ダンジョンに召喚された者が潜るのは間違っているだろうか? 作:猫の手
お暇つぶしにどうぞ
オークの首がルームの天井に向かって跳ね飛ばされる。
オークを一太刀で仕留めたコジローは次の獲物へ意識を向ける。
ハードアーマード、バットパット離れた場所にいるインファントドラゴンやオーク達。
近場にいて一番面倒な相手、ハードアーマードが丸まる前に柔らかい内側を両断する。
2体の仲間を殺されて我に返ったバットバットが襲い掛かるも、ジグザグに軌道を変化させる横薙ぎの一撃が7匹のバットパットを纏めて切り裂く。
アリエルの袴は結構いい値段がした。その上に防御効果のあるコートも購入したので割とスカピンである。駄女神様のお小遣いを100ヴァリスにしていなければ今頃酷いことになっていたであろう。
兎に角コジローは早くなるべく早く財布の中身を回復させる必要があった。エルフの店子の話だとアリエルはかなり安めのモノでコーディネートしたらしい。タマツドウを紹介したメアリと自分の迂闊さを呪う。
武器の修理代すら出せないスカピン状態。コジローは必至であった。
一方そんな状態のコジローに襲撃を受けるモンスターは悲惨なことこの上ない。
次々と仲間が殺されていき、その攻撃をする瞬間が"認識"できない。故に巻き藁の様に切り殺されるしかなかった。
もう少し数がいて量で押せば話は違ったかもしれない。だが、モンスターパレードでもなければ発生しない事態。
次々とモンスターは切り殺され最後にインファントドラゴンの首が跳ね飛ばす。
ルーム内のモンスターを瞬く間に討伐したコジローはアリエル達を振り返る。
タマツドウで購入した青い色合いの袴とコートを着たアリエルを見て、コジローはどことなく満足していた。女の子に貢ぐ男の心がなんとなくわかったような気がする。因みにタマツドウで購入した服はすべて汚れを弾くようコーティングされており、冒険者の女の子にとって非常に嬉しい機能を備えていた。
それを聞いたコジローはお値段相当なんだなぁと奇妙な関心をしてしまったものだ。
ダンジョンでの癒しを味わいながらもコジローはモンスターの躯を処理するアリエルに声をかける。
「悪いけど、後は頼むね。これが終わったら休憩にするからさ。」
「ふ~、それがええと思うわ。あんさん今朝から飛ばし過ぎやで金欠なのはわかるけどなぁ。ここからやと、あそこがええかな?」
喋れないアリエルの代わりにゴブ吉が返事をするとアリエルに確認するように言葉を投げる。アリエルがゴブ吉の言葉に頷くとゴブ吉はコジローに話しかけた。
「近くにな。モンスターが生まれない安全地帯のルームがあるんや。飯はそっちで食わんか?」
ダンジョンに召還された者が潜るのは間違っているだろうか?
七話:探索、金策、駄女神の攪乱にまつわるサットル
「へぇ、そんなところがあるんだ。行ってみたいから是非頼むよ。」
コジローが目を丸くする。モンスターが発生しない場所があるというのは聞いたことがあるが十一階層のルームが丸々それとは予想外だった。一つ楽しみができたとばかりにコジローは嬉しそうに喜ぶ。喋りながらも手際のよい一人と一匹はあっという間に魔石とドロップアイテムを回収するとリアカーに乗せる。
「さて、行こか。ワイらもハイペース過ぎてちーとつかれとるさかいな。」
アリエルは平気ですよと首を横に振るが、普段よりハイペースだったため疲れがたまっているようだ。サポータの様子が把握できていないようでは冒険者失格である。コジローはアリエル達に謝る。
「ごめん。」
【気にしないで】
そうアリエルが分かっているからとばかりに文字を書いた木板を見せる。事情を把握しているだけに複雑なのだろう。可愛い極東風の衣装を見られるのは嬉しいのだが同時に財布が寒い。きっと財布が温かくなるまでこの二律背反に悩まされるだろう。
アリエルには申し訳ないがせめて今週だけはこのペースを維持させてもらおうとコジローは考えた。
終わった後に何かを奢れば許してくれるだろう。スカピンにならない程度にだけれども……
話しながら、通路を通り移動する。途中にルームがあったが幸いにもモンスターは居らず素通りできた。
そして辿り着いた安全地帯のルームは湖を湛えたルームであった。
モンスターが発生せず袋小路になっているため外からモンスターがやってくることも少ない。休憩をするに非常に都合のよい穴場であった。もっとも――
