ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第11話です
ディアベルというキャラは原作を見る限り本当に完璧です。リーダーシップがあって、性格もいい、そしてイケメン。
でも、こういうキャラって小説だと大体長生きできないんですよね。
リアルでは完璧な人間ほど重宝されるのに、小説だと真っ先に殺されたりします。
この小説ではどうなるでしょうか。
ご覧くださいませ。



星なき夜のアリア5

タクトside

 

「ディアベル!!」

 

《コボルドロード》のソードスキル《緋扇》を食らったディアベルは、後方にいた俺たちのところまで吹っ飛んできていた。そのHPゲージはすでに全体が真っ赤に染まり、右端から急速に減り始めている。

 俺はディアベルに駆け寄ると、祈るような気持ちでポーションを使用する。もしも、ディアベルが既に死に至るダメージを受けていればいくら薬を使おうとも手遅れだ。

 

「ディアベル! 死ぬな!」

「あ……」

 

何かを言いかけたディアベルのHPが0に――――――――――――なる数ドット手前でその減少を止めた。

 

「あ、危なかったよ……。君とのデュエルで同じコンボを食らってなかったら、対処できなかった」

 

《カタナ》のソードスキルはほとんど知られておらず、初見で対処するのは不可能だった。しかし、《コボルドロード》の《浮舟》から《緋扇》の軌道は、偶然にも俺がディアベルとのデュエルで放った《ホライゾン》から《トライスカーレット》の軌道にとてもよく似ていたのだ。結果ディアベルは吹き飛ばされながらも致命傷を避けていたのである。

 しかし、状況は最悪だった。前情報とは違うボスのソードスキル、壊滅状態のE隊、E隊の攻撃中に回復を行う予定だったB隊・D隊・F隊は動けない。A隊とサポートのG隊もそろそろスイッチしなければ持たないだろう。

 

「だめだ……もう逃げ……」

「うあああああああああああああ!」

「く、くるな! くるなぁ!」

 

討伐隊全体が恐怖と混乱に飲み込まれた。逃げようとする者、滅茶苦茶に武器を振り回す者、その場にへたりこんで動けない者、かろうじて踏みとどまっている者の心にも『撤退』の2文字が浮かんだその時。

大部屋全体にディアベルの大声が響き渡った。

 

「みんな、諦めるな! この一戦は俺たちだけのものじゃない。俺たちはこのSAOにいる全てのプレイヤーの意志を背負っているんだ。今こそ俺たちの勝利への意志を茅場晶彦に見せてやろうぜ!」

 

逃げようとする者が、武器を振り回す者が、へたりこんだ者がディアベルの声に我にかえった。

誰よりも強烈な攻撃を受けたディアベルの、それでも放った不屈の言葉が討伐隊の胸に再び勇気の火を灯す。

 

「E隊は下がって回復を、C隊は《センチネル》の駆除に回れ! B隊は8割回復したら前線の様子を見てすぐにスイッチだ。D隊は回復したらC隊のフォロー、F隊はB隊に動きを合わせろ!」

 

矢継ぎ早に指示を出すと、ディアベルは大きく息を吸い込んで叫んだ。

 

「さぁ、『血戦』だ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

雄叫びと共に討伐隊に以前にも増した士気がみなぎった。

 スタンから立ち直ったE隊が後退し、一番士気の上がっているC隊は《センチネル》に猛然と襲いかかる。気力を取り戻したA隊・G隊がHPをイエローにしながらも必死にボスを押し戻し始めた。B隊は回復を待ちながら体勢を整え、D隊・F隊も前線を見ながら時を待つ。

 ディアベルは俺の方に向き直ると

 

「H隊には、ボスの攻撃に回って欲しい。すぐに動けそうなのは君たちだけだ」

「了解だ。リーダー!」

 

俺はこの頼もしきリーダーに最大限の敬意を込めてうなずいた。

 ディアベルの声が聞こえていたのか、エルナディータ、キリト、アスナがボスに向かって走り出す。

 

「後ろまで囲むと《旋車》がくるわ。正面に私とタクト、左右にキリトとアスナで囲んで攻撃よ。手順は《センチネル》とそう変わらないわ。タクトと私で武器を跳ね上げて、残り3人で攻撃。いいわね?」

「「おう!」」「ええ!」

 

エルナディータから的確な指示が飛び3人がうなずく。

 他の隊も回復してはいるがポーションの回復速度は遅く、復帰には時間がかかっている。カタナを振り回しながら暴れ狂う《コボルドロード》の猛攻にA隊・G隊のHPはすでに2割になっていた。

