ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第14話です。

少し時間がかかってしまいました。
戦闘描写って本当に難しい。うまく伝わっているといいのですが


《抜刀術》のコノハ

「《クリムゾンナイツ》が一人《抜刀術》のコノハ! いざ尋常に勝負!」

 

その時エルナディータの視界の左上に、システムの警告音と共に赤い『!』のアイコンが出現した。

 

(やっぱり、そういうことか)

 

エルンディータは自分の考えが正しかったことを再度確認する。

 やはりこれは《クエスト》だったのだ。今までここを通ろうとしたプレイヤーは ”複数でパーティーを組んで” この橋を渡ろうとしていた。だから問答無用で街に戻されたのである。

 そのことに気がついたエルナディータはタクトとのパーティーを一時的に解散し、一人でこの橋に来たのだ。結果NPCの反応が変わり、《クエスト》が進んだというわけだ。この《クエスト》の前提条件は『パーティーを組まず一人で挑む』ことだったのだろう。

エルナディータは、紅のフードを脱ぎ去りコノハと名乗った少女のNPCを見つめた。

 白い道着に同じく白い袴、その上から若草色の羽織をかけている。服装は純和風だが、その風貌は金髪をポニーテールにまとめ、瞳はエメラルドのような緑色という妖精のような顔立ちをしていた。

 コノハはエルナディータをそのエメラルドの瞳で見据えると、腰から ”片手剣を引き抜いた”。

 エルナディータの眉がひそめられる。

 

「私の聞き違いかしら。あなたは『尋常に』勝負と言ったと思うのだけれど」

 

彼女は『《抜刀術》のコノハ』と名乗った。その名はともかくそのスキル名はエルナディータにとって馴染みのものだった。それは10種ある《ユニークスキル》のひとつ、数あるソードスキルの頂点の一角だ。

 なぜNPCが《抜刀術》を使うのかは今はおいて置くとして、問題はコノハが ”片手剣” を ”引き抜いた” ことだ。《抜刀術》の威力と速度を存分に発揮できる武器は《カタナ》のはずである。そして《抜刀術》とは当然『鞘』に納めた状態から発動させるスキルなのだ。

 つまりコノハの取った行動はこのどちらもを放棄するものだった。そして、この剣士はそれを ”わかっていて” やっているだとエルナディータは察していた。

 『尋常に勝負』という言葉とは裏腹なコノハの行動に、エルナディータは聞かずにはいられなかったのだが、それを聞いたコノハは

 

「いえ、あなたとはこれぐらいでないと『尋常に』勝負ができませんから」

 

と悪びれもなく言ってのけた。顔立ちは幼いが真面目そうな顔からは、相手を馬鹿にしているような気配は感じられない。純粋にエルナディータの強さを見極めた上で言っているのだ。

 エルナディータの瞳に闘志の炎が燃え上がった。ここまでされて黙っていられるほど彼女は大人ではない。

 

「負けた時の言い訳にはしないでよね」

「ご心配なく。勝ち名乗りしか考えてはおりませんので」

 

エルナディータは勢いよく片手剣を抜き放つ。彼女もここまで最前線で戦ってきた攻略組の一人だ。片手剣のソードスキルを使うモンスターにも、一度だって遅れをとったことはない。システムが動かしているNPCならば、同じくシステムが動かすモンスターの攻略方法がそのまま通用するはずだ。

 エルナディータは一息でコノハとの間合いを詰めると、左に回り込んで突きを放った。コノハは中段に構えた剣でそれをはじく、彼女はさらに左右にステップしながら高速で突きを放ち続ける。

 敏捷値重視のエルナディータの突きは彼女自身の運動能力と合わさって、かなりの速度になっている。しかも突きはその軌跡を『点』で捕らえなければならないため防御が難しいのだ。そこらのプレイヤーならばこれで勝負がつく。

 しかし、コノハはその全てを剣ではじいてみせた。剣をはじかれ体勢を崩したエルナディータの胴に、コノハの横薙の一撃が放たれる。

 コノハの剣がエルナディータを捕らえるその刹那、彼女の姿がコノハの視界から消えた。

 エルナディータの体がすばやく沈み込みながら、コノハの剣の軌道から逃れる。連動した動きから起こされたソードスキル《ホリゾンタル》のライトエフェクトが、エルナディータの片手剣を包む。

 エルナディータはわざと左右の刺突を繰り返してAIを慣れさせ、反撃されたタイミングで全く動きの種類が違う下段からの斬撃を行い、AIの判断を狂わせたのだ。相手がNPCならば、AIのアルゴリズムの隙間を狙ったこの攻撃をかわせるはずがない。

 

(もらった―――――――……!?)

