところにその部屋はある。

南棟33号室。地下にあるはずの食料倉庫がなぜか南棟1Fの片隅に一つだけある。

 

磯風はその南棟33号室の扉の前に立っていた。

ここが招待状に書かれていた場所だ。しかし、扉を開ける勇気を少し出せないでいた。

数日前、提督から招待状を受け取った後、これがどういうものなのか分からずに居た。

思い切って同室で磯風より少し前に着任した浜風に招待状を見せて聞いてみた。

 

…磯風が招待状を受け取った日。 二十一時十五分 東棟第七居住区画8号室

 

磯風「…なぁ、浜風」

浜風「なぁに?」

磯風「今日、司令からこんなものをもらっ」

浜風「そっ!そっ!そそっ!それっ!!!」

磯風「な、なんだ!?突然大きな声を出し」

浜風「研究会主催食事会の招待状じゃない!!貰ったの!?!?」

磯風「な、なんだ、これはそんなすごいものなのか?司令は”ぷれみあ”が付いているとか‥?」

浜風「そうだよ!知らないの!?提督と鳳翔さんが始めた川内基地名物の給養研究会!」

 

浜風はしばらく色んな表情を繰り出していた。

それだけでこの招待状がすごいものだと磯風は理解できたが、

同時に浜風が食べることが大好きだったということも思い出した。

 

浜風「…やっと落ち着いてきた。それはね、我が基地最高の料理が食べられる招待状なの。」

磯風「最高の…料理?」

浜風「そう。鳳翔さんは知ってるよね?給養主任で基地のお母さん。」

磯風「ああ、もちろんだ。最高の料理をほぼ毎日作ってくれている。」

浜風「で、実は提督も鳳翔さんに負けず劣らずの料理上手って知ってた?」

磯風「そうなのか!?確かに恰幅はいいが…」

 

浜風は少し吹き出してしまった。

恰幅が良いから料理上手という発想があまりにも可愛らしい。

浜風は息を整え、話を続けた。

 

浜風「…鳳翔さん着任前、レシピを多数書いて給養が破綻しないようにしていたのは提督なんだって」

磯風「そ、そうだったのか…」

浜風「そう!って、私が着任する遥か前だから、話でしか知らないけどね。」

磯風「し、しかし、研究会まで作るとは、なんで…?」

浜風「私も一回聞いてみたんだ。そしたら、”美味しいご飯食べられ続けたら幸せでしょ?”だって」

磯風「それだけ?」

浜風「そう、それだけ。ともかく、我が基地で最高の料理好きが全力で調理した物を食べられるのよ!?」

磯風「それは…たしかに美味しそうだが…」

浜風「そうでしょ!?招待するのは主に提督の気分次第って話もあるから、食べたことがない人も結構いるんだよ?」

磯風「…」

浜風「…先輩が言ってた。”呼ぶ意味のある人は優先的に招待される”ってね。」

磯風「呼ばれる意味…か…」

浜風「行ってきなさい。なんで呼ばれたのかは行かなきゃ解らないし。」

磯風「そうか…」

 

…そして現在に至る。

一体なにが待っているのかわからないし、何をされるかもわからない。

思い当たるとしたら、つい最近の遠征作戦での失態だ。

料理をできないごときでなんという醜態を晒したのかと怒られるのか?

それとも、料理好きの提督だから、料理さえできないなんてと呆れられるのか?

考えただけでも気が重い。独り言を言いながら思考を巡らせる。

ここまで来たのだから入るしかない…

と、決心を決めかけたその時ドアが勝手に開いた。

シンプルなエプロンを着用した普段着姿の提督が顔を出した。

しばし、磯風は呆気にとられた。

 

提督「…独り言、聞こえてたよ?」

磯風「えっ!?いやっ…あの…し、失礼した…」

提督「いいよいいよ。さ、入って。もう出来てるよ。」

 