 

「あとはH隊が引き受ける! 全員下がってくれ!」

 

俺の声に一様に盛大な安堵を顔に浮かべながらA隊・G隊が下がる。

 俺たちはすばやく展開し正面と左右に《コボルドロード》を取り囲んだ。《コボルドロード》は新たな獲物を見定めるかのように真っ赤な目を細めると、正面の俺に向かってカタナを振り下ろす。

 凄まじい速度で迫る切っ先だが、俺の目はその軌跡をはっきりと捉えていた。

 

「らあぁぁぁぁぁぁ!」

 

下段から放たれた《ホライゾン》が振り下ろされたカタナと激突する。盛大なライトエフェクトと轟音が鳴り響き、せめぎ合う刃の均衡を制したのは俺の両手剣だった。跳ね上げられたカタナと共にボスが二メートル以上後ずさる。

 待ち構えていた3人がそれぞれの武器にライトエフェクトをまとわせボスに打ちかかった。

 エルナディータの《シャープネイル》が、キリトの《ホリゾンタル》が、アスナの《リニアー》が次々と《コボルドロード》にヒットし、ボスのHPが目に見えて削り取られる。

 

「すごいな。カタナの軌道を完全に見切ってる」

「振りの遅い両手剣なのに、完璧にカタナに合わせてたわね」

 

キリトとアスナが左右で感嘆の声をあげる。

 エルナディータとスイッチしながらボスの猛攻を弾き、跳ね上げ、打ち返す。他の部隊もだいぶ回復してきており、もう2、3回ボスの攻撃を耐えれば援護が来るだろう。

 俺はエルナディータとスイッチし、緑色にのライトエフェクトを纏った凶刃を迎撃するべく剣を構えた。

 ―――――その時

 

(穴が……たか……が来る……)

「え?」

 

頭の中に声が響いた。これは、あの時ネペントの森でも聞こえたものだ。

 俺は今回もぶつ切れのその声を無意識に聞き取ろうとして

 

「タクト!!」

 

エルナディータの声に我に返った俺の体をボスのソードスキル《浮船》が真下から切り裂いた。

 

「ぐっ……!」

 

激しい衝撃と共に俺の体がカタナに引っ掛けられ宙に高く吹き飛ばされる。

 ボスの顔がニヤリと歪むと、連携された《緋扇》の体勢に入るのが見えた。ディアベルはかろうじて耐えることができたが、俺の防御力はディアベルより低い上に《浮船》をまともに食らってHPはイエローゾーンに入っている。例え防御したとしても放たれた《緋扇》は俺のHPを0まで削りきるだろう。

 死神の鎌が緋色のライトエフェクトを伴なって俺の命を刈り取ろうとしている。

 

「あきらめてたまるかッ!」

 

俺は空中で《緋扇》の軌道をそらせるべく空中で《ブレイバー》のモーションを起こす。両手剣が赤いライトエフェクトを放ち、跳ね上がってきた《コボルドロード》のカタナを真横から打った。

 しかし、パワーが足りない。足場のない空中で放った《ブレイバー》ではフロアボスの《緋扇》を押し返すだけの威力がでないのだ。

 目の前まで迫る「死」を実感したその瞬間。俺の脳裏にフラッシュバックのように浮かびあがるものがあった。

 走馬灯か、いや違う。空中に浮かぶ巨大な建造物、100層に分かれた内部には無数の街と迷宮が存在し、頂きに紅に光る宮殿が座する難攻不落の城。

 

(アイン……クラッド?)

『アバターの前提条件がクリアされました。《神魔剣》アクティベート……アバターにノイズが感知されました。緊急時によりソードスキル《リベリオン》強制発動』

 

引き伸ばされた感覚の中で頭の中に声が響いた時。俺の両手剣から漆黒のライトエフェクトがにじみ出るように湧き出した。

 とたんに体に異常な力がみなぎり俺の両手剣が《コボルドロード》のカタナを押し返し始める。一瞬のせめぎあいの後「死」をもたらすはずだった緋色は漆黒に食われた。

 盛大にカタナを弾かれた《コボルドロード》は床に叩きつけられ、手足をばたつかせる。人型モンスター特有のバットステータス《転倒》状態だ。

 俺は何とか着地したものの異常な脱力感にみまわれてひざをついた。HPを見ると、なぜがみるみるとバーが減少していっているではないか。毒のアイコンはでていない。どうしたらいいかわからず荒い息をついていると、剣を包む漆黒のライトエフェクトが消える、と同時にHPの減少が止まった。

