ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
更新のペースが落ちちゃってます。
書きたいことを文章にする。
これだけのことにとても四苦八苦している自分がいます。
できるだけ早く更新していこうと思いますので
よろしくお願いします。
「なるほどな。《抜刀術》のコノハ……か」
キリトはそう言うと難しい顔をして腕を組んだ。
場所は《マホロバ》のNPCレストランである。時間はお昼時ということもあってか、店内は多くのプレイヤーで賑わっていた。その片隅でタクト、エルナディータ、キリトは一つのテーブルに着いている。
エルナディータとコノハの対決から数日。コノハの圧倒的な強さに攻略は滞るかに思われたが、あれから紅のフード姿はどこにも現れることはなく、今は第十層フロアボスの偵察が行われているところだ。
あの対決の後、エルナディータはコノハの情報と《クリムゾンクエスト》の存在を無償でアルゴに提供し、謎のNPCと特異なクエストの情報は全プレイヤーの知るところとなっていた。さすがに《神聖剣》のことについてはノーコメントになっているが、多くの攻略組の前で使ってしまった手前広まるのは時間の問題だろう。
使わなければ死んでいたかもしれないとはいえ、自分の行動を後悔し始めたエルナディータの元にキリトから「詳しく話を聞きたい」というメールが届いたのだ。
「それにしてもよくエルだって分かったよな。アルゴの新聞にも名前は出てなかっただろ?」
「俺はネペントの森でエルナディータの装備が銀から元に戻ったところを見てるしな。攻略組で男女ペア、装備の色が変化する、金髪碧眼、これだけ情報は揃えば間違いないと思ったよ」
タクトの問いに、キリトはエルナディータにたどり着いた経緯を話す。そして、新聞に載っていること以上の情報を得ようとエルナディータにメールを送ったのだと言った。
確かに攻略組のしかも仲間のフォローが期待できないソロプレイヤーのキリトにとって、今回の1件のような自身の生死を左右しかねない情報は詳しく知っておきたいだろう。知識1つで命を拾うこともあるということをキリトはよく理解していた。
「と言っても新聞に載ってること以上の話はできないと思うわよ」
エルナディータはボス部屋前の橋の一件に関しその危険度を重く見て、その時のクエストの発生条件からNPCの名前や容姿など、かなり詳細な情報を話しているのだ。今更新聞に載っていない新しい情報があるかと言われると首をかしげるしかない。
するとキリトは首を振って
「いや、俺が知りたいのは新聞に載ってたような客観的な事実じゃないんだ。実際戦ったエルナディータとそれを見ていたタクトの主観が聞きたいんだよ」
キリトの言葉にタクトとエルナディータは顔を見合わせた。
2人は迷宮区の橋に現れた少女を思い出す。見た目はタクトよりも幼い印象で、金髪に翠玉の瞳、妖精のような可憐な容姿。しかし、その戦闘力は《神聖剣》を使用したエルナディータをもってしても歯が立たず、神聖化された盾まで破壊するほどだ。
あのまま戦いが続いていれば、間違いなく蘇生者の間のエルナディータの名前には無慈悲な二重線が引かれていただろう。
「正直もう戦いたい相手じゃないわね。《抜刀術》の強さもあるんだけど、あのNPCの本当の怖さはその思考能力だと思う。とてもAIとは思えなかったわ」
エルナディータが整った顔を曇らせながら言った。
あのNPC《コノハ》はエルナディータの対モンスターAI用の戦術を完全に読み切り、なおかつ返してみせた。そしてその後に対プレイヤー用の戦術が決まらなかったとは言え、通用したことを考えると、あのNPCは人間に酷似した思考能力を持ったAIを積んでいることになる。
それはまるで――――
「まるで心があるみたいだったな」
つぶやいたタクトにエルナディータとキリトの視線が集まった。
本当に何気ない一言だったのだろう。2人から予想外の反応を受けてタクトがアタフタと手を動かす。
