令呪が発現しちゃった!どうしよう!(stay night編)
Fateの知識があること前提で書いてますので説明不足はご容赦ください
吾輩は転生者である、名のるほどの者ではない。
前世の記憶と右手に令呪と呼ばれる痣がある以外は普通の大学生である……いや、普通の大学生、だった。
久しぶりに腐れ縁の友人達と街で再会し、河原で野球をすることになった。
ファーストを守っていた俺だったがプレーの最中にショートの友人の送球が逸れ、そのボールが俺の頭部にクリティカルヒットした瞬間に前世の記憶を思い出した。
それと同時に何故か右手に令呪が発現した、ふぁっく。
俺は気分が悪くなった事を伝えて野球は中止。記憶にある自宅のアパートへと戻った。
そして部屋に置いてあるパソコンで色々と検索をしてみた結果、俺が今居る世界は『Fate/stay night』と呼ばれるゲームの世界だということが分かった。
そもそも野球をしていた河原から見えた赤い大橋の時点で嫌な予感はしていた。
一般にFateと呼ばれるこの世界は『聖杯』という万物の願望器を巡り、古の英雄を使い魔とした存在である7騎の『サーヴァント』を利用し魔術師が殺し合う聖杯戦争が行われる、といった共通の目的がある。
stay nightは五回目の聖杯戦争の物語であり、別作品には四回目の戦争を描いているものもある。
俺の右手に現れた令呪とはサーヴァントを使役するために必要なものであり、聖杯戦争の参加資格とも言える。
聖杯戦争に勝てばあらゆる願いが叶う。
それを知る俺は
「参加する訳無いだろふざけるなバーーーーカ!」
参加拒否の言葉を叫んだ。
物語を知っているから、だから俺はこの戦いには参加したくない。
そもそも勝てる見込みが無い。
そもそも優勝景品の聖杯は使えない。
この時点で詰んでいる。
俺は憎々し気に右手の令呪を睨む。
令呪が発現するには条件がある。
聖杯の製作に関わった御三家と呼ばれる家計の魔術師と聖杯を強く求める意思のある魔術師。基本的にはこの二つだ。
そして超例外で、上記だけではメンバー7人が揃わなかった場合には聖杯が開催地に存在する参加素質ありの魔術師に勝手に令呪を発現させるパターンがある。
間違いなく俺はこの余り物枠だろう。
怒りで思わず部屋の壁を殴りつけた。
「落ち着け……もう考えても仕方ない。これからについて考えよう。俺が今考えるべきことはどうやって戦争から逃げるか、だ」
そう呟いて深呼吸して気持ちを落ち着けた。冷静になった頭でまずは自分の状況を確認する。
現在地は新都の外れにあるボロアパート。大学のために借りたものだ。
俺の右手にはくっきりと令呪が発現している。
「まずは今が原作でいうとどの辺りなのか」
聖杯がランダム令呪爆撃をしてきたということはだいたいの参加者は揃ったということだろう。
しかし判断するには材料が足りない。
さすがに原作を確認したのは前世含めて何十年も前になる。ストーリーの流れは簡単に覚えているが日付や細かい展開は覚えていない。
参った。
「なんで四次じゃなくて五次なんだよ畜生がぁ……」
四次ならばまだ展開が読めたし死亡フラグも回避し易かった。
五次は四次が悲惨だったせいで色々と詰んでいる。原作改変もする気が起きないほど詰んでいる。
桜は既にお嫁に行けない身体になっているし教会には前回の生き残りの愉悦マーボーとギルえもんがいるしバゼットは今頃アヴェンジャー道場に行っているだろうしイリヤは士郎を狙って筋肉ダルマを引き連れ夜道を徘徊し凛はマーボーに騙されよく分からないまま戦争に参加し……ダメだ、語り尽くせない。
そもそも令呪をどうにかすればいいのだが、その令呪を管理している教会の神父がラスボスという罠だ。令呪を神父に返却することは出来る、というか辞退は出来る。しかしホイホイと教会に向かえば最後、マーボー神父に襲われ教会地下の愉悦オブジェの一つにされてしまう。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
「そもそもこの令呪は誰のものなんだよ……」
それによって俺が取るべき行動も変わる。
令呪一つで呼び出せるサーヴァントは1騎。なら、いま自分の右手に宿る令呪は誰に該当する令呪か?
