ダンジョンに召喚された者が潜るのは間違っているだろうか? 作:猫の手
色々と言われそうな六話ですがご容赦を願います。
リビルド版です。
時系列を整理したところフィンがいるのがおかしくなってしまったので別の団員をだしました。
マイト・マルイはオリジナルです。
冬の柘榴亭に包丁がまな板をたたく小気味よい音が響く。
週に一度のダンジョン探索を休む休日にコジローは仕込みの手伝いをしていた。
武術を学ぶ過程で嗜みとして学んだ包丁術、それをまさかオラリオで披露する羽目になるとは本人も夢にも思っていなかった。
彼は本当であれば、ロリ巨乳の女神のいる屋台に行ってじゃが丸君の購入とその見事なおっぱいを拝んだ後、バベルで武器と防具の冷やかしをする予定であった。買えない武器を見て憧れを覚えるのは良いものである。正直1,000万ヴァリスの武器を購入したとして振るう度胸はないのだけど……
ちなみに冬の柘榴亭の店主から褒められるのは包丁捌きだけである。味付けは食べれればいいと大雑把なため、不評なのだ。
魚を捌いてしまうと肉料理の下味をつけていた冬の柘榴亭の女将さんに声をかける。
「女将さん。魚、捌き終わったよ。」
「ありがとう。コジローちゃん。旦那がぎっくり腰なったばかりに迷惑をかけるねぇ」
今朝方旦那はぎっくり腰になったそうだ。なんでもため池で釣りをしていた時に大物と勝負になって、腰をやったと聞いている。
寄る年波には勝てないといっていた。午前中にディアンケヒト・ファミリアに行って腰の治療をするらしい。ポーションを併用するので午前中には感知するそうだ。何とも便利な話である。昼の営業はともかくとして夜の分の仕込みができないのはまずい。故にお鉢が回ってきたのだ。
普段世話になっている分断れず、コジローは引き受けることとなった。何故かそれを聞きつけたアリエルたちも手伝いを申し出たのだけど
「相変わらず良い腕だね。どうだい婿に来ないかい?」
「ちょっと、母さん!!」
「あはは、オレは料理人じゃないから無理ですって……」
コジローは手を振って無理無理と返す。最も、包丁以外の点で問題がなかったとしても彼は受け入れなかっただろう。もし受け入れるようならそもそも冒険者などになったりはしていない。そして、その声を聴いたのか客席の方から苦言が入った。
「そら困るで、ワイらパーティ結成したばかりやん。」
「ああ、そーね。」
流石にその言葉に女将さんも苦笑いを浮かべる。アリエルが皮をむいた野菜を持ってきて調理場にある机の上に置く。
そして、木板に文字を書き、不安そうに上目使いにこちらを見る。犬人(シアンスロープ)特有の耳が後方に倒れて不安な心情を表していた。
【解散しないですよね?】
「しないよ。悪かった。約束するからそんな顔をしないでくれ……」
捨てられた子犬のような表情をされたコジロー拝み倒す王に謝るそれを見た女将さんも悪いことをしたと思ったのか謝っていた。
アリエルはそれを聞いて安心したのか不安そうな表情を消し、嬉しそうな笑みを浮かべ、皮むきノルマ分の食材を持って料理台へと戻っていった。
「女将さん頼むよ。」
「悪かったよ。あの子がいるんじゃそうやすやすと止めるわけにもいかないね。」
「母さん!!コジロー、ごめんね。後でアリエルちゃんにも謝るわ。」
コジローはチェルシーの言葉に頷く。
「頼むよ。」
午後は何かの形でご機嫌取りをする必要があるだろうか。精神状態が悪い時にダンジョンに行けばミスにつながる。
ご機嫌取りのショッピングの計画を考える必要があるだろう。
折角の休みなのに手伝ってくれるアリエルに申し訳ないことをしている気分になる。埋め合わせは必須だろう。
「アリエル、今日は午後から空いているんだけどどこか行かないか?」
アリエルは耳をぴんと立ててコクコクと何度も頷いた。どうやらOKらしい。
「じゃぁ、終わり次第どこか行こう。場所は後で決めりゃいいな。」
