原作その他を知っていること前提で書いていますご了承ください
アストルフォぺろぺろは幻想
俺は名も無い旅行者だった。
小説家志望の俺はネタ収集のためにルーマニアという異国の地を訪れた。
それが何の因果か、とても面倒な事件に巻き込まれてしまったようだ。
ため息を吐いた後に自身の右手の甲にいつの間にか宿った3筋の痣を見つめる。
どうしてこうなった?
目的地トゥリファスへの到着を知らせるアナウンスに耳を傾ける暇はなく、頭の中はその言葉で埋め尽くされた。
「どうするか……」
バスを降りたすぐそばにあった宿屋にチェックインし、荷物を部屋に置いた俺はベッドへ飛び込んだ。
手頃なお値段の宿屋にしては部屋は整っておりベッドの質も中々良かった。
普段の俺ならば部屋を隅々まで確認し、レビュー紛いの感想をメモに取るのだろうがその気力すら起きない。
俺は右手に現れた
全てはコレのせいだ。
コレが現れた瞬間、俺の脳内には俺以外の別の人間の記憶が流れ込んできた。
それが前世の記憶だとか俺が転生者とかそういうことを理解する前に俺の脳はこれから起こる面倒事を理解した。
令呪とは《Fate》シリーズの《聖杯戦争》への参加権で、これを持つ者は万能の願望器である《聖杯》を求める戦いに参加し《サーヴァント》を召喚する権利を得る。
つまり自分は創作物の世界へ入ってしまったということだ。
そして《Fate》シリーズでルーマニアが舞台になっている作品は《Fate/Apocrypha》しか存在しない。
この作品は通常の《Fate》シリーズとは違い、外伝的な扱いとなっている。
第三次聖杯戦争で冬木市から聖杯が奪われ、その数十年後に聖杯を奪ったユグドミレニア一族が魔術協会に戦線布告し、そのユグドミレニア一族と魔術協会側による7対7のサーヴァントの争いを描いた作品だ。
何の手違いか、俺はその戦争に巻き込まれてしまったという訳だ。
「いや……なんで?」
自分の名前と身元は真っ先に確認した。
しかし俺は魔術のまの字も知らない、当然ユグドミレニアの姓は無いし魔術協会とも関わりが無い小説家志望の一般人だ。
俺がここ、ルーマニアの地方トゥリファスに来た理由がオカルトな噂の尽きない城塞、ミレニア城塞を見物に来たことから間違いなくこの世界は《Apocrypha》だ。
《Stay Night》や《Zero》や《EXTRA》のような他の作品には一般人がマスターになるケースは存在するし可能性はある。だが《Apocrypha》にそのようなケースは無い。
俺や《Stay Night》の士郎のように一般人にいきなり令呪が発現したパターンではない。
この聖杯戦争はもともと黒の陣営、つまりはユグドミレニアが一族内で行う筈だったものであり、そこに魔術協会が介入したせいで今回のような大人数による変則的な戦争となってしまった。
黒の陣営は魔術協会の介入後に外部参加を持ちかけたアサシンの本来のマスター以外は全て一族の人間で固められており、俺が介入する余地はない。
黒の陣営に対抗するために腕利きの魔術師と英霊の触媒を用意するために後手に回ったとはいえ、参加を希望する者は沢山居るはず。仮に定員割れが起きたとしても何の願いも無い俺が選ばれる理由と可能性は低い。
が、実際に俺の右手には令呪が存在している。あり得ない、と切り捨てるのではなく真正面からぶつかって考えなければならないだろう。
「……参加は嫌だな」
しかし、この令呪がどちらの陣営のものであれ聖杯大戦からの参加は絶対に避けたい。参加すれば高確率で死が待っているからだ。
サーヴァントの召喚など一般人の俺には不可能に近い。それにサーヴァントを召喚したら最後、もう引き返せない。
動くなら今しか無いのだ。
方法は一つ、この右手の令呪を誰かに譲渡することだ。令呪さえ無ければこの戦争に参加する理由はなくなる。
では、令呪を誰に渡すか?
