ダンジョンに召喚された者が潜るのは間違っているだろうか? 作:猫の手
原作の登場人物が出てくるのはもう少し後ですのでお待ちください。
しばらくはオリキャラ多数で回していきます。
リビルド版です。
朝焼けに照らされる中央広場。
仄かに薄暗い街並みの中、コジローは購入したばかりの鎧の小手を見つめていた。
槍と剣の出来は非常に良かった。そう、今までギルド謹製の数打ちの駄剣とはけた違いの性能だった。
こんなに武器の性能が良ければ鎧は、サブウェポンはどんなに良いだろう……コジローは装備沼に嵌りこみ始めていた。
一度快適さを知れば逃れられない。おかげでどんどん懐は寂しくなっていく。儲けが増えているからいいと自分に言い訳しつつ装備を買いあさっていた。
ニコニコと嬉しそうに装備を準備するやり手の商人めいたアトラの笑顔とそういうもんだよというメアリの慰めの言葉が彼の言い訳を補強していた。
本格的に懐が寂しくなる前にどうにかしなければならない。ぐっと強くこぶしを握り締めた。
ちなみにその様子を駄女神はドワーフの女に貢いでいるとか言ったので、小さく丸めたトウガラシの弾を口の中に放り込むという刑罰を食らわせた。
バッタンバッタンとのたうち回っていたが良い薬だろう。良薬は口に苦いものである。
さて、今日はパーティでの探索だ。パーティを組むことは久しぶりであり、過去に見事なお胸様をしている女神の眷属の少年と組んで以来である。
彼はハーレムは男のロマンと強く主張する男の中の男であった。思わず『師匠と呼ばせてください』などというほどには、コジローは男のロマンをと胸に秘めるようになったのはどうでもいい話である。
そうしてしばらく待っていると、リアカーを引いたアリエルとゴブ吉がやってきた。リアカーのサイズはコンパクトで取り回しが良さそうな形状をしていた。
【おはようございます】
そう書かれたボードをアリエルは見せる。ゴブ吉もおはようと挨拶を交わす。リアカーをもってダンジョン探索をする冒険者を見たのはコジローも初めてである。
二人の装備を確認するよりも先にリアカーをマヂマヂと見つめた。
「おはよう。アリエル、ゴブ吉……えっと、リアカーをダンジョンに持っていくのか?」
コジローの言葉に驚くアリエルとゴブ吉、少し考え、そう問い合わせた理由を察し、説明することにした。
「せやで、ぁ~、あんさんサポータと組むの初めてやったな。深層に行く連中はこの手の装備使って物資を運ぶんや。わいらもそれにあやかって使わしてもろうてる。」
アリエルは【YES】と記載されたカードを差し込んだネックストラップを見せてその通りという風に頷く。
長期の探索で必要になる消耗品や入手するドロップアイテムは莫大だ。重量的な問題であれば冒険者の体力や筋力であればどうにかなるかもしれない。
だが、それらのアイテムは非常に嵩張る。故に、深層へ長期の探索をする冒険者は何らかの形で輸送手段を用意する。リアカーだったり、特殊なスキルを持つサポーターだったりだ。優秀なサポータは優秀な冒険者よりも希少だ。故にある程度以上の規模を持つファミリアは彼らの確保に心血を注ぐ。
コジローは槍を手に取る。刃渡り140C、全長5M。通常ダンジョンで冒険者達が使用するものよりも遥かに長い槍だ。所謂、大身槍と呼ばれる種類の槍であり滅多にお目にかかれない槍である。それにフルプレートの鎧、腰に佩いている長大な両手剣。なるほど、サポーターを探すわけである。
「あんさん……ごついな」
「でかい方が便利だからな。」
【そんな大きな槍、初めて見ました。】
アリエルも槍を見て目を丸くしていた。彼女は財布事情と相談をして武器は短槍を使用している。剣よりも安く、ナイフよりも威力のある短槍は初級の冒険者に非常に人気がある。彼女が使っているのはその中でも"ゴーデンダッグ"と呼ばれる非常に安い槍だったりする。
「前衛だからな。武器に拘らなねぇと役立たずだよ。それよりもリアカーの方が驚いたよ。」
「遠征でもないと使う奴らはあまりおらんからな。まぁ、手慣れてるさかい立ち回りの邪魔にならんようするよて」
ゴブ吉の言葉にアリエルは【YES】と書かれたネックストラップを見せる。コジローはその言葉に頷くと、槍の穂先についていた金属製の鞘を外し鎧の留め金に止める。
戦闘準備を整えた2人と一匹ははダンジョンに向かって歩いていった
ダンジョンに召還された者が潜るのは間違っているだろうか?
