「どうして……? どうして……こんなことに……?」
降りしきる雨のなか、私は仲間たちの亡き骸を見つめて、ただ泣くことしか出来なかった。
敵に執拗に攻撃され傷ついていく仲間たちの姿が、今でも脳裏に強く焼き付いている。
その光景を思い出すたびに、私はひどい吐き気に襲われる。
「どうして……私だけ……生きてるの……?」
私はただ絶望と後悔に包まれるしかなかった。
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一か月前。
新品の制服に身を包んだ私は、これから通う中学校の校門の前に立っていた。
小学生から中学生になるのは相当な環境の変化が待っていると聞いたことがあるが、
なるほど、確かにその通りだ、と痛感させられる。
今までの六年間とこれからの六年間はだいぶ違うものになるだろうと、私は気持ちを引き締めた。
「おっはよーー、
と、後ろから声をかけられたので、私は思わず飛びのいた。
声のしたほうを恐る恐る見ると、声をかけたのが幼なじみの
「もう……。 いきなり声かけないでよ~~!」
「ははは、ごめんごめん!」
優月は、子供のころからまるで変わらない笑顔で謝った。
優月のその笑顔を見るだけで、不思議と許してしまう。
私は優月の笑顔が大好きだった。
「私たちも、もう中学生か~~……」
優月は感慨深げにそう言った。
「あっという間だよね……」
私も、おそらく優月と同じ思いでそう言った。
私と優月は、これから始まる新しい生活に、期待と不安でいっぱいだった。
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次の日。
入学式当日。
学校の前は多くの人でごった返していた。
普段は人混みのなかにいてもなんともない私だが、このときばかりは息が詰まりそうだった。
「うぅ~~……。 緊張する~~……」
ふと隣を見ると、どうやら優月のほうも緊張しているようだった。
「ほんとに……。 みんなは緊張してないのかなぁ?」
「いや、緊張してると思うよ、たぶん……」
同じクラスの生徒はみんな静かだった。
それは物静かな性格だからではないはずだ。
同級生の緊張がはっきり伝わってくる。
私は、不安のほうが大きくなるのを感じた。
「それではただ今より、第五十三回入学式を執り行いたいと思います」
校長先生のこの一言で、二時間にも及ぶ入学式が幕を開けた。
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式が終わりそれぞれの教室へと戻った生徒たちは、ホームルームが始まるまでのあいだ
緊張が解けた私と優月も、世間話に花を咲かせていた。
「──でさ、
私は、昨夜どういうわけか顔を赤らめていた妹の話をした。
「え~~? なんてなんて?」
「『私、恋しちゃったかも』ってさ!」
「え~~~~! 何それ、可愛い~~~~!」
人の恋愛に興味が持てないという話はよく耳にする。
私もその口だ。
しかし、妹の葵の恋愛は別物だった。
自分のものよりも格別だった。
まぁ、そう言う私は恋愛に無縁なわけなのだが。
「あ、そうだ! 今日、葵にプレゼント買うんだった! 優月、一緒に選んでくれない?」
「プレゼント?」
「葵、今日が誕生日なの!」
「う~~ん……。 ごめん……。 今日、どうしてもグリス買ってかないといけないんだ」
「グリス?」
「チューバに必要なの」
優月は小学生のときからチューバの演奏をしていた。
中学でも演奏を続けたいと、吹奏楽部に入ることにしていたのだ。
「そっか……」
「ごめんね……」
「ううん! 優月も忙しいんだし、しょうがないよね?」
「ほんとごめん……」
そう言う優月に、私は、別にいいよ、と答えた。
「宮野さん、友利さん。 ホームルームを始めますので、私語は慎んでくださいね」
と、気付くと教卓に担任の麻木先生が立っていた。
いつの間にか、周りの生徒も静かにしている。
私は顔が熱くなるのを感じた。
「す、すみません……」
私と優月は、まったく同じタイミングで謝った。
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「私、これから入部届け出しに行くから!」