アリエルの犬耳が垂れる。どうやら喜んでくれたようである。コジローはその結果に満足すると、残りの野菜に取り掛かった。
店の扉をノックする音が響く。ドアに視線を向けると、客席のテーブルを拭いていたゴブ吉がこちらに向かって声をかけてきた。
「ああ、ワイが出るからええで、下拵え続けてな。」
テーブルを拭いていた台拭きを畳んで置くと、店の入り口まで移動する。そして、ドアの前に立って何者かと誰何する。
「どちらさんや」
「ロキ・ファミリアのもんや。ちぃと用があるんやけどええかな?」
その言葉を聞いた女将さんは首をかしげつつもゴブ吉に開けるよう頼んだ。
「ゴブきっちゃん、入って貰うように言って………ロキ・ファミリアねぇ。付き合いがないのだけど無下にはできないねぇ。」
「おう、分かったで、女将さんの許可が下りたから開けるで」
そういうと、ゴブ吉はガチャリと鍵を回してドアを開く。そこにいたのは糸目で無乳の割に露出度の高い格好をした女性とヒューマンの青年。以前ダンジョンで顔を合わせたカレン、ルチアとガズがいた。
ダンジョンに召還された者が潜るのは間違っているだろうか?
五話:ロキファミリアと漫才のサットル
糸目の女性がリーダーのようだ挨拶もそこそこに店に足を踏み込む。
「邪魔するで」
「邪魔するんやったら帰って~」
ゴブ吉が当意即妙のタイミングでボケをかます。糸目の女性は条件反射だったのだろう。
「ほなさいなら」
ドアを閉めてしまった。その言葉を聞いてゴブ吉はトコトコと台所に戻ってきて「帰って行ったで」と告げる。
全員が二人が繰り広げた漫才に絶句していると急にガチャっとドアが開く。
「なんでやねん!!」
糸目の女性が肩で息をしながら突っ込みを放つ。その女性の突っ込みにゴブ吉は満足したように笑みを浮かべグッジョブとばかりに親指を立てる。
「姐さん、分かっとるやないか。今のノリツッコミならオラリオのてっぺん獲れるで」
「そっちこそ、分かっとるやないか。神の連中にもなかなかこういうこと理解できる奴がおらん……ゴブリン?」
糸目の女性が驚愕の表情を浮かべ、小人族の少年が興味深そうにゴブ吉を観察する。カレン達は言うの忘れていたとでも言いたげな気まずそうな表情を浮かべていた。そんな4人を見ながらゴブ吉はからかうように笑うと名刺を取り出し糸目の女性に渡す。
「ゴブリンのゴブ吉や。よろしゅうな。」
「おお、おおきに、うちはロキ・ファミリアの主神ロキちゅうねん。」
ロキも名刺を取り出し返した。阿吽の呼吸に周りにいた人間は茫然とそれを見ていることしかできなかった。
ゴブ吉は神であることを今知ったようだ。まじまじと見つめ、そしてひれ伏し、冗談めいた口調で
「へへぇ、ロキ様、山吹色の菓子がございます。どうかこれをお納めください。」
どこから取り出したか不明だが、ゴブ吉は冬の柘榴亭でよくお茶請けに使っている柘榴を取り出しロキに渡す。
「ゴブ吉や。おぬしも悪よのう。」
「いえいえ、ロキ様ほどでは」
えんえんと脱線を続ける二人にヒューマンの青年が声をかけた。
「ロキ様よ、漫才はそのぐらいにしてくれ。初めましてゴブ吉。俺はロキ・ファミリアのマイト・マルイだ。」
「ん~いけずやなぁ。まぁ、ええか。で、ゴブ吉やったな。こっちにコジロー・ツバキちゅうキルケの子がいると聞いたんやけどおるか?」
ゴブ吉はフィンの名前を聞いて苦笑いをかみ殺す。随分と大物が出てきたものだ。少し考え、神に嘘は通じないということに思い至り素直に答えることにした。
「おるで、呼んでくるのは構わ返けど何のようや?」
「仲間を助けて貰ったみたいだからね。そのお礼を言いに来たんだ。デメテル・ファミリアで聞いてみたらこちらだと教えてもらえたんでね。」
おかしいところはない、そして止めるだけの理由もない。ならば――
「さよか。呼んでくるわ。ちぃと待ってくれ。」