四話:パーティプレイと神酒のサットル
十一階層のルームに絶叫が響き渡る。
シルバーバックの首が斬り飛ばされ宙を舞う。コジローはシルバーバックの死体をモンスターの群れに蹴り飛し、それを盾に突撃をする。
十一階層の手荒い歓迎、これを乗り越えられないようではこの回想に挑戦する権利などない。
仲間を殺したコジローに対して目を吊り上げ、大声で威嚇するシルバーバック……胆力の無い冒険者であれば有効なその手は悪手であった。
全長5mの槍がシルバーバックの口元に飛び込みそのまま頭蓋骨を切り裂く。
「――…今日はいい稼ぎになりそうだ。アリエル、ゴブ吉下がってろ」
「了解や」
コジローの指示にゴブ吉は返事をしアリエルは【YES】と書かれたネックストラップを振る。
シルバーバックを殺されたことに動揺したのかモンスターたちは後方へ下がる
否
轟音が鳴り響き、土煙を立てながらハードアーマードが敵対者を磨り潰さんと転がってくる。
モンスター達はハードアーマードの通り道を作るために包囲網を広げたようだ。ハードアーマードの攻撃力は十一階層でも最大級、巻き込まれればひとたまりもない。
総数は四体
魔剣、もしくは魔法による迎撃が有効とされる。もしくは優秀なタンクが盾を使用し防御するなどだ。
コジローはそれらの手段を持たない、そして取るつもりもなかった。肩に槍を担ぐとハードアーマードに向かって駆け出す。
チキンレース、自殺への暴走、それを見たアリエルは悲鳴――声は出ないが――揚げ、ゴブ吉は怒声を上げる。
それらの声を無視し、コジローは加速する。一歩進むたびに時間がゆっくりと伸びていくような錯覚を覚えた。
5M/槍を担いだまま、止まることなく走る
3M/最大加速を得ようと地面を滑るように駆ける。
1M/体を右側へ傾け、すり抜けるようにハードアーマードの通り道を開ける。
急停止。そして、回転。
走ることによって得た運動エネルギーを逃さないように回転し、野球選手がバッティングをするようにハードアーマードを横合いから思いっきり打つ。
無防備な側面を打ち据えられたハードアーマードは弾き飛ばされ仲間の元へと打ち込まれた/玉突き事故/なまじ加速が乗っていた分、悲惨だ。
ハードアーマード同士がぶつかり合うことにより甲羅がが割れる。ダンジョンの天井に弾き飛ばされ、上空で待機していたインプたちを引きちぎる。
コジローは玉突き事故現場へ向かうと身動きの取れなくなったハードアーマードにとどめを刺してゆく。
その光景を唖然とアリエルとゴブ吉……のみならず、モンスター達も見つめていた。誰一人として予想すらできない結末。
呆然としたいるモンスター達を気にもせず、コジローは残ったモンスターの数を確認する。
「残り10体といったところか――大物がいないのは楽でいいな。」
その言葉を聞いたモンスターは強硬にとらわれる。目の前の鎧に身を包んだ人間は誰一人として自分たちを逃がすつもりがないのだ。
運よく玉突き事故から生き延びたインプ数体をまとめて槍で叩き潰すと、モンスターに向かって駆け出した。
その様子を見たアリエルとゴブ吉は我に返ると急ぎ、サポーターの仕事を開始する
「お嬢、そろそろ手動かさんと、急がんとまずそうや。」
アリエルとゴブ吉は急いで死体を集め、コジローの邪魔にならないようにする。
近日体験したことのないハードな一日になる予感がした。そしてその予感は外れないだろうと確信した。
ちょうどお昼を過ぎたころだろうか。
いくつかのルームを攻略し、モンスターを八つ裂きにしながら探索を進めていた。荷物を持たない探索は非常に楽で調子に乗って虐殺をし続けてしまった。
コジローの後ろをついてくるアリエルとゴブ吉の足取りはしっかりしていたので大丈夫だと思われるがコジローは念のために確認することにした。
「アリエルにゴブ吉、ペースは大丈夫か?」
【大丈夫です。】
「まぁ、想定以上にハイペースやけど適度に休んどるから気にせんでええ」
コジローの問いかけにはっきりと答える二人、少々疲れているようであるがこれなら問題ないだろう。
とはいえ、昼の休憩すら入れていない。そろそろどこかで休憩が必要だろう。
