ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
今回から文章を3人称にしてみました。
特に分かりにくくなければこのまま3人称で続けていこうと思います。
その場合ここまでの話も3人称で書き直したほうがいいのかな。
紅の来訪者
《ソードアートオンライン》が茅場晶彦によってデスゲームと化してから3ヶ月が過ぎた。
2ヶ月前第一層をクリアしたプレイヤー達は勢いに乗り、10日後には第二層の突破を果たす。第一層をクリアするのに1ヶ月もかかったというのに、3ヶ月たった今プレイヤー達は第十層にたどり着いていた。
「そろそろお昼かしらね。何を食べましょうか」
エルナディータは、そろそろ真上にきている太陽の光に目を細めながらとなりを歩く少年に話しかけた。
日の光を全く反射させない短い黒髪の少年タクトはうつろな目で一言。
「ご飯と味噌汁が食べたい……」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど……」
苦笑しながらエルナディータはまわりの景色を眺める。タクトがここまで和食に飢えているのには理由があった。
第十層の主街区《マホロバ》はここまでの西洋風の街並みとは違い、木造瓦屋根の長屋が立ちならび、江戸時代の日本を思わせる雰囲気をかもしだしている街だった。
この階層が開かれた当初、日本人が大半を占めるプレイヤー達はこの和風な街並みに触発され、故郷の味を堪能しようとNPCレストランに続々と駆け込んだ。
しかし、そこで出てきたのはこれまでと変わりないパンとスープだったのだ。江戸時代の町並みを見ながら食べるパンとスープは和食への憧れを加速させ、多くの料理スキル持ちが和食を再現しようと奮闘した。だが、使える食材が極端に少なく、高いスキルを要求される和食は再現が難しい。
このタクトも例外ではなく、狂気ともよべる情熱を発揮しながら試行錯誤を繰り返したが、未だに和食の再現には到っていなかった。
日に日に和食への欲望が積もっていき、周囲に虫型モンスターが出現する宿に泊まった時、タクトの中で何かがキレた。
次の日の朝エルナディータが目を覚ますと、食卓にはどんぶりに小さく真っ白な虫の卵を山盛りにし、緑色に濁った汁を前に「いただきます」と手を合わせているタクトの姿があった。その瞬間彼女のソードスキル《ちゃぶ台返し》が発動したのは言うまでもあるまい。ちなみに今は大根(のようなもの)を塩漬けにした「たくあんもどき」でしのいでいるタクトである。
「そんなことあったっけ?」
「また覚えてないし……。さすがにアレを食べていたら絶交だったわよ。この爬虫類」
「せめて人間扱いして!?」
「料理スキルあげないとな……」と落ち込んでいるタクトを見てエルナディータは笑ったが、「スキル」という言葉に聞きたかったことを思い出し、彼に尋ねた。
「タクト、”あのスキル”のこと少しは分かった?」
「《神魔剣》のことか? 威力はすごいんだけどやたら疲れるし、使ってる間はHPが持続的に減るみたいだ。使い方を間違うとこっちが死にそうだよ」
第一層でタクトが使用した漆黒のライトエフェクトのソードスキルが気になったエルナディータは、迷宮区から帰還した後すぐにスキル欄を確かめさせた。そこに今までなかった《神魔剣》というスキル名を見た時、言い知れない不安がエルナディータの胸を占めた。
あのタイミングで習得したということはこの《神魔剣》は《ユニークスキル》なのだろう。しかしエルナディータが知る10種の《ユニークスキル》の中に《神魔剣》というスキルはなかったのだ。
HPが0になれば本当の死が訪れるこのSAOで、HPの持続的減少というペナルティは考えられる限り最悪のものだ。体感する疲労もおまけについているとなれば、もうメリットとデメリットどちらが大きいのかわからない。
あの漆黒のライトエフェクト、まるで相手よりも使用者を痛めつけるかのようなペナルティ、エルナディータはこのスキルからある種の”禍々しさ”を感じずにはいられなかった。
「タクト、《神魔剣》はあまり使わないほうがいいと思うわ。べ、別にあなたの体を心配してるわけじゃないんだからね、パートナーに倒れられたら私の身も危ないんだから―――――――――」
そこまで言ったところでエルナディータはとなりにいたはずのタクトが消えていることに気がついた。辺りを見回すと、少し離れた道端で、タクトが小さな女の子に必死な様子で話しかけている。
彼女のこめかみがピクッとひくついた。
(いや、落ち着くのよエルナディータ、あのタクトにナンパを実行するだけの甲斐性があるとは思えないわ。冷静になるのよ。)
彼女は少し離れたところからタクトと少女の会話に聞き耳を立てた。
「少しだけでいいから―――――――――」
「そんなこと言われても―――――――――」
「じゃあ、せめて舐めるだけでも―――――――――」
「こ、困るよぉ―――――――――」
(…………オーケー、タクト。有罪ってことでいいわね?)