「せやで、パンドリーが近いからなぁ。あんまし近寄るやつもおらへん。とっておきの穴場っちゅう奴やな。」
【ただ、パンドリーに通り道から外れているので、他のモンスターも滅多にここにこないんですけどね。】
「パンドリ-に近いっていうのは不安をだね」
「まぁ……静かにしている分には平気やで」
アリエルがリアカーの隅に置いた弁当箱を取り出す。最近は必要最小限の荷物以外はリアカーに預けておいている。そのおかげで潰れたサンドイッチなど見た目が悲惨なことになっている弁当を食べなくて良くなっていた。
(これもサポータのありがたみなんだろうね。)
良い状態での探索ができるということは精神的な余裕にも繋がる。金銭的な余裕以上にこれらの点にコジローは満足していた。
それらを食べながら、地面に座り休息をとる。お腹が満たされたら財布の寒さも気にならなくなってきた。非常に現金な話である。一息ついてお茶を飲んでいるとゴブ吉が声をかけてきた。
「なぁ、コジローはん。さっき、バットパット倒したときジグザグに槍が動いていたんやがアレはなんや?」
ゴブ吉の質問。コジローが表情を見るに純粋に好奇心なのだろう。あまり公開したくはないが特殊な技なため、仲間に隠し過ぎるのも今後の探索に影響が出ると判断する。少しだけ、考えてから教えることにした。
「ん~……オレの流派の技術の一つだよ。あんまり詳しいことは言えないんだけど、『燕返し』って言って初代が燕を斬るために作った技って言われている。」
「燕?あの鳥の?」
「そう、その燕。あいつらは動きが速く賢いからね。単純に剣を振っても充てることができないんだ。だから、途中で剣の軌道を変化させて逃げる方向に先回りをする必要がある。あのジグザグの軌道は燕に対して先回りをするためモノもなのさ。」
「お……おぅ」
ゴブ吉はコジローの回答にお前正気かという視線を向ける。まぁ燕を斬るためにあんな技を生み出したと言われればそうだろう。そして、コジローは苦笑しながら言葉を続ける。
「あと二つほど燕返しはあるんだけど、まぁそっちは秘密だな。」
そのうちに紹介することもあるだろうよと言って言葉をきる。そして、今度は自分の番とばかりにコジローがゴブ吉とアリエルに質問を投げる。一つばかり腑に落ちないことが合ったのだ。
「なぁ、アリエル、ゴブ吉、二人はなんで冒険者をしてるんだ?」
アリエルとゴブ吉は優れたサポータである。サポーターの仕事は実際のところダンジョンよりも都市間の運送関係の仕事で求められることが多い。特にアリエルは調教師である。地上で野生化したモンスターを調教して運搬業をやった方が利益が出るだろう。特に魔石という途切れることのない石油のある産油国であるオラリオであればそれは顕著になる。
二人はそのコジローの言葉に俯き悩むそしてアリエルが頷くとゴブ吉が話し始めた。
「ワイらはソーマ・ファミリアを脱退したいんや」
コジローは予想外のゴブ吉の言葉に目を見張る。ファミリアから脱退することが目的の冒険者など初めて聞く話である。茶々を入れることのできる話でもない。コジローは黙って続きを促すことにした。
「あそこはな。色んな意味で最悪や。弱い眷族を喰いモノにして、オンドレが儲けることしか考えてない。ソーマ様は酒以外興味がない。もう、どうしようもないんや。せやから早く抜け出したい。……そのための資金はもう少しで貯まる。」
ゴブ吉の独白にアリエルは肩を震わせる。コジローは下手な慰めは愚策と考え、故にこう返した。
【コンバージョン先はキルケ・ファミリアにしない?良ければ駄女神様を説得するよ。眷属は少ないから大歓迎。だから、今後も一緒に探索をしよう。】
勧誘の言葉。アリエルはコジローの言葉に目を開く。目の端にほんのりと光る水滴が見えた。返事を書いた木板で顔を隠しながら答える。
【お願いします。】
「せやな。あんさんとこなら大丈夫そうや。」
ゴブ吉もどことなく嬉しそうだ。脱退した後に受け入れてくれる先があるのか不安があった。その不安も今解消された。後はさっさと資金をためてソーマ・ファミリアから脱退するだけだ。
「なら決まりだな。さてと……」
休憩は終わりとばかりに兜を被る。後は後半戦である。必要金額がどれぐらいかは分からないが、今のペースを続けて早く脱退させるべきだろう。
