ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第10話です。
やっとお話が2ケタになりました。
50話や100話書いている人は本当にすごいと思います。
百話の道も一話から、がんばって書いていきたいと思います。


星なき夜のアリア4

エルナディータside

 

なぜか脱衣所に堂々と入ってきたタクトを徹底的にしばきあげ、拳の衝撃音とノックバックにより吹っ飛ん彼を、私はオブジェクト化した縄でグルグル巻きに縛り上げた。

 

「やるかもとは思ってたけど、ここまで堂々と覗きに来るとはね。タクト、私あなたを見くびっていたみたいだわ」

「エ、エルナディータ……。もうタクトくんには聞こえてないよ……」

「アスナも2、30発いっときなさい。あなたも見られたのよ?」

「さすがにこの状況に追い討ちはかけられないわ……」

 

ゲームの中ということもあり外傷などは見られないが、この世の地獄を見たかのような苦悶の表情で気を失っているタクトを見て、アスナの怒りは萎えてしまったらしい。

アスナの分も制裁を加えておこうかとも思ったが、気絶して縄にしばられた相手をさらに追い込むのはさすがにためらわれた。

私はメニューウィンドウを操作して服を装備すると、タクトを引きずりながら脱衣所を出る。

 

「ヨッ! 随分派手にやったみたいだナ」

 

いつのまにか来ていたアルゴが、ニヤニヤとしながらこちらを見ていた。

その向こうではキリトが「あちゃ~」という顔でタクトに向かって合掌している。

 

「すまんアスナ、エルナディータ。止めようとはしたんだが……」

「アルゴがいる手前はっきり言えなかったんでしょう? 分かってるわ」

 

大方の事情を察していた私は、引きずっていたタクトをその辺に置くと

 

「じゃあ、アルゴ。ちょっと外に出ましょうか」

「そうだナ」

 

私とアルゴはそう言って連れ立ってドアに向かう。

その様子に焦ったのはキリトとアスナだ。

 

「お、おい! どこ行くんだよ!」

「そうよ、エルナディータ。今2人が出て行ったら……」

 

そう、今私たちが宿を出て行けば、部屋の中はキリトとアスナと気絶したエロガッパの3人になる。

私とアルゴは顔を見合わせると、私は2人にウィンクを、アルゴは親指を立てて。

 

「一応タクトもいるんだから、あんまり過激なことはしないようにね♪」

「キー坊。男みせろヨ!」

「「なっ!!」」

 

一瞬で赤くなった2人と真っ白になっている1人を部屋に残し、私たちは外に向かって歩き出した。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「この辺でいいかしらね」

「そうだナ、周りにも誰もいないみたいダ。オレっちの《索敵》は信用してくれていいヨ」

 

私たちは町外れまで歩いてきていた。

外はもう日が暮れて辺りは闇に包まれている。

私はアルゴの方を見て、もう一度自分の《索敵》で辺りを走査してから

 

「じゃあ、依頼の報告を聞こうかしら。宿に人も待たせてるし手短にお願い」

 

それでも相手に聞こえるギリギリの声量でアルゴに問いかけた。

 

「わかっタ。手短に報告しよウ」

 

アルゴは私の問いかけにうなづくと言った。

 

「お前さんの言う《ヒースクリフ》はこのSAOには存在しなイ」

 

予想できた答えだったが、私は思わず深いため息をついた。

 

「そうご苦労様。依頼は終了よ。このことはもう忘れて頂戴。報酬は言い値でいいわ」

「エルっちには攻略本の作成にかなり協力してもらったしナ。それでチャラにしとくヨ」

 

私は「そう」と短く返すと宿への道を戻り始める。

アルゴの調べられる範囲には存在しないとわかっただけでも収穫だ。

おそらく、プレイヤーやNPCの名前にもセリフにもクエストにもここまでの街にある店名の中にさえ《ヒースクリフ》という言葉は存在しなかったのだろう。

 

「もう少し情報があれば違ったかもしれないガ、《ヒースクリフ》という言葉だけじゃナ」

「ごめんなさい。これ以上は言えないの」

 