俺が今居る場所、トゥリファスは黒の陣営の領域でありサーヴァントやマスターはみんなトゥリファスから少し離れた場所に建つミレニア城塞に居る。
令呪を黒の陣営に渡すか?これはダメだ。
確かに令呪は受け取ってくれるだろう、しかし俺の命の保証は無い。一般人を見逃すより殺して魔力源に加工する可能性の方が遥かに高い。
黒の陣営のトップのダーニックはルーマニア内においてかなりの力を持っている。旅行者一人の失踪を揉み消すなど容易いだろう。
黒の陣営でも話の分かる、フィオレやケイロンに会えればいいが可能性は薄い。
サーヴァントを召喚して自分を売り込むならば話は変わるが、それは自分の目的と破綻しているのでハナから考えていない。
ならば赤の陣営はどうだろうか?結論から言えばこちらも怪しい。
そもそも赤の陣営は黒幕である聖堂教会の監督役に牛耳られており、魔術協会から派遣されたマスターは令呪とサーヴァントを奪われ薬漬けにされている始末だ。間違いなく自分もそれの仲間入りする可能性が高い。
この戦いも《Stay Night》と同じく中立の監督役が黒幕なので聖堂教会に頼る選択肢はハナから無い。
今が原作で言う、どこの展開か分からないため薬漬けに遭う前のマスターに出会うことが出来たとしても無事で済む可能性は低い。それほど魔術師は面倒なのだ。
僅かな希望があるとすれば単独行動しているセイバー組だが……会えるかどうか怪しい。
最終手段はルーラー、ジャンヌ・ダルクの到着を待つことだ。彼女は本当に中立の立場であり、ルーラーという特殊なクラスのためサーヴァントでありながら令呪を保有している。俺の令呪も引き取ってくれるだろう。
だだ、唯一の問題は彼女がいつトゥリファスに来るか分からないこと。
とある事情により彼女はフランスで現界してしまったため普通の人間と同じ飛行機という方法でルーマニアに来るのだ。
俺の滞在期間に彼女と出会える保証はない。
同じ理由でジークも無理だ。
「クソッ……」
いくら考えようともいい案が浮かばず、むしろ悪い可能性ばかりが浮かぶ。
ここトゥリファスは黒の陣営の領域であり、街にはユグドミレニア一派の魔術師やユグドミレニアの用意した偵察用のホムンクルスが存在する。
まず彼らに令呪を見られてはならない。
もちろん不審な行動は控えて旅行者として振る舞うのは大前提だ。
恐らく空港にもユグドミレニアの人間は居るだろうしトゥリファスに来た外国人ということで既にマークされているだろう。
俺の経歴や身元を調べてもただの旅行者と判断されるとしてもこの大変な時期ではグレーゾーンの域を出ない。
滞在期間を超えることは怪しまれるため滞在期間内にトゥリファスを、ルーマニアを去らねばならない。
しかし令呪を日本に持っていくことは避けたい。ユグドミレニアの力は強大であり、日本にすら干渉する。黒のアサシンは原作では空気だったが、あれはアサシンが追手を消して音信不通にさせたのとアサシンのスキルの力があったためであり俺なんかではすぐ特定されて消されるだろう。
纏めると
・ルーマニア滞在中に令呪を誰かに譲渡する
・滞在中は怪しまれないよう旅行者として振る舞う
・黒と赤の陣営に捕捉されないように行動する
・サーヴァントの召喚は不可
・ジャンヌやジークは期待できない
という結果になる
なんだこの無理ゲー。
既にホテルに閉じこもりたい気持ちで一杯なのにそれすら許されない。
しかもこの戦いはどちらが善でどちらが悪か判断するのも難しい。
個人的には「全ての人間を不老不死にする」という迷惑極まりない願いを叶えるつもりの赤の陣営が潰れて欲しいが対する黒の陣営自体は悪役としか思えない面子なため関わりたくない。
ダーニックが死んだ後なら良いのだがその頃には俺も死んでいるだろう。笑えない。