ランサーは違う。ランサーは一番最初にバゼットに召喚されたサーヴァントだ。
間違いなく今は召喚主のバゼットがマーボーにアンブッシュされて令呪を奪われたので教会にいるだろう。
次に召喚されたのはキャスターだったか?キャスターは召喚主を殺してランサーに襲われた後に葛木先生のマスターになったから違うだろう。
アーチャーとライダーとバーサーカーはいつ召喚されたか分からないが御三家のサーヴァントなので多分違う。
残ったクラスはキャスターがルール違反で呼び出すアサシンと原作主人公の士郎が最後に召喚するセイバーだ。
この二つのどちらかの可能性が高い。
「アサシンの令呪……なら万々歳だな」
アサシンは原作ではサーヴァントがサーヴァントを呼び出すというルール違反により召喚される。
キャスターがアサシンを呼ぶ前に令呪が宿った可能性だって充分に考えられる。
もしくは葛木先生に会えずキャスターが消滅したか。
原作のアサシンは敵なので、ぶっちゃけこの令呪はどうしてもいい。
教会が使えないとなると令呪を誰かに譲渡する方法となる。
まぁ原作でワカメが何かの本で令呪を移してライダーのマスターになっていたから方法が無い訳ではないはずだ。
では誰に渡すか?
教会の愉悦部→論外
バゼットとランサー→事情を話して令呪を渡せば見逃してもらえた可能性が高かったが既に脱落している
イリヤとバーサーカー、ワカメとライダー、キャスターと葛木→敵を強化してどうする。しかも令呪を渡しても見逃してくれるかどうか分からない
「……消去法で凛とアーチャーしか居ないな」
遠坂凛。アーチャーのマスターでヒロインの一人。一流の魔術師であり、原作では基本的に主人公の士郎と一緒に行動している。
サーヴァントのアーチャーも話の分かる人間であり、この二人は事情を話せば見逃してくれる可能性が一番高い。
しかも令呪が増えればアーチャーの生存率が上がる。
アーチャーは最後まで残っていても問題はない。
「いっちばん最悪なのが、これがセイバーの令呪だってことだな……」
セイバーの令呪ならば、これは本来原作主人公である士郎に発現するはずだったものということになる。
確か、士郎はセイバー召喚の直前まで令呪が宿らなかったはずだから俺が割り込む要素はいくらでもある。
もしこれがセイバーの令呪ならば、先に上げた通り誰かに令呪を譲渡することが出来なくなる。
理由は簡単、原作が崩壊するからだ。
アーチャーと凛ではバーサーカーに勝てず、バーサーカーはギルえもんに勝てない。
バーサーカーとラスボスのマーボーとギルえもんに勝てるのはセイバーと士郎のコンビしか居ないのだ。
しかも汚染された聖杯は強力で、マーボーがそれを手にすれば世界が終わりかねない。
だから令呪を誰かに譲渡するのは無理だし、俺がセイバーを召喚するのも無理だ。
そもそも俺は召喚の言葉を知らない。
しかも必ずセイバー、アルトリアを呼べるとは限らない。
ジークフリートやガウェインならばまだなんとかなるかもしれないがデオンやネロが召喚されてしまったら目も当てられない。
別にネロとデオンを馬鹿にしてはいないが、今回の敵は全て化け物揃いなのだ。
仮に俺がアルトリアを召喚出来たとしても、駄目だ。
比喩でも何でもなく士郎とセイバーのコンビでなければこの物語は終わらないのだ。戦闘面でも、精神面でも、二人は最高のコンビなのだ。
当然だが士郎と俺は面識などない。
いきなり令呪を渡す訳にはいかない。
だが士郎の性格を考えれば彼は俺の令呪を嫌な顔せずに受け取るだろう。
しかし渡す理由がない。
さすがに「アヴァロン埋め込まれてて前回のセイバーのマスターの息子なら当然!」と言うわけにもいかない。
