ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
インフィニティモーメントをやっと手に入れることができました。
まさか、あんなに売れるとは思わなかったので予約もしなかったのが仇に……。
ネタとして取り入れるかどうかはともかくとして楽しんでプレイしたいと思います。
「本当に8人で討伐をするつもりか?」
クラディールが心底馬鹿にしたような顔で討伐隊のメンバーを見回した。
広場でアルゴと別れ、8人は第十層迷宮区のフロアボス部屋の前にたどり着いている。8人で討伐すると宣言したタクトは、驚く6人を(エルナディータは驚いていなかった)引きずるように迷宮区に突入し、フロアボスの部屋の前まで連れてきたのだ。
エルナディータとコノハの一騎打ちの記憶も新しい紅の橋を渡り、フロアボスの扉の前で作戦の解説を始めようとした時、とうとう我慢できなくなったのか、クラディールが抑えていた言葉を口に出したのだった。
「大丈夫だって! この8人でがんばればきっと倒せるさ!」
「精神論でどうにかなるもんじゃないだろう。せめて今日は解散して、再度人を集めた方がほうがいいんじゃないか?」
タクトの言葉にクラディールが冷ややかな反応を返した。それを聞いたエルナディータはクラディールに向かって首を振る。
「リンドの討伐隊の準備が進めば、さらに人は集まらなくなる。明日以降は待っても人は来ないわ」
「そうやな、再編成が始まれば攻略組はそっちに流れるやろ。 ”長いものには巻かれろ” や」
エルナディータの言葉にキバオウが相打ちを打った。さらにその先をキリトが引き継ぐ。
「それに人数が少ないというのもデメリットばかりじゃない。広場でエルナディータが言ったように、少人数ならフロアボスは例のキャプチャー技を使ってこないはずだ。十分勝機はある」
「キャプチャー技がないならフロアボス自体はたいした強さじゃないって話だものね」
キリトの話にアスナがうなずき、その横のエギルが低いバリトンで付け加える。
「それに明日以降はリンドも偵察隊を出し始めるだろう。なんの邪魔もなく討伐できるのは今日しかないだろうな」
キリト達もタクトの勢いに流されてここまで来たわけではない。それぞれに ”この8人で” ”今日” 討伐するのが現状とれる行動の中でベストだと思っていたのである。
「……ッ。そ、それでも、8人でフロアボス討伐など正気の沙汰ではない。俺は死ぬのも虫カゴに閉じ込められるのも御免だ!」
クラディールは一瞬言葉に詰まったが、みるみる顔を真っ赤すると他のメンバーに向かって怒鳴り散らした。あまりに自分勝手な物言いに、キリトとアスナは呆れた顔でクラディールを見ている。討伐隊に険悪なムードが流れ、他のメンバーもかける言葉を捜して黙り込んだ。
「それならあなたは帰ればいいわ」
抑揚のない声で静寂を破ったのはエルナディータだった。その目はまるで落ちている石ころを見るように平坦であり、その声には軽蔑や嫌悪すら含まれていない。逆にそれが言われた相手を一層みじめにさせていた。
クラディールは体をブルブルと震わせながらエルナディータを睨み付ける。
「なんだと? お前今なんて言った?」
「帰れと言ったのよ。臆病者だと言う気はないわ。8人で討伐なんて確かに無茶だものね。でも、その上で命をかけられる勇気を持たない人間に背中は預けられない。そこの穴にでも飛び込んで街に戻ったほうがいいわ」
「そうやな。見たところレベルも装備もギリギリみたいやし、いても戦力にはならんやろ」
部屋に開いている大穴を見ながら言うエルナディータに続いて、キバオウがエルナディータの分も加わっているかのようなありったけの軽蔑と嫌悪をクラディールに向ける。クラディールは落ち窪んだ三白眼に憎悪をみなぎらせながらエルナディータとキバオウを凝視していた。
討伐隊の険悪なムードが頂点に達し、クラディールがその手を両手剣にかけようとしたその時、タクトがクラディールの前に進み出る。全員の視線が集まる中、タクトはクラディールに向かって頭を下げた。
「クラディール、俺の力が足りないばっかりに無茶な討伐になってすまないと思ってる。でも、俺たちに力を貸してくれないか。俺はフロアボスに捕まってるプレイヤーを一刻も早く助けたいんだ」
「俺のレベルと装備じゃ戦力にならないんだろう? 危なくなったら見捨てるに決まってる」
クラディールはタクトの態度に剣から手を離したが、以前その顔からは不満の色が消えていない。そんなクラディールをタクトは澄んだ目で真っ直ぐ見つめた。
「プレイヤーの強さはレベルや装備じゃない。あんたが強い意思を持ってその剣を振るうなら、その一撃はどんな敵をも切り裂き、仲間の命を守ることが出来るんだ」
一切の疑いが感じられないタクトの言葉に、クラディールは毒気を抜かれたかのようにポカンと口を開ける。他のメンバーも同様に唖然としたような表情でタクトを見つめる中