ゴブ吉は調理場へ移動すると、コジローと話をしロキ達のところへ戻ってきた。その手には急須があった。
「ちょっと、そっちのテーブル座って待ってもらえんか。少し、時間が掛かるというとる。」
そういうとゴブ吉はロキ達をテーブルへ案内し、ティーカップを取り出すとお茶を注ぎ、少し待っててやと言って奥へ引っ込んでいった。ロキ達はそのお茶をマジマジと見つめながら
「うちな、ゴブリンに給仕してもらったの初めてやわ」
「俺も初めてだ。こっちに来て5年なるけど驚きに満ち溢れているな」
カレン、ルチアとも初めてですと言う。
何とも言えない表情でお茶を見ながら、4人は恐る恐るティーカップへ手を伸ばした。
お茶を出されてから10分ぐらい経過しただろうか。
調理場よりエプロンをしたまま、帯剣をした少年が出てきた。
ロキ達の方に気が付くと少年はテーブルに近寄っていた。そしてテーブルの傍に立ち、口を開く。
「初めまして、オレがキルケ・ファミリアのコジロー・ツバキだ。カレンさんとルチアさんはお久しぶりだね。」
「丁寧にどうもな。俺はロキ・ファミリアのマイト・マルイだ。遠征に出ていない連中のまとめ役をしている。」
「ロキや、よろしゅうな。」
どうもロキ・ファミリアは現在遠征中らしい。Lv4のマイト・マルイが取りまとめ役をしているそうだ。
ロキとマイトのあいさつが終わる。カレンとルチアは主神達のあいさつが終わると自分たちの番とばかりに口を開いた。
カレンは席から立ち上がり軽く頭を下げる。
「危ないところを助けて貰いありがとう。非常に助かったよ。」
ルチアはコジローに近づくと両手を掴み、熱っぽい眼差しを向ける。アマゾネス特有の熱病、特に欲しい男が現れた時に発症する熱病だ。コジローの額に冷や汗が流れる。
「あの時はちゃんと挨拶できなくてごめんね。私はルチア・スタイノ。助けてくれてありがとう。」
「いや、流石にあ、あの状況では見捨てられない。困ったときはお互い様だから、そこまで気にしないで」
ぎゅっと抱き着くルチアをどうにか引き剥がしつつも、純情な少年は直接的な接触に泡を食う。そりゃそうであるだって童貞だもの。どうにか引き剥がしてほっとしていると、生暖かい、目で見ているマイトと目が合った。ニヤニヤ笑っていやがった。なんてひどい奴だと内心憤慨する。
「カレン達を助けてくれてありがとうな。すごく感謝しとるで」
「ルチアさんにも言いましたが、そこまで気にしなくてもいいですよ。お互い様ですしね。」
流石に神相手では口調を改めざるを得ない。いつもよりすこしだけ丁寧な言葉遣いに変えて答える。
ロキは目を見張った。コジローは本心からそれを言っている。通常このような場合恩義せがましく言って金銭をせびるのが大半なのだが……。マイトも目を丸くする。そして、交流する価値のあるファミリアの一つとして記憶する。金銭などでは蹴りを付けない方が良いだろうと考えた。
「この件は、うちのの借りにしてくれると助かるわ。フィンも遠征でおらんし勝手なことはできんしな」
「――分かった。」
コジローは少し考えて了承する。何か困ったことが合ったら助けて貰えばいいだろう。その程度で考えていた。まぁ、お互いさまと言うやつである。ルチアが再び動き出す前に仕込みの作業に戻るべきかと考えた。大体終わっており残りは野菜だけなのでコジローの手伝いは実際のところ不要なのだが、アリエルを残している分だけ申し訳ないことをしているという気がするからだ。
「話がそれだけなら、オレは仕事に戻るけどいいかな?」
そういって話を打ち切り仕事に戻ろうとしたが、ロキが手を上げて発言をする。
「いんや、他にもな確認したいことがあるねん。自分本当にLv1なん?」
「ああ、Lv1ですよ。登録してから3か月程度しかたっていないし。」
