妬み橋と人形遣い   作:オタコアラ

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後編

私が地上に来て一ヶ月がたった。

地底にはなかった冬の寒さにはまだ慣れないけれど、人里には慣れた。

アリスの家に居候することになった次の日、アリスは人里の人たちに私が妖怪であることをバラした。

人里がざわつきはじめたが、アリスが「危険じゃないです」と言ったとたん、すぐに静かになった。

すぐに私は質問攻めを喰らい、その質疑応答をするうちに人里の人々と打ち解けたのだった。

・・・・・・というか、アリス信頼されすぎでしょう。

妬ましいわ。

 

そんな私こと水橋パルスィは今、買い物をしているわ。

もちろん、人里で。

アリスの家に泊めてもらっているうちは、家事を手伝う・・・・・・はずだった。

・・・・・・家事全般を人形でこなすとは・・・・・・!

洗濯に掃除、料理全てを人形が同時にするので、私の出来ることはおつかいに行くことだけだった。

 

 

食料品が詰まった紙袋を右手に抱え、布屋に向かう。

「いらっしゃい、姐さん」

布屋の店員が営業スマイルで私に頭を下げる。

・・・・・・ちなみに、私は姐さんと呼ばれているわ。

なんというか態度がそんな感じらしい。

 

「アリスじゃなくて悪かったわね」

 

皮肉混じりにそう言うと、みるみる男の顔が赤くなる。

・・・・・・バレバレなのよね、彼。

気づいてないのは、どこぞの人形遣いだけかしら。

 

「あ、姐さん・・・・・・そ、そ、そんなこと、ありませんよ・・・・・・姐さんも来てくれて嬉しいです」

「も、ということはアリス以外も好きってことね。

浮気?」

「ち、違います!アリスさんが好きです!・・・・・・あ」

 

・・・・・・くっくっく。だめね、笑いが止まらないわ。

 

「そ、それで!今日はどんな物をお探しで!」

あ、誤魔化した。

 

「えっと、このメモに書かれてる物を・・・・・・」

彼はメモを私の手から奪い取ると、すぐに布を持ってきて、私の抱えている紙袋の中に入れた。

「はい、どうぞ!ご注文の布です!」

「それくらい積極的にいけば、アリスも振り向くんじゃない?」

「からかわないで下さい!」

「何の話?」

 

後ろから、聞きなれた声が聞こえた。この声は・・・・・・

「ア、アリスさん!?」

 

 

ーーーーーーーーー視点変更ーーーーーーーーー

 

パルスィに渡したメモに書き漏れがあったことに気がついたので、私は布屋に行った。

着いた先でパルスィがなにやら私の話をしていたから、私は話に入った。

「何の話?」

「ア、アリスさん!?」

・・・・・・あれ、なんで店員さんがあんなに驚いているのかな?

 

「もしかして・・・・・・私に聞かれたくないこと?」

「いやいやいや、そんなことはないです!」

「本当?ねーねーパルスィ。何の話してたの?」

パルスィに聞いてみよ。

「えっと・・・・・・アリスの人形劇たのしみだなぁ、って話よ。」

何故か、店員さんが胸を撫で下ろす。・・・・・・?

「ちなみに、そう言う話を持ち出したのは彼よ」

「!!!!????」

「えっそうなの!」

 

その言葉で、私の中でなにかしらのスイッチが入った。

 

「うれしい!そう言ってくれたから、明日の人形劇も頑張れそう!あ、そういえばあなたにもらった『ふぇると』で作った人形が出来上がったの!明日、出す予定だから、楽しみにしていて!」

 

「ア、アリスさん・・・・・・近い・・・」

はっ!またやってしまった!すぐさま彼の手を離す。

 

「パ、パルスィも止めてよ!」

「ごめんなさい。面白・・・・・・いえ、妬ましかったから、つい」

その後、私はメモに書き忘れた物を買って、パルスィと一緒に家路を歩いた。

 

「・・・・・・あなたって意外と小悪魔ね」

「え?私、大図書館の整理とかしないよ?」

「・・・・・・そう言う意味ではないのだけれど」

 

ーーーーーー/翌日/ーーーーーーー

 

 

魔法の森に暖かい日差しが差す。

絶好の人形劇日和だ。

「よし!」

荷物オッケー!

