残骸   作:kanpan

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2016年04月27日の活動報告に載せた小話です。
【2016/04/11(月)18:00 ~2016/04/21(木)13:59】開催のイベント「ダ・ヴィンチと七人の贋作英霊」の記念。


贋作ブリュンヒルデ・ロマンシア

 ランサーのサーヴァント、戦乙女ブリュンヒルデ。今日はたまたま出撃する機会も無く暇だったので、カルデアの廊下を散策していた。ある部屋の近くを通りかかった時、部屋の中から女たちの声が聞こえた。どうやら二人掛かりで一人をののしっているようだ。ちょっと気になったので、気づかれないようにそっと様子を伺ってみた。

 

「この大女!」

 

「やくたたずの駄妹!」

 

「ううっ……姉様、すみません」

 

 部屋にいたのはゴルゴン三姉妹。ステンノとエウリュアレがメドゥーサをねちねちと叱りつけていた。

 姉二人からお前はデカイから立っていると邪魔だ、座りなさいと言われて、しおしおと床に正座するメドゥーサ。目下になったメドゥーサの頭上からステンノとエウリュアレの罵詈雑言が更に勢い良く降り注ぐ。

 三姉妹はいつもこのように(かしま)しい。

 

「彼女たちでしたか……。最初はびっくりしましたが、実は仲がよいのですね」

 

 賑やかなゴルゴン三姉妹の姿を見てブリュンヒルデはふと思った。もし私にもあんなことがあったならと。

 ブリュンヒルデはワルキューレたちの長姉なので、当然だが姉はいない。それに父であるオーディンから勘当されてしまったため妹たちとも会っていない。

 そう考えるとゴルゴン三姉妹がすこしうらやましくも感じた。

 

 ブリュンヒルデはそっとゴルゴン三姉妹のいる部屋から離れた。

 しばらく歩くと、また別の部屋から声が聞こえてきた。今度は男二人が女一人をののしっているようだ。ブリュンヒルデはまたしても気になって様子を伺ってしまった。

 

「ごらんなさい、この贋作を! まったく酷い出来です」

 

「目もあてられぬ駄作ぶりだな」

 

 こちらの部屋の中にいたのは作家サーヴァントのシェイクスピアとアンデルセン。一冊の本を広げている。彼らはペラペラと本のページをめくってはその内容をを辛辣に批判していた。

 

「やめて、やめてよぉぉ!」

 

 そして、彼らの横で悲鳴を上げている女はジャンヌ・オルタだった。いつもは気が強そうに振る舞っている彼女なのだが、わなわなと震え、眼に涙を浮かべている。

 その姿を見たブリュンヒルデは、放っておくのもどうかと思い、つい部屋に入って彼らに声をかけてしまった。

 

「どうしたのです?」

 

「おや、ブリュンヒルデ」

 

 シェイクスピアが振り向く。そして手にもった本をブリュンヒルデに向けて広げてみせた。文字や挿絵が入った手作りの書物のようだ。

 

「ジャンヌ・オルタがサーヴァントたちの物語の贋作を書いていたのです」

 

 シェイクスピアの後ろで、ひぃぃぃぃとジャンヌ・オルタがか細い声を上げる。彼らが先ほどから酷評していたのは彼女の自作の本らしかった。本職の作家サーヴァントたちに自作の本を貶され、ショックを受けているようだ。

 

「この女は自らも贋作のような存在だからな。そのような奴が書く話など粗悪な模造品に決まっている」

 

 ジャンヌ・オルタに容赦なく追い打ちの皮肉を浴びせるアンデルセン。ジャンヌ・オルタはへたりと床にすわりこみ、うつむいて顔を覆ってしまった。

 

「ブリュンヒルデ、貴女にもジャンヌ・オルタの創作がいかなるものか教えて差し上げましょう」

 

 シェイクスピアとアンデルセンはニヤニヤしながら、ブリュンヒルデに本の内容を喋り始めた。

 それはサーヴァントたちを捏造改変した物語だった。

 

♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦

 

『同居中のお姉ちゃんを大好きな優秀な義弟 アレキサンダー』

 

『海外から帰国したちょっとフランクな血がつながっているようないないような、フリーダムなオジサン ヘクトール』

 

『クラスで偶然隣の席になった気さくなアイドル ジークフリート』

 

『ドSだけどいざというときにはちょっとデレてくれる理系の先輩 アルジュナ』

 

『隣に住む年上の文系幼馴染み アーラシュ』

 

『子供のころは大好きだったけど中高生からの反抗期でなんかうざがられるようになった悲しみの父親 ジル・ド・レ』

 

