ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
ここから新エピソードになります。
以前、原作を含む場合は原作の題名を付けると書きましたが
展開的に題名とあまりにもかけ離れていきそうなので、独自の物をつけました。
楽しんでもらえると嬉しいです。
月夜に差す影
《祈祷者の森》にPOPする狼型モンスター《フォレストウルフ》が振り下ろす爪の一撃をキリトは危なげなく回避し、その足を斬りつけて体勢を崩す。
「テツオ。スイッチ!」
その声に反応したメイス使いのテツオが、左手に装備した盾を構えながらウルフとの距離を詰め、その頭部にソードスキル《クライムクラッシュ》を叩き込んだ。
「よし、サチ! スイッチだ!」
「う、うん!」
テツオの声に、ギルドの紅一点である片手剣と盾を装備した少女サチがおずおずと前に出るが
「グルガァァァァァァァァァァ!」
「ひッ!」
モンスターの咆哮にサチの体が硬直する。その隙を見逃さず高く跳躍し、サチにその牙をつきたてようしたウルフは、体を割り込ませたキリトの斬撃により弾き返された。
キリトは最大威力のソードスキルでトドメを刺したいところをぐっと耐え、基本斬撃技《スラント》でウルフの胴体を切り裂く。続く棍使いケイタの一撃がウルフのHPを削りきった。
モンスターがポリゴンにって消えるのと同時に、槍使いのササマルのレベルが17から18に上がるアナウンスがウィンドウに現れる。
「よっしゃあ! レベルアップだ!」
「おめでとう。ササマル!」
「やったな!」
喜ぶササマルが短剣使いのダッカーとハイタッチする。ササマルの周りに集まったパーティーメンバーは1匹のモンスターを倒し、レベルが1つ上がっただけのことに大盛り上がりだった。キリトも求められたハイタッチにぎこちない笑みを浮かべながら応える。
彼等は《月夜の黒猫団》というギルドのメンバー達だ。彼等はいわゆる「攻略組」ではなく、最前線から10層下辺りを狩場にしている「中層プレイヤー」だった。いや、もう彼等というのは他人行儀だろう。キリトもこの《月夜の黒猫団》の一員なのだから。
以前下層へ素材調達のために降りてきたキリトは、このパーティーがモンスターの群れに追いかけられている所に遭遇した。群れていたとはいえその層のモンスターに今更キリトが苦戦するわけもなく、救出に成功したところでギルド入らないかと誘われたのだ。
キリトは迷った。攻略組であるキリトのレベルは黒猫団メンバーの平均レベルを20は上回っていたし、始まりの街でクラインを見捨てた自分には、今更ギルドに入る資格などないと思っていたからだ。しかし、黒猫団のアットホームな雰囲気はキリトが引きずる孤独感をことさらに刺激し、気が付くと首を縦に振っていたのだった。それからは自分のステータスとスキルを隠しながらこうして行動を共にしているのである。
「サチ、盾の陰に隠れてれば大丈夫だって。怖がることないんだぞ」
ギルドリーダーであるケイタの言葉にサチは小柄な体をさらに小さくする。最近まで長槍使っていたサチだが、前衛がテツオとキリトしかいないパーティーをより安定させるため、盾剣士に挑戦しているところなのだ。
「でも、いきなり接近戦やれって言われてもおっかないよ」
サチは盾で顔半分を隠しながら首を振る。少し臆病なところがあるサチは、モンスターの見た目や鳴き声に他のプレイヤー以上の恐怖を感じるようだった。キリトは申し訳なさそうに下を向いてしまったサチを励ます。自分達「攻略組」が最前線でリソースを食い荒らしているその影で、こうしたプレイヤー達は恐怖に震えているのだ。
「焦ることないさ。俺とテツオでも十分前衛は回るし、少しづつ慣れていこう」
「うん、ごめんね。キリト」
話がまとまり、メンバー6人が狩りを再開しようとしたその時。キリトの耳が聞きなれない唸り声を感じ取った。見知らぬイベントは予期せぬ幸運かその逆かだが、この地の底から響くような唸り声はどう考えても後者としか考えられない。しかも、それがどんどんこちらに近づいてくるではないか。
他の黒猫団メンバーもその声に気が付いたようで、不安げに辺りを見回し始める。サチに至っては目に見えてガタガタと体を震わせていた。
「サチを中心に円陣を組もう! どこから来ても対応できるようにするんだ!」
その場から離れることも考えたが、満足に動けそうにないサチを見たキリトはその場で迎え撃つ覚悟を決める。そうしている間にも唸り声は近づいてきていた。一切の理性が感じられないその声から察するに余程凶暴なモンスターに違いない。キリトはいざとなれば隠していた上位剣技を使ってでもメンバー5人を守るつもりで片手剣を握りしめた。唸り声は森に反響して方向がよくわからない。黒猫団全員の緊張感が頂点に達した時、キリトの正面の木陰がガサリと鳴り、何かが飛び出してきた。それはキリト達の前まで来ると、一瞬その目が合う。
「ピギィ……」
小さく鳴いたそのモンスターは小さな羽を生やしたピンク色のブタだった。プルプルと震えるその様子はとても凶悪なモンスターには見えない。黒猫団の間で張り詰めていた緊張の糸が一気に緩んだ。
その隙を狙っていたのかいなかったのか、完全に油断しきっていたところに木陰を突き破って「本命」が姿を現わす。
「ウオオオオオオオオオオオラアアアアアアアアアアアアアアア!!」
雄叫びと共に飛び出してきたのは、全身緑色の人型モンスターだった。頭部が葉っぱで隠れており手にはぎらつく両手剣を持っている。キリトでも見たことがないモンスターだった。モンスターはわき目も振らずに震えているブタに突撃すると、両手剣で真っ二つにする。
「ウッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
奇妙な鳴き声を上げた謎のモンスターは今度はこちらに向き直った。キリトの背中に冷や汗が流れる。先ほどの凄まじい踏み込みと一撃でブタ型モンスターを倒した攻撃力を見