ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
時間がかかってしまいました。申し訳ありません。
クラディールさん最大の見せ場になります(需要はあるのか?)
楽しんで読んで頂けたらと思います。
『俺達の魂は ”8つ” で1つだ! 楽に狩れると思うなよ!』
タクトの声が部屋に大きく響いた時、クラディールは驚きに目を見開いていた。思わずそむけていた目がタクトに引き寄せられる。聞こえた言葉は確かに「8人」だった。それは考えるまでもなくクラディールも入れた討伐隊の人数だ。
(俺は……俺は……)
思い出してみればあの少年はクラディールに一度も負の感情を向けなかった。クラディールが何度も討伐隊の解散を迫った時も、自分勝手な暴言をメンバーに向かってぶちまけた時も、あの少年はクラディールに真摯に向き合い、時に頭まで下げたのだ。
『プレイヤーの強さはレベルや装備じゃない。あんたが強い意思を持ってその剣を振るうなら、その一撃はどんな敵をも切り裂き、仲間の命を守ることが出来るんだ』
どうしてあの言葉に心を動かされたのか。それはクラディールがあの少年を知らないうちに認めていたからだ。自らの嫉妬の泥をいくら浴びせようとも、その眩しさを失わなかったあの少年を。
クラディールは強く拳を握り締めた。泥の中の微かな思いがゆっくりと浮上し始める。それは浮かび上がるごとに強くなり、決意となってクラディールの心を駆け巡った。
全身を蝕んでいた震えが消え、クラディールは立ち上がる。果敢にコレクターに挑んでいた討伐隊はもうタクトを残すのみになっていた。そのタクトが苦しげに膝をつき体を起こそうともがく姿を見たとき、クラディールの体は弾かれたように動いた。
震えて動かなかった足は嘘のように力を取り戻し、戦場との距離を詰める。一度は逃げ出したその場所に自分の意思で帰ってきた戦士は、コレクターからタクトをかばうように立ちはだかった。
「後は頼んだぜ――――クラディール」
そう言うとタクトはその場に倒れ気を失う。討伐隊全員の意思のこもった一言をその背中に受け止めながらクラディールは両手剣を抜き放った。
「カカカカカッ!」
一度は逃げ出したクラディールをあざ笑うかのようにコレクターの笑いが響く。しかし、クラディールはその笑いに動揺することなく剣で応える。踏み込んだ体を這うように沈みこませたクラディールはコレクターの大太刀をくぐり抜けると、その足元を両手剣で切り裂いた。そこに振り下ろされたコレクターの一撃を転がるように避けると、その勢いを利用してさらに足元へ斬撃を繰り出す。
地面を這うように移動し、転げ回りながら回避を続けるクラディールの姿は、お世辞にも格好の良いものではない。だが、クラディールは己を少しも恥じてはいなかった。
(どう見えてもかまうものか)
クラディールが他のメンバーに比べてレベル、装備、プレイヤースキルが劣っているのは確かであり、そのような状態でフロアボスと1対1で戦うのなら、なりふりなどかまってはいられない。ここまで小柄なコレクターの足元をあえて攻撃するようなメンバーはおらず、コレクターのAIは足元への攻撃に反応が鈍くなっていた。クラディールはそこをついたのである。
果敢に攻めるクラディールだが、それでも圧倒的に分が悪い。不安定な体勢からのクラディールの斬撃は、1撃2撃当てたぐらいではコレクターのHPを削りきれない。かといって時間をかければAIが下からの動きに慣れてしまい、クラディールは虫カゴ送りになるか最悪殺されてしまうだろう。
しかし、クラディールはもう逃げなかった。地を這い、転がりながらも体は前へ前へと突き進む。恐怖を乗り越えた戦士の攻撃がコレクターの足にヒットし、そのHPを少しづつ削り取っていく。
(こんなやつに――――)
クラディールは強い目でコレクターを睨み付ける。彼の心を強くしているのは「自分がフロアボスを倒したい」というものではない。その向こうで倒れている少年が視界に入るとクラディールは目を細めた。
(こんなやつに俺が認めた輝きを消させてたまるか――――!)
切りかかってくるコレクターの太刀を前転で回避すると、体勢を起こさぬまま体をひねり、上半身全ての力を乗せた一撃をコレクターの膝に叩きつける。偶然鎧の隙間にヒットしたのかコレクターが大きく体勢を崩した。
(ここだ!)
そのまま後ろに抜けたクラディールは、すぐさま立ち上がるとソードスキル《ソニックチャージ》のモーションを起こす。おそらくこれが最初で最後のチャンスだ。クラディールの腕では次にいつ鎧の隙間に攻撃が入れられるか分からない。そして、これ以上戦闘が長引けば間違いなくコレクターのAIは下からの攻撃に対応してくるだろう。
(この一撃で……!)