「パルスィ、行こ!」

 

「・・・・・・ちょっっっと待ちなさい!」

パルスィは大量のバッグの手提げ部分を身体に掛けて、部屋から出てきた。

 

「なんか今日の荷物多くない!?二週間前の3倍はあるわよ!?」

私は二週間置きに人形劇をする。つい二週間前もパルスィに荷物を持ってもらっていた。

 

「ごめん、張り切り過ぎちゃった」

「私に被害の及ぶ張り切りやめて!それと、悪いと思うならちょっと持ってちょうだい!」

「わ、分かった」

 

シャンハイとホウライを操って、パルスィのバッグを持ってあげる。2つ。

 

「ど、どう?」

「・・・・・・あんまり変わらない・・・・・・!」

 

パルスィの苦しそうな顔は変わらない。

何か、出来ることはないかな・・・・・!

 

「が、頑張って」応援!

「無理!」一蹴!

「そんな、どうしよう・・・・・・」

「・・・・・・分けて、持っていくのは?」

「それだ!」

その手があった!

 

 

「5回に分けて持ってきて!」

 

ーーーーーーー視点変更ーーーーー

 

「あんの、人形バカめ・・・・・・」

なにが5回に分けて持ってきて、よ。

この距離5回も往復するのキツイわ!

アリスは今、人里で準備をしている。

荷物の量が多すぎて、とてもじゃないが始まる時間に間に合わないからだ。

なので荷物は私1人で、全部運ぶことになった。

「終わったら絶対文句言ってやる・・・・・・パルパルパルパルパルパルパルパルパルパル」

 

二個目の荷物を持って、アリスのところについた。

「アリス!二個目のにも・・・・・・何してるの?」

 

アリスは。

地面に座っていた。

ただ呆然と、『ふぇると』で作られた。

ズタズタの人形を見ながら。

 

「・・・・・・何、これ?」

 

あまりにも凄惨な光景に、思わず声が漏れる。

その声が聞こえたのか、アリスが動かずに話す。

 

「・・・・・・目を、離してる時に・・・・・・私の人形が・・・・・・切り刻まれて・・・・・・て」

 

声が、ぎこちない。今にも泣きそうだ。

 

「こ、この子が、初めて出るのに、この子が、主役なのに、なのに、この子が」

 

そこで、アリスがようやくこちらを向いた。

この世の絶望を見てきたと言わんばかりの顔を、涙と共に。

 

「この子がーーーーー生きてない」

この日の人形劇は中止になった。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「ア、アリスさん、その・・・・・・」

「そっとしてあげなさい」

中止になったことを客に伝えた後、アリスを見かねた布屋の店員が、私達を団子屋に誘った。

アリスは泣き止んだものの、今は人形の糸が切れたように

何も言わない。全く・・・・・・

世話が焼けるわね、今日は。

 

「布屋、ちょっとアリスを頼むわ」

私は団子屋の硬い椅子から、腰を上げる。

 

「あ、姐さん・・・どこへ・・・・・・?」

私は、冷静に。これ以上なく冷静に。

「ちょっとお花をつみに行くだけよ」

 

嘘をついた。

 

 

「あなたね、アリスの人形を殺したのは」

団子屋の裏で、私は『金髪の彼女』を睨む。

「な、なんですかあなた、いきなり現れてなにを・・・・・・」

「とぼけなくていいわ、あなたから嫉妬を感じるのよ・・・・・・羨ましくて恨めしい、ドロドロした嫉妬が」

 

私の能力は『嫉妬心を操る程度の能力』。

だから、他人の嫉妬には敏感だ。

人形が殺された時、とても大きな嫉妬を感じた。

その嫉妬は、ストレートにアリスに向いていた。

彼女は自分の存在を、嫉妬によって晒したのだ。

 

「あなたの嫉妬には、3つ。大きく反応があった。

1つは、泣いているアリスを見た時。

2つ、布屋が団子屋に誘った時。

そして、布屋がアリスを励まそうとした時。

これが示すのは・・・・・・」

息継ぎ1つ。話を続ける。

 

 

「あなた、布屋のことが好きなのね。そして、彼に好かれてるアリスが、妬ましい。」

 

 

