ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第16話です

今回は少し早く書けました。
次も早く出せるようにがんばります。


第4章《星を掴む者》
集う討伐隊


 討伐隊編成の日。集合場所である《マホロバ》の中央広場に着いたタクトとエルナディータは、そこに流れる不穏な空気に眉をひそめた。いつもはフロアボス討伐を前に、高揚感と喧騒に包まれているはずのそこは静まり返り、集まったメンバー達の顔には一様にとまどいと不安が刻まれている。

 タクトとエルナディータはいつもとは違う雰囲気に様子をうかがっていると、先に来ていたキリトがこちらに気がつき近づいてきた。

 

「よう、2人共今来たのか」

「キリトどうしたんだこの雰囲気は、何かあったのか?」

「ああ、なんでも昨日の偵察隊が壊滅したらしい」

 

 神妙な顔でそう言ったキリトに、2人は顔を強張らせる。これまでの偵察隊の情報では、第10層のフロアボスはあまり強くないということになっていた。昨日の偵察も念のための意味が強く、今日の討伐は苦戦するまいと誰もが思っていたのである。

 

「どういうことなの? 情報では壊滅する要素なんてなかったはずよ」

「それはこれから説明がされるところだ。昨日の偵察からただ一人帰ってきたプレイヤーから……な」

 

 キリトはそう言うと広場の中央に目を向けた。タクトとエルナディータもそちらに目を向けると広場の中心に一人のプレイヤーが進み出た。皮のライトアーマーに身を包み、腰には大振りの片手剣と特徴的なサボテン頭。2人もよく見知ったそのプレイヤーはキバオウだった。

 しかしその様子はいつものキバオウのものではなく、何かに怯えるような目と疲れきったように体を引きずるその姿は、彼の日ごろの豪快な態度や物言いを知る者たちにとって、事の深刻さを何よりも明確に伝えていた。

 キバオウが広場の中央にたどりつくと、今回の討伐隊のリーダーであるリンドがたずねた。

 

「じゃあ、報告をしてもらおうかキバオウ。どうして偵察隊が壊滅なんてことになったんだ?」

「わいらが戦ったフロアボスは、それまで聞いとった情報とは動きがまるで違ってたんや。見たこともないスキルも使うてきて、それでみんなやられてしもうて……」

「そんなはずはないだろう。散々前にも偵察が入ってるんだ。ボスのHPが残り1本の状態ならまだしも、昨日だけボスの動きが全然違ったなんてことあるわけがない」

 

 リンドはキバオウの説明に納得できないと首を振る。しかし、キバオウの言うことに嘘は感じられない。彼はここまで全てのボス討伐に参加してきたベテランであり、指揮もここにいるリンドと並んで一番経験している。フロアボスの強さが昨日までの情報通りなら、壊滅はおろか苦戦すらもするはずがないのだ。

 話が進まなくなり静まり返った広場に「ちょっといいかしら」と手を挙げる者がいた。タクトのとなりで話を聞いていたエルナディータだ。

 

「フロアボスの姿形はそれまでの情報と変わりなかった。そうよね?」

「ああ、同じやったで。それがどうしたんや」

 

 エルナディータは目を細め、鋭い視線でキバオウを見た。

 

「じゃあ、それまでの偵察と変わっていたのはフロアボスではなく、偵察隊の方だったんじゃないかしら。例えば偵察隊の人数とか……ね?」

 

 キバオウの体がビクリと震え、顔が青ざめる。その様子を見たリンドは、そこから導き出される答えに気がついた。

 

「キバオウ、お前まさか勝手に討伐隊を……」

「すまんリンド。第九層でわいがリーダーやったのに、フロアボスのLAをお前のところの隊に取られたのが我慢できなかったんや。それでつい魔がさして……」

 

 声を荒げるリンドに、キバオウは隠していた事実を話しはじめる。

 キバオウは偵察に行くと称して密かに人数を集め討伐隊を組織し、リンドのいないところでフロアボスを討伐しようとしたのだ。

 第一層でディアベルが討伐隊から去った後、リンドとキバオウは攻略組の中心をめぐって対立しており、フロアボス攻略の時こそ協力していたが、お世辞にも仲がいいとは言えなかった。

