ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
話をきるタイミングが中々難しく、話が少し長くなっております。
楽しく読んでいただけたらと思います。
「ヒ、ヒイィ!」
悲鳴をあげるクラディールをあざ笑うかのように「カカカッ」と声をだした《ザ・ソウルコレクター》はキャプチャー技である赤い凶刃を振り下ろす。
その刃は間一髪間に合ったエルナディータの盾にかろうじて受け止められた。床に尻餅をつき、震えているクラディールにエルナディータは叫んだ。
「扉から離れて! 早く!」
エルナディータの言葉にようやく我に返ったクラディールは、四つん這いでズルズルと移動しながら扉から遠ざかる。コレクターのターゲットがクラディールから外れ、エルナディータは飛び退きながらもコレクターをクラディールから引き離した。
討伐隊メンバーはコレクターの頭上にあるHPバーを見る。第十層フロアボス《ザ・ソウルコレクター》のHPは残り一段だ。この一段を削りきれば、虫カゴに囚われているプレイヤー達を助けることができる。
しかしコレクターの赤く光る瞳がメンバーの足を鈍らせた。あの瞳から察するに、ここからのコレクターのソードスキルは全てキャプチャー技だと思った方がいい。つまり、これから一度もソードスキルでダメージを食らうことは許されないのだ。
コレクターのソードスキルを意識する余り、討伐メンバーは大太刀の間合いに入ることができなくなっていた。
「どないするんや! このままじゃジリ貧やで!」
「そうは言っても一撃食らったら即アウトじゃ近づけないぜ!」
キバオウとエギルが肩で息をしながら叫んだ。
「みんなのHPも減ってきてる。早くなんとかしないと」
「俺が突っ込んだとしても、最後まで回避しきれるかどうか……」
アスナとキリトが焦りをにじませた声をだす。
「残り一段で使ってくるとは思ってたけど、これは想定外だったわ。私たちもいつまで持つか」
「……」
エルナディータと鉄仮面も防御に手一杯でコレクターにダメージを与えられない。膠着状態に陥った討伐戦を動かしたのは、突如コレクターに突撃したタクトだった。
赤く光る大太刀をその動体視力でかいくぐり、強烈な一撃を叩き込む。コレクターの体が大きくのけぞり、HPに久方ぶりのダメージが刻まれた。タクトは部屋に響き渡る大声で叫ぶ。
「みんなソードスキルを恐れるな! 俺は自分が閉じ込められたとしても、残ったみんながボスを倒してくれると信じてる! 何人閉じ込められようと最後の一人が《ザ・ソウルコレクター》のHPを削りきれば俺達の勝ちだ!」
それは、キャプチャー技を食らう覚悟で攻撃あるのみというタクトの意志だった。タクトの力強い言葉が弱気になっていた討伐隊メンバーを奮い立たせる。
「スイッチしなさいタクト。攻撃役の後ろに壁役がいたんじゃカッコがつかないわ」
その言葉に最初に応えたのはエルナディータだった。タクトとスイッチすると同時に大太刀を受け止め、正確な刺突を甲冑の隙間に突き込む。再びのけぞったコレクターにキリトとアスナの鮮やかな連携攻撃が入り、コレクターのHPが目に見えて削られた。
続いて鉄仮面が《威嚇(ハウル)》でコレクターの注意を引き付けると、左右から挟み込むようにキバオウとエギルの一撃がコレクターの胴を切り裂く。
タクトは《マホロバ》の中央広場で自分のために集まってくれた討伐メンバー1人1人の顔を見た。そしてコレクターに向き直ると、両手剣を握り締める。
「俺達の魂は8つで1つだ! 楽に狩れると思うなよ!」
叫んだタクトは、狂ったように暴れまわる《ザ・ソウルコレクター》に向かって剣を振り上げた。
◆ ◆ ◆
《ザ・ソウルコレクター》のHPが最後の一段になり、ここからソードスキルが全てキャプチャー技になるとわかった時にクラディールの心を支配したのは、ただ一つの感情 ”恐怖” だった。
(もうだめだ、この討伐隊は壊滅する)