そう考えながら、次のルームへ踏み込むとそこには先客がいた。モンスターとの戦闘が終了したばかりのようでドロップアイテムや魔石を回収していた。
モンスターの死骸が多く、回収に手間取っているようである。
このような時に他のパーティが近寄るといらぬ衝突を生むことが多い、コジローは少し考え休憩することにした。
「アリエル、ゴブ吉、休息を取ろう」
アリエルとゴブ吉が頷くと、通路口、ダンジョンの壁から程よく離れた場所移動しドサッと腰を下ろす。
フェイスガードを動かし、深呼吸をする。アリエルが手早く、コップにお茶を注ぎ、ドライフルーツを焼き固めた兵糧丸を用意する。
コジローはリアカーに預けていた自分のリュックからサンドイッチを取り出すと焼き菓子の隣に置く。
「冬の柘榴亭自慢の賄だよ。皆で食おうぜ。」
「おおきに」
サンドイッチにアリエルは喜色を浮かべ【YES】と書かれたネックストラップを見せる。ゴブ吉も嬉しそうである。
コジロー達の様子を見て安心したのだろうか。先客の冒険者たちはコジローの様子を探るのを止めて魔石とドロップアイテムの回収に集中し始めた。
ランスを持った女性冒険者が仲間の冒険者たちに指示を出していた。ロンパイア(柄の長い剣)を手にしたアマゾネスと弓を持ったエルフの青年が不承不承回収を急ぎ始める。ランスを持った女性がリーダーなのだろうとクッキーをかじりながらコジローは考えていた。
あまり見続けても失礼になるだろう。コジローは先客を見るのを止めて午後の探索の進め方について相談をする。
「アリエル、ゴブ吉。オレは午後も同じペースでやりたいんだけど、どうかな?」
「こっちは構わへんで、稼げるときにかせぐべきやな」
【私も大丈夫です。頑張ります。】
稼ぐのはアリエル、ゴブ吉にとっても望むところである。ペースが速いとはいえどうにもならないほどではないのだ。
荷物が軽い分ペースが速くなったたため、少しばかり二人の様子が心配だったがこの分なら問題なさそうである。
このペースで進めば過去最高金額の大幅更新も夢ではないだろう。
装備沼で少し寂しくなった懐が温かくなるのはうれしいことである―――すぐになくなりそうな気もするが……
「んで、あんちゃん次はどないするつもりや?」
【この先は幾つかのルームとつながっていますから彼らとは別のルームに行くことをお勧めします。】
「だな。回収が終わったら声をかけてどこに行くか言うことにするよ。そっちの方が面倒がないだろう。」
前の組が回収する様子を眺めながら、雑談をする。辻売りをしているポーションは混ぜ物が多いから使用するのを止めた方が良いとか。ガネーシャ・ファミリアの人間は基本的に人が良い人間が多く。特にテイマー(調教技能を持つ者)であれば割と親切に接してくれるとか。ペルセポネ・ファミリアの『隻腕の赤獅子』が迷子をあやそうとして泣かしたとかそんなどうでもいいような話をしていた。
ルームに突如轟音が響き渡る。
壁に罅が入ってゆく。そのサイズはオークの比ではないぐらい大きなものになってゆく。
「のんびりし過ぎたか。」
「あんちゃんこっちは気にせんと大丈夫や。」
フェイスガードを下ろすとゆっくりと立ち上がる。カップや水筒、バスケットはアリエルが手慣れた様子で集め専用の箱の中に詰めてリアカーに乗せる。
前の組も気が付いたのだろう。ドロップアイテムを集める手を止めて前方に広がる壁の罅に対し武器を構えた
エルフの青年がうんざりした口調で言う
「ルチアがトロトロしているからです。」
「何を~!ガズだって疲れたって休んでいたでしょ!!」
「言い争うのは後、武器を構えなさい。罅のサイズから考えても大量よ
ランスを持った女性の戦士がピシャリというと不承不承二人は黙り、それぞれ武器を構えた。
彼女たちの様子に応じるようにダンジョンの壁の罅が大きくなり破られる。
強靭な巨大な爪がダンジョンの壁を引き裂く。爛々と輝く瞳が敵対する邪魔者を睨み据え、咆哮を上げる。
「インファントドラゴン……」
エルフの青年、ガズが呻くように声を出す。
十一階層にわずかにしか出現しないと言われる希少種。エルフの青年たちはエリアボスとも称される強さを誇るドラゴンにこの場で出会った不幸を嘆いた。