「い、いや、何となく心というか魂というかさ。そんなものがあのNPCからは感じられたんだ」
タクトの言葉がエルナディータはわかるような気がした。
ここは《ソードアートオンライン》というゲームの中であり、まわりにあるものは本物らしく見えるが全てデータの塊だ。そこにいるNPCも見た目は人間そっくりであり、滑らかに言葉を紡ぐ。しかし、そこには拭いきれない無機質さが感じられるものなのだ。
そのため様々なクエストに登場するNPCは状況によって喜怒哀楽の表情を見せ、プレイヤーの心を物語に引き込もうとするが、エルナディータは一度もこれらのNPCに感情移入をしたことはなかった。
しかし、《コノハ》の凄まじいが爽やかで清々しい太刀筋を、エルナディータは今でも鮮やかに思い出すことができる。それは決してデータではなく、熱を持った ”何か” だったとエルナディータは断言することができた。
「魂を持ったNPC……か」
キリトは腕を組んだまま誰に言うでもなくつぶやいた。
言葉に出すとさらにその存在の不可思議さが明確になる。考え込んだ3人のテーブルに長い沈黙が訪れたが、それは近づいてきた一人のプレイヤーによって破られた。
「キリト? キリトじゃねぇか! 久しぶりだなオイ!」
「クライン……」
腰に曲刀を下げたプレイヤーが大声でキリトを呼びながら3人のテーブルに近づいてきた。
歳は20代前半といったところか、赤く逆だった髪にバンダナを巻き、その下のギョロリとした目が妙な愛嬌を放っている野武士のような風貌の男だった。
キリトにクラインと呼ばれたプレイヤーは笑いながらキリトに話しかけているが、キリトは何か痛みに耐えるような表情をしている。クラインはそれを察しているようだが、わざと明るく話しかけているように見えた。しかし、キリトの表情は晴れず、場の空気がだんだん重苦しいものになっていく。
やがてクラインは同じテーブルにいるタクトとエルナディータに気がついた。
「俺はギルメンと一緒に前線の街見物にきたとこでよ……っとワリィ、連れがいたの……か」
同席している2人を、正確にはエルナディータを見て固まっていたクラインは、なぜかギクシャクとどもりながら挨拶を始める。タクトとエルナディータはちらりとキリトの様子を伺うと、うなずきあった。
「は、ははじめまして! クラインと申します! 23歳独身です!」
「はじめまして。私はエルナディータ。17歳独身よ」
「はじめまして! 俺はタクト! 30歳妻子持ちだ!」
「「「えええええええええええええええ!?」」」
「なーんて冗談……」
タクトの衝撃的な挨拶に、沈んだ表情だったキリトまでが奇声をあげる。
「だからずっとエルナディータと一緒なのに何もないのか。納得した」
「私、明日からタクトとどう接したらいいのかわからないわ」
「あの見た目で30なのか。もう何も信じられねぇ……」
「いや冗談だからね!? ちょ、エル!? フォローは!? フォローぷりぃぃぃぃぃぃず!!」
キリト、エルナディータ、クラインが固まってヒソヒソと話し始めるのを見て、絶望の声をあげるタクト。
それを見た3人は顔を見合わせて吹き出すと、明るい雰囲気で昼食が始まった。
◆ ◆ ◆
別れて街を見回っていたクラインのギルド《風林火山》のメンバーも加わり、賑やかな昼食が終わると、キリトは「迷宮区に行ってくる」と言って席を立った。ならばお開きにしようとタクトとエルナディータも席を立とうとしたところで、クラインが2人を呼び止めた。
「2人共さっきはありがとな。暗い雰囲気にならないように気を使ってくれたんだろ?」
クラインは2人のあの冗談が、場の雰囲気を変えるためのものだったことが分かっていた。風貌の割には細かい気配りができる男である。
「どういたしまして。エルに裏切られるとは思ってなかったけどな」
「突っ走りすぎなのよ。あんなのどうフォローしろっていうの」