全員がコレクターの赤い凶刃に切り裂かれ、虫カゴの中でコレクションにされるのだ。リンドの討伐隊も1週間で討伐できるとは限らない。これだけやっかいなフロアボスなら第一層の時のように1ヶ月かかることだって考えられる。その時虫カゴに囚われた自分はどうなるのだろうか。猛烈な飢餓に襲われながら死ぬこともできずに苦しみ続けることになるだろう。それはモンスターにひと思いに殺されるより恐ろしいことのように思われた。
そこまで考えた瞬間クラディールの足は部屋の出口に向かって駆け出していた。
(もう1秒でもここにはいたくない。あんなところに閉じ込められてたまるか。俺だけはなんとしてでも逃げのびて――――)
この時クラディールの頭からは、リンド派の幹部との取引もエルナディータへの復讐心も吹き飛んでいた。そして、言わずもがな《ザ・ソウルコレクター》のターゲットに関する習性のこともだ。
当然のようにターゲットを変えたコレクターは、赤く光る大太刀をクラディールに向かって振り下ろす。クラディールは反射的に目をつぶり、虫カゴに捕らわれ、苦しみにのたうちまわる自分を幻視した。
しかし、自身が切り裂かれる感覚はおとずれない。恐る恐る目を開いたクラディールはその光景に目を奪われた。
流れる髪はわずかな松明の光の中でもキラキラと金色に光り、肩ごしにこちらを見る目は海のような深い青色。そしてクラディールに振り下ろされるはずだった赤色の刃は少女の盾に受け止められていた。
クラディールは訳もわからず金と青と赤に彩られたその少女エルナディータに見入ってしまう。
憎めばいいのか感謝すればいいのかも分からず、クラディールはエルナディータの言うがまま扉から離れ部屋の隅に這うようにたどり着く。
クラディールは荒い息をつきながら、自分が逃げ出した場所で決死の攻防を繰り広げる7人を見つめた。先ほど見とれてしまったエルナディータもその場所で華麗な動きを見せている。
部屋の隅にへたり込み、ブルブルと震えることしかできないクラディールにとって、それらはとても眩しく、そしてあまりにも遠いものだった。
(また、こうなるのか……)
クラディールの心にドス黒い感情が渦巻く。
(いつだってそうだ。俺の手は眩しいものを掴めない。それを遠くから見つめるだけ)
いつだって眩しい場所で光り輝いているのはクラディールではない誰かだった。それはSAOというデスゲームに巻き込まれる以前からのことだ。自分では届かない場所にいる者たちへの羨望はいつしかドス黒い嫉妬となり、クラディールの中へ泥のように溜まっていく。
そして、茅場晶彦によりSAOから法と秩序が奪われたとき。その泥はクラディールの中から堰を切って溢れ出した。
(そうだ。眩しいもの、綺麗なもの、俺の手に入らないものを全て汚して、墜として、台無しにしてやる)
クラディールがタクトの討伐隊に入ろうと思った元々の理由は「囚われているプレイヤーを一刻も早く助けたい」などと ”眩しい” ことを言う奴らの邪魔をして討伐を台無しにしたかったからだ。リンド派との取引などついでにすぎない。
しかし、クラディールは今フロアボスへの恐怖に動くことができず、なんの邪魔もできないまま眩しいものを見せつけられている。そもそも、あの時討伐隊から抜けなかったのが間違いだったのだ。どうして自分はあの時、無茶な討伐をしようとするパーティーに残ってしまったのか。
『あんたが強い意思を持ってその剣を振るうなら――――』
そうあの言葉だ。あの言葉が自分を惑わせた。力強いタクトの言葉はクラディールの泥を波立たせ、気がつくとクラディールは討伐隊への参加を承諾していたのだ。
最初は意地でも討伐を妨害するつもりだった。しかし、フロアボスとの攻防の中で自分の剣がコレクターのHPを削るたび、他のメンバーへの攻撃を受け止めるたび、クラディールの中での思いは大きくなる。
(もしかしたら、俺も掴むことができるのか……?)