提督に促され、磯風はそろそろと入室した。

部屋を見回して、再び呆気にとられた。

そこには小綺麗な洋食レストランのような空間が広がっていた。

小花のいけられた花瓶を中央に添えたダイニングテーブル。

アンティークな雰囲気を醸し出す椅子と照明。

小さなカウンターテーブルまであり、その先には綺麗な厨房がある。

南棟の南端にあるこの部屋は、周りの木々によって外からは簡単に見えないようになっていた。

それでも、大きめな窓からは日差しが程よく入り心地よささえ感じる。

磯風ははっと我に返り、提督に尋ねた。

 

磯風「‥し、司令?これは…?」

提督「この部屋は、給養研究会主催食事会の専用部屋だよ。」

磯風「あ、私が聞きたいのは…その…」

提督「ん?あぁ、普通の部屋だと味気ないから、いっそのこと本気で作っちゃえって思ってね。」

磯風「いや、そうでもなくて‥」

提督「あー、大本営?大丈夫だよー、経理監査官の首根っこ掴んでるか」

霧島「司令、それも違うと思います。というか、しれっと黒いこと言わないでください。」

提督「え?そう?でも簡単だよ?あいつらアホでさ、二重帳簿データを浅い階層に置いてて…」

 

霧島が提督を無言で制する。早く本題に入れという顔だ。

提督は息を整えて仕切り直しの空気を作った。

 

提督「…ようこそ、給養研究会主催食事会へ。」

霧島「ここでは、司令と鳳翔さんが考えた料理を食べることができます。」

赤城「そして、要望があればなんなりと申してください。今後の給養の参考にします。」

雷「或いは、落ち着いてじっくりと料理を味わうだけでも大丈夫です。さあ、こちらの席へどうぞ。」

 

雷に促され磯風はカウンターテーブル席へ座った。

そこから見える厨房には、鳳翔さんがいた。

鳳翔さんは磯風を見ると微笑みながらメニューを紹介した。

 

鳳翔「本日のメニューは、豚の角煮です。」

 

磯風はまだ呆気に取られていた。

なんでこの人達はこんなレストランごっこみたいなことをしているんだろう。

そもそも、霧島さんや赤城さんは第一艦隊に重用される強者だ。

雷も磯風より経験豊富な遠征隊員の一人。

鳳翔さんは裏方の第一人者で、給養だけではなく空母勢のまとめも一手にに引き受けている。

そんな人達が冗談ともわからないことを今目の前で繰り広げている。

この空間に飲まれきっている。磯風にはそれくらいしか考えられなかった。

その空気を破ったのは提督だった。

 

提督「…なんか違うな。」

赤城「やっぱり畏まった態度って向かないんですよ…」

提督「やっぱり?なんか意外と締まらなかったしねぇ」

鳳翔「ん〜、やはりいつものようにのんびりとやったほうが研究会らしいですね」

霧島「というか、きっちりとした空気に一番似合ってないのは司令ですからね?」

提督「…ちょっとひどくないかな?…」

 

今度は一気に砕けた雰囲気になった。

今さっきは空間に飲まれていたけど今度は取り残された。

なんかちょっと冷静になれてきたかもしれないと磯風は感じた。

 

磯風「あの‥私は何をすれば…?」

提督「あぁ、ごめんごめん。招待客はお腹いっぱい食べればいいよ」

雷「普段はこんなセリフ言わないのよ」

赤城「そうですよ。大体の人はノックして入ってきますからね。」

提督「来たな?こっちだ食え!うまいか?おかわりもあるぞ?そうかそうか!って流れが普通だからね」

鳳翔「あとは、私達含めて皆さんで食べ始めるんです。」

霧島「司令が磯風さんがドアの前で考えこんでることに気づいて、三文芝居を思いついたんですよ」

提督「…霧島、なんか今日棘多くない?」

霧島「…経理監査官の件、あとで聞かせてくださいね?」

提督「あー、それは青葉も同席させたほうがいいかなぁ…」

霧島「…あれも絡んでるんですね? ちゃんと”まとめた”ほうが今後のためです」

提督「ほら、情報収集訓練の一環としてね…?」

 

霧島が提督に危ないオーラを投げかけ始めた時、

鳳翔さんが料理を磯風の前に置いた。

 

鳳翔「はい、今日のメニューの豚の角煮です。ご飯と白菜の浅漬も置いておきます。」

磯風「あ、ありがとうございます…」

鳳翔「…あのお二人は放っておいて構いません。さ、どうぞ、召し上がってください」

 

磯風は鳳翔さんに促され、箸を手にとった。

時間は昼時、調度良い空腹感もある。とりあえず、食べよう。いただきます。

箸で豚肉を切る、力もいらずにすんなりと解れた。これは相当煮込んでいるんだろうか?