クラディールの意志に呼応するように両手剣が青いライトエフェクトに包まれる。突進系単発技であるこのソードスキルは、今の彼が放てる一番強力なスキルだ。システムアシストによって加速されたクラディールの体が矢のように飛び出し、振り向いたコレクターの胴に渾身の突きが炸裂した。
勝利を確信したクラディールだったが、次の瞬間その顔が凍りついた。コレクターのHPがまだ残っているのだ。クラディールの渾身の一撃は、運悪く鎧の一番硬いところにヒットしてしまいダメージが殺されてしまっている。
コレクターの体に剣を突き刺したまま硬直するクラディールに向かって、赤く光る大太刀が振り下ろされる。クラディールの脳裏に逃げ出した時の恐怖がよみがえった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかしクラディールは諦めない。ソードスキルに硬直する体を両手剣に預け、コレクターから目をそらすことなく全力で押し込んだ。コレクターのソードスキルがクラディールの体を切り裂こうとしたその時。
バキリと音を立ててコレクターの鎧が砕かれる。そのままクラディールの両手剣はコレクターの胴体を背中まで貫き、ついにそのHPを消し飛ばした。
「カ、カカカ、カ――――」
独特の笑い声が途中で途切れ、硬直した第十層フロアボス《ザ・ソウルコレクター》は、無数のポリゴン片となって砕け散る。
呆然とするクラディールに、そのポリゴン片は星屑のようにキラキラと光りながら降り注いだ。クラディールは手のひらでそれを受け止め、掴むように握り締める。その光が部屋の闇に溶けて消えるまで、その手が開かれることはなかった。
◆ ◆ ◆
タクトが目を覚ました時、始めに目に入ったのは床に降ろされた虫カゴだった。カゴの中央にある扉が開いており、中にはもう誰もいない。
「勝った……のか?」
「ようやくお目覚め? もう少し遅かったら帰っちゃうところだったわよ」
つぶやくタクトに気がついたエルナディータが、ため息をつきながら言う。
「そう言いながら虫カゴから解放された時、一番にタクトの所へ飛び出していったよなぁ」
「なッ……! ちょっとエギル!」
そう言ってニヤニヤと笑うエギルに、顔を赤くするエルナディータ。その隣のキリトとアスナが肩をすくめながら状況を説明し始める。
「フロアボスに捕らえられてたプレイヤーは全員街に戻ったぜ。そうそう、あの中にコペルがいたんだ。タクトによろしくって言ってたよ」
「あの鉄仮面さんもいつの間にかいなくなってたのよね」
確かにその場に鉄仮面の姿はなかった。アスナの言葉にキバオウがすっきりしない顔でエルナディータに問いかける。
「エルナディータ、アイツとパーティー組んだなら名前見たやろ。誰だったんやアイツは?」
エルナディータは少し考えるそぶりを見せると意味ありげに笑った。
「さぁ? 知らない名前だったし忘れちゃったわ」
その様子に納得のいかない顔で腕を組んだキバオウだったが
「まぁええわ。それよりも今はこっちの方を話合わんといかんしな」
そう言ってキバオウは少し離れたところにいるプレイヤーの方を見る。他の討伐メンバー達もそれにならってそちらに視線を移した。その先にいた男、クラディールは6人の視線から逃げるように顔をうつむかせる。
「もう一度話してもらうで。お前がどういうつもりでこの討伐隊に入ったのかをな」
キバオウの言葉にクラディールはポツリポツリと話しはじめる。自分が元々この討伐隊の邪魔をするためにメンバーに入ったこと、リンド派の幹部と取引し妨害の成功と引き換えに幹部の座につこうとしていたことを告白したクラディールは、タクトに向かって頭を下げた。
「一言お前に謝りたかった。許してくれとは言わない。経験値は返せないが、LAボーナスと取得コルは全部置いていく。本当にすまなかった」
それを見たキリトが困ったような顔をしながらタクトを見る。
「《ザ・ソウルコレクター》を倒した後に俺たちもクラディールに頭を下げられてさ。タクトを交えて対処を話し合おうってことになったんだ」
「話し合うまでもないわ。LAボーナスとコルを吐かせてさっさと追い出せばええんや。こんなやつ」
いの一番に辛らつな言葉を投げつけたのはキバオウだった。もとからクラディールを毛嫌いしていたキバオウは忌々しそうに目をつり上げる。
「でも、討伐前にLAボーナスはドロップした人のものと決めていただろう」
「それは命預けあったメンバーだったらの話や。こいつは邪魔するつもりだった上に一度逃げたんやで?」
見かねたエギルがフォローしたがキバオウは譲らない。他のメンバーも大なり小なりクラディールには不満を持っていただけにかばいきれないのだろう。その様子を見たクラディールが黙ってメニューウィンドウを呼び出し操作する。ストレージから取得金とLAボーナスを取り出そうとするその動きをタクトは手で遮った。