「・・・・・・そうよ」

彼女が観念したように口を開く。

「あなたの言う通り・・・・・・彼が好きで、アリスが嫌い」

「・・・・・・・・・・・・」

「彼はアリスしか見ない。私を見ようとしない。髪を金色にしても、手料理を持っていっても、彼の仕事を手伝っても、幼なじみというだけの存在以外にはならない」

「・・・・・・・・・・・・」

「あの妖怪のせいで、あの妖怪のせいで!」

妖怪とはアリスのことを言っているのだろう。

「だから、私は考えた。どうやって彼をアリスから離すか。」

「なるほどね。人形関係で心に傷を負えば、しばらく人形から遠ざかる」

 

それはつまり、アリスに布屋を訪れる理由がなくなるというわけだ。人形を作らないから、布はいらない。

 

「そのとおり。邪魔な泥棒猫がいなくなる。そして、私は彼と結ばれるの!」

 

 

「ダッサイ」

 

 

予期しない言葉に、『金髪の彼女』が固まる。

「いま、なんて・・・・・・?」

「ダサいっつったのよあんた。さっきから聞いてりゃペラペラベラベラと恥ずかしい」

私は近づく。ゆっくりと、ゆっくりと。

「髪を金色にした?それがどうした?

手料理を持っていった?それだけか?

仕事を手伝った?はっ!」

彼女の目と鼻の先で止まる。

「それが恋か?甚だ笑えるわね」

「・・・・・・あなたなんかに」

彼女は大きめの石を拾って。

 

 

「あなたみたいな妖怪に、わたしの気持ちが分かるかぁぁぉぁぅぁぅぁ!!」

 

私の側頭部を殴りつけた。

 

 

「・・・・・・!!」

動揺する彼女。私は血を流している。

「そ、そんな・・・・・・嘘でしょ・・・・・・」

「ええ、嘘よ」

 

妬符『グリーンアイドモンスター』!

 

彼女は、私の分身を殴ったのだ。

本物はずっと、彼女の後ろにいた。

動揺する彼女。

 

「その程度なのよ」

 

「・・・え?」

「本当にアリスが邪魔なら、アリスを始末すればいいのよ。でも、しなかった。覚悟がないから、いくじなしだから」

「・・・・・・・・・・・・っ」

「だから私、ダサいって言ったのよ。あなたの嫉妬は、美しくない」

「だ、だまれ!妖怪!」

「黙らないわよ、人間!」

「!」

「一時でも私を殺す勇気が出たんなら・・・・・・」

 

告る勇気も出るでしょうが!

 

私の一喝を聞いて、彼女は大人しくなった。

「じゃあね、私、お花摘みに行ったことになってるから」

「ま、待って!」

「何かしら」

「私に、説教しに来ただけなの・・・・・・?美しくないから、怒ったの・・・・・・?」

「違うわ」

私は言う。会話の最後となる言葉を。

緑色の目を光らせながら。

「アリスが泣いて、ムカついただけよ」

 

 

団子屋に帰ると、アリスは団子を食べていた。

もう、立ち直ったようだ。ん?

「あれ、布屋はどうしたの?」

「私が立ち直ったから、帰った」

「そう」

アリスは最後の団子を頬張ると、微笑みながら言った。

「パルスィ」

「なに」

「帰ろ」

「ええ」

 

ーーー布屋ーーー

「敵わないなぁ、姐さんには・・・・・・」

僕もそろそろ、ケジメをつけよう。

僕は団子屋の裏の彼女に、向き合った。

 

 

ーーーアリスの家ーーー

 

「えぇ!?地底に帰る!?」

「ええ」

驚きを隠せないアリス。

「今日の劇が終わったら言おうと思ってたの」

もちろん、嘘よ。

私が今日、秘密裏にやったことがバレると、地底の妖怪が危険という考えが出てくるかもしれない。

アリスが同じ目で見られるのは嫌だ。

命を救ってくれた恩人なのだ。これ以上迷惑はかけられない。

「そう、だったんだ・・・・・・じゃあ、今日はご馳走にしよ!地上の食べ物は美味しいってことを地底に教えて貰うためにも!」

アリスはお酒を取り出す。

「酔い潰さないでよ?」

手元のコップに透明な日本酒を注いで貰い、私達はご馳走を食べた。

 

 

「さて、寝ますか」

地底に出す報告書を書いて、私はベッドに座った。

「アリスは大丈夫かしら・・・・・・」

結局、アリスは酔いつぶれて自分の部屋のベッドで寝ている。

 

まぁ、あんなことがあったのだ。心の中の傷はまだ癒えてなかったのだろう。

飲まなきゃ、やってられなかったのだろう。

「・・・・・・この部屋ともお別れか」

 

 

ドォン!

