ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
さて、作者的にかなりギャンブル性の高い回になります。
突っ込みどころは多々あるかと思いますが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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フルダイブ型MMOFPG《ソードアートオンライン》が正式サービスを開始してから三ヶ月が過ぎた。
僕が今いるのはSAOを運営しているレクト主導で作られた《SAO事件対策室》の研究所の一室である。茅場晶彦によってSAOがまるごと乗っ取られ、1万人ものプレイヤーがゲーム内に囚われた。その1万人をゲームから救出するべくこの《対策室》は活動を行っている”表向きは”だ。
だが、僕にとってそんなことはどうでもいい。ゲームの中でどれだけ人が死んでいようが、生き残ったプレイヤーが何層まで突破しようが、僕の心には悲しみも感動も湧いては来なかった。
彼らは言わばモルモットだ。SAOというケージの中でうごめく実験動物にすぎない。モルモットの生死をいちいち気にする研究者など三流だろう。
だが、あのゲームに僕が考えていた以上の価値があることが分かった今、そこにあるアインクラッドはモルモットの牢獄ではない、至宝を抱く黄金の城だ。必ず手に入れてやる。そして――――――――――。
そこまで考えたところで部屋の電話が鳴る。考えを中断させられたことに舌打ちしながら僕は電話にでた。
『SAOにログインする方法が見つかったというのは本当かね!?』
相手はレクトCEOの結城彰三だった。余裕のない声でいきなり要件を切り出す辺り、連日のバッシングで相当追い詰められているようだ。哀れだな。
「ご心配なく、計画はもう実行段階にあります。必ず明日奈は僕が助け出しますよ」
『そうか、 流石だな! やはり君は私が見込んだ男だ』
「それではこの件は全て僕に任せていただけますか?」
『うむ、こんなことができるのは君しかいない。任せたぞ」
何も知らない無能経営者め、せいぜい僕の手のひらの上で踊るがいいさ。僕は電話を切ると、こらえられない笑いに肩を震わせた。
◆ ◆ ◆
三ヶ月前プレイヤーのログアウトが不可能になるのと同時にこちらからSAOへのログインもできなくなり、さらにはゲームの管理システムである《カーディナル》にもアクセス不能、SAOは外界から完全に隔絶した電脳空間になっていた。
いくらそこにあることが分かっていても、アインクラッドに入れないのではアレは手に入らない。しかし、ここで僕は一つの可能性を思いつく。
”プレイヤーを送り込めないならNPCはどうだろうか”
最大の障害は新たなIDがまったくSAOに受け付けられないことなのだ。ならばIDのないNPCを偽装し、アインクラッドに紛れ込ませる。問題は”何を”NPCに偽装し、”どうやって”アインクラッドに侵入させるかだ。
アインクラッドに侵入する糸口はほどなく見つかる。僕が目をつけたのはSAOに実装されている10種の《ユニークスキル》だった。《カーディナル》が自身で選ぶ《ユニークスキル》取得者は言わばシステムに”特別視”されている存在ということになる。ならば偽造NPCに《ユニークスキル》に選ばれる因子を付加し、送り込めば《カーディナル》が受け入れる可能性はある。
次の問題は何を偽造NPCにするかだ。まず、プログラムした偽造NPCを試すがどのようなパターンをつくっても《ユニークスキル》と引き合わなかった。かといってナーヴギアをかぶった人間ではどうしても電気信号に表れる”人間臭さ”に《カーディナル》が反応してしまい、NPCに偽造することすらできない。
またもや壁にぶつかった僕のところに、政府から《SAO事件対策室》に派遣されている菊岡誠二郎が訪ねてきた。
『面白いことを考えてるそうじゃないか。その手助けができないかと思ってね』
菊岡はそう言うと僕に人の魂の形ともいえる《フラクトライト》の話を始める。
量子脳理論に基づいて菊岡たちが観測に成功したもので、人間の脳内に存在する光子の集合体。菊岡は人の魂に形を与えることに成功したわけだ。
『独自に調査した結果ナーヴギアにはフラクトライトを感知する機能があることがわかった。茅場晶彦は天才的な量子物理学者でもあったからね。フラクトライトの存在にも気がついていたのかもしれない』
『自分達が秘密裏に行っていた研究成果をわざわざ僕に提供する理由はなんだ?』
『こちらも研究が行き詰まっているところでね。少し違った切り口が欲しかったところなんだ』