動揺、そう彼らはとても動揺していた。それはモンスターにとって付け入るスキでしかなく。太く強靭な尻尾を振り回し、一番近くにいたアマゾネス―ルチアと呼ばれた女性―に攻撃を加える。ルチアは硬直、身動きの取れない彼女に振るわれる尻尾の一撃/ランスを持った女性もエルフの青年も反応ができない/これから訪れるであろう己の死という運命に嘆きながらルチアは瞳を閉じた。
轟音が鳴り響く、いつまでも来ない衝撃、ルチアは恐る恐る目を開くと長さ5Mありそうな槍がインファントドラゴンの尻尾を深々と貫き、ダンジョンの壁に縫い付けていた。尻尾を縫い付けられたインファントドラゴンは身動きを取ることができず、必死に尻尾から槍を引き抜こうと暴れていた。
「ぼさっとするな!!」
ルチアの瞳にはルームの入り口よりこちらに向かって走ってくる金属鎧を身に纏った冒険者―コジローの姿が見えた。
「ルチア、ガズ、今は敵に集中しなさい。」
「分かっているよ。カレン!!」
ランスを構えた女性に怒鳴り返すとロンパイアでインファントドラゴンを攻撃する。重量に任せた一撃は必殺とまではいかないが軽くない傷を負わせる。カレンも同時に攻撃を行っていたらしい。ランスの一撃で腕を一本引き千切り砕いた。Lv2の上級冒険者の面目躍如である。エルフの青年は詠唱を始めた。
コジローはインファントドラゴンの傍まで走りよると剣を抜き放ち、跳躍。走りこんできた運動エネルギーと自身の体重を乗せ、大上段の斬撃をインファントドラゴンの首に打ち込む。十分加速と十分な重さを手にした剣はドラゴンの首を跳ね飛ばす。ドラゴンは悲鳴すら上げることができず、一撃で仕留められた。
「怪我はねぇか?」
「大丈夫……です。」
「そりゃ良かった。無理した甲斐があったよ。」
アマゾネスの割に妙にしおらしいなとと思われたが口には出さず、突き刺さった槍へと向かう。
見事にダンジョンの壁にふかぶかとつき刺さった槍を見て苦笑いを浮かべる。投擲できるバランスにしてはもらっていたがここまで威力を発揮するとは想定外であった。
やはり良い装備は良いものだ……装備沼へさらに深く沈み始めた。多分そこから出ることは不可能だろう。
アトラの腕に感謝、今度何か奢った方が良いかと考える。
コジローが壁に突き刺さった槍を引き抜くと、ランスを持った女性、カレンがコジローに声をかけてきた。
「ありがとう。貴方のおかげでルチア…仲間が助かった。私はカレン、カレン・ヘクトバレットだ。そちらのエルフがガズ・バー。ロキファミリアに所属している冒険者だ。」
「オレはキルケ・ファミリアのコジロー・ツバキだ。さっきの件は気にしなくていい。困ったときはお互い様だ。」
カレンが右手を差し出し握手を求める。
コジローはそれに応じつつもロキ・ファミリアというビックネームに目を丸くする。
数あるファミリアの中でも最上級のファミリア、ファーストコンタクトが恩を売る形になったのは良しとするべきだろう。
そんな、コジローの内心を知ってか知らずかカレンは話を続けてゆく
「ああ、私たちは新米でね。最近、私がLv2になったから中層に挑戦してみようと準備をしていたところだ。貴方方も中層を?」
その疑問に対しコジローは首を横に振る。
「いや、レベルアップには遠くてね中層は考えていない。」
その言葉を聞いて3人は驚く。少なくともLv2に到達しているのではないかと思ったからだ。アリエルも木板に文字を書き告げる。
【私はアリエル。サポーターです。こちらはテイムモンスターのゴブ吉さんです。】
「おう、ゴブ吉や見知り置き頼むわ。」
言葉を喋るモンスターに目を丸くするが深くは聞いてこない。スキルなどについては公表しないのが常識だ。
故に聞かないのだろう。常識をわきまえた態度に心が洗われる。ミィシャや駄女神で可笑しくなっていた歯車が元に戻っていくようだ。
「んじゃ、俺たちはこっちに行くよ。あまり無理はしない方が良いよ。」
そういうとコジローは立ち去って行った。
彼らの背を見送ると、ルチアが「あの人がほしい。」と呟いた。
カレンは頭を抱える。
ルチア達アマゾネスの種族的な悪癖。惚れっぽいというわけではないのだが強い男を求めるのだ。自分を助けてくれたことで強さ的には合格なのだろう。