それはクラディールにとっては星のようなものだ。どれだけ綺麗で眩しくても決して手は届かない。しかし、この時クラディールは確かに星に向かって手を伸ばしていた。
(”たった8人でフロアボスを倒す” そんな星を掴むことができたら俺は……)
だが、その手はいつものように空をきっただけだ。芽生えかけていた微かな思いはフロアボスへの恐怖にねじ伏せられ、泥の中に沈みこんでしまった。
『みんなソードスキルを恐れるな! 俺は自分が閉じ込められたとしても、残ったみんながボスを倒してくれると信じてる! 何人閉じ込められようと最後の一人が《ザ・ソウルコレクター》のHPを削りきれば俺達の勝ちだ!』
遠いところでタクトが力強い言葉を放つ。
(どうしてそんなことが言えるんだ。どうしてまだあのフロアボスに挑めるんだ。そして、どうして俺の体は震えたまま動かないんだッ!)
クラディールは未だ震える唇を噛み締めていた。やはり自分には何もつかめないのだろうか。この泥の中で眩しいものを見上げるしかないのだろうか。
(そもそも泥まみれの手で星を掴もうなどと考えることが――――)
そこまで考えたクラディールは、タクトが周りにいるメンバーを見回した後、自分の方を見ていることに気がついた。クラディールは思わずその目を正面から見てしまう。
その目に逃げ出した自分への軽蔑の色を覚悟したクラディールだったが、自分をみつめるタクトの瞳は、他の討伐メンバーを見た時と同様背中を預け合う仲間へのものだった。
(馬鹿な……。どうしてそんな目で俺をみるんだ。俺はもう……)
思わずその目から顔をそらしてしまったクラディールの耳にタクトの叫びが響く。
『俺達の魂は ”8つ” で1つだ! 楽に狩れると思うなよ!』
クラディールの目が大きく見開かれた。
◆ ◆ ◆
キャプチャー技を食らう覚悟でコレクターのHPを削る討伐隊だったが、もちろんただで済むはずがなかった。乱戦の中動きの遅れたキバオウに、ついに赤く光る大太刀がヒットする。
「ガハッ!」
キバオウの体が赤く光ると、その光は天井の虫カゴに吸い込まれる。光が収まったとき、キバオウの姿はそこにはなかった。覚悟はしていたものの、初めて見るキャプチャー技の凶悪な効果にメンバーの顔がこわばる。
一瞬動きの止まった討伐隊に再びキャプチャー技を繰り出すコレクター。今度の標的はエギルだった。
「くそぉ!」
避けられないと悟ったエギルはソードスキルを発動させる。コレクターの赤い大太刀と青く光るエギルの戦斧が空中で交錯し、同時に双方にヒットした。
「悪いな。あとは頼む」
キャプチャー技を食らいながらも、最後の一撃でコレクターのHPを削り取ったエギルの姿が虫カゴに吸い込まれる。
「フロアボスを倒せば2人も助けられるわ! 今は何も考えずHPを削るわよ!」
エルナディータが叫ぶ。
《ザ・ソウルレクター》のHPは最後の一段の残り8割。2人を失ったにしてはそれほど削れてはいない。このペースでは全員が閉じ込められるまでにコレクターを倒せないだろう。一度距離をとったキリトがタクトを見た。
「俺が今から防御を捨ててコレクターのHPを削る。残りのメンバーは一度下がって回復に専念してくれ」
「何言ってるんだ。俺も一緒に……」
「俺の全力の攻撃速度に両手剣じゃ連携が難しい。それより後のことを考えて準備しておいてくれ」
タクトの言葉を遮り、一人でコレクターに向かって歩きだそうとするキリトの横に並んだ者がいた。
「私なら連携に問題はないわよね?」
そう言って一緒に歩き出したアスナを、キリトは一瞬眩しそうに見つめ、タクトを振り返った。
「じゃあ、行ってくる。寝ててもいいぜ、2人で倒しちゃうからな」
キリトはあえて明るい口調で軽口を叩くと、アスナと共に地を蹴った。コレクターとの距離が一気に詰まり、キリトが放つ斬擊とアスナの放つ刺突が無数の残像を残しながらコレクターをとらえる。キリトとアスナはソードスキル以外の攻撃の回避を最小限にとどめ、全力で攻撃を繰り出し続けた。荒れ狂う斬擊と刺突の暴風にコレクターのHPはガリガリと削られていく。とうとうそのHPは半分を切った。