2人の問答にクラインは笑った後、急に寂しそうな表情を浮かべる。
「あいつは……キリトは《はじまりの街》で俺を置いてったことをまだ気にしてんだ。あいつが未だにソロプレイヤーなのは、俺のせいでもあるのかなって思っちまってな」
クラインはキリトが向かった迷宮区の方を見ながら言うと、タクトとエルナディータに向かって頭を下げた。
「俺はまだ攻略組に入れるレベルじゃねぇ。だが、必ず攻略組に追いついてみせる。あんたたちは信用できると見た。俺が追いつくまででいい、最前線でアイツを気にかけてやってくれ、頼む」
本当なら自分の手でSAOでの最初の友人を助けたいのだろう。クラインの声には隠しきれない悔しさがにじみ出ている。頭を下げ続けるクラインの頼みを2人は深く受け止めた。
「頭を上げてくれクライン。そんなのは頼まれるまでもないことだ。キリトはネペントの森で一緒に死線をくぐった戦友なんだ。ギルドこそ入ってないけど、あいつは決して一人じゃない」
「ええ、任せてちょうだい。最前線で待ってるわ。一緒に戦えるのを楽しみにしてる」
強くうなずくタクトとエルナディータに、クラインは頭を上げると「ありがとう」と言って去っていく。強い決意が見えるその背中は、2人に彼が最前線に追いつく日は遠くはないことを思わせた。
「キリトはいい友達持ったよな」
「そうね、あやかりたいものだわ」
「それは俺がいい友達ではないということですか。エルナディータさん」
「自分の今までの行いをよーく振り返ってみることね。タクトさん」
2人はしばらくにらみ合った後、互いにニヤッと笑うと並んで歩き出した。
「さて、俺たちも負けないようにがんばらないとな」
「ええ、まずは第10層のフロアボス討伐ね」
フロアボスの偵察もそろそろ終わり、近く討伐隊が編成されることになるだろう。後ろから追いかけてくる者がいるのなら、先頭で道を切り開く者も立ち止まってはいられない。
時刻はもう夕方になっており、江戸時代を思わせる長屋の街並みは茜色に染まっている。傾いた太陽の光が、宿に向かう2つの影を長く伸ばしていた。
◆ ◆ ◆
「なんなんやこれは……」
キバオウは目の前の光景を信じることができずにうめいた。
キバオウがいるのは迷宮区の最奥、第十層フロアボスの部屋だ。迷宮区の中でも一番広い作りをしているこの部屋は、壁に松明が灯っていたとしても他の部屋より薄暗く、プレイヤーの不安をかきたてる。
しかし、キバオウもこの第十層まで全てのフロアボス討伐に参加してきた攻略組の一人だ。薄暗いフロアボスの部屋などもう見慣れたものであり、今更不安になど思わない。
それはフロアボス討伐についても同じことが言えた。第一層、第二層あたりまではぎこちなかった討伐隊の動きも、回数を重ねるごとに練度が上がってきており、指揮にしてもそのころに比べれば洗練されたものになっている。かくいうキバオウも何度かフロアボス討伐隊のリーダーを経験した身であり、その全てを死者ゼロで乗り切っていた。
しかも今回のフロアボスは特殊攻撃もなく、あまり強くないという報告も受けている。問題はないはずだった。
しかし――――
「うああああああああああああああああああ!」
広めの部屋に悲鳴が響き、フロアボスの攻撃を受けたプレイヤーがまた一人消えた。
キバオウをリーダーに突入したパーティーだったが、もう部屋に立っているプレイヤーは10人ほどになっている。その残った10人も戦えるような状態ではなく、恐怖に顔を歪めながら逃げ回るだけになっていた。
キバオウは片手剣を強く握り締めると、フロアボスに向かって駆け出した。逃げ回るプレイヤーを追いかけているその背中に思い切り攻撃を打ち込む。フロアボスがぐるりとこちらを振り向き、ターゲットがキバオウへと移った。
「わいが食い止める! 残ってるやつは早く逃げるんや!」
振り下ろされるフロアボスの一撃をキバオウはなんとか受け止める。武器同士がギリギリとせめぎあう中、キバオウはフロアボスと目が合う。