依頼のためとはいえ、本来ならその程度の情報さえ漏らさない方がよかったのだ。

しかし、アルゴの情報収集能力は私から見ても飛び抜けている。

SAOにログインして一ヶ月、一人での調査に限界を感じていた私は、やむを得なく彼女を頼ることにしたのだった。

 

「オレっちは別にいいがナ。ター坊には何も言わないでいいのカ?」

「……! あなたまさか……」

「勘違いするナ。内容は言ってないヨ。というか聞かれなかったしナ」

「…………」

 

聞かないでいてくれたタクトの気持ちが嬉しかったが、同時に苦しくなる。

私は彼の笑顔に救われている。しかし、彼が私の事情を知った時それでも彼は私に笑いかけてくれるだろうか。

彼の私に対する信頼が軽蔑と恐怖に変わるとしたら、私はそれに耐えられるだろうか。

言えない、言えるわけがない。

なにより

タクトにはこんなことは知らずに笑っていてほしいのだ。

そんなことを考えていると、こちらをジッと見ているアルゴと目が合った。

 

「な、なによ……」

「いや……ター坊の一方通行かと思ってたガ、そうでもないみたいだナ」

「どういう意味よ。私は別にタクトのことは……」

「1000コルでター坊の気持ちを聞いてきてやろうカ?」

「ア、アルゴ~!」

 

「ニャハハ!」と笑うと高い敏捷値に任せて逃げるアルゴ。

私は捕まえようと追いかけたが結局宿まで逃げ切られ、宿で夕飯を作って土下座をしていたタクトと、なぜか目を合わせなくなっているキリトとアスナ、それを見てにやにやするアルゴと共に夕食をとった。

明日はいよいよSAO史上初のフロアボス討伐戦が行われるのだ。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

ボスレイドの当日、昨日の46人が一人も欠けることなく噴水広場に集まっていた。

私たちの到着に気がつくと、人垣の中心にいたディアベルが近づいてきて言った。

 

「パーティーの役割を変更したいんだけどいいかな? 昨日はE隊のサポートをお願いしたと思うんだけど、H隊という枠で取り巻き優先の攻撃部隊として動いてもらいたいんだ」

 

昨日の時点では、パーティーはA~G隊に別れ、A・B隊は壁役部隊、C・D・E隊は攻撃部隊、F・G隊は支援部隊という役割分担になっていた。

私達は4人しかいないこともあり隊として扱われておらず、ボスの残りHPに応じてPOPする《ルインコボルド・センチネル》を担当するE隊のサポートという役割だったはずなのだ。

今回の変更は私たちをH隊として扱うことで、ボス専門の攻撃部隊を増やしたいということなのだろう。

 

「4人のパーティーに《センチネル》を任せてしまっていいのかしら?」

 

確かにこの4人ならボスの取り巻きくらいなら抑えられると思う。

キリトの戦力は折り紙付きだし、アスナも知識はあまりないとはいえあの《リニアー》を見る限りかなり使えるだろう。

タクトは少し危なっかしいが、私がフォローすれば問題ない。

とはいえ、ディアベルが私たちの戦力を正確に把握しているとは考えにくい。

どういうことなのかと思いディアベルに問いかけると

 

「いや、君たちの腕なら大丈夫だろう。E隊にはボス専門になってもらう。《センチネル》は任せたよ」

 

なぜかタクトの方をチラリと見ると、爽やかな笑顔を浮かべるディアベル。

まるでこちらの腕を知っているかのような言動に私は眉をひそめたが

 

「おう、任せとけ! 雑魚は俺達が引き受けるから、ディアベルは安心してボスに専念してくれよ」

「ああ、頼んだよ」

 

タクトが張り切った声で答えると、拳を突き出した。

ディアベルは笑ってそれに自分の拳を合わせると、「じゃあ」と手を挙げて戻っていった。

 

「なんか……妙に仲良くなってない?」

「昨日ちょっとな」

 

私の言葉にタクトは笑うだけだ。

とりあえず分からないことは置いておくとして、隊となったからには決めておかなければいけないことがある。

 

「じゃあ、隊として動くに当たってのリーダーを決めないとね。私はタクトを推すわ」

「俺もタクトだ」

「私もタクトくんがいいと思う」

「みんな……そんなに俺のことを……」

 