「ふ、ふふ……」
ここに至るまでついに一言もしゃべらなかった鉄仮面のプレイヤーが小さな笑いを漏らした。それを皮切りに険悪な雰囲気が薄れていき、メンバーの顔に笑顔が戻る。
「はっはっは! 言うじゃないかタクト。今のはよかったぜ!」
「ちょ、エギル。頭をグシャグシャするのはやめてくれよ!」
乱暴に頭をなでるエギルにタクトは口を尖らせた。それを見たクラディールは、、タクトの視線に気がつくと目をそらしながらも
「チッ……わかったよ! 行けばいいんだろう、行けば!」
と言いながら討伐隊の輪の中へ戻る。
ようやく足並みのそろった討伐隊の面々を見渡しながら、エルナディータが作戦の解説を始めるのだった。
◆ ◆ ◆
(やっかいなことになりやがった……)
クラディールはエルナディータによる作戦の解説を聞きながら心の中で舌打ちした。
クラディールはリンド派の幹部と取引しており、この討伐隊を妨害するように指示されているのだ。首尾よく事が運べば、自分は晴れて今後攻略組の中でも最大の派閥になるであろうリンド派の幹部というわけである。
なのでこの流れは非常にまずい。できれば討伐隊が編成される前に解散させたかったのに、なぜか8人ぽっちで討伐が始まろうとしている。その上自分がその中の一人に入ってしまっていた。
(だが、考えようによってはやりやすくなったか)
タクトとかいうリーダーの言葉に妙な気分になってしまい参加を承諾してしまったが、そもそも8人で討伐が成功するわけがない。万が一成功しそうになってもパーティー内にいれば妨害しやすいし、危なくなったら自分だけでも逃げてしまえばいいのだ。
(それに指示されたからだけじゃない。意地でもこの討伐は失敗させてやる)
クラディールはメンバーに向かって作戦の説明を続けるエルナディータを見つめる。その瞳は憎しみに黒く塗りつぶされていた。
(女のくせに俺を馬鹿にしやがって。討伐が失敗して死ぬなら良し。生き延びたとしてもフィールドで襲って……それから……ククク……)
クラディールはその場面を想像し、暗い興奮に身を任せながら、心の中で舌なめずりをしたのだった。
◆ ◆ ◆
エルナディータの指示により、8人のメンバーが3つの隊に分けられる。壁役を務めるエルナディータと鉄仮面のA隊、攻撃役のキリト、アスナ、エギルのB隊、そして攻撃兼支援役のタクト、キバオウ、クラディールのC隊だ。
タクトが目で全員に合図を送り、フロアボスの部屋への扉を押し開ける。8人全員が部屋に入るのを待っていたかのようなタイミングで部屋の松明に火が灯り、フロアボスの姿が浮かび上がる。
一言で言うならそれは鎧武者だった。フロアボスにしては余り大きくなくエギルと同じくらいだろう。その全身は戦国時代の甲冑で覆われており、右手には大振りの太刀が握られている。顔は肉が全て削ぎ落とされたドクロであり、空洞になっている眼窩の奥で青い炎がチロチロと鬼火のように揺らめいていた。
第十層フロアボス《ザ・ソウルコレクター》
その名の所以は部屋の天井から下がっている大きな虫カゴだ。ジャンプではとても届かない高さにつり下げられたカゴの中には、沢山のプレイヤー達の姿が見える。全員がぐったりと顔をうつむかせ、こちらにも気がついてもいないようだ。
「必ず助ける、もう少し待っててくれ――――いくぞ!」
タクトの掛け声と同時にエルナディータと鉄仮面がフロアボスに向かって地を蹴る。
「カカカカカカカカッ!」
コレクターがドクロをカタカタと震わせながら笑い声のような声を出し、大太刀を振り下ろす。小さなフロアボスは総じて動きが早い。加えて刀は片手剣より一撃は軽いがその分攻撃速度が速い特性を持っている。相乗効果によりかなりの速度になっているはずの一太刀を、鉄仮面は難なく受け止め弾き返した。
「セアァ!」
エルナディータがその隙に、ソードスキル《ホリゾンタル》でコレクターを切り裂く。今日は壁役であるため、右手の片手剣に加えて左手に新調した盾を装備していた。
エルナディータは自分の視界の左上を見る。そこに書いてあるパーティーメンバーの名前を確認すると、鉄仮面に笑いかけた。
「さすがね。またあなたとフロアボス討伐ができて嬉しいわ」
「……」
鉄仮面は黙ってエルナディータに向かって親指を立てる。
体勢を崩したコレクターの左側面から、鋭い斬撃と素早い刺突があびせられた。B隊のキリトとアスナだ。続いてエギルの戦斧がコレクターの胴体に叩き込まれる。
今度はキバオウがコレクターの右側面から接近し、ソードスキル《バーチカル》が上段から放たれた。さらにクラディールが両手剣を振り下ろそうとしたが若干出遅れた為、硬直から立ち直ったコレクターからカウンター気味の一振りを返されてしまう。しかし
「やらせるかッ!」