ロキの探るような言葉に警戒を覚える。面倒な話題でなければいいのだが、そう願いつつも神の表情を見れば難しいことが伺える。何事もなく終わってくれればいいんだがと願いながら、コジローは身構える。
「十一階層は中層への登竜門の一つや。Lv1の冒険者がサポータだけと手を組んで回ることのできる場所やない。」
ロキは慎重に言葉を選びながら、やはり単刀直入に聞くべきだろうと判断しコジローに問う。
「なぁ……アルカナムつこうてもろうて強化しているわけやないよな?」
「やっていない。ロキ様、それは最悪の問いだって分かった上でやってますか?」
コジローは柔和な表情を消し、戦場に、ダンジョンへ向かう時の表情に変わる。カレンとルキアは非難がましい目をロキに向け、マイトは嘆息する。ガズは興味深げに見ていた。
「ロキ様よぉ、直接聞き過ぎだ。団長もいねぇ状態であんまり勝手な真似はやめてくれよ。」
マイトに言葉にロキはわかっていると言いたげに手を振り、コジローに対して問うた理由をこたえる。
「分かっとるよ。せやけど、ここではっきりさせておいた方が自分にもメリットあるで他の連中に騒がれる前に鎮火できるからなぁ」
あくまでも親切で聞いてやっているという態度をとるロキ。
「アルカナムは使っていない。」
改めて断言をするコジロー。ロキはその言葉に嘘は感じ取れなかった。それは事実なのだろう。それにロキとしても自分の眷属を助けてくれた人間がアルカナムで強化しているような卑劣漢だと思いたくなかった。だが、それでは納得ができない。故に重ねて質問を行う。
「なぁ、なんか変わったスキルとか、魔法とか持っとるん?それなら分からんでもないんやけどな」
ロキの言葉に対して、コジローは内心面倒なことになったと嘆息する。ロキ・ファミリアはあくまでも親切で対応しているというスタンスを崩してはいない。故に彼我のファミリアの規模の差とマイトとのレベルの差がここを立ち去ることを許してくれなかった。
故に自分の性能についてある程度開示する必要性を認識した。
「オレはスキルも魔法も発現していない。オレがダンジョンで戦えているのは、キチンと武芸を修めているからだよ。」
「マヂかいな。……技でそんなに差が出るもんなん?ちぃと信じられへん。」
ロキは絶句する。そして言葉に嘘がないということを確認した故にだ。コジローの言葉は真実であり、今の彼はスキルも魔法もない取るに足らない冒険者と言うことになる。技でレベルの差をひっくり返すような真似ができるとは思えなかった。
故に悪い虫が働く。ロキはカレンをちらりと見ると謀略と悪戯に明け暮れていたころの悪い虫が働き始めた。なるほど、コジローの言葉が正しいのであればLv2の冒険者が相手でもよい勝負になるはずである。
「なら、カレンとちょっと試合やってもらえんか?自分の言うことが正しいなら一方的な敗北にはならんやろ?」
コジローが嫌そうな顔をする。当たり前だ。隠しておきたい自分の技術を無意味に他人にさらすのだ。そりゃいなや顔をする。同じ冒険者としてコジローの気持ちはわかるのだろう。マイトがロキに苦言を漏らす
「ロキ様よぉ」
「別にええやろ。百聞は一見に如かずや。なにかあったらうちが無罪証明できるしな。」
その言葉を聞いてマイトはロキが止められないと悟ったのだろう。嘆息するとコジローに声をかけた。
「済まんが、受けてくれ。団長が来たらこの貸し返すから」
「了解。それなりに高いですよ。」
「気にしなくていいぞ。団長に頼むだけだから」
全てフィンに投げることにしたらしい。マイト・マルイという男はいい性格をしている
やれやれと首を振るとキッチンにいる女将さんとチェルシーに声をかける。
「ちと、試合をしてきます。終わったらすぐ戻ってきますよ。」
奥の方から、女将さんとチェルシーの了承の声が聞こえてきた。
そのまま、近場にあるデメテル・ファミリアの空き地に向かおうとするとゴブ吉とアリエルが慌てて走ってくる様子が見えた。