 

「バカッ! 死んだかと思ったじゃない!」

 

消えない脱力感で立てない俺にエルナディータが駆け寄ってくる。

 

「ボス……は……いいのか?」

「転倒したところにB隊が復帰したから大丈夫よ。それより自分の心配しなさいよまったく……」

 

エルナディータの声が若干涙声に聞こえるのは気のせいだろうか。彼女は俺にポーションを使用すると目をゴシゴシとこすった。少し赤くなった目で俺に問いかける。

 

「それにしてもあの時のソードスキルは一体……」

 

言いかけたところでその言葉は大きな歓声にかき消された。

 俺とエルナディータは歓声のあったほうを振り向くと、キリトとアスナの《バーチカル・アーク》と《リニアー》がボスに叩き込まれ

 

《イルファング・ザ・コボルドロード》は無数のポリゴンになり爆散した。

 

一瞬の静寂の後、討伐隊は喚起の渦に包まれた。勝利に両手を振り上げる者、お互いの無事を喜び抱き合う者、健闘をたたえ合い握手する者それぞれだったが、全員がこの勝利の意味をかみ締めているのは間違いないだろう。

 ようやくプレイヤーは攻略の第1歩を踏み出したのだ。

 討伐隊の勝利の興奮が冷めやらぬ中、ディアベルが晴れやかな声で叫ぶ。

 

「みんな! 本当にありがとう! 今日の勝利はみんなの……」

「善人ぶってんじゃねぇぞ!! 裏切り者が!!」

 

場にそぐわない異常な怒りと憎しみが込められた言葉に、辺りが静まり返った。

 声をあげたのはC隊のシミター使いだった。ディアベルを指差しさらに叫ぶ。

 

「俺は昨日街の近くの森で聞いたんだ! あんたが元ベータテスターだってな!」

 

シミター使いの言葉に討伐隊がどよめいた。

 「そんな……」「うそだろ……」という声があちこちから上がり始める。俺はぎりと奥歯をかみしめた。あの時の話をあの男は盗み聞きしていたのだろう。

 キバオウが厳しい顔をしながらディアベルの前に進み出た。

 

「あいつの言ったことはデタラメやろ? そうなんやろ?」

 

そうであってほしいというキバオウの顔から目をそらし

 

「いや、本当だ。俺は元ベータテスターなんだ……」

 

消え入るような声でディアベルが告白すると、討伐隊に大きな動揺が走った。

俺は見ていられず、かばうようにディアベルの前に飛び出すと

 

「みんな待ってくれ! 元ベータテスターとか関係なくディアベルは立派にボスレイドのリーダーをつとめあげたじゃないか! 討伐隊が崩壊しかかった時のことを忘れたのか? キバオウだってディアベルにかばってもらっただろう?」

 

俺の声にキバオウはうつむき、討伐隊のどよめきが若干薄れる。しかし、シミター使いは俺を見てニヤリと笑うと

 

「みんなおかしいと思わなかったのか? 今日になってローテーションが変わったのを。昨日森でディアベルはそいつと親密そうに話していた。次の日にローテーションが変わり、その結果キバオウさんがあのタイミングでボスに攻撃をしかけて死にそうになった。これが示すものはなんだと思う?」

 

キバオウの顔がさっと青ざめる。

 

「そう、あんたオトリに使われたんだよキバオウさん。そいつは元ベータテスターのキリトと同じパーティーだ。大方ディアベルとH隊でグルになってあんたをオトリにし、ボスのLAをかすめとろうとしたんだろうさ」

「違う! ディアベルはあのときキバオウをかばったじゃないか!」

「ベータテスターならボスのスキルはご承知だろう? 死なない程度のダメージもらってのカモフラージュってところだろうさ」

 

俺の反論もシミター使いの言葉に跳ね返されてしまう。この男の声には不思議と聞き手を引き付けるものがあり、もはや討伐隊全体がシミター使いの言葉を信じかけていたその時。

 

「あっはっはっは! 俺をそこの素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

今まで静かだったキリトが突然笑い出した。

 

「そこの奴らはボスのカタナスキルなんて知らないぜ。あれは10層まで登らないと見られないからな。名ばかりのテスターが拝めるものじゃない。だが、俺は知ってたんだ。だからこの状況を利用させてもらった」

 

そう言うとキリトはこれが証拠と言わんばかりに、アイテムストレージから今回のLAドロップと思われる艶のある漆黒のコートをとりだすと、わざとらしく派手なモーションでそれを羽織った。