「キバオウ、分配に文句があるなら俺の取得金とドロップをだすよ。それで納得してくれないか」
「な、なんでそうなるんや! お前は関係ないやろ!」
突然のタクトの申し出にキバオウばかりかメンバー全員が驚いた。タクトは三白眼を丸くしているクラディールの方を見ると、さも当然というような口調で話す。
「あの時気を失ってた俺は良くて虫カゴ行き、下手をすれば死んでた。俺はクラディールに命の借りがあるんだ。それにクラディールは一度は逃げたけどちゃんと戻ってきた。一度逃げた場所にまた戻るには2倍の勇気がいると思う。そんな人間に俺はきちんと報いたいんだ」
「そうね、みんな虫カゴの中からクラディールの戦いを見てたでしょう? 半端な気持ちの人間にあんな戦いはできないわ。少なくともこの部屋に入ってからの彼は命を預けるに足るパーティーメンバーだったと思う。じゃなければ、あの時かばったりはしなかったしね」
タクトの言葉を後押しするようにエルナディータもクラディールを弁護した。
「ま、お前さんの負けだなキバオウ。俺は取り決め通りの分配でかまわないぜ」
「俺もそれでいい。最後のあのがんばりを見せられたらな」
「私も取り決め通りでいいわ。第一印象とはかなり違う人みたいだし」
エギル、キリト、アスナも2人の言葉に納得したようにうなずいた。キバオウは最後まで難しい顔をしながらうなっていたが、タクトがアイテムウィンドウを呼び出そうとすると
「わかったわ! なんやワイだけ悪者みたいやんけ。お前には尻拭いさせてしもた借りもあるし、今回だけは引きさがったる。ほな、お疲れ様や!」
そういって部屋の入り口へ歩いていく。その様子をみながら、クラディールは討伐メンバーにむかってもう一度深々と頭を下げたのだった。
◆ ◆ ◆
「ま、待ってくれ!」
解散した討伐隊は《マホロバ》に戻ってきていた。互いに短い挨拶と共にそれぞれ街に散っていく。その中でクラディールは離れていくタクトを呼び止めた。
「ん? どうしたんだクラディール」
足を止めて振り返るタクトにクラディールは走り寄る。隣を歩いていたエルナディータも怪訝そうな顔で立ち止まっていた。
クラディールにはどうしても聞きたいことがあったのだ。ここまでいくら考えても答えのでなかった疑問を口にだしてタクトにぶつける。
「どうしてお前は俺をかばってくれたんだ。最後の時だけじゃない。解散させようとしたり、逃げ出した時でさえ、お前は俺を一度も嫌な目で見なかった。どうしてなんだ」
心の底から搾り出すように声を出すクラディールとは対称的にタクトはなんでもない様子で答えた。
「そうだなぁ。嬉しかったから……かな?」
「え……?」
予想もしない答えにクラディールは今日何度目かの衝撃を味わった。タクトは照れたように頭をかきながら話しはじめる。
「討伐隊の募集の時にさ。知り合い以外誰も来てくれなくて俺落ち込んでたんだよ。そんな時クラディールが来てくれてすごく嬉しかったんだ。クラディールはそんなつもりじゃなかったのかもしれないけど、俺が8人で討伐しようと思ったのはクラディールが来てくれたからだったんだぜ?」
そう言って笑うタクトの顔をクラディールはまともに見ることができなかった。先ほどにも増した自責の念がクラディールの心を占め、逃げ出したい気持ちに捕らわれる。
その様子を見たタクトは、困ったような顔をすると静かにクラディールに語りかけた。
「そしてあんたは俺たちのために命がけでフロアボスを倒してくれた。だから――――」
タクトはそう言って顔を上げたクラディールに向かって手を差し出した。クラディールがその手を握るとそれを強く握り返す。
「今日は本当にありがとうクラディール。お疲れ様」
そう言うと手を離し、エルナディータと共にクラディールから離れていく。その背中を見送りながらクラディールは差し出したままの手を握り締める。そして目を閉じてフロアボスを倒した時に見た星屑を思い出した。クラディールは握り締めた手を誇らしげに高々と振り上げる。
この手はフロアボスを倒し、あの少年を守ることができたのだ。それは間違いなくクラディールが生まれて初めて掴んだ「星」であった。
はい、あとがきです。
第十層フロアボス戦はこれにて終了です。本当にクラディールばっかりの話になってしまいました。もしかして作者はダメ人間が好きなんでしょうか。いやいやまさか……。
別人のようになってしまったクラディールですが、またどこかで登場させたいと思っています(需要があるかは謎ですが)
次回からは一つ幕間を挟んで次のエピソードになります。
少し忙しくなってきましたが、がんばって書きますのでお付き合いください。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。