「後半戦だ。さっさと稼いでコンバージョンしようぜ。」
アリエルとゴブ吉はその言葉に頷き移動の準備を始める。
コジロー達の気合が入った後半戦は前半戦と比較にならないぐらいモンスターを狩りはじめた。リアカーがいっぱいなって撤退したのはアリエル達と一緒に探索を始めてから初の経験であった。
冒険を終えた冒険者達が歓楽街へと向かう姿が窓に映る。
三食昼寝付きこそ至高と言って憚らない駄女神はコジローに跨り背中を肌蹴させる。
ステータスの更新。
眷族が己のモノであるという証であるステータスを刻む時間。
キルケはその瞬間に高ぶりを覚える。ただ一人の眷属で自分を見てくれる。自分だけを見てくれる存在をいやおうなしに自覚できるこの瞬間が非常に好きであった。ステータスを更新しながらもついつい鼻歌を歌ってしまう。
ステータスの更新が終了すると不満そうに書き記しコジローに手渡す。
ツバキ・コジロー
Lv1
力A120 耐久B50 器用A900 敏捷A800 魔力I0
【魔法】
【スキル】
コジローは手渡されたステータスを記された紙を見ながら満足していた。ステータスの伸びが良い。
十一階層をターゲットにした甲斐があるというものである。
キルケはコジローの背中から降りず不満そうにステータスを見る。唸り声をあげながら無念そうに呟く。
「そろそろ、スキルの一つや二つ生える時期だと思うのよね~」
「なくてもどうにかなっているから不満はねぇよ。それにそのうち生えるもんだろそういうのは」
好奇心を刺激する要素がない眷族に不満気味の駄女神様。
ステータスの更新が終わったのにも関わらず背中に乗ったままぶーたれる。腕組をして意地でも退かない構えだ。
「どーせ今からまた素振りするんでしょ~、そんなことよりも神様と遊んでくれることが大切じゃないかな~」
「喧しい駄女神。今日もどこかで遊んできたんだろ?」
そんなコジローに言葉にチッチッとドヤ顔で指を振る。勿体ぶるように駄女神様は今日の成果を自慢げに報告した。
「ふふん、今日は月に一回の勤労日よ。妹のところにいる厄介な子の調整をしていたんだから」
「前半が無けりゃ感動的だったんだがな。というか駄女神様はそんなことできたのか!?」
駄女神の意外なスキルにコジローは慄いた。
何もできない。お金をせびる。紐のような女神というイメージで固定していた分驚愕も一入だろう。
そんな眷属の心のない言葉に駄女神様はプンスカと怒り背中に乗ったまま跳ねる。
割と形の良いお尻が押し付けられるが、残念なことにコジローには効果がない。何故なら駄女神様は故にすでに異性と見られていないのだ。
「あのねぇ。私のお婆様はヘカテよ。偉大な魔術神の孫なの。そのぐらいは出来るわよ。大体ね、美神の魅了ばかり取り沙汰されているけど魔術の神は魔法の技術、医療の
神は薬剤や医療技術、鍛冶の神は鍛冶の技術は失われないのよ?ヘファイストスがブイブイ言っているのだってそれを失っていないからなんだから!!」
どうも昔取った杵柄は失われないらしい。そこで精神的な真面ささえあればヘファイストスのような良い神になれただろうに……つくづく残念な女神様である。コジローは可愛そうな子を見る目を浮かべた。
駄女神が背中に乗っていなければ一波乱ありそうな表情である。
「んで、駄女神様が色々と残念なことは理解できた。そんな技術があるのになんでここは零細ファミリアなんだ?」
当たり前のような疑問。それに対して駄女神様は薄い胸を張ると素直に過去に行った悪行を告白する。
「えーとね。魔導書を大量に作って売りさばこうとしたらデメテルに捕まってボコボコにされました。『何考えているんだ』って」
それを聞いたコジローは黙り込んでしまう。なんて駄目な神様なのだろう。そんな事をすればアルテナが激怒する。乱造される魔法使いなんて見たくもない。きっと治安とか魔法の道具のお値段とかが狂う。良く生きていたもんだと悪運の強さとデメテル様の面倒見の良さに感心してしまった。
「なぁ、駄女神様。アンタ、知識はあるけど馬鹿だろ。」
「うぐぅ」
とは言え当時作った100冊ほどは色々なファミリアに流れたらしい。正直言えばその程度で済んで良かったと思われる。ウラヌスからもお小言を戴いたそうだ。非常に稀有な例と言える。やはり、コジローのところの主神は駄女神らしい。