クラディールを切り裂こうとするコレクターの刀の軌道を、タクトの両手剣が遮る。そのまま受け止めた刀を跳ね上げると、間髪いれずにキリトの《シャープネイル》とアスナの《リニアー》がコレクターのHPをさらに削り取った。
「うまくいってるな」
「ええ、いけそうね」
キリトとアスナは、エルナディータの作戦内容を思い出す。
プレイヤーと大差ない大きさのフロアボス相手に、複数同時に攻撃は得策ではない。そこで攻撃役は一人ずつ交代でフロアボスに攻撃を仕掛けることにしたのである。比較的攻撃の軽い《片手剣》《細剣》と攻撃の重い《戦斧》《両手剣》をバランスよくローテーションさせ、フロアボスの硬直時間を稼ぐのだ。
体が小さければ攻撃による硬直もはいりやすい。その分動きは素早いが、この討伐隊の攻撃部隊には凄まじい反応速度を持つキリトを始め、閃光のようなソードスキルを放つアスナ、飛び抜けた動体視力で攻撃を見切るタクトと ”速さ” に関するスペシャリストが揃っていた。
クラディールがややもたつく事はあったが、タクトのフォローにより攻撃部隊は確実にコレクターのHPを削っていく。
そして予想外の働きをしているのが壁役であるA隊だ。エルナディータは普段あまり盾を装備していないにもかかわらず、持ち前の器用さで華麗な盾さばきを披露している。
しかし、予想外なところはそこではない。
「しもた……!」
攻撃に一歩出遅れたキバオウを、コレクターのソードスキル《山嵐》が襲う。青いライトエフェクトを纏った大太刀は、キバオウの胴を薙ぎ払おうとしたところで分厚い盾に阻まれた。
「フッ……」
攻撃を受け止めた鉄仮面は、片手剣で巧みに攻撃を加えながらコレクターを自分に引き付ける。誰かもわからないプレイヤーだったが、その熟練した動きは間違いなくトッププレイヤーのそれであり、盾の扱いにかけてはエルナディータを明らかに上回っていた。
コレクターの攻撃からパーティーメンバーをひたすらに守るその姿は、SAOには存在しない職業《騎士》を思わせる。
頼もしい2枚の盾に後押しされた攻撃部隊は、6人とは思えないペースでコレクターのHPを削り続け、タクトの両手剣三連ソードスキル《ケルベロス》が甲冑の隙間にクリティカルヒットした時、四段あったコレクターのHPは最後の一段に突入した。
畳み掛けようとする8人だったが、コレクターの青かった瞳が赤く光ったのをタクトは見逃さなかった。
「キャプチャー技がくるぞ! 全員回避!」
前回の討伐隊唯一の帰還者であるキバオウは、キャプチャー技の前兆が「目が赤く光る」ことだという貴重な情報を持ち帰っており、討伐メンバーに伝えていた。前兆さえわかっていれば、回避や防御は難しくない。瞳と同じく血のような赤のライトエフェクトと纏った刃が迫る。この一撃に少しでもダメージを受ければ、その瞬間プレイヤーは天井に吊り下がる虫カゴに閉じ込められてしまうだろう。
タクトの掛け声に全員が飛びのき回避したが、距離をとったメンバー達はコレクターの異変に気がついた。
「お、おい……。どうして瞳が ”赤い” ままなんだ?」
エギルがとまどった声を出す。キバオウの情報ではキャプチャー技を撃った後、瞳の色は青に戻ることになっていたはずだ。それが赤いままということは……。
「まさか、ここからのコレクターのスキルは全部キャプチャー技になるんじゃ……」
かすれた声で言うキリトに正解を示すかのように、コレクターの大太刀が赤く光る。その一撃を受け止めるべくエルナディータと鉄仮面は盾を構えた。
しかしその時、鉄仮面に向かって放たれようとしていたキャプチャー技が中断され、コレクターの頭がグルリとあさっての方向に傾いた。一瞬何が起こったのか分からない討伐隊は、コレクターの視線を追いかける。その視線の先にいたのは、バタバタと逃げるように扉の方へ走っているクラディールだった。
「何やってるんだ! 戻れ!」
エギルが叫ぶ。《ザ・ソウルコレクター》は一度部屋に入ったプレイヤーが外にでようとすると、そのプレイヤーを優先的に狙う習性があることは討伐前にきちん説明されていた。しかし、クラディールは止まることなく扉に向かって逃げ続ける。
コレクターのターゲットが完全にクラディールに移り、獲物を逃がすまいとコレクターはクラディールを追いかける。あっという間にクラディールは追いつかれ、キャプチャー技の間合いに捉えられていた。
「ヒ、ヒイィ!」
悲鳴をあげるクラディールを己のコレクションに加えるべく、コレクターは「カカカ」と笑いながら赤く光る凶刃をためらいなく振り下ろした。
はい、あとがきです。
タクトが初の討伐隊リーダーをがんばる話を書こうと思ってたのに、いつのまにかクラディール回になっていた。何を言ってるのか分から(略
原作主要メンバーを差し置いて、鉄仮面とクラディールが目立ちまくってる気がするどうしてこうなった。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。