 

「ローテーションが変わったのは俺が提案したのさ。ボスを攻撃する隊を1枚増やせるってな。その時点で俺の中では今回のシナリオができてたんだ。カタナスキルを知らないボンクラリーダーはあっさり信じてくれたよ」

 

キリトはディアベルと俺をかばおうとしている。全て自分が企てたのだと言って、ありもしない罪をかぶる気なのだ。

 討伐隊の間で「そんなのチーターだろ」「ベータのチートだ」という声が上がり始め、それらが交じり合って「ビーター」という言葉が叫ばれ始める。

 

「《ビーター》か。いい響きだ。これからは名ばかりのテスターと一緒にしないでくれよ」

 

そう言うとキリトはボス部屋の奥に歩き始める。奥にある二層の転移門をアクティベートするのだろう。

アスナもキリトの後を追いかけて奥の扉に消えた。

 

「あの《ビーター》はああ言ったが、許されるとは思ってないよなぁディアベル?」

 

シミター使いの一言にディアベルの体がこわばる。

 

「LAのことはなしにしても、俺たちをずっと裏切ってたことに違いはない。あんたにはもうついて行けないよ。またいつあんなことが起きるか分からないからな」

「お前……いい加減に!」

「かばうってことはお前もベータテスターなんだろう? 何を言っても信じられるかよ」

 

俺はオレンジになるのも覚悟でシミター使いに掴みかかろうとして、後ろからディアベルに肩を掴まれた。

 

「タクト、ありがとう。もういいんだ、これ以上君が悪者になる必要はない」

「ディアベル……だけど……」

 

なおもシミター使いを睨み付ける俺に、ディアベルは寂しげな笑みを浮かべる。彼は討伐対の一人一人の顔をその目に焼き付けるように見回すと、大きく頭を下げた。

 

「みんな、今まで騙していてすまなかった。こんな俺についてきてくれてありがとう」

 

そう言うと大部屋の入り口に向かって歩き始めた。

 俺は拳を握り締めた。どうしてディアベルがこのような仕打ちを受けなければならないのか、彼は昨日LAへの暗い欲望を振り切り「死者を0人にするために全力をつくす」と誓ったのだ。

 それを自分の身を呈してまで立派に守ったではないか。今討伐隊が一人も欠けずにここにいるのはディアベルがリーダーだったからだ。それを分かっていない者はいないはずなのに、シミター使いの巧みな話術が、かばえば自分も同じ目で見られるという呪縛をかけていた。

 俺は動かない討伐隊を睨み付けるとディアベルを追いかけた。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「ディアベル!」

 

ボス部屋の扉を出たところで俺はディアベルに追いついた。ディアベルはこちらに向き直り困ったような顔をして

 

「いいのかい? 元ベータテスターの仲間だと思われてしまうぜ?」

「寂しいこと言うなよ……」

 

俺の後ろからエルナディータもついてきていた。彼女は頭を下げると

 

「何も言えなくてごめんなさい。私も……似たようなものだったから……」

「いや、いいんだ……」

 

ディアベルはここまでどれだけのことに耐えてきたのだろう。秘密をかかえながら、仲間の先頭に立ち、守り、戦いながらSAO史上初のボスレイドを立ち上げる。

 そこにどれほどの苦労があったのか俺にはわからない。しかし、その結果が彼にもたらしたのは高価なドロップでも栄誉でもなく、背中をあずけていた仲間からの拒絶のまなざしだったのだ。

 

「誰がなんと言おうとあんたは最高のリーダーだよ。俺が保証する」

「ええ、あなたのおかげで勝てたのよ。ありがとう」

 

ならばせめて俺たちが彼をたたえよう。俺はディアベルに向かって手を叩く、それを見たエルナディータも俺にならって手を叩き始めた。

 ディアベルは俺たちに向かって頭を下げると

 

「ありがとう。最高の花道だよ」

 

そう言って外へと歩き始める。その歩みは心なしか軽やかになっているように思えた。

 

(ディアベル、また戻ってこいよ。お前はもう一人じゃないんだから)

 

俺たちはディアベルの姿が見えなくなるまでずっと手を叩き続けた。

 




はい、あとがきです。
星なき夜のアリアはこれで完結となります。
ようやく《神魔剣》が出せました。11話もかかっちゃいましたね。展開が遅くてすみません。
ディアベルは生き残りましたね。彼がこの後どうなるかは、また書いていこうと思っています。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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