ある日、カルデアのショップの壁をふと眺めたら、昨日まではなかった肖像画が飾ってあった。横にいたマシュがその絵を指差し尋ねてくる。
「先輩、あの絵は何ですか?」
一目でわかったがその絵は世界中で知られている名画だった。一般常識クラスで誰でも知っている。
だが、今カルデアで日々を送っている身からすると身近な誰かの顔に見えるのだ。
「うーん、どう見てもあの人に見える……」
数歩壁に近づいて、マシュと一緒にまじまじと絵を眺めていると後ろから声がした。
「もちろん私だ」
「ダ・ヴィンチちゃん!」
振り返るとそこには肖像画と同じ顔があった。
「名画”モナリザ”だ。この私、ダ・ヴィンチちゃんの代表作だよ」
そう、この絵はかの有名な”モナリザ”。まさかこんなところでお目にかかるなんて。
それにしてもだ、
「そんな名画がどうしてカルデアに?」
そしてなぜこのショップにあるのだろうか。
質問を聞いたダ・ヴィンチちゃんは目の前の名画のように微笑んだ。
「ふふふ、これは期間限定のマナプリ交換用の★5概念礼装なんだよ」
「期間限定!」
マシュが驚いて叫ぶ。
「期間限定は悪い文明!」
マシュに続いて、間髪入れず抗議を叫ぶ。アルテラさん、破壊すべき文明がここに!
「まあ聞きたまえ」
我々の抗議はダ・ヴィンチちゃんのアルカイックスマイルを微塵も揺るがさなかった。
ダ・ヴィンチちゃんは優雅にカツカツと靴音を響かせ、モナリザの横に横に進み出る。そして手に持った杖でモナリザをびしっと指した。
「モナリザ礼装の効果はなんとドロップするQPがアップ!」
概念礼装にはそれぞれ効果がある。例えば戦闘時にBuster、Quick、Artsのアタック効果が上がったり、NPを最初からチャージしておけたりする。
QP(Quantum Pieces)とはカルデアでサーヴァントの霊基再臨やスキルレベルアップを行う際に必要になる物質だ。クエストでエネミーを倒すとドロップする。
いままでにカルデアに登場した概念礼装でQP獲得アップの効果を持っているものはなかった。
「こっ、これは」
「先輩!スキル上げには恐ろしい量のQPが必要です。有益な礼装ではないでしょうか」
ダ・ヴィンチちゃんからモナリザ礼装の効果を聞いた瞬間、おもわず姿勢が前のめりになってしまった。マシュも興奮してこっちを見ている。
マシュが言った通り、特にサーヴァントのスキルレベルを上げる際に大量のQPが消費される。特に★5の高レアサーヴァントのスキルレベル上げ後半は1000万単位でQPが蒸発する。よってQPはいくらあっても足りない。
だというのにクエストでドロップするQPは必要量に比べたらあまりにも少ない。AP40を費やして宝物庫クエスト超級をこなしても一度に手に入るQPはせいぜい100万程度なのだ。
サーヴァントの再臨やスキルアップの素材を揃えたとしてもQPが枯渇してなにもできない状態は悔しい。ほんの少しであってもQP獲得アップ効果を手に入れたい。
「ぜひほしい」
モナリザ礼装はショップの販売アイテムなので手に入れるにはマナプリズムが必要だ。マシュと一緒にモナリザ礼装についている値札を覗き込んだ。
マシュが値札に書いてある内容を読み上げる。
「必要なマナプリは、1枚目 1000、2枚目 1200、3枚目 1400、4枚目 1600、5枚目1800……。先輩、合計で7000マナプリズムが必要です」
「帰ろうかマシュ」
「私たちには縁のないものでした」
7000マナプリズム……、どうやったらこんなに集められるというのか。
マシュと二人がっくり肩をおとしてモナリザに背を向けた。値札の数字は自らの身の丈を思い知らせてくれた。何も見なかった事にして、まっすぐショップのドアから退出しよう。
「ちょっとまった」