 逆恨みから組織された討伐隊は、それまでの偵察隊の倍の人数はいただろう。それがフロアボスの行動を変化させるトリガーになってしまったというわけだ。

 リンドは怒りを抑えながらキバオウにもっとも重要なことを問いかける。

 

「それで、お前が連れて行った ”討伐隊” は何人ぐらいだったんだ?」

「30人……や」

 

 その人数に広場がどよめいた。フロアボスの討伐隊にしては少ないが、前情報から判断してそれくらいで十分だと思ったのだろう。問題はその30人が全員帰らぬ人となっていることだ。それだけでも痛ましいことなのに、さらにこの30人はいずれも攻略を担うトッププレイヤーなのである。SAOをクリアする上でこれがどれだけの損失なのか、見当もつかない。

 

「お前は……30人もの人間を死なせておいて1人おめおめと帰ってきたというのか!?」

 

リンドの抑えていた怒りがついに爆発し、キバオウに詰め寄った。

 

「違うんや! 昨日の討伐隊はたしかに壊滅した。でもメンバーはまだ生きてるんや!」

「どういうことだ? 生きているならなぜ迷宮区から帰ってこない」

 

 リンドの疑問は広場の全員の心を代弁していた。キバオウは昨日のフロアボス戦を思い出しているのか、かすかに体を震わせながら説明を始める。

 

「フロアボスの名前は覚えとるやろ?」

「《ザ・ソウルコレクター》だったな確か」

「そうや、その名の通りヤツはプレイヤーをコレクションにしよるんや。前の偵察隊も天井から下がっとった沢山の虫カゴみたいなのを見たやろ? 特定のスキルで少しでもダメージもらうとその時点でそこに飛ばされて閉じ込められてしまうんや。もちろん死んだわけやない。でも、どうやってもそこからは出られんし、声もお互い届かん。そうやって30人全員が虫カゴ送りになってしもうたんや」

 

 キバオウの言葉に広場のプレイヤー達は声がでなかった。確かに討伐隊が死んでいなかったのは僥倖だったが、事態はさらに深刻になっている。命があってもそのカゴから出られないのなら、戦力の上では死んでいるのと変わらない。そのフロアボスのスキルに当たっただけで、プレイヤーには戦力の上での死がもたらされるのだ。

 もし万が一、攻略組全員が閉じ込められてしまうことにでもなれば、SAO攻略はそこで終わってしまう。

 

「そういうことなら偵察のやり直しと作戦のたて直しをしないとな。そんなに危険なフロアボスなら1週間は討伐を伸ばしたほうがいいだろう」

「ま、待ってくれ! 閉じ込められてるやつらはどうなるんや! 早く助けださんと……」

「十分な準備もなしに討伐隊を組んで、ミイラとりがミイラになったらどうするんだ。ここは時間をかけて討伐に挑むべきだろう」

「いや、俺はなるべく早く討伐をしたほうがいいと思う」

 

 リンドとキバオウの言い合いに横から口を挟んだのはキリトだった。広場のプレイヤー達の視線がそちらに集まる。

 

「その虫カゴから出られないということは、そこにいるプレイヤーはずっと飲まず食わずということになる。俺たちプレイヤーの体はデータだが、空腹感はきちんと感じるんだ。1週間も待たせてはおけないだろう」

「体がデータだからこそ空腹で死ぬことはない。1週間くらいは耐えられるはずだ」

「過度の空腹は睡眠だって阻害する。あんたも俺も1週間飲まず食わずでいたことはないだろう? 体はともかく心まで耐えられる保障はない」

 

 キリトの言葉に何人かのプレイヤー達は「うんうん」とうなずいていたが

 

「かと言って確実に耐えられないとも言えないだろう。忘れてもらっては困るが、もともとキバオウが討伐の日取りを無視して先走った上で起こったことだ。自分の隊で助け出すならまだしも、こちらの隊を危険にさらしてまで討伐を早めることはできない」

