親に捨てられ生きてきた少年に手を差し伸べる少女が1人
何もない少年に少女は何を託す?

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やあ、見ない顔だな

昔、もう10年前になるだろうか

雪が降り積もる街、その一角にあった小さな家、そこにいた夫婦が、俺に告げた

 

『お前なんていらない』と

 

その次の日、彼らは少しのお金を残し姿を消していた

家は売り飛ばされ、俺の居場所と呼べる場所はなくなって、俺は独りとなった

あるのは自分という存在、この魂に刻まれた、あの夫婦が唯一俺にくれた『名前』それだけだった

 

 

暗い暗い、雪のカーペットが敷かれた純白の道を歩く

足を地面に立てるたびに、ザク、ザクと音を立てるそれを踏みしめて、俺は寝る場所を探す

そこまで雪が積もってない、できるなら今もなお降り注いでいる雪を遮る屋根のようなものがある場所を探して、街灯が照らす道をゆっくりと歩く

冷たい手で口を覆い、手のひらに息を吹きかける

手が少し暖かくなった気がする、なんて思う

 

「お母さん、寒いよ」

 

「そう、なら手を繋ぎましょうか」

 

「うん!」

 

小さな少女が、母親の手を自分の手で包んだ

それを笑顔で握り返した母親に、少女も笑顔を向けて、自分の家にへと向かって歩いて行った

 

家族、俺にはもう縁がない言葉だ

 

見捨てられてからはや10年、俺は温もりを感じることなく、俺は生きてきた

孤独に、もはや孤独でいいと願って、人を避けて、街の人にはどんどんと嫌われていく

いまや見られただけで石を投げられるような、この街一の嫌われ者だ

それでも俺はそんな環境を自らの罰として、受け止めてこの街で生きている

あの夫婦が俺を捨てた理由は、きっと俺が何かをしたから、きっとそうだから

俺は償いなんてできない、ならせめて、しぬならばこの街で、と心に誓って

 

その時は本当に近いのだけれど

 

体はどんどんど冷めていく

数日間水さえも口にしていないせいで空腹感が俺を襲い、そして

 

「あ……」

 

脚が竦んで、その場でこけた

俺の体を受け止めてくれた雪が、さらに俺の体を冷たくしていく気がした

その中でも、俺は何かに抗うように立ち上がって、無人の家の壁に寄りかかった

もう寝てしまおう、次起きれたら、またこの街を歩こうと、そう決めて

 

俺は目を閉じた

 

「やあ、見ない顔だな」

 

聞こえてきたのは綺麗な声だ

閉じた目を再び開けばそこには俺と近い年の少女が、金色の髪を風で揺らしながら俺に傘を差し出すようにして、笑顔を見せていた

 

「君、は?」

 

絞り出した声のように頼りない声が、彼女を一層笑顔にする

何故、笑えているのだろうか、俺の姿はもう笑えるほどに、可笑しいのだろうか

 

「私か? 私の名前はサリアだ。お前は?」

 

「俺、は……」

 

名前を言おうとした瞬間、俺の視界は一瞬揺れた

その後からゆっくりと黒く染まっていく視界の先にいる少女に手を伸ばして、俺は闇に落ちていった

 

 

次目を覚ました場所は、明るい場所だった

ライトに照らされた可愛らしい内装の部屋の端にあるベッドに横たわっていた俺は上半身を起こす

外では味わえない暖かな温もりに、疑問を抱いた

 

「ここは?」

 

眠る前に出した声とは違うはっきりした声が部屋の中に響く

少なくとも意識をなくす前は俺は外にいたはずだ、地面から感じる雪の冷たさも、肌がかんじた大気の冷たさも、今は嘘のようにない

自分を覆う布団も、少し距離を置いたとこにある火が燃えている暖炉も、見覚えがない

 

まずここは、誰の家だ?