 

エルナディータの狙い通りに《ホリゾンタル》がコノハに直撃すると思われたその時

 コノハの剣が横薙ぎから突如その軌道を変え、エルナディータに向かって振り下ろされる。自分を追いかけるように軌道を変えたコノハの剣に、エルナディータはわざと体勢を崩しながらソードスキルを中断、そのまま橋の上をゴロゴロと転がりながらコノハと距離をとった。

 

「狙いはよかったですが、その程度の揺さぶりでは私に攻撃を当てることはできませんよ」

 

体を起こすエルナディータの心に冷たい戦慄が走った。今の攻撃をNPCがかわすどころか先読みするなどありえないことだ。

 敏捷値が極限まで高いNPCがプレイヤーの動きに反応して攻撃を変化させるのとはワケが違う。先ほどの一撃は相手の心理を読み、戦術を予測して放たれたものだった。そんなNPCが存在するだろうか。

 

(とりあえず、今は考えてる時じゃないわね……)

 

エルナディータは戦術をプレイヤー相手のものに切り替える。それもとびきり腕の立つプレイヤー相手のものにだ。コノハは相変わらず片手剣を抜いたまま、剣道で言う中段の構えでエルナディータを見つめている。

 エルナディータは再び距離を詰めるとコノハに猛然と打ち掛かった。

 上段、下段、袈裟切り、突き、高速で次々と襲いくる攻撃をコノハは涼しい顔で全て叩き落とす。エルナディータの顔に焦りが見え始めた。しかし、彼女は攻撃の手をゆるめない。普段の舞うようなステップは見る影もなく、足を止めてひたすらに片手剣を振るい続ける。その攻撃を全て防ぎながらコノハは溜息をついた。

 

「万策尽きましたか? では、終わりにしましょう」

 

コノハの剣がエルナディータの剣を下から絡めとり跳ね上げた。無防備になった彼女の首筋目掛けてコノハの剣が滑り落ちる。

 ニヤリと笑ったのは―――――――エルナディータだった。

 先ほどまでの粗い動きが嘘のような軽やかさでフワリと横に飛んでコノハの剣をかわすと、橋の欄干の上に飛び乗る。さらにそこから飛び上がるとコノハの頭上をとった。

 

「セアァ!」

 

動きと表情で ”作られた” 隙に誘い込まれたコノハに、上空からエルナディータのソードスキル《バーチカル》が放たれる。

 落下速度にブーストされたソードスキルの刃が迫る中、コノハはエルナディータのいる頭上を見ることもせずに直立し、動かない。ならばこのまま勝負を決めようとエルナディータが剣に力を込めた時、彼女は ”それ” に気がついた。

 

(あ―――――――)

 

コノハの片手剣が鞘に納まっていた。左手が鞘を掴み、右手が剣に添えられる。

 エルナディータに見えたのはそこまでだった。

 

「《一心》」

 

上空に向かって走った一条の光が、叩き込もうとしていた《バーチカル》ごとエルナディータを吹き飛ばした。

 

「あぐっ!」

 

橋の上に落下したのは幸運だったが、エルナディータは全身を貫く衝撃にすぐに体を起こせない。

 ぶれる視界の左上を見るとHPが6割も削られていた。

 

「いい攻撃でした。《抜刀術》を使わされるとは思いませんでしたよ」

 

相変わらず内容の割にはまったく悪気の感じられないセリフをコノハは口にした。

 その実力を知った今では、怒りも湧いてこない。圧倒的な強さだった。片手剣の《抜刀術》があの威力なら、カタナで撃ったらどうなってしまうのだろうか。

 先ほどの一撃は今のエルナディータにできる最高の攻撃だった。あれが防がれ、なおかつ返されるのならもう彼女には打つ手がない。

 

「エル! 大丈夫か!?」

 

橋の一歩手前まで近づいていたタクトがエルナディータに向かって叫んだ。

 いつのまにか橋の手前には多くの攻略組が集まっており、エルナディータとコノハの勝負を見守っている。

 不安に顔を曇らせながらエルナディータを見つめるタクトに、彼女は一つうなずいた。

 

(そんな顔するんじゃないわよ……)

 

正直に言えばエルナディータにはあと一つ試す手がある。手に入れた経緯のため、あまり人には見られたくなかったのだが、ここでやられるよりはマシだ。

 エルナディータは立ち上がるとなぜか追撃してこないコノハに向かって言った。

 

「今から最後の悪あがきをするわ。少し時間がかかるんだけど、そこで待っていてもらえるかしら」

「かまいませんよ。でも、もし逃げるのでしたら容赦なく切り捨てます。いいですね?」

 

コノハは剣を鞘に納めると、そのまま動かなくなる。

 普通NPC相手にこのようなことを言っても聞いてくれるはずがないのだが、エルナディータはNPCのこの答えを疑わなかった。剣を交えたからわかるというのだろうか。コノハの剣からはとても清らかなものが伝わってくる。彼女が「待つ」と言うならこちらの準備が終わるまで彼女は動かないだろう。

 エルナディータはネペントの森以来使っていなかった ”奥の手” を発動させる。

 

「《神聖剣》アクティベート!」

 

光の輪が足元に出現し、《装備神聖化》を行うべくゆっくりと上昇し始めた。完全に神聖化が終わるまで少なくとも10秒はかかるため、戦闘中に《装備神聖化》を行うのはまず不可能だ。ペナルティで敏捷値が大幅に下がるため、常にアクティベートしておくわけにもいかない。