余り深堀したくなくなったコジローは話題を転換させるようと考え、改宗について確認することにした。
「ああ、そうだ。アリエルがキルケ・ファミリアに改宗するかもしれないけど。構わないよな?」
「アリエル?あ~~~うん、犬人の子ね。良いんじゃないかな~。でも、あの子が改宗するなら稼ぎを良くしないとキツイわよ」
駄女神の発言にコジローは首をかしげる。金遣いが荒いとかそういうイメージがないからだ。
故にコジローは駄女神に真意を問う。
「何故だ?」
「気が付いていなかったの?あの子、神酒中毒よ。」
神酒中毒という聞いたことのない単語に首をかしげる。アル中にしてはアリエルの手が震えている様子もなかった。
コジローは意味が理解できず、背中に乗っている駄女神に解説を求めることにした。
「神酒中毒ってなんだ?新手のアル中か?」
そんなコジローの言葉に駄女神は苦笑する。背中に跨っているのが面倒くさくなったのか。覆いかぶさるように倒れこむ。
薄い胸を押し付けるがコジローには無意味である。既に彼の中で駄女神は異性ではないのだから……
スキンシップを止めず、言葉の続きを求めた。
「違うわよ~。神酒はね~とっても美味しいの。匂いを嗅いだだけで虜になるぐらいすごーいお酒なの。神々だってこぞって欲するぐらいね~。でもね……そんなお酒は有り得ない。お酒の匂いをかいだぐらいで、一口飲んだぐらいで精神に異常を発するなんてお酒とは言えないわ。」
面白くなさそうに駄女神は言葉を続ける。睦言の様に囁いているのに何の反応も示さない眷族に不満なのだろう。それとも自分のスレンダーボディを嘆いているのか。そんな不満を浮かべつつも言葉を続ける。
「神酒はね。『魅了』のステータスを持ったお酒なの。一度飲めば最後、美神に魅了されたかのように虜になってしまうわ。普通の子供達では耐えきれないでしょうね。慣れる子、高レベルの子なら耐えきれるかもしれないわ。神酒は色や音匂いだけで引き付けてしまうから。」
駄女神の話を聞いて絶句する。それは強力な麻薬と何ら変わらない。だが、一般的に出回っているものも存在する。それが事実なのか疑いの眼差しを向ける。駄女神はその視線にムッとしたような表情を浮かべる。
「麻薬と変わらねぇな。だが、信じにくいな。そんな酒なら禁止されているだろ?」
「誰が禁止するの?アストレア・ファミリアを裏切ったギルドにそんな力はないわ。理由を付けて一時的に止めることは出来るでしょうけど、一時的なものよ。それにこれは魔術、医療系の神々の見解。公表は禁止されているけど……神には『魅了』は通じないし、神酒好きな神もいる。それで利益を得ているものもいる。禁止なんてできないわ。」
理の通った話に絶句する。オラリオは警察組織が存在しない。それによるデメリットが浮き彫りになった話である。喰われないように知識と力を身に付けなければ生きていけない。デメテル様の好意がなければ今頃キルケ・ファミリアはどうなっていた事だろうか……
「アリエルは中毒っていう訳か。直せねぇのか?」
「ん~麻薬依存の治療に似てくるから難しいわね。まぁ、眷族のためだもの何か考えるわ。だから、お小遣いを増やしなさい。」
駄女神も魔術神何らかの手段は考えられるようだった。普段からこのぐらい頼りになればいいのにと思いつつ、少しばかり財布の紐を緩めてやろうとコジローは考えた。
「ファミリアの頭数×100ヴァリスぐらいなら考えても良いぜ。」
「……くっ、私のお小遣いのためにも助ける必要がありそうね。」
少しばかりやる気に灯がともったようだ。お小遣い増やすぞーと叫び声をあげながら、コジローを開放し椅子に座って考え始めた。
その様子を見ながらコジローはトレーニングに向かう。素振りと筋トレ、長距離走これらを欠かすと翌日の剣技のキレが悪くなる。
素振り用の武具をもって部屋の外へと向かっていった。
◆オリ設定
デメテル・ファミリアとガネーシャ・ファミリアの規模は同程度。
ロキ・ファミリア、フレイア・ファミリアと戦争をした場合敗北は確定だが相手方の組織に深手を負わせることが可能な程度の組織力を持っています。
ソーマ・ファミリアについては結構オリ設定を乗せる予定です。
タマツドウはオリジナルです。日本には江戸時代からショッピングモールもどきはあったようでそちらをイメージしました。