特にアリエルは大慌てできたのだろう。エプロンを付けたまま走ってきた。
「まちぃや、ワイらも同行させてもらうで」
【良いですよね?】
木板に文字を書き、不安そうにじっとこちらを見る。パーティメンバーに隠すようなことでもないのでコジローは了承することにした。色々とアリエルに迷惑をかけてしまったため、この程度のわがままであれば断れないというのもあったが。
コジローはロキ達を連れて空地へと案内した。
上空にランスが舞いくるくると回りながら空高く飛んでいる。
試合の決着はあっさりと終った。握りの甘いカレンに対してコジローがディザーム(武器落とし)を仕掛けたからだ。
くるくると回るランスを呆然とカレンは見ていた。
「これでいいか?」
武器が落ちたことを確認し、剣をカレンに突き付けながらロキに確認する。
期待とは真逆の状態にロキは絶句し、マイトは苦笑いをしていた。
マイトもカレンの握りの甘さは知っており、それの矯正中であった。
ルチアはそれを見て何故か身もだえていたり、アリエルとゴブ吉は絶句していた。
「な、なんで、何が起きたんや?」
「カレンは握りが甘いからなぁ。そこを突かれりゃああなるよ。」
マイトが終了を合図するとコジローは剣を下ろした。
余裕とレベル差故の驕りがあったカレンはその結末が理解が追い付かない。コジローが剣を下ろしたことに気が付くと自分が敗北したことを認識した。そのまま地べたへとへたり込んでしまう。それはあまりにも醜態。それを主神と団長の前で曝したのだ。
呆然と己の手と地面に突き刺さったランスを見ていた。
マイトはカレンの様子に気が付き青ざめた。遠征の留守番役が自分の時にこんなことになればフィンから焼きを入れられるだろう。アキにも何を言われるか分かったものではない。いっそ自分が出ればよかったと嘆く。冒険者としての自信に重大なダメージが入ってしまった。これを回復させるのは相当難しいだろう。
最大限のフォローをして遠征が終わるまでに回復させなければならない。そうしなければマイトが焼きを入れられる……一切容赦のないコジローに愚痴りたくなる。
それを知ってか知らずか。普段通りの飄々とした態度でコジローがロキ達の方を見る。
「んじゃ、決着もついたし、仕事に戻るよ。」
そういって、冬の柘榴亭に戻ろうとするのをアリエルがエプロンの裾を引っ張って阻止する。アリエルの対応に首を傾げつつ、振り返ると、怒った表情のアリエルがこちらを見ていた。犬人(シアンスロープ)特有の犬耳も前方に傾けられていた。
【カレンさんのフォローをしてあげてください】
木板にはそう書かれており、全身から私怒っていますと表現していた。コジローはその木板を見た後、カレンを見る。自分のプライドが完全に圧し折られ、涙を流している女の子の姿があった。その姿にコジローもやらかしたかとガリガリと頭をかく。
「分かった。ありがと、アリエル」
アリエルに頷いてからカレンの元に向かうと途端に犬耳が伏せられる。嬉しそうに微笑んでいるのを見て、色々と責任重大だとコジローはプレッシャーを感じていた。せめて仲間からは信頼される男でありたい。涙ぐむカレンの前に立つ。コジローは色々と考えたが甘い言葉をかけてやるのはやめた。事実を伝えてやるしかない。不器用な自分では下手な慰めは逆効果になると考えたからだ。
「一撃でやられた理由は何だと思う。」
故に肺腑を抉る一言を放つ。アリエルは驚き、ロキも顔をしかめる。文句を言ってやろうとするとマイトに止められる。彼に任せろと言った。首を振りとどまる様に再び告げるとアリエルとロキは不承不承とどまった。
カレンはその言葉に混乱する。嬲りにきたのか。そうとすら思えた。
「え……?」
「もう一度聞く。一撃でランスを弾き飛ばされたのはなんでだと思う?」
カレンは頭が真っ白になる。何故自分が、そう思いながらも普段、フィンやマイト達から注意を受けていたことを思い出す。呆然とした表情でその言葉をコジローに告げる。