 

「私の家だ」

 

俺の心を読んだかのように答えた声は聞き覚えのあるものだった

聞こえた方に視線を向けると、そこにはお粥とレンゲ、水が置かれたお盆を手に俺にあの時と変わらない笑顔を向ける少女がいる

 

「君は?」

 

「先ほども行ったのだがな、まあいいだろう。私の名前はサリアだ。お前は?」

 

「俺は……オリムラ・カイだ」

 

少し戸惑ったが、自分の名前を口にすれば、彼女は「そうか」といって俺の目の前にそのお盆を置いた

 

「何も口にしてないのだろう?急いで作ったものだが、遠慮せず食べて欲しい」

 

お粥を掬ったレンゲを差し出された

それをまじまじと見ていたのが気になったのだろう、顔を傾げた少女は口を開いた

 

「何も怪しいものなんて入っていないぞ?」

 

「……いいのか?」

 

彼女が差し出している物は俺からすればとても受け取れるような代物ではない

本当ならば今すぐにでも口に入れたいところだ、だがどうにもおかしい

彼女もこの街の住人なら俺の事は知っているはずだ

だが彼女は俺のことをまるで知らないかのように、それを差し出しているのだ

何か裏があるのではないか、そう思ってしまうのも仕方のないことだ

 

「ああ、問題ない。せっかく作ったのに食べてもらえないとなると私が困るからな」

 

ほれ、と更にレンゲを俺に差し出す彼女

俺は考えることをやめて、それを口に含んだ

久しぶりの味覚が反応した味は、とても甘酸っぱくて

いつの間にか、俺の頬には温かい何かが伝っていた

 

「だ、大丈夫か!? な、何かしてしまったのか私!?」

 

急に涙が流れたことに困惑する彼女は本当に心配そうに俺の涙を拭った

その行動が、俺にはとてもあり得なく感じた、初めて感じた

暖っかかったのだ、その温もりは、感じたことのないそれは、俺にとってはとても暖かくて

まるで雪が溶けて水になっていくように、止まるところか溢れてくる涙に、何故か俺は幸福を感じた

 

「大丈夫、だから」

 

「大丈夫なわけあるか! 人間が涙を出すときは必ず理由がある! その涙にも理由があるのだろう!?」

 

今もなおあれやこれやと涙を止める少女は、さながら親のようだ

俺の為に、こんなにも慌ててくれる人は、果たしていただろうか? こんなにも心配してくれた人はいただろうか

記憶を辿るもやはりいない、親でさえそんなことはしてくれなかった

なのになんで彼女はこんな自分に感情を向ける? 完全な赤の他人に、なんでそこまで出来る?

 

「君は、なんで俺なんかに……」

 

「俺なんかになんて言うんじゃない! お前はお前だ! 他の誰とも違わない人間だろう!?」

 

「困ったやつだ!」と声をあげ、タオルを俺に投げつけた

素直に顔を吹けば彼女は嬉しそうに笑顔を見せる

 

「やっと止まったか。一時はどうなることかと思ったぞ」

 

一息ついて、俺の涙を拭ったタオルを回収した彼女は俺の傍、ベッドの端に腰を下ろす

何もなく過ぎていく時間の中、俺は思った

 

彼女に何か恩返しのようなものは出来ないだろうか

 

こんな俺に出来ることなんてごく限られてはいるがそれでもないわけではない

雑用だろうが何だろうが構わない、彼女が言ったことをやろうと思い、俺は行動に出る

 

「俺に何かできることはある?」

 

そう尋ねた瞬間、彼女は目を光らせ顔をぐいっと俺に近づけた

鼻息を少し荒くしながら、彼女は口を開く

 

「なんでもいいのか!?」

 

「あ、ああ」

 

「なら、今日から私と一緒に住んでくれないか!?」

 

彼女の願いは同居してくれというものだった

だがそれが彼女の願いであると言うならば、そんなことでいいならば俺は

 

「わかった」

 

受け入れよう

 

 

 

 

 


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