私が提案すると、キリトとアスナが同時に賛成し、タクトが感激したかのように目をウルウルとさせる。

私達3人は顔を見合わせ、考えが一致していることを確認するとタクトに言った。

 

「「「だってH(エッチ)隊だし」」」

「そんなことだろうと思ったよチクショー!」

 

エロガッパの叫びが噴水広場に響き渡った。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

ディアベルの的確な指揮により、特に危機におちいることなく全員がフロアボスの部屋の前までたどりつく。

先頭を歩いていたディアベルは、扉の前までくると腰から剣を抜き放ち高々とかかげると、大きく一度頷いた。

私たちを含めた45人のレイドメンバーもそれぞれの武器をかざし、頷き返す。

 

「――――――行くぞ!」

 

ディアベルの短い叫び声と同時に、ボスへの扉が開かれた。

左右の幅はおよそ二十メートル、奥行きは百メートルほどの空間が広がり、奥は暗くて見通せない。

私が目をこらそうとすると、ボッという音と共に左右の松明に火が灯り、最奥の玉座に座る何者かのシルエットが浮かび上がる。

ディアベルが高く掲げた剣を前に振り下ろすと、46人からなる討伐部隊は、雄叫びを上げながら大部屋へと突撃した。

まず壁役のA隊とB隊が前に出る。B隊のリーダーは昨日皆をなだめたエギルだ。

その右を今回の総指揮をとるディアベル率いるC隊、同じく攻撃部隊のD隊、キバオウが率いるE隊が追う。

その後ろを支援部隊のF隊、G隊、そして遊撃役の私達H隊が並走する。

先頭のA隊と奥のシルエットまでの距離が20メートルを切ったとき

 

『グルルルラァァァァァァァァッ!』

 

猛然と玉座を蹴ったシルエットが地面を揺らしながら着地し、禍々しい声で吼えた。

青灰色の毛皮と二メートルを超える体躯、赤金色の隻眼が私たちを睨みつけている。

右手には骨製の大きな斧、左手には革製のバックラーをもち、腰の後ろには一メートル半はあるタルワールを差していた。

 

第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》

 

獣人の王は斧を高々と振り上げると、A隊に向かって力任せに叩きつけた。

A隊メンバーが分厚い盾を構えその一撃を受け止めたが、その一撃の強さを示すかのように強烈なライトエフェクトと轟音が響き渡る。

それが合図だったかのように、左右の高い所にあるいくつも空いた穴から取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》が3匹POPした。

 

「行くわよ!」

 

私の合図で4人が一番近くにいるセンチネルに向かってダッシュする。

今回のボス戦で《神聖剣》を使うことも考えたが、私はすぐにその考えを打ち消した。

確かにあの防御力はボス戦には心強いが、ペナルティが大きすぎるのだ。

レベルが上がったことにより、《神聖剣》を使っても敏捷値は0までは下がらない。

しかし、あの動きの遅さでは周りと連携がとれないし、スキルも今だに当たる気がしない。

攻撃部隊にいても連携がとれない、壁役部隊にいてもタゲを維持できないのだ。

これではただの硬いだけの邪魔なオブジェクトにしかならないと思った私は、片手剣でこのボス戦を乗り切ると決めていた。

 

「エル! 俺があいつのハルバードをなんとかするから後を頼む!」

「わかったわ! カウンターに気をつけなさいよ!」

 

前に出たタクトに向かって重武装のコボルド衛兵がハルバードを振り下ろす。

それが彼の下から振り上げられた両手剣とぶつかり合い。

《センチネル》のハルバードが上空へ跳ね上げられた。

 

「スイッチ!」

 

私は《センチネル》の前に飛び出す。

取り巻きとは言え迷宮区に出るコボルドより重装備であり、鎧の上から攻撃を入れても効果は低い。

 

「ハアァ!」

 

私はハルバードが跳ね上げられた体勢により、がら空きになっているむきだしの喉元に、ソードスキル《ホリゾンタル》を放つ。

わずかに残ったHPを鎧の隙間を狙った斬擊で消し飛ばすと、キリトとアスナの方を見る。

こちらも会って間もないとは思えない連携で1匹を倒したところだった。

一方G隊は6人がかりでまだ1匹を倒せていない。

 