一口サイズに解れた豚肉を口に運ぶ…美味しい、味がよく染みている。

脂もしっかりとあるが、しつこくない。なぜだろう?

ゆでたまごにもしっかりと味が付いている…やはり、鳳翔さんの料理は素晴らしい…

ああ、ご飯が止まらない。休憩に手を付ける白菜の浅漬が、角煮の脂を中和して口がすっきりする。

するとまた角煮を食べて、ご飯を食べて…すべてが白米を食べるための起爆剤になっている様だ。

磯風は手を止めることなく角煮を食べ続けた。

2杯めのご飯を食べ終わる頃、どこからともなく重低音が聞こえた。

なんだ?この音は…?

 

赤城「…すいません…」

 

赤城の腹が鳴った音だった。

全員が静かに笑い、提督は言った。

 

提督「俺もお腹減ってきたし、そろそろみんなも食」

赤城「そうですね!準備します!」

提督「なんで君は何時も食い気味なんかね?」

 

提督、赤城、鳳翔さんが人数分の食器を取り出し、盛り付けを始めた。

磯風は赤城の腹時計の音から様子を伺っていたが、はっと気づいて配膳を手伝おうとした。

 

磯風「あっ、て、手伝おう!」

提督「いやいやいや、君は招待客よ?ゆっくりしなさいな。」

磯風「し、しかし…」

提督「お客に手伝わせる主催がある?あ、ならちょっと席詰めて?みんなカウンターに座るからさ。」

 

提督に制止され磯風は席に戻り、カウンターの左端に食器を移動させた。

その隣に雷、霧島、そして丼飯を持った赤城が座った。

提督と鳳翔さんはキッチン側で食べるようだ。

提督と鳳翔さんは盛りつけられた角煮の皿を配っていく。赤城は豚肉の量を多くして欲しいようだ。

要求を出した瞬間に、提督、鳳翔さん、霧島からすでに配分は決定済みとはねられる。

それでもすがろうとするが、提督と鳳翔さんが優しく睨みつけると黙った。

全員に料理が行き渡り、一斉に声を上げる。いただきます。

 

提督「ん〜、5時間だけどかなりしっかりと味が染みてるねぇ。」

雷「ほんとうね!色はちょっとだけ薄いからどうかと思ったけど、全く問題無いわ!」

提督「あれで照りを出すのはちょっと難しいかなぁ…」

霧島「でもすごく美味しいですよ!あんなにお手軽に本格的な角煮ができるとは思いませんでしたね!」

鳳翔「簡単さは普通の角煮よりは段違いですね。ただ、大人数を用意するとなると‥」

提督「まあ、大きめの奴でも精々6人前くらいかね?でも想定だと十…分…」

赤城「ガツ…はむ…ハフ、ハフ…はぐ…」

 

全員が赤城の食べっぷりに圧倒された。咀嚼しているんだろうか?

角煮、ご飯、浅漬、角煮、ご飯、このループを全く間をおかずに食べ続けている。

山盛りの丼飯がすでに7割は消えている。いただきますから5分も経っていない。

 

提督「…赤城、おいしい?」

赤城「ガツッ…ハムハフハフ‥んぐっ…はい!とっても!ご飯お替わりお願いします!」

 

鳳翔さんが苦笑いしながら丼にご飯をよそって赤城に渡す。

しばらく赤城は食べ続けているだろう。

気を取り直し、提督は磯風に向き直った。

 

提督「…さて、磯風。どう?この角煮は。」

磯風「は、はい。素晴らしい料理だった。さすが鳳翔さんだ。」

鳳翔「ありがとうございます。でも、角煮の味付けは提督が考えたんですよ?」

磯風「そうなのか。司令、失礼した。浜風から料理上手と聞いていたがこれほどとは‥」

提督「ありがとね。…でも、今回のは褒められても謙遜しかできないなぁ…」

 

提督は頭に手をやりながら笑った。

これだけの料理を作れて謙遜しかできないとは‥?