まさにドアから出て行こうとする我々を呼び止める一人のサーヴァント。
「ダビデさん」
そこにいたのはイスラエルの王ダビデ。巨人ゴリアテを倒し、イスラエルの王に即位して優れた治政を行った英霊だ。
「君たち、投資には興味がないかな」
ダビデは元々は羊飼いであったにもかかわらず、いやむしろそこから苦労して成功したからなのか、お金の話が好きだ。マイルームで雑談しているときでも破産、契約、儲け話と、と話題が
「うん、ない」
「博打はガチャで十分です」
「おいおい、投資は博打じゃないよ」
ダビデに手短に返事をしてその場を去ろうとしたが、引き止められてしまった。
そういえば、誕生日の時にもダビデは「株とか土地に興味はないかい?」と聞いてきたくらいだ。彼はこういう話が大好きらしい。仕方ない。話だけ聞く事にする。
「いいかい、投資には利息がつくんだ」
「利息」
利息とはつまり、貸したお金を返してもらうときに額をいくらか増やしてもらう、といったことだろう。この場合はモナリザ礼装を入手することが投資、それで得られるQP獲得アップ率が利息に相当する。
「モナリザ礼装を5枚買う為のマナプリを集める為に、まず種火クエストを回る」
「回る」
種火はサーヴァントの経験値を得る為のアイテムだが、ショップで霊基変換すればマナプリズムを1つ作れる。普通は経験値アップにつかう種火をモナリザ獲得のためにあえてショップに売り飛ばしつづけるのだ。
金種火も銀種火も売って得られるのはマナプリズム1個なので、AP効率を考えると周回に適しているのは種火上級クエストである。
「種火上級を回って毎回8個種火からマナプリが作れるとして、7000 / 8 でつまり875回、回る」
「回る……」
「気が遠くなりそうです」
それはなんと果てしない重労働なのか。ダビデの話を聞いているだけで、めまいがしそうだ。
「だがそれによって、モナリザ礼装を4凸でき、クエストで得られるQPが10%も増えるようになるんだ」
「10%」
一見たいした事無いような気がする。★5モナリザ礼装1枚の効果はQP獲得率2%アップ。4凸すれば1枚で5枚分のモナリザ礼装と同じ効果となる。そして同じく4凸モナリザを持っているフレンドをサポートにできれば20%となる。
宝物庫超級1度の周回で170〜200万くらいのQP獲得があてにできる。
「この効果は将来ずっとだ」
「ずっとか——」
10%アップとはいえ塵もつもれば山となるのだ。
素材が揃った喜びでうっかり★5サーヴァントのスキルアップをしてしまい、その後一週間を他の霊基再臨やスキル上げが一切できないまま、むなしい日々を過ごした記憶が胸をよぎった。
もうそんな辛い思いをしなくてすむのであれば。
「どうだい。今、頭をカラッボにして種火周回を続ける苦労は将来きっと報われるんだ。ガチャより有意義だと思わないかい」
「よし!回るぞ種火を———! いくぞマシュ!」
「えっ、先輩———!」
驚くマシュの手を引いて一目散にカルデアゲートに走った。手持ちの石を次々くだいて種火上級クエストに突撃する。
思考を停止し、反復動作を繰り返すマシーンとなって、銀色の腕を狩り続ける日々が始まったのだった。
一方、ショップに残ったダ・ヴィンチちゃんとダビデはこんな話をしていた。
「おやおや、行っちゃったね。健闘を祈ってるよー。それにしても周回には相当な石が必要だね」
「もちろん利益の為に先行投資は必要さ。まあ200個ぐらいかな」
「ふふふ、ダ・ヴィンチちゃんの聖晶石購入カウンターはいつでもお客様を待ってるよー」
「やれやれ、結局最後に笑うのは庄司だね」
このssが投稿された時機にはすでに宝物庫クエストは一週間に火曜、木曜、土曜、日曜の4回開催に変更になっているのでした(2016/4/21〜)
モナリザ礼装ss、もうちょい続きます……