「俺たち4人で3体やった方がよさそうだな」

「そうね。G隊には別パーティーのフォローに回ってもらいましょう」

 

タクトの提案に私はうなずく。

G隊もこちらの動きを見ていたようで、驚きながらも私たちの提案に同意してくれた。

ボス戦に加わるパーティーが増えたことで、討伐は思いのほか順調に進み始めた。

《コボルドロード》のHPは四本。

まずその一本目をディアベルのC隊が削り取り、続いてD隊が二本目を削り取った。

現在はF隊とG隊が三本目削っているところである。

 

「お前らアテが外れたやろ。ええ気味や」

 

後ろに下がっているE隊のキバオウがこちらに向かって笑った。

 

「昨日何をアピールしたか知らんが、裏目にでて、雑魚掃除押し付けられるとはのぉ。こりゃ傑作やで」

「《センチネル》をボスに近づけないのも立派な役割だと思うけど?」

 

私が反論するとキバオウはますます笑みを深くして

 

「白々しいこと言いなや。お前らそこのキリトと一緒になってボスのLA狙っとったんやろ?」

 

何のことかとキリトを見るが、キリトはうつむき何も言わない。

その時、F隊とG隊が三本目を削りきり、再び《センチネル》が3匹POPする。

 

「ハイエナテスターとその仲間共。せいぜい雑魚コボのLAでも漁るんやな。そこでわいらがボスのLAとるのを指をくわえて見てるとええわ」

 

最後の四本目の攻撃部隊は昨日の段階ではC隊だったが、私たちがH隊になったことでローテーションが変わり、キバオウのE隊が攻撃部隊をつとめることになっていた。

ボス攻撃のために戻っていくキバオウに「あいつともデュエルしてやるー!」とわけのわからないことを言っているタクトの首根っこをつかみ、《センチネル》に向き合おうとしたその時。

 

「なんだ? タルワールじゃ……ない?」

 

キリトの言葉に私はギクリとして振り返った。

《コボルドロード》はHPが最後の1本になったところで攻撃パターンが変化する。

左右に持っていた斧と盾を投げ捨て、腰の後ろの長い得物を引き抜いたところで私はキリトの言葉を理解した。

《コボルトロード》が引き抜いたのは前情報にあったタルワールではなく、未だプレイヤーでは誰も使ったことがないという『カタナ』だったのだ。

 

「ダメだ!下がれ!全力で後ろに跳べ――――――ッ!」

 

しかし、キリトの叫びは遅かった。

《コボルドロード》が地面を揺るがせ垂直に跳び上がり空中で体を捻ると、落下と同時に赤いライトエフェクトに包まれたカタナが三百六十度水平に振り抜かれた。

カタナ専用ソードスキル、重範囲攻撃《旋車》

今まさに攻撃を加えようとしていたE隊が全員スキルに巻き込まれ、HPがイエローゾーンまで削り取られる。

しかも、床に倒れている6人の頭上に黄色い光が取り巻いており、スタン状態になっていることを示していた。

技後の硬直から回復した《コボルドロード》の、両手に握ったカタナがライトエフェクトを帯び、床すれすれから高く斬り上げられる。

ソードスキル《浮舟》

狙われたのは、正面に倒れるキバオウだった。

《コボルドロード》の致命的な一撃がキバオウを襲うその刹那、後ろから飛び出していた人影がキバオウの前に躍り出た。

 

「ディアベルはん!」

 

キバオウをかばうように前にでたディアベルに《浮舟》が直撃する。

 

「ぐあああああああっ!」

 

代わりに《浮舟》をまともに食らったディアベルは高く宙に放り投げられた。

そこに《浮舟》のコンボスキルである《緋扇》が発動する。

目にも止まらぬ上下の連撃がディアベルを切り裂き、そこから一拍溜めての突きが彼のアバターを二十メートル近くも吹き飛ばした。

 

「ディアベル!!」

 

タクトの叫びは討伐部隊の恐怖と混乱の声にかき消された。




はい、あとがきです。
やられるのはキバオウかと思いきや、やっぱりディアベルでした。
話数は2ケタになりましたが、エピソードはまだ序盤の序盤です。
先は長いですがお付き合いくださいませ。
あと、関西弁は適当です。おかしなところがあったらご指摘ください。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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