「他のファミリアだ。揉め事にならないようしてくれ。助けられた側が迷惑をかけるのは論外だ。」
「うん、分かっている。私の魅力で落とすわ。」
カレンは絶対わかってないだろうお前という目で仲間を見ていた。
冒険者達がダンジョンから引き揚げ祝杯を挙げる時間。
冬の石榴亭も冒険者たちでにぎわっていた。
コジロー達もギルドで清算を終え、今日の探索がうまくいったことに対し祝杯を挙げる。
「「「「かんぱ~い」」」」
いつの間にやら湧いてあらわれた駄女神も打ち上げに参戦している。「私抜きにパーティは許さない」だそうだ。
駄女神はワインをゴブ吉はエールを、酒が苦手なアリエルとコジローは果汁を其々手にしていた。
ちなみに、冬の柘榴亭では大型でなければペットの連れ込みはOKらしい。曰くテイマーの自衛手段だそうだ。前衛や魔法使いが武器を持ち込むのにテイマーがペットを持ち込めないのは不用心すぎるかららしい。
本日の稼ぎ金額は山分けをしても過去最高を遥かに上回っていた。故にコジローとしては今後もパーティを組みたいと考えていた。
故に飲み物を飲んで一息ついたところで話を持ち掛ける。
「アリエルにゴブ吉、オレとしては今後もパーティを続けたいんだけど……どうかな?」
コジローの提案を聞いたアリエルが大急ぎで木板に文字を書く。
【是非お願いします。】
「わいも、お嬢が問題がないならええ。ペットやしな。」
「じゃ、決まりだな。今後ともよろしく。」
そのやり取りを見て駄女神がにやっと笑う。嫌な予感がするが既に遅い。駄女神の余計なひと言が始まった。
「いや~お友達ができて目出度いわねぇ。ミィシャちゃんも安心じゃないの?」
「喜ぶのはそこかよ!!なんで、そこでミィシャの名前が出てくるんだよ!?」
「心の友よ。あの子と私は」
「はっはっはっは……こいつでも食って黙っとけ。」
鳥の足を丸ごと焼いたでかい骨付きチキンを駄女神の口に放り込む。放り込まれた肉に目を白黒させるが、食欲が勝ったのかそのまま肉を食らい始めた。
神を神とも思わない扱いにアリエルとゴブ吉は目を丸くする。追加のメニューを持ってきたチェルシーがテーブルにそれらを置くと椅子に座る。
「チェルシー、仕事は良いの?」
「大丈夫ですよ。私以外にもウェイトレスはいますし、父さんと母さんの許可も貰っているわ。コジローが初めてパーティを結成した記念日ですからね。」
私も祝わせてもらいますと言って自分で持ってきたエールに口をつける。
「ありがと……」
コジローはチェルシーの言葉に苦笑いを浮かべる。祝ってもらえるのはうれしいのだが、自分はそんなに周りの人間を心配させたのだろうか。あと、チェルシーの飲み食いの分はコジローが自分で支払おうと決意する。
「本当に心配していたのよ。コジローはずっと一人で探索するから……」
「耳が痛いな。心配かけてごめん。」
コジローは果汁を飲むのをやめて、素直に謝る。親身になって接してくれるチェルシーにはいくら感謝してもし足りないのだ。その姉貴分に心配をかけていたと面と向かって言われるのはそれなりに堪えた。
神妙になって謝るコジローにチェルシーは苦笑を浮かべる。そして、アリエルとゴブ吉に向き直りお願いをする。
「少し問題の多い子だけど、よろしくお願いしますね。」
チェルシーの発言にアリエルは慌てる。木板を取り出すと急ぎ文字を書く。
【足手まといにならないように頑張ります。】
「正直、あんちゃん強いさかいな。ついていくので精いっぱいやわ。どないしたらああいう真似できるん?」
パスタに伸ばした手を止めてコジローはゴブ吉の質問に端的に回答した。
「一日一万回素振り、それを1年やれば変わるぜ。」
その回答にゴブ吉はうへぇといった表情を浮かべる。アリエルも苦笑いを浮かべる。それを行うのであればダンジョンでモンスター相手にったかった方が強くなれるというのが一般的な冒険者の考え方だ。
コジローの考えは真逆とはいかないまでも異端である。
「まぁ、それに前衛はオレがやるから大丈夫さ。それよか。荷物が減らせて助かっているよ。大分動きやすい。」
パスタを取り、アリエル達に気にするなというと食べ始める。