菊岡の提案は人間の代わりにコピーしたフラクトライトを用いて偽造NPCを作成するというものだった。ナーヴギアがフラクトライトを感知するのなら、《カーディナル》はフラクトライトを視て《ユニークスキル》取得者を選んでいる可能性が高い。試してみる価値はあるか。
次の日から「適格者」探しが始まった。「SAO事件解決のため」という旗印のもとに続々とコピーされたフラクトライトが集められ、連日《ユニークスキル》との共鳴実験が行われた。
実験の結果、高い共鳴値を示した6つのフラクトライトが選ばれ、一辺5センチほどのプラセオジミウム結晶体で構成された《ライトキューブ》に封じられている。個々の輝きを放射状に放つ6つの《ライトキューブ》を見た菊岡は、その安定した輝きに目を見開いた。
『驚いたな。フルコピーしたフラクトライトは自己を保つことができずにすぐ消滅するものなんだが、どういう魔法を使ったんだい?』
『フン、これだから凡人は困る。自己が保てないなら、保つことができる自己を”与えてやれば”いいだけのことさ』
フルコピーしたフラクトライトは自身がコピーだと気づいた時点で崩壊、消滅してしまう。しかし、この問題はフラクトライトを偽造NPC化する過程で解決する。ロジックはこうだ。
偽造NPC化するためには自身がアインクラッドの住人だと認識させなければならない。しかし、ここで記憶を消すというのは愚の骨頂だ。フラクトライトの形が変わり共鳴値が下がる危険があるし、やりすぎれば廃人になってしまう。そこで僕が行ったのは
”記憶の舞台を全てアインクラッド内にすり替える”
というものだった。フラクトライトの記憶の内容をそのままに、その記憶は”全てアインクラッドの中でのもの”だと思い込ませるのだ。ある程度の記憶をすり替えれば、矛盾を修正するために残りの記憶も勝手に自身で改ざんしてくれる。
次に新しい名前を与えて、いくつかの指令と遵守事項をすり込む。改ざんされた記憶と偽りの名前、加えて自身を縛る使命を得てコピーされたフラクトライトは自身を唯一だと”誤認”するのである。
『なるほど、君の研究分野とSAOという世界があってこそできる離れ業というわけか』
政府から派遣されているだけあって、こちらの情報もある程度持っているということか。
笑う菊岡に油断のならないものを感じながら僕は眼鏡を押し上げた。
◆ ◆ ◆
こうして僕の目の前では6つのフラクトライトが無数の計器に接続されながらSAOへと解き放たれるのを待っている。
僕は受話器を取り、今回のオペレーションの要である「彼女」に電話をかけた。数回のコールの後「はい」と女性の声が受話器ごしに聞こえる。
「こちらの準備は整ったよ。そちらはどうかな? 今更怖気づいたりはしていないだろうねぇ」
『今更私が何を怖がるというの? くだらないことは聞かないで』
電話の女の声はかすれひび割れており、言葉には深い悲しみと絶望がにじんでいる。その響きを心地よく感じながら僕は彼女に語りかける。
「アインクラッド内にすでにIDがある君は、このオペレーションで唯一人間としてSAO内に入ることができる存在だ。向こうでのフラクトライトの調整は任せたよ」
『分かっているわ。そちらも約束は守ってもらうわよ』
「いいだろう。10分後に始めよう。向こうで『彼』に会えるといいねぇ」
『…………』
短い沈黙の後電話はブツリと切れた。電話ごしの彼女の表情を想像し、暗い喜びに浸りながら僕は6つのフラクトライトに向き直る。
さぁ、いよいよだ、茅場明彦。僕からすべてを奪ったあんたから、今度はすべてを奪ってやる。
ここに並んだフラクトライト達は表向きには「SAO内のプレイヤーの救出」という名目でアインクラッドに送り込まれるが、もちろん僕はそんなくだらない指令はすり込んでいない。
このフラクトライト達はアインクラッドにある「宝」を奪い取るための駒だ。何も知らない内部のモルモット共が間違っても「宝」を手にしないよう最凶最悪の敵としてプレイヤーの前に立ちはだかるだろう。
「さぁ、紅の宮殿を守る《クリムゾンナイツ》の出陣と行こうじゃないか!」
必ず手に入れてみせる。アインクラッドに眠る《世界の種子(ザ・シード)》を。
僕の手から放たれた6つのフラクトライトを《カーディナル》が受け入れ、アインクラッドへと導く。
それを確認した僕――――――――――須郷伸之は狂喜の笑顔でそれを見送った。
はい、あとがきです。
やってしまったパート2です。
今までとの雰囲気の落差にドン引きの方もいるかもしれませんが
見捨てずに続きを読んでくださると嬉しいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。