言うが早いか、優月は足早に吹奏楽部の部室である音楽室へと向かっていった。
「うん! じゃあ、また明日ね!」
優月に聞こえたかどうかは分からないが、私はそれなりに大きな声で言った。
どうやら聞こえていたらしく、優月は大きく手を振る。
私はそれを確認して、妹のために近所の雑貨店へと歩を進めた。
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学校から徒歩五分、駅前にある小さな雑貨店。
お洒落で可愛い雑貨がたくさん売られていて、
開店して日も浅いのだが早くも女性から評判を集めている。
特に女子中学生からの人気は絶大で、私の学校の生徒も多く訪れているという。
「いらっしゃい!」
私が店内に入ると、男性の声がまず飛び込んできた。
「ひゃっ!」
それは、お洒落な雑貨店には似つかわしくないほどの威勢のいいもので、
不意を突かれた私は思わず飛びのいた。
「だ、大丈夫ですか、お客さん? どうされましたか?」
「あ、だ、大丈夫です……。 ありがとうございます……」
心配そうに駆け寄ってきた男性店員に、私は思わず淡白に返してしまった。
「あ! ちょっと……ギャップに驚いたというか……」
「ギャップ……ですか?」
「はい……。 なんというか、店の雰囲気に……合ってないというか……」
正直失礼な話だろう。
見ず知らずの他人にこう言われてしまっているのだから。
しかし、今さら謝るのもどうかと思った私は訂正しなかった。
「はは、僕も……実はそう思っていて……」
男性店員の答えは意外なものだった。
本人も気にしていたのか。
私はその意外性に拍子抜けした。
「この店、本当は僕の彼女が始めたいって言って始めたんですよ。 でも、数年前に彼女は不治の病で死んでしまって、それで僕が彼女の遺志を継いで切り盛りしてるんです」
彼から出たのは実にシリアスな話だった。
「すごく……悲しいですね、それ」
「はは、確かに悲しいです。 でも、彼女はきっとそばにいてくれている。 そう思うだけで元気が出てくるんです!」
「すごいですね……」
「あ! すみません、見ず知らずの僕の話を長々と……」
彼はそう言うと、レジのほうへ戻っていった。
「なんだか、変わった人だなぁ……」
いつでも一言多い私は、そんな彼の姿を見ながらそう呟いた。
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駅から徒歩十五分。
優月が小学生のときから行きつけの楽器店。
店内は全体的にシックで、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
チューバはもちろん、ありとあらゆる楽器が所狭しと並べられていて、
そこで手に入れられない楽器はないほどだった。
もちろんメンテナンス用のアイテムも取り揃えられており、全国の楽器マニアが多く集まる場でもあった。
「グリスも買ったし急いで帰らないと!」
優月は買い物袋を手に、足早に店を出た。
とそのとき、優月の携帯に着信が入った。
それは、大学に通うために一人暮らしをしている優月の姉からだった。
「もしもし、お姉ちゃん? どうしたの?」
『あ、優月? 悪いんだけど、今すぐ大学ノートを買ってきてほしいんだよね。 明日の講義で使わないといけなくてさ』
「え~~? 自分で買いに行きなよ~~?」
『それが……これから友達と合コンの約束入れちゃってたのよ。 お願い!』
「……も~~、しょうがないな~~……」
《逃げてッ!!》
と、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「え?」
優月は携帯を手にしたまま無意識に空を見上げる。
何か塊のようなものが頭上から落ちてくるのが見えた。
それはまさに一瞬の出来事だった。
楽器店が入っているビルの屋上で作業をしていたクレーン車が、運んでいた鉄筋コンクリートを誤って落下させてしまったのだ。
もの凄い勢いで落下してきたそれは、茫然と立ちつくしたままの優月をいとも簡単に押し潰した。
『優月!? 優月!? どうしたの!? 大丈夫!? 優月!?』
押し潰されてしまった拍子に優月の手から離れた青い携帯は、辺り一面に広がった彼女の血で真紅に染まった。