「握りが甘かったからですか?」
その言葉に頷く。恐らくほかの人間からも指摘を受けていたのだろう。そして、恐らくカレンは大したことではないと考えていたのだろう。故に抉る。それは前衛の冒険者として怠慢でしかないからだ。
「正解だ。武器を落とす技ってやつは幾つか存在してな。握りが甘いとそれらの格好の餌食になる。いくら力が強くても握りが甘けりゃ支えきれねぇからな。」
その言葉を聞いてカレンは黙る。ロキ・ファミリアの先輩のの言葉を深刻に受け止めていなかったことを責められているようだ。己の未熟を突き付けられそれを修正しようとしなかった怠慢を容赦なく抉る。
「多分、他の連中から指摘されていたんじゃねぇか?それで修正をしなかったんだ。無様を曝すのも当然だ。」
カレンは言葉が返せなかった。まさにその通りの事実。団長の言葉を軽んじた己の失態。自覚した自分の無様に歯軋りをしてしまう。冒険者をこのまま続けてもいいのだろうか。そういう疑念すら湧いてきた
「ただまぁ、運が良かったな。運が良いってのは大切だぜ。」
その言葉を聞いてカレンはコジローを見上げ睨み付ける。運が良い訳などない。こんな恥を曝してしまったのだ。今度こそ抗議しようと絶叫するように叫ぶ。
「運が良いわけないじゃないですか!!こんな恥を曝して!!」
そんなカレンの言葉に苦笑しつつ、言い含めるようにコジローは言葉を返した。
「恥を曝すだけで済んだろ。仲間だって死んじゃいねぇし、自分も死ななかった。幸運という以外他にねぇだろう。」
カレンは絶句する。コジローの言うとおりである。仲間が死ぬ痛みに比べれば、己が死んで終わることに比べればこの恥は大したことではないのだ。
「努力を怠って恥ってのはねぇだろうよ。アンタは運が良い。次があるんだからな。」
カレンはそのまま崩れ落ち涙を流す。目に気力は戻っていた。いつの間にか、己の至らなさへの悔しさに切り替わっていた。その様子をコジローは確認すると仕込みに戻るわと言ってその場を立ち去る。アリエルもコジローの後ろをついていった。
コジローが離れるとルチアがカレンの傍により声をかけて慰めていた。その様子を確認しながらマイトはロキに話しかける。
「ロキ様、借りが増えたぞ。」
「―――しゃぁないわ。」
ロキは自分の眷属がかわいくて仕方がない。そんな眷属を立ち直らせ、更には成長するきっかけを与えてくれたのだ。借りとするしかないだろう。チュールを思い出させて気に入らない部分はあるが……そして、マイトは内心喜んでいた。カレンが立ち直りさらに前向きになった。留守番役の自分の面目も保たれる。きっとボーナスだって要求できるだろう。フィンたちが早く帰ってこないかとウキウキした気分になった。
二人について帰らず残っていたゴブ吉はロキ達に対してあんじょう頼むわと声をかける。
「まぁ、あんちゃんはあまりそんなこと考えとらんで。ただまぁ、これからいろいろとやっかみ受けろやろうけどなぁ」
ゴブ吉の言葉にロキは苦笑いを浮かべる。なかなか腹黒いゴブリンだ。ロキはそれについて承知しているとばかりに言葉を返した。
「ちゃっかりしとんな、自分。まぁええわ。悪い子やないし、できる限り便宜を払う。後、うちの名刺は黄昏の館のフリーパスやさかい大切にせんとあかんよ」
「おー、こいつはええもんもろうたなぁ。んじゃ、ワイも失礼するで」
ルチアがカレンを慰める様子を見ながら、本当に大きな借りになりそうだと苦笑いを浮かべた。
同じようにアマゾネスに狙われているフィンとは良い酒が飲めるようになれそうです。
戦闘を端折ったのは、あまり長引かせる必要を感じなかったためです。
後、ゴブ吉なんでこんなことになったんだろう。
何度かゴブリンが話せる理由を突っ込もうとロキはしたのですが突っ込む前に漫才に入って流しやがった……