というか士郎単品では令呪の譲渡方法なんて知らないだろうから間違いなく凛を介して、という状況になるだろう。尚更言う訳にはいかない。
「お願いだからセイバーの令呪ではありませんように……!」
割と切実な声で祈りが出てしまう。
当然だが俺にサーヴァントを召喚して参加するという考えは毛頭から無い。
関わらないのが一番だからだ。それに魔術に触れたいならば今じゃなくていい。今から時計塔に留学する方が確実だ。
「……とりあえずは、凛の家に行くしか無いな」
一人でぶつぶつと呟きながら纏めた自分の答えを口に出す。
何にしてもまずは凛に会う、そして令呪を渡す。
この際セイバーの令呪でも構わない。そうするしかないのだ。
令呪を譲渡した後は海外に逃げる。
大学は知らない。いのちをだいじに。
最悪、大学は中退になるかもしれないが別に構わない。金を稼ぐ方法なんていくらでもある。
「よし、善は急げだ!」
俺は身支度を済ませで部屋を出ようとして動きを止めた。扉を開けた途端に夜の暗闇が広がっていたからだ。
聖杯戦争は人目を避けて行われる。必然的にサーヴァントが活動するのは夜となる。
危ない危ない、自分から死にに行くところだった。
行動するのは明日の昼にしよう。
凛の家ってどこだったっけ?まぁ役所に聞けば一発だろう。
「もし他のマスターやサーヴァントに会ったらどうするか……」
日中に行動する事に決めたが、もしかしたら出くわすかもしれない。その場合はどう対処するか。
ランサーは日中なら現れない。しかも人目のある場所で戦おうとはしないはず。だが念のため釣り堀や海には近付かないでおく。
イリヤとバーサーカーは日中なら大丈夫だ。魔術師なら神秘の秘匿を考えて人目がある場所で仕掛けたりはしないだろう。筋肉モリモリマッチョマンのバーサーカーを出すなど論外だ。
下手すれば気付かれない可能性もあるので日中なら大丈夫、多分。
キャスターと葛木先生は寺に近付かなければ大丈夫なはず。多分。
ギルえもんは鉢合わせたとしても俺には目もくれずにスルーするだろう。多分。
アーチャーと凛は無問題。むしろ目標なので会いたい。
厄介なのはライダーとワカメだ。原作では学校に結界を仕掛けたり白昼堂々と一般人を襲うといった行動をとっていたはず。ワカメ自身は大したこと無いので令呪さえ見られなければ大丈夫だがライダーに見つかると面倒だ。ライダーはワカメの命令さえあればなんでもするので正直に言うと一番見つかりたくないコンビだ。
幸いなのは、この二人はいきなり殺しにくる可能性は低いということだろう。
原作で士郎と学校で対峙した時にワカメはまず士郎を仲間にしようと勧誘していた。
サーヴァントを持っていない、尚且つ自分より下の人間に見えるならば舎弟欲しさにあいつはまず俺を勧誘してくる。
令呪を渡すと証拠隠滅で殺される可能性があるため、あくまでサーヴァントを用意する体で接し、下手に出てその場をやり過ごすことさえ出来れば勝ちだろう。
「……こんなところか」
ふと、時計を見るとかなり時間が経過していた。
考えるのは止めだ。
あとは飯食って風呂入って、明日に備えて早く寝よう。そうしよう。色々と疲れた。
朝起きたら、頭の悪い結界が冬木市を覆っていないだろうか……実はタイころとかカニファン時空でしたとか。無いですよね。
正直、願望器としては虎聖杯の方が優秀なのでは?いや、絶対あっちの方がいい筈。
……ますますこの戦争に関わる気力が失せた。
ため息を吐きながら俺はまずは風呂の準備をすることにした。
あ、そうだ(唐突)
キャスターはアサシンを召喚する際、事前にアサシンのマスターに当たる令呪持ちの魔術師をSATUGAIして令呪を奪ったそうだゾ
気が向けば他の聖杯戦争編も書きたいですね