理解されない、見てもらえない、自分を自分として認めてくれない。
だから、努力する。認められるために努力する。
しかし、努力は時に……無慈悲である。
では、どうぞ!!
「ふはぁ~お茶がうまい……」
「結構良いところのお茶らしいわよ。味わって飲みなさい」
「らしいわよって……自分で買ったんじゃないのか?」
「そんなお金は家にはない。貢ぎ物よ貢ぎ物。異変を解決したお礼だったり、妖怪を退治したお礼として貰ったの」
「よくそんなんで生活できてるわね貴女……」
「節約よ節約」
そう言って霊夢ちゃんはもう一度ズズッと湯飲みに口をつけた。
節約……実はこれも薄めてあったりするのだろうか?俺自身味に敏感な訳ではないので、実際このお茶が薄めてあるのかは分からない。ただ、まあそうだとしても美味しいからいいのだ。
「節約……天界に行ってからは聞かなくなった言葉ね」
「天界?天子は空にでも住んでるの?」
「厳密には違うけどね。あながち間違いでもないし……彼処は、窮屈すぎるわ」
「ふーん。そう言うもんか」
窮屈すぎる……ねえ。
俺にはよく分からないな。輝夜に拾われて、俺は幸せに過ごせるようになったし、拾われる前は生きることに必死でそんな事を考えた事もなかった。
天界って事は神様とかの世界なのだろうか?少なくとも以前の俺のような貧しい生活はしていないだろうし……貴族様は貴族様で何かと悩みがあるのだろう。
「ええ……そう言うものよ」
「でも節約を知らないって事は裕福なんでしょ?良いじゃない。まだ寝食があって」
「そう考えると楽なんでしょうけど……私はもう、疲れたのかもしれない」
「だから落ちてきた?」
「そう……なのかもしれないわね」
暗くなったり、作り笑いになったり……何とも忙しい奴だ。
だが、少なくとも分かることがある。
天子は追い詰められている。
ここまで露骨に心労を見せられたら、分からない奴の方が異常なほどに分かりやすかった。
それよりも、よくもまあここまで追い詰められたものだ。一体天子がどれ程の苦痛を受けてきたかは分からないが……少なくともコイツの周りにはロクな奴は居なかったのだろう。
フランちゃんと言い、天子と言い、守矢組もそうだが……どうしてこう訳ありな奴が多いのかね?
確か幻想郷って忘れられた者の楽園とかって場所だと聞いたんだがなぁ……これじゃあ訳ありの者達が集う場所になっちまってるじゃねえか。まあ、俺達もその一人なんだけど。
そんな下らない事も踏まえながら考え事をしていると、天子がぽつりぽつりと話を始めた。
「……比那名居家は名居家って言う幻想郷の地震を担っていた一族の部下なの。私は詳しく知らないけど、当時は幻想郷に訪れる大きな地震を抑えたりしていたらしいわ。そして、その名居一族はその功績が認められ天界に住む権利を貰った。修行で上り詰めた他の天人を差し置いて相当な権力者としてね。そして、私たち比那名居一族もほぼ同等の権力を手に入れたわ。当時12歳の私はそれがどれだけ凄いのか分かっていなかったんだけど。ははは……あの時私が努力をしていれば、いや、努力をしていなければ……気付かなくてすんだのかも……」
ぽつぽつと語り出したその口は、川の流れのようにスラスラと静かに言葉を紡ぎ出す。
天子は自分の膝を抱え、震えながらも、畳に染みが出来ていても言葉を止めることはなく、むしろ激しさを増していった。
「私は何時しか周りの側近や近づいてきた奴等が、その権力欲しさに動いていることを気付いたわ。信じられたのは父様と母様。そして、私の身の回りの事をしてくれてた衣玖だけだった。でも……でも!!父様も!!母様も!!私を道具としてしか見てなかった……!!あの人たちは私に結婚しろ結婚しろって、無理やり男を連れてくる……!!……私には頼れる相手が衣玖しかいなかった。でも、その衣玖でさえ……私を私として見てくれていなかった…………総領娘様……総領娘様……って、まるで私にはそれしか取り柄がないように言い続けた。私は努力した。皆に認められたくて、努力した。勉強も運動も。誰に負けないように。私をッ!私として見てほしかったのに!!ただ……それだけ……だったのに………………」
天子の言葉が、止まった。
さっきまで吐き出し続けた感情の波が急に収まったのか、その目には涙が浮かび、口は何が起こったのか理解ができていないのか半開き状態。
そして、数分が過ぎやっと事態が呑み込めたのか天子が半開きになっている口をゆっくりと、動かした。
「……哀れみ……の、つもり?」
震えた声は部屋に響き、確かに俺の耳に届いた。
そして、その言葉に返事をする声が響く。
「そうなのかもしれないわね」
天子の震えた声とは違い、ハッキリと芯の通った声色。輝夜の声だった。
「私は貴女が美しく、そして儚く見えたわ。ひびの入ったガラスのように少し突っつけば壊れてしまいそう。でも、決して諦めないその光。ええ。本当に美しい。だからこそ、私は貴女を哀れみ、励ます。こうやって、そこの旦那も立ち直ったのよ?」
「おま!!それは言わなくてもいいだろ!!?」
「旦那はね、弱くて、今にも折れそうなのに少しでも長く生きたいって言ってね?もう、大泣きしてたわ。最初はからかってるだけだったのに、次第に私の方は惹かれていって……いや、一目惚れだったのかも。でも、私の旦那のお陰で自分が今、ここで求められ、生きていることを実感している。貴女にも何時か、必ずそんな相手が現れる。でも、もし、それでも苦しいのなら、私を、私達を頼りなさい。私達は比那名居天子を見ているから」
輝夜に抱き付かれたままの天子は、霊夢と俺の顔を見た。
俺は強く頷き、霊夢は茶を啜りながらだが天子に親指を立てた。
俺も霊夢ちゃんも、そして輝夜も言葉は違えど考えていることは一緒だろう。
「何時でも愚痴、聞いてやるからな。あ、別に遊びに来ても全然構わんぞ」
「ま、暇なときは遊びに来ても良いわよ。お茶ぐらいなら出すわ」
「ね?頼れる仲間でしょ?」
「………………………うん」
天子は笑った。
ぎこちない笑みで、笑った。
しかし、やはりどこかその笑顔は…………
…………悲しげだった…………
お読みいただき有難うございます!!
声は届いた。思いも、届いた。しかし、それは必ずしも相手を立ち直らせる程の力を持っているとは限らない。
最終的に立ち上がるには、自分自身の力が必要なのだ。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
非想天則はあと2~3話で終わる予定です。
では、また次回。