『ひとりぐらいいてもいい、同性でフランクな友達、のはずが変な事になってる ブリュンヒルデ』

 

♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦

 

「英霊たちを自分好みに書き換えて、まったくもって勝手気まま!」

 

「作者の趣味と願望が丸出しだな」

 

 あざ笑うシェイクスピアとアンデルセン。ジャンヌ・オルタは床にへたり込んだまま、なすすべもなく放心している。

 ブリュンヒルデは特に表情も変えず何も言わずに彼らの話を聞いていたが、最後に自らが登場したことに気がついた。

 

「あら……、私の名前が?」

 

「そうです、ブリュンヒルデ。貴女も書き換えられているのですよ」

 

「ほら見せてやる、ここだ」 

 

 アンデルセンは本をめくってブリュンヒルデの話のページを開き、それをブリュンヒルデに押し付けた。

 

「ちょ、ちょっとっ!」

 

 ずっと床に座り込んだままだったジャンヌ・オルタが立ち上がり、ブリュンヒルデの手から本を奪おうとする。それをブリュンヒルデはひょいとかわした。

 

「やっ、やめてえ! 見ないでえぇぇ!!」

 

 泣いて訴えるジャンヌ・オルタをよそにブリュンヒルデは渡された本をがっしりつかんで読みはじめていた。

 シェイクスピアとアンデルセンは互いに目配せしあって肩をすくめる。

 

「まもなくここで惨劇が紡がれます。さぞかし激しい物語になるでしょう」

 

「観客になるのは構わんが、役者として出演したくはないな。退散するぞ」

 

 そう言い残して作家サーヴァント二人は部屋から出て行ってしまった。

 

「あああああ———!」

 

 黙々と本を読み続けるブリュンヒルデ。部屋にはジャンヌ・オルタの悲痛な叫びだけがこだまする。

 ブリュンヒルデがめくるページ、そこに書かれていたのは。

 

♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦

 

 気さくに話せる女友達、のつもりで創作したブリュンヒルデは、なぜかジャンヌ・オルタを「お姉さま❤」と読んでまとわりつき、部屋の向こうまで蹴り飛ばしてもいつもまにかテケテケもどってきて、ハアハア言いながらまとわりつく変態ストーカー妹キャラ、と化していた。

 

♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦・♦

 

 ブリュンヒルデは話を読み終え、静かに本を閉じた。顔をあげると目の前には泣きじゃくりながら、ぶるぶる震えているジャンヌ・オルタの姿があった。

 ブリュンヒルデは氷のように白い顔の口角を少しだけ上げた。

 

「ふふ」

 

 一応笑っているらしいが、その微笑みは氷つぶてのようにジャンヌ・オルタの心に刺さり、背筋を冷やしていく。

 

「ひいぃ、許して……つい出来心で」

 

「いいえ、おもしろかったですよ」

 

 そう言いながらブリュンヒルデは眼を細めていた。ジャンヌ・オルタは戸惑う。皮肉で微笑んだわけではなかったのか。思わず聞き返してしまう。

 

「え? 今なんて」

 

「私には姉はいませんでした。だから妹の気持ちはわからないのだけれど、ああ……こういう経験があってもよかったのかもしれませんね」

 

「お、おもしろかった? そっ、そう?」

 

 凍り付いていたジャンヌ・オルタの表情が和らぐ。まさかウケるとは。あの小難しい作家サーヴァントどもにバカにされまくって凹んでいたが、気にし過ぎだったかも。やっぱ、それなりに面白く書けてんじゃない?

 ブリュンヒルデの顔を見ると、さっきよりも楽しそうに笑っていた。

 

「ふふふ」

 

 ギュン……。

 ブリュンヒルデが手にしている槍が矛先が大きくなった。

 

「あの……、ブリュンヒルデ? 槍が大きくなっているのだけれど」

 

 不審に感じたジャンヌ・オルタが聞くと、ブリュンヒルデはもっと楽しそうに微笑み、

 

「ふふふふ、困ってしまう……」

 

 ギュン、ギュン、ギュン。

 ブリュンヒルデの矛先はどんどん大きくなっていく。

 ブリュンヒルデの宝具「死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)

 相手へのブリュンヒルデの愛が深くなればなるほど彼女の槍は重く大きく変化し、絶大なダメージを与えるのだ。

 

「私……、貴女の事が愛おしくなってきました、困ってしまいます」

 

「いやああああああ!!!」

 

 ここに、新しい愛の物語が紡がれたのであった。

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