エルナディータは迷いのない動作で腰の片手剣を引き抜くと、音もなくタクトの背後へと接近する。
「わかった! 5000コル出そう! どう――――――だあべぼぶへぶあ!?」
エルナディータの言葉にならない怒りにブーストされた斬擊が次々とヒットし、衝撃でその場に崩れ落ちるタクト。それを踏みつけながら、彼女はまさに貞操の危機にあった少女にニッコリと笑いかける。
「もう大丈夫よ。このワイセツ爬虫類は私が後で燃やしておくから安心して」
「アハハ! お姉さん達面白いね!」
しつこいナンパに怯えていたにしては、元気な反応が帰ってきたことを不思議に思い、エルナディータは目の前の少女を見つめた。
歳はタクトよりも下だろうか、長い黒髪と大きな紫の瞳が楽しそうに2人を見ている。小柄な体はゆったりとした黒い布防具で覆われ、ところどころを紅の革紐で結ばれていた。その全身からこれでもかというほど活発的な雰囲気が放たれている。
「そこのお兄さんの頭から足をどけてあげて。ボク別に変なことされてたわけじゃないからさ」
少女はエルナディータを見てニパッと笑うと、次にタクトを見ながら困ったよう言った。その無邪気な笑顔に毒気を抜かれてしまった彼女は、言われた通りにタクトの頭から足をどかす。彼はガバッと起き上がると
「いきなり何するんだエル! 圏外だったら死んでたぞ今の!」
「こんなかわいい子に『少しだけでいいから』とか、『舐めるだけでも』とか言いながら、お金をチラつかせてどこかへ連れ込もうとするような奴には妥当な対応だったと思うわよ?」
それを聞いたタクトは潔白を証明するために自身の言動の理由を説明した。
「誤解だ! 俺はコレの材料をどこで手に入れたか ”少しだけでいいから” 教えてくれと頼んで、それがダメならコレの味を少しでも堪能するため ”せめて舐めるだけでも” させてくれと懇願し、それでもダメなら ”5000コル出す” からコレを丸ごと売ってくれと土下座をしようとしていただけだ!」
なんだか十分変なことをしていた気はするのだが、エルナディータは少女の笑顔に免じてそこには触れないようにする。
懸命に弁解するタクトが『コレ』と指差していたのは、少女が持っていた《おにぎり》だった。確かにこれにはタクトが目の色を変えるのも分かる。和食というにはあまりにも簡単な料理だが、この料理には《米》が使われているのだ。この材料の出どころが分かれば和食の再現は大幅に進むだろう。
なおも頼み込もうとするタクトに少女は形のいい眉を八の字にすると食べかけの《おにぎり》を見せながら
「ごめんね。これは姉ちゃんが作ったものなの。ボクも詳しいことはわからないや。売ってあげたいけど食べかけだし、悪いでしょ?」
と困ったように少女が言うと、タクトは「それでもいい!」と口走ってエルナディータに叩かれた。
それを見た少女はまた「アハハ」と楽しそうに笑う。とそこで彼女の目が何かに引っ張られるように左上に動いた。これは左上のメールアイコンを確認する動作だ。
「呼ばれちゃった。そろそろ行かないと怒られちゃう」
少女はそう言うと迷宮区の方角へ走り出そうとして、何かを思い出したかのように立ち止まる。
クルリとこちらを向くと少女はあの無邪気な笑顔で言った。
「ボクはユウリ! また会えるといいね。お兄さん、お姉さん!」
ユウリと名乗った少女はタクトとエルナディータに手を振りながら今度こそ2人から離れていく。2人は手を振り返しながらユウリを見送ると顔を見合わせた。
「元気な娘だったわね」
「また、会えるといいな」
「ああ、ここで会えて何よりダ」
ユウリの後ろ姿に見入っていた2人は、突然後ろからかけられた声に振り向いた。
そこにはいつものフード姿に顔の猫ヒゲペイント、《情報屋》アルゴが立っていた。しかし、アルゴの顔にはいつもの飄々とした雰囲気はなく、先ほどまでいたユウリとは対称的な厳しい表情を浮かべている。
「お前さん達を探してたんダ。一緒に迷宮区まで来てくれないカ」
◆ ◆ ◆
「ボス部屋に辿りつけない?」
迷宮区を走りながらタクトはアルゴに問いかけた。
第十層のマッピングはほとんど終わっており、近いうちにボス討伐が行われる予定になっている。
アルゴはうなずくと難しい顔で答えた。
「ああ、あんなのはオレっちも初めて見タ。だから2人、特にエルっちにあれを見てもらいたくてナ」
「私? どういうことなのアルゴ」
エルナディータが聞くと、アルゴは前を指差しながら言った。
「もうすぐ着くかラ、見てもらったほうが早いナ。ほら、あれだヨ」