 

磯風「い、いや、本当に素晴らしかった。」

提督「いや、だってあれよ?この角煮材料切って放り込んで調味料入れて5時間放っておいただけよ?」

磯風「5時間放っておいたというが、付きっきりで煮込んだんだろう?」

提督「いや、本当に材料入れた後は放っておいただけよ?」

 

磯風には理解できなかった。煮物は神経を使うと鳳翔さんも常に言っている。

それを放っておいただけでできるとは…料理ができる人間にとってはそう感じるんだろうか?

私には絶対に理解できないだろう…

そんなことを思うとすこし悲しくなった。

鳳翔さんが提督をたしなめた。

 

鳳翔「提督、ちょっと意地悪ですよ?」

提督「えっ、なにが?」

 

霧島もケツを叩く。

 

霧島「はやく本題に入ってください」

提督「うっ…悪かったよ。磯風。」

磯風「…なんだ?」

提督「材料を切って、調味料を入れて、放っておくだけでこれだけの角煮が本当にできるとしたら…」

磯風「…したら?」

提督「その方法、知りたい?」

 

磯風は驚いた。提督はからかっているんだろうか?

そんな都合のいい方法があるわけがない。

しかし、提督は悪い顔をして笑っていた。

悪い顔というが、この顔をしている時の提督は妙案が浮かんでいるという。

浜風は言っていた。その顔をしている時の提督は頼りになると。

 

磯風「…その…」

提督「…まぁ、あれよ。聞いたよ、龍田から。」

 

磯風の顔が強張る。同時に、鳳翔さんもちょっと驚きの表情を浮かべる。

今回のキッカケは、磯風にとっては恥以外の何物でもない。

ただ、提督は一気に確信に踏み込んだ。それが必要だと判断したからだ。

 

磯風「あの‥その…迷惑をかけて、申し訳‥」

提督「ん?謝ること無いよ?逆に大変だったでしょ?慣れないこと無理してさ。」

 

磯風は面食らった。怒られるんじゃなかったのか?

しかし、提督は悪い顔をして笑ってはいるが怒るような雰囲気は出していなかった。

提督は続ける。

 

提督「まぁ、一つ落ち度があるとすれば、思いつめる前に、誰かに相談するべきだったね。」

提督「生きている限り、得手不得手たくさんあるさ。努力は続けるべきだけど、苦手はどうしてもある。」

提督「自分で全くできないことは、できる人に助言・助力を求めていくしか無いよ。」

提督「だから、なんかあったら友達や先輩を頼りなさいな。解決できなくても、すっきりはするよ?」

 

磯風の目から涙が落ちた。

着任したてで練度が低いため、早く役に立てるように頑張っていたが、

いろいろと空回りしているような気がしてならなかった。

暖簾に腕押し、そんな日々を繰り返している感覚しかなかった。

ある日の遠征作戦の休憩時間、自分の作った不格好で美味しくない遠征食を見てその感情が溢れだした。

周りは驚き、一様に気遣ってくれたがそれも申し訳無さでいっぱいだった。

 

雷は声を押し殺しながら泣く磯風を静かに慰めた。

他の面々は落ち着くまで待つことにした。赤城は食べ終わったらしい。

数分後、磯風が顔を上げた。その顔を提督は見て問いかけた。

 

提督「さて、すごく簡単に料理が作れる方法、知りたい?」

磯風「…よろしくお願いします。」

提督「じゃ、こっちおいで。」

 

提督は磯風を厨房に招き入れた。

 




スロークッカー欲しいれす。

ちなみにこれ書いている時に2−5で浦風ドロしました。
十七駆リーチやでぇ…
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