キリトとアスナは肩で息をしながら顔を見合わせる。そのHPは最小限の防御のせいで赤く染まっており、これ以上の戦闘は命とりだ。
「そろそろ頃合ね」
「ああ、アスナ合わせてくれ」
キリトとアスナは左右から突撃すると、ソードスキルを放つコレクターに助走を乗せたカウンターを同時に叩き込んだ。強烈なライトエフェクトが部屋を照らし、コレクターのHPがさらに1割削り取られる。
コレクターの後ろに抜けたキリトとアスナは残るメンバーを見る。その体は赤い光に包まれていた。これ以上の戦闘は難しいと考えた2人はソードスキルを浅く食らいながら、最大威力のカウンターをコレクターに打ち込んだのである。残るメンバーに笑顔を残しながらキリトとアスナの体が光となって虫カゴに吸い込まれた。
「さて、私達の番ね」
「……」
エルナディータと鉄仮面が前に出る。タクトもそれに続こうとしたが、エルナディータがそれを手で制した。
「タクト、あなたは全回復するまで動いちゃダメよ」
「なんでだよ。そんな時間はないじゃないか。もう行けるって」
それでも前に出ようとするタクトをエルナディータは押し戻す。鉄仮面がコレクターを抑えるべく先に飛び出していく
「もう後がないわ。私達が閉じ込められたら使いなさい。《神魔剣》を」
エルナディータの顔はそう言いながらも辛そうにタクトから目をそらした。《神魔剣》には使っている間使用者のHPが持続的に減り、激しい疲労感に襲われるというデメリットがある。エルナディータもできれば使ってほしくはなかったのだが、プレイヤー達を助けるため、なによりタクト自身を助けるために言うしかなかったのだ。
「そのためにはHPを全回復させておく必要があるわ。その時間は私たちが稼いであげる」
タクトはまだ何か言いたそうに口を開きかけたが、エルナディータがひと睨みすると諦めたようにその場にどっかりと座って、ポーションをグビグビと飲み始めた。
「わかったよ。全回復するまで意地でも動かないからな」
「ええ、後は任せてちょうだい」
エルナディータは肩ごしに笑うとコレクターに向かって走り出した。その先では飛び出した鉄仮面が、相変わらず見事な盾さばきでコレクターを押さえていた。近づいてきたエルナディータに気がついた鉄仮面は盾でコレクターを弾き返し距離をとる。
「待たせたわね、時間を稼ぐわ。頼りにさせてもらうわよ」
「……」
エルナディータの言葉に力強くうなずく鉄仮面。
正直時間を稼ぐ「だけ」ならこの2人にとって難しいことではない。2人のプレイヤースキルなら防御に徹するだけでかなりの時間が稼げるだろう。
しかし、キリトとアスナがかなり削ってくれたとはいえコレクターのHPは4割残っている。《神魔剣》はかなりの攻撃力を持つスキルだが、これをそのまま残してはコレクターのHPを削りきる前にタクトのHPが尽きるだろう。
故に防御重視で時間を稼ぎながらも、わずかな隙を逃さず確実にダメージを与えていかなければならない。この相反するオーダーに、エルナディータと鉄仮面は迷うことなく挑んだ。コレクターのソードスキルが盾に受け止められ赤い光を撒き散らし、隙間を通すような一撃がコレクターの体に突き刺さる。
三撃受けては一撃返す。キリトとアスナのような派手さはなかったが、高い技術を要するこの作業を2人は精密機械のようにこなし続けた。
しかし、プレイヤーの体は機械ではない。高い技術と共に集中力を要するこの戦闘は、エルナディータと鉄仮面の心身を激しく削り取っていた。一方疲れを知らないAIで動いているコレクターは、変わらぬ苛烈さで2人を追い詰める。
「くっ!」
ついに強烈な一撃を盾で受けたエルナディータが膝をつく。ダメージはなかったが体に残る痺れが彼女の次の行動を阻害した。「カカカ」と笑い声を響かせながらエルナディータに振り下ろされたソードスキルの軌道に鉄仮面は体を滑り込ませる。かろうじて盾で軌道をそらすが、完全には弾くことが出来ず刃が鉄仮面の肩口を浅く捉えた。鉄仮面の体が赤い光に包まれる。
「信じているよ。ボスを必ず――――」
初めて聞いた鉄仮面の声は部屋に爽やかに響き、その体は天井の虫カゴに吸い込まれた。最後まで騎士の精神を貫いたそのプレイヤーに、エルナディータは心の中で深く感謝する。一旦距離をとり、タクトの方を見てそのHPを確認するとエルナディータは剣を構える。疲れきったこの体でコレクターの猛攻をこれ以上凌ぐのは無理だ。ならば後はこの身を刃に変えて最後の一撃を叩き込む。