3人は少し広めの部屋にたどりつく。ボス部屋の手前のようで奥に大きな扉が見えた。そこまではこれまでの迷宮区と違ったところはない。しかし
「なんだ……これ……」
部屋の手前と奥が深い穴によって完全に断絶していた。向こう岸までは10メートルほどもあり、とてもじゃないが飛び越せそうではない。部屋の手前では攻略組のパーティーが何組か立ち往生していた。
タクトはあまりのことに呆然としたが、よく見ると中央に迷宮の殺風景な雰囲気に似合わない欄干のついた紅色の橋がかかっているのが見える。
「なんだ。立派な橋がかかってるじゃないか。あそこを渡ればいいだろ?」
「そうなんだがナ。まァ、見てナ」
アルゴの答えにタクトとエルナディータは橋に目を向けた。
3人の視線の先で手前にいた攻略組パーティーの1組が、橋に向かって走り出した。フルメンバー7人はなぜか鎧の類を全て外している。最前線で戦うパーティーだけあって鎧を外した7人の速度はかなり速く、あっという間に橋を渡り終えるかに思われた。
パーティーの先頭のメンバーが橋に足を踏み入れたその時。
橋の中央に、紅のフードを被った人影が虚空からにじみ出るように現れた。パーティーはそれを承知していたようで、固まった状態からパッと広がると走る速度を上げて人影の横を通り過ぎようとする。
人影の右手が動いた。と思った時にはもう7人全員が橋の外へ吹き飛ばされていた。悲鳴をあげながら深い穴の底へ落ちていく。タクトは穴に落ちたパーティーを見ながら
「お、おい、大丈夫なのか!? まさか死……」
「心配するナ。《マホロバ》に戻されるだけなのは確認してル」
アルゴはそう言うと橋を指差して
「あの橋を通ろうとすると必ずあのフードが現れテ、ああやって《マホロバ》に戻しちまうんダ。攻略組フルパーティーが3組で倒そうとしても結果は同じだっタ。さっきみたいに速度にまかせて通り抜けようとしてもあの通りダ」
「そう……。確かにこういうのは初めて見たわね」
エルナディータは人影をフォーカスし、そのカーソルの色を確かめて考え込んだ。
圏外であれだけの大立ち回りをしているというのに、カーソルはオレンジになっていない。出現の仕方とカーソルの色から考えてもあの人影はNPCだと考えるのが妥当だろう。
ならばこれはアイコンは出ていないが《クエスト》と考えることができる。今まで挑んだパーティーが問答無用で街に戻されたのは、クエストの前提条件が満たされていなかったからではないか。
そう考えたエルナディータは一つの可能性を思いつき、メニューウィンドウを操作すると橋に向かって歩き出した。
「……? エル?」
エルナディータがメニューウィンドウで行った操作に気がついたのか、タクトが不思議そうな目で彼女を見る。タクトはエルナディータに続こうと足を踏み出しかけたが手で制された。
そのままエルナディータは一人で橋まで歩く。エルナディータに気がついた攻略組が道を開けたが、彼女が一人であることを見ると、一同が目を見開いた。
「おいおい、一人かよ」「無茶だぜ」という声を無視し、エルナディータは橋の手前まで歩を進めた。先ほどの人影は今は消えている。
エルナディータは大きく一つ息をつくと、橋に一歩踏み出した。その瞬間橋の中央の空間が大きく歪み、紅のフードを纏った人影が姿を現す。とそこで
「ようやく尋常に勝負する気になったのかしら」
人影が初めて口を開いた。その高く澄んだ声が人影が女だということを示している。
エルナディータは自分の考えが正解だったことを確信した。
「エルナディータよ。あなたに勝負を申し込むわ」
「ならば、その礼には応じなければなりませんね」
人影はうなずくとと自身を覆っている紅のフードを掴み、バサリと脱ぎさった。その下から小柄な少女が姿を現す。
少女はその瞳でエルナディータを真っ直ぐ射抜くと、堂々と名乗りをあげた。
「《クリムゾンナイツ》が一人《抜刀術》のコノハ! いざ尋常に勝負!」
はい、あとがきです。
初めて書いた3人称でしたが大丈夫だったでしょうか。
何度も「私」とか「俺」とか書きそうになってしまいました。
題名に関しては原作を絡める場合は原作の題名(ちょっと変えるかもしれませんが)
オリジナルの場合は考えた題名にしようと思っています。
原作で設定は固まっているとはいえ、話を一から考えるって難しいですね。
なんとかがんばって書いていこうと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。