 

 リンドはそう言い放つと、「では今日はこれで解散」と言って広場から去っていく。それを見た周りのプレイヤー達もそれにならって広場から離れはじめた。

 その様子を見ながらキバオウは下を向き、握った拳を震わせながら黙っている。

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 リンドを含め広場を離れかけていたプレイヤー達が突然の大声に何事かと振り向いた。そこにはタクトが腕を組んで仁王立ちしており、隣には「やると思ったわ」とでも言いたげな顔でたたずんでいるエルナディータの姿があった。タクトは大きな声でリンドに問いかける。

 

「どうしても、早く討伐隊を出す気はないんだな?」

「そうだ。仲間を危険にはさらせない」

「じゃあ、俺が明日討伐隊を編成してフロアボスを倒したとしても文句はないよな?」

「……お前たちも討伐隊のルールを破るのか?」

「1週間後の日取りは正式な決が取られたものではないわ。今日の討伐が流れた時点で日時の件は白紙に戻っている。誰がいつ討伐しても自由なはずよ」

 

 エルナディータの発言にリンドは一瞬顔をしかめたが、少し考えたあと何食わぬ顔に戻って

 

「勝手にすればいい。できるのならな」

 

 と言って背を向けると、今度こそ取り巻きと共に広場から立ち去った。タクトの話を聞いていた他のプレイヤー達も、タクトの討伐隊に参加しようとする者はなく、バツの悪そうな顔をしながら広場から1人また1人と離れていく。あっという間に広場にはほとんど人がいなくなってしまった。

 

「まぁ、こうなるわよね」

「俺のカリスマが足りないのか……」

 

 エルナディータの言葉にがっくりと膝をつくタクトだったが、プレイヤー達から見れば一度も指揮を経験していないタクトに命を預ける気になれないのは当然だろう。特に今回は今までにない特殊な攻撃をしてくる危険なフロアボスなのだ。誰だって進んでフロアボスのコレクションになりたいとは思うまい。

 

「そうでもないぜ」

 

 そう言ったのは立ち去っていなかったキリトだった。

 

「俺はタクトに乗った。さっきも言ったとおり捕まってるプレイヤー達は早く助けたほうがいい」

「私も参加する。一刻も早くフロアボスを倒して上に行きたいもの」

「キリト! アスナも!」

 

 顔は合わせなかったが広場で話は聞いていたのだろう。腰におなじみの細剣をさした剣士アスナが、近づいてきてキリトの隣に並んだ。そしてもう1人その後ろからぬぅっと顔をだす大柄のプレイヤーがいた。

 

「俺も行こう。職業柄、腹をすかせてる奴らは放っておけないからな」

「エギル!」

 

 チョコレート色の肌に見事に剃られたスキンヘッド、斧戦士エギルがタクト達の輪に加わった。

 

「わ、わいも連れてってくれ! あいつらは体を張ってわいを逃がしてくれたんや。今度はわいがあいつらを助けなあかんのや!」

 

 広場の中央で黙って立ち尽くしていたキバオウがタクトの話を聞いてこちらに走ってくる。

 

「第10層フロアボスの新情報と一緒ニ、討伐隊募集の記事を号外として配ってやるヨ」

 

 声がした方を振り向くと、広場の外周にある木の上から飛び降りたアルゴが走り去るのが見えた。急いで新聞を作るためだろう。その背中に深い感謝の眼差しを送りながらタクトは集まったメンバーを見渡した。

 これで6人。偵察隊にも満たない人数だが、明日にはアルゴの記事を見たプレイヤーが参加してくれるかもしれない。6人は明日もう一度ここに集まることを約束し、それぞれの宿に引き上げることにしたのだった。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 一夜明けて次の日の朝。集まった6人を出迎えたのは、誰もいない中央広場だった。

 

「役にたてなくてすまんナ。どうやら攻略組全体にリンドの圧力がかかってるみたいなんダ」

 