そんな中、漸く口に投げ込まれた肉を処理した駄女神が口を挟んできた。
「ふっふっふ~稼ぎが増えるのはいいことだぞぉ。私の小遣いも増えるし、頑張るんだコジロー。サポーター君も」
新たな肉を取り齧りはじめる駄女神様。女神というよりも野生児だ。
そんな得意げになっている駄女神を奈落の底へと突き落すためにコジローは事実を伝えてやる。
「キルケ様の小遣いはデメテル様と共通で管理している。しばらくは1日100ヴァリスだ。」
その言葉を聞いて涙目になる駄女神様。増やしてよぉと必死になって抗議するが、金庫番の心は動かせない。
しばらく抗議を続けたが、やがて諦め、拗ねてテーブルの上にあるご飯を自棄食いし真面目た。
アリエルは駄女神とコジローのやり取りを羨ましそうに見ていた。その様子に気が付いたチェルシーがアリエルに言葉をかける。
「どうしました?」
アリエルは少し困った表情を浮かべる。木板にどう記載しようか迷っているようだった。
「まぁ、お嬢ンとこのファミリアはこんなに和気藹藹しておらんかったからなぁ。羨ましくもなるわな。」
その言葉を聞いてチェルシーとコジローは首をかしげる羨ましいなどと言えるような光景ではないはずだが、ちょっと恥ずかしいの間違いではないだろうか。チェルシーは念のためにどこのファミリアか確認をすることにした。
「ファミリアは其々ですしね。人が多いところはやむを得ない部分もありますし……ちなみにアリエルさんはどこのファミリアに所属されているのですか?」
アリエルは少しだけ木板に文字を書くのを躊躇い。観念したかのように文字を書き始めた。
【ソーマ・ファミリアです。】
「ああ、神酒で有名なところですね。」
神酒の名前を聞いた瞬間、アリエルの表情が翳る。そんなアリエルをフォローするようにゴブ吉が言葉を引き継ぐ。
「せや……それなりに人の多いファミリアやからなシガラミも多いんや。そんなことよりも、あんさんたちの話聞かせてもらえんか?武勇伝とかいろいろあるんやろ。」
あまり触れてほしくない話題なのだろう。コジローはあえてゴブ吉の誘導に乗ってやることにした。
アリエルを苦しめるつもりはない。いつか、自分で話してくれることを待つべきだと判断した。
「あぁ、そうだなぁ。まずは、キルケ様がやらかした双子座事件から……」
その言葉を聞いた瞬間、肉を食べていた駄女神が慌てる。どうやらよほど触れてほしくない話題のようだ。必死になって止めようとしている。
「ヤメて!!私、メディアに未だにそのことで小言言われているのよ!?それ言うなら殺生石の話するわよ」
「自業自得だ。それを食事時にするんじゃねぇ!!」
話題を選びつつ、話を始める。途中で駄女神が仰け反ったり、オレがダウンしたりとしながら打ち上げは何事もなく終わった。
後日、聞いておけばと後悔することになるのであるが……
小さな小汚い宿の一室。
そこはアリエルが住んでいる部屋だ。ソーマ・ファミリアは力のない眷属にとって非常に危険な場所である。
接触は最小限にしなければならない。そうしなければ、全てを奪われかねないのだから……
アリエルは小さなベッドの上で苦しそうに呻いていた。何かを求め、それが手に入らないことに苦しんでいるのだ。
声にならない悲鳴が口より漏れる。意味不明の言葉。だがゴブ吉はそれで委細承知したようだ。
アリエルに対し頷くと、厳重に封された金属性の箱を取り出す。そして、鍵を差し込み箱の封を解く。
箱の中にあったのはソーマだ。もっとも失敗作にしか過ぎない出来損ないであるのだが。
ソーマをグラスにいっぱいそそぐとアリエルに手渡す。
それを受け取ったアリエルはまるで砂漠で水を求める旅人の様に飲み干すと、そのままベットに潜り込んだ。
押し殺したように涙を流すアリエル。
その様子を見ながらゴブ吉は親の仇でも見るような目でソーマを睨みつけていた。
槍は実在するモデルがあります。
実際のところ蜻蛉切などは6Ⅿもあったらしいです。
後、神酒って凶悪だと思うのですがいかがでしょう。
また、リアカー云々は独自設定です。
ただ、ドロップアイテムのサイズを考えると四次元ポケットでもなければこういった道具が必要になるんじゃないかと思います。