サーヴァント召喚は不可能だし、そもそも召喚してしまえば参加せざるを得ない。
召喚すればたちまち両陣営に目をつけられる。そしてこの聖杯は汚染されていないため聖杯を求めるサーヴァントを召喚してしまった場合は汚染を理由に殺し合いを止める事が出来なくなりサーヴァントの裏切りを警戒して共に戦うしか無くなる。ディルムッドやデオン等の聖杯を求めないサーヴァントを願うくらいならば最初から召喚しない方が断然いい。
《EXTRA》のような強制参加で無い限り、召喚は間違いだ。
「ジャンヌかジークが間に合えばなぁ……」
《Apocrypha》の主人公である二人の名前を呟いて項垂れる。
正直、令呪を渡すならこの二人のどちらかがいい。この二人が令呪を持っていれば原作の展開もいくらかマシになるだろう。
「今日はもう寝るか」
考え疲れた俺は部屋の時計を確認し、そう呟く。移動したてで疲れたと思われているならば今から寝ても怪しまれないだろう。しかし明日からは街に出なければならない。
「明日の自分がなんとかしてくれる」
半ば現実逃避した言葉を呟き、明日のプランを簡単に立てる。
まずは朝食を摂りガイド片手に街を散策、それとなくミレニア城塞について聞いて……ああ、ジャンヌやジークが拠点にしてた教会も……
そこで気付いた。
もしかしたら、既にジャンヌかジークが居るかもしれない。という希望を見いだしたからではない。
もっと確実な、救いの道を見いだしたからだ。
「なんで忘れてたんだよ!あの教会のシスターは聖堂教会の人間だ!」
思わず声に出してベッドから飛び起きた。少しボリュームが大きかったと反省し、深呼吸。その後、小さくガッツポーズする。
ジャンヌやジークが拠点にしていた教会のシスターはユグドミレニア一族の監視のために何年も前から潜入していた人物のはず。見ず知らずのジャンヌやジークを匿う人だ、俺の事情を話せばなんとかしてくれる可能性が高い。
「よく思い出した俺!」
自分で自分を褒め称えたい。とにかく、これで俺が助かる希望の道は見えた。
勝った!《Fate/Apocrypha》完!
明日は絶対に教会へ寄る、そう決めて俺は明日に備えて眠りをとった。
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◇有り得たかもしれない一つの可能性
「爽やかな朝だ」
翌日。ぐっすりと眠った俺は多少の時差ボケで寝過ごしたものの午前のうちに起床することが出来た。
善は急げと思いつつも、本来の目的である小説のネタ探しのために街を散策するのも忘れない。
たまたま持ってきていた指ぬきグローブを両手に装着しているので令呪隠しは万全だ。
「よし、行くか」
「やっと見つけました!」
さあ行こう、と歩き出す瞬間に背後で女性の声が聞こえた。何事かと思い振り向けば金色の髪を揺らす外国人の少女が居た。趣味で海外を飛び回る自分だが、目の前の少女は知り合いではなかった。
しかし、その顔には妙な見覚えがある。
「いきなりフランスからスタートするし霊体化はできないから自費で飛行機で開催地に来るはめになったと思ったらルーラーなのに何故かマスターが居ますし……散々ですよ」
少女の言葉が耳に入ってくる。が、一言も理解できない。否、したくない。特に最後の一言が。
しかし俺の思いなど知らず、少女はトドメとなる最後の一言を放ってきた。
「サーヴァント、ルーラー。召喚に応じ参上しました」
聖杯大戦、お1人様ご案内決定。
シスター最強説
実は蛇足の展開の方を先に思い付いて本編が後から出来たという罠
聖杯大戦ってバグだらけだしあり得ないことは無いですよね
もちろんApocrypha編も連載は考えておりません
フィオレ派ですが玲霞さんも捨てがたいと思います