 先に来ていたアルゴが難しい顔をしながらタクトに謝る。

 第二層からキバオウと共にフロアボスの討伐を引っ張ってきたリンドの攻略組に対する影響力はかなり大きい。今回のキバオウの失態で、リンドの影響力はさらに大きくなったと言えるだろう。どのプレイヤーもタクトの討伐隊に参加してリンドの不興を買いたくはないのだ。

 

「やってくれるじゃねぇか」

「リンドのやつ、汚いまねしよって!」

「上等じゃないか。ますますやる気がわいてきたぜ」

「その性格がうらやましいわ……」

 

 エギルとキバオウが怒りの表情を浮かべ、タクトは笑いながら拳を手のひらに打ち付ける。それを見ながらエルナディータはため息をついた。

 

「でも、この様子だと誰も来てはくれなさそうよね」

「いや、誰かくるぞ」

 

 タクト達以外誰もいない広場を見ながら厳しい表情でつぶやいたアスナに、キリトは索敵スキルで察知したのだろう。目で見えないはずの自分の背後を親指で指した。

 全員の視線がキリトの指差す先に集まる。ただの通りがかりとも思えたが、広場に入ってきたプレイヤーはしっかりとした足取りでこちらに向かって近づいてくると、タクト達の目の前でピタリと立ち止まった。

 

「え、ええっと……討伐隊に参加してくれるのか?」

 

 タクトは若干とまどいながらもそのプレイヤーに声をかける。その原因はプレイヤーの姿だった。

 片手剣に盾を持ち、全身は金属鎧に覆われている。装備の輝きを見るに、そのどれもがかなりの高級品だ。そこまではいいのだが、その上の頭部がフルフェイスの兜ですっぽりと覆われていて、顔が全く分からない。

 そのプレイヤーはタクトの問いに無言でコクリとうなずくと、タクトの横に並んだ。

 

「なんやワレ。これから命預け合うんや、顔くらい見せんかい」

「いいってキバオウ。何か事情があるんだよ。折角来てくれたんだしさ」

 

 タクトがキバオウをなだめると、「まぁ、今回のリーダーはお前やからな」と言って引き下がる。自分の失態の尻拭いをさせているという引け目があるのだろう。キバオウはそれ以上は何も言わなかった。他のメンバーも不信そうな顔で見てはいるが、加入に反対する者はいない。

 その時もう一人プレイヤーがタクト達に近づいてきた。長髪を後ろで縛り両手剣を装備したそのプレイヤーは、タクト達の前までくると舐めるような嫌な目でパーティーを見る。

 

「俺はクラディールだ。討伐隊に入れてくれないか」

 

 そう言いながらクラディールが見ているのは討伐隊の輪の中にいるアスナだった。その粘つくような視線に気がついたアスナは無意識に隣のキリトに身を寄せる。それを見たクラディールは苛立たしげに舌打ちすると、少し乱暴な口調でまくしたてた。

 

「顔が分からない奴まで入れてるんだ。特に厳しい条件はないんだろう? 問題ないよな」

「ああ、戦力は多いほうがいい。歓迎するよ、クラディール」

 

 何か言いたげなメンバーが何人かいたが、タクトがOKを出すとしぶしぶといった様子で黙る。

 8人になった討伐隊はその後も中央広場で待ち続けたが、たまに通りがかる者も目をそらし立ち去っていくだけで、誰も近づいては来ない。

 

「どうやらもう増えないようだな。8人じゃどうしようもない。討伐隊は解散だな」

 

 クラディールはフンと鼻を鳴らしながら尊大な態度で言うと、タクト達から離れて帰ろうとする。

 

「いいや、解散はしない」

 

 その声に足を止めたクラディールが振り返る。その声の主タクトはそこにいるメンバーの顔を見渡すと、迷いのない目で驚くべき一言を口にした。

 

「この8人で第十層フロアボス《ザ・ソウルコレクター》を討伐する!」

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 




はい、あとがきです

集う討伐隊とかタイトルつけておきながら全然集ってないですどうしよう。
オリジナルフロアボスを考えるのは難しいですが楽しいです。
なかなか話が進みませんが、お付き合いください。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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