 敏捷値の下がった状態でどこまでコノハに対抗できるかは分からないが、エルナディータにはもうこれ以外に試せる手がなかった。神聖化が終わり、重くなる体を支えようと足に力を込める

 

『《クリムゾンクエスト》の進行中です。上位者の権限によりペナルティが一時的に解除されました』

 

しかし、以前《神聖剣》を使った時のような体が重くなる感覚は訪れなかった。エルナディータは改めて視界の左上でクルクルと回っている赤い『!』アイコンに目を向ける。

 普通クエストのアイコンは黄色だ。目の前のNPCの特殊性を見ても、このクエストは普通のものではないと判断できる。そしてどうやらこのクエストの進行中は、『上位者』とやらの思惑によりペナルティが解除されるようだ。誰かの思惑の上で踊っているようで気に入らないが、今のこの状況は彼女にとってはありがたい。

 エルナディータはアイテムストレージから盾をとりだすと、それも神聖化する。ペナルティのある状態では装備するとさらに動きが遅くなってしまうため使えなかったのだが、ないのなら使わない手はない。

 

「待たせたわね。それじゃあはじめるわ」

「お気遣い無く。こちらも珍しいものが見られましたから」

 

エルナディータの言葉にコノハは答えると、剣を納めた鞘を左手で掴み、右手を柄にそえる《抜刀術》の構えをとる。そこから放たれる濃密な殺気は本当にNPCとは思えない生々しさを感じさせた。

 神聖化により白銀に変化した装備に身を包んだエルナディータは、その殺気を受け止めながら剣と盾を構える。防御に大幅なボーナスのついた剣と盾が揃い、ペナルティもない。今のエルナディータは考える限り最高の状態にある。

 多くの攻略組が息を飲んで見守るなか、両者の緊張感が最大まで高まり、

 

「ふっ!」

 

エルナディータがコノハに向かって地を蹴った。両者の距離がみるみる縮まり、エルナディータがコノハの ”間合い” に入ったとき。

 

「《一心》」

 

コノハの《抜刀術》が放たれた。殺意をまとった一条の光がエルナディータの体を切り裂こうと迫る。

 エルナディータは構えた盾でそれを受け止めた。盛大なライトエフェクトと金属同士がぶつかり合うかん高い音が迷宮に響く。先ほどエルナディータのHPを6割削り取ったコノハの《抜刀術》は、完璧に彼女の盾に受け止められていた。

 コノハはその瞬間後ろに跳んで間合いを離す。

 

(いける!)

 

エルナディータは心の中で拳をにぎった。《抜刀術》を盾で受けきれることが分からなかったため、先ほどは防御に徹したが、次は受け止めると同時にソードスキルを使えばコノハを捉えられるはずだ。

 間合いを離したコノハは再び《抜刀術》の構えをとっている。エルナディータは再び距離を詰めながら盾を構え、その影から《神聖剣》の三連斬擊ソードスキル《セイクリッド》のモーションを起こした。純白に輝くライトエフェクトが剣を包む。

 コノハの右手が《抜刀術》を放とうと動いた。エルナディータは受け止めると同時に《セイクリッド》を繰り出そうと身構える。

 

「《二天》」

 

コノハの放った《抜刀術》が、エルナディータの狙い通り構えた盾に受け止められた。その瞬間エルナディータは《セイクリッド》を発動させる。エルナディータの剣がコノハの肩口を浅く捉えたところで、エルナディータはその異変に気がついた。

 コノハのソードスキルが止まっていない。

 鞘から打ち出された剣はこれまでの《一心》より明らかに強い光を放ちながら、盾の上で火花を散らしている。やがて盾の表面にヒビが入り始め、神聖化により大幅な防御値ボーナスを受けているはずの盾が、ガラスの割れるような音を立てながらポリゴンとなって砕け散った。

 そのまま剣は呆然とするエルナディータの首を跳ね上げようとして、寸前でピタリと止められる。

 

「お見事。あなたの勝ちです」

 

コノハはなおも呆然とするエルナディータの首筋から剣を引き鞘に納めると、クルリと背を向け歩き始める。

 

「なん……で……」

 

エルナディータはコノハが途中で剣を止めた理由が分からず、かすれた声で問いかけた。

 歩き出したコノハの足がピタリと止まる。

 

「私があなたの命を奪う前に、あなたが私に一撃でも入れられれば勝ち。それが今の時点での『尋常な』勝負だったということです」

 

コノハは振り向かずに答えると、その姿は空間に溶けて消えた。

 コノハが消えた後もその圧倒的な力量に、その部屋にいる誰もが声を出すことができなかった。あの敵がこれからも自分達の前に現れるという事実を、誰もが認めたくなかったに違いない。

 妙に静まり返った橋の上で、エルナディータはコノハの消えた虚空を見つめ続けた。

 

 

 

 




はい、あとがきです。

場面転換なしでひたすら戦闘に1話を使ってしまいました。
コノハの強さが少しでも伝わればいいと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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