 

 

名残惜しい、と思っていると突然、部屋のドアが衝撃音を上げて開いた。

そこには、足下がおぼつかないで、フラフラしているアリスが立っていた。

「ア、アリス・・・・・・?」

うつろな目をしている。酔っているのか、寝ぼけているのか分からない。

 

アリスは私の目の前まで歩くと、私をベッドに押し倒した。

私の身体に、アリスが重なる。

 

 

「ア、アリス!?どうしたの!?落ち着いて!?」

地底産の、薄い本みたいになっちゃう!?

 

 

「帰らないで・・・・・・!」

 

 

アリス?

「全部、聞いてたの。団子屋の店の中まで声が聞こえてたの・・・・・・私のために怒ってくれたのも・・・・・・」

 

・・・・・・聞こえてたの!?そんなに大きい声で私、言ってたの!?

 

「だから、行かないで・・・・・・あなたに1番、私の人形劇を見て欲しいの・・・・・・!だから・・・・・・」

 

 

そこまで言って、アリスは寝息をたて始めた。

 

・・・・・・・・・・・・あれ?

おかしいな、顔が赤いぞ、私。どうした?それになんか、変な動悸がするぞ・・・・・・なにこれ?

何か、薬でも盛られたのかしら!?

私の胸に顔をうずめているアリスを見る。

ドックンドックンドックンドックン!

「うっ!?」

動悸が早くなった!

アリスを見ると動悸が早くなる。だが、嫌な気分はしない。

むしろ、この顔をずっと見てみたいと思っている?

「・・・・・・ああ、もう!」

分かったわよ!あんたのわがまま、聞いてあげるわ!

アリスをベッドに寝かせて、私は報告書を手に取った。

「睡眠不足だわ・・・・・・パルパル」

 

視点変更ーーーーー

 

翌日。パルスィはいなくなっていた。

「・・・・・・帰ったんだ」

なんとも言えない喪失感がこみ上げてくる。ありきたりな表現だけど、心に穴が空いたような・・・・・・そんな感じ。

ベッドから起き上がり、私はいつもと同じ、家事を始めた。

 

パルスィがいなかった時は一人暮らしだった。

でも、不思議と寂しくはなかった。

たくさんの子供・・・・・・もとい、人形がいたから。

でも、なぜだろう?

1人いない、金髪緑目の彼女がいなくなっただけで、寂しく感じるのだ。

「・・・・・・調子悪い」

私は人形を操る手を一旦止めて棚から人形を取り出す。

それは、『ふぇると』で作った、パルスィの人形。

私は彼女の思い出を振り返るかのように。

童話風にした、彼女の人形劇をはじめた。

「昔、あるところに・・・・・・」

 

 

日がすっかり落ちた。ところどころセリフを間違えたり、動かし方を間違えたので、やり直しながら進めると、かなり時間がかかった。でも、もう最後のセリフ。

「そうして彼はまた出会うことを約束して、森の中へ去っていきました・・・・・・め、めでた・・・・・・」

めでたしが言えない。まるで、こんな終わり方に納得してないかのように。

「めで、め、めや、めでた・・・」

それでも、必死に声を絞り出す。

 

「こらこら、そんな展開でどうするの?

私的には好みだけど・・・・・・人形劇には合わないわね

こういうのは、ハッピーエンドで締めくくるものでしょう?」

 

玄関に。

金髪緑目の少女が。

水橋パルスィが立っていた。

 

「パルスィ!」

「あー抱きつくとかなし!

こちとら飲まず食わず、寝ず休まずで地底行ったのよ」

 

「ど、どうして帰ってきてくれたの!?」

「報告書、ボツくらった」

「え」

「より細かい調査が必要だから・・・・・・しばらく帰って来るなだってさ」

「・・・・・・ふふっ」

「ふっふっふ」

私が笑い出すと同時に、パルスィが笑った。

「ということでまた頼むわ、アリス」

「もちろん!」

 

そして。

彼は約束通り森から帰って来て、女性と楽しく日々を過ごしました。

めでたし!

 

 

後日。

アリスはいつも通り、人里で人形劇をした。

可愛い子供たちと布屋。

そして金髪の髪を黒髪にもどし、布屋の彼女になった女性たちに、囲まれながら。

 

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