青い鬼火のように揺らめくその目は薄暗い部屋の中で不気味に光り、まるで自分をあの世へと誘っているかのようだ。キバオウは己を奮い立たせながらフロアボスの攻撃を必死にさばく、数合打ち合った後キバオウが見つめる先で、青かったフロアボスの目が血のような赤に変わり光った。
「まずいッ!」
キバオウはフロアボスから距離をとろうとするが、間に合わない。赤いライトエフェクトをまとったフロアボスの攻撃がキバオウに直撃するその瞬間、その間に割って入る者がいた。
そのプレイヤーは盾でフロアボスの攻撃を受け止めると、ソードスキル《シャープネイル》を放つ。すばやい三連撃が綺麗に入り、フロアボスのターゲットがそのプレイヤーに移った。
「何やっとるんや! 逃げろって言うたやろ!」
叫ぶキバオウにそのプレイヤーは前を向いたまま言った。
「1人でやってもこのフロアボスは止められないよ。複数で囲まないと逃げることも出来ないと思う」
確かにこのプレイヤーの言うとおりだ。このフロアボスはなぜか逃げる者を優先的に狙う性質がある。1人で食い止めても、扉に向かうプレイヤーがいればターゲットが変わり背中から攻撃されて終わりだ。
しかし、複数で囲むにしてももうそれだけの人数が残っていない。だからこそキバオウは1人で食い止めようとしたのだ。1人が2人になったところでそれは同じだ。このフロアボスを扉に近づけずに食い止めるのなら、8人か9人で囲まないと無理だろう。
「じゃあ、どうするんや! ここで全滅しろとでも言うんかい!」
「キバオウさんは逃げてくれ。残った9人であのフロアボスを食い止める」
キバオウは目を見開いた。その時フロアボスが背後から攻撃を受けてのけぞる。後ろに回り込んだ別のプレイヤーがボスを引き付けているのだ。
気がつくとキバオウの周りに逃げ回っていた残りのメンバーが全員集まっていた。それぞれ顔に悲壮感をにじませているが、その顔には強い意思が見える。
「キバオウさんが時間を稼いでる間にみんなには話したよ。僕たちでキバオウさんが逃げる時間を稼ぐ。あなたは外に出てこのフロアボスのことをみんなに知らせてくれ」
「せやけど……」
「このパーティーのリーダーはキバオウさんだ。その役はキバオウさんがやるべきだと思う」
そう言うとそのプレイヤーはキバオウの返事も待たずにフロアボスに向かって駆け出した。
キバオウは歯を食いしばると、一度部屋の天井あたりをあおぎ見る。そして決死の足止めを行っている9人に向かって
「すまん!」
と言うと扉に向かって走った。フロアボスが扉に向かうプレイヤーを感知し、追いかけようとするが、囲んだプレイヤー達がそれを許さない。巧みにボスの進路を妨害しながら攻撃によるのけぞりを加えていく。
やがてキバオウは入り口の扉にたどりつき、転がり出るように部屋の外に飛び出した。
「頼んだよ。キバオウさん」
部屋の外に出たキバオウを見て、最初にキバオウをかばったプレイヤーはつぶやいた。
これでもう自分達は逃げることはできないだろう。キバオウを含む9人を犠牲にして自分が外にでるという選択肢もあった。以前の自分ならそうしていたにちがいない。
しかし、ある少年と少女が教えてくれたのだ。人間はこんなデスゲームの中でも助け合うことができる。信じあうことができると。
気がつくと部屋に立っているのはそのプレイヤー1人になっていた。彼は右手を右目にかざす動作をすると、最後の抵抗をするべくフロアボスに斬りかかる。
「僕も少しは強くなれたかな。タクト」
赤い目を光らせたフロアボスにその体は無慈悲になぎ払われた。
はい、あとがきです。
1話のなかで内容が一貫しないと題名に困ってしまいますね。このあとがきを書いている今もタイトルが決まっておりません。
何かいいタイトルの決め方はないもんでしょうか。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。