エルナディータは最大速度でコレクターに接近しながら、ソードスキル《ソニックリープ》のモーションを起こす。そのままコレクターのソードスキルが体をかすめるのもかまわず、助走をつけた突進系単発技を体ごとコレクターに叩きつけた。盛大なペールブルーのライトエフェクトが炸裂し、コレクターの体が後方に吹き飛ぶ。
「あとは任せるわ。ヘマしたら承知しないんだから」
うなずくタクトに満足そうに笑うと、エルナディータの体は虫カゴに吸い込まれていく。タクトは無言でそれを見送ると立ち上がった。コレクターのHPは今や3割を下回っている。そして、タクトのHPは仲間たちが身を呈して時間を稼いでくれたおかげで全回復していた。タクトは両手剣を構えると迷いなくボイスコマンドを叫ぶ。
「《神魔剣》アクティベート!」
漆黒のライトエフェクトが両手剣を包み、その刃が黒く染まる。
エルナディータと共に分析した結果《神魔剣》にも《神聖剣》に似た性質があることが分かった。それがこの《装備魔剣化》である。魔剣化した武器はその攻撃力に大幅なボーナスが加えられ、その状態で初めて《神魔剣》のソードスキルが使用可能になる。《神聖剣》と違うのは魔剣化には時間がかからないことだ。ただし――――。
タクトは自分の視界の左上でHPバーがジリジリと短くなっていくのを見る。《装備魔剣化》を解除しない限りHPは減り続け、その体には激しい疲労感が蓄積していくのだ。
時間はかけられないと考えたタクトは、一息にコレクターの懐に飛び込んだ。下段から思い切り剣を繰り出すと、それを大太刀で受け止めたコレクターごと上空に打ち上げる。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
両手剣を覆う黒い光がその勢いを増し、ソードスキル《リベリオン》が無防備に落ちてくるコレクターに向かって放たれる。その体を再び空中に吹き飛ばすと、下で待ち受けるタクトは硬直が解けると同時にソードスキルのモーションに入る。二連斬撃技《クリスクロス》が発動し、コレクターを上空で十字に切り裂いた。
タクトは落ちてくるたびにコレクターの体を上空に跳ね上げ、動けない標的に漆黒の刃を叩き込み続ける。筋力値に特化したタクトのステータスと《神魔剣》の攻撃力が可能にした荒技であった。
ついにHPが1割をきったコレクターに最後の攻撃を打ち込むべくタクトが剣を跳ね上げる。その一撃がコレクターに吸い込まれようとした瞬間、タクトの視界がグラリと急速にぶれた。
「うっ!」
タクトの剣はコレクターを浅く切り裂くに留まり、倒すだけのダメージを与えられなかった。一方のタクトはとうとうピークに達した疲労感に膝をつく。タクトは振り下ろされるソードスキルを転がりながらなんとか回避するとコレクターと距離をとった。《神魔剣》を解除し、なんとか立ち上がろうとするが体に力が入らない。目にうつるコレクターの像がグニャリと歪み、意識が遠のいていく。
(まだだ……まだ倒れるわけには……)
動けないタクトをあざ笑うようにゆっくりとコレクターが近づいてくる。なんとか意識をつなぎとめようともがくタクトの視界を見覚えのある背中がさえぎった。その顔は見えなかったが、タクトにはそれが誰なのかはっきりと分かる。薄れゆく意識の中で、タクトはその背中に討伐隊全員の意志を託す。
「後は頼んだぜ――――クラディール」
その男は瞳に確かな決意をたたえながら両手剣を抜き放った。
はい、あとがきです。
本当になんでこんなことになったのか。
作者は特別クラディールが好きというわけではないのですが、話の三分の一がクラディールの話になってしまいました。おまけに次の話も……。
いつも悩むタイトルですが次の話はすぐに決まりました。
次回ソードアートオンライン《神聖剣》と《神魔剣》第19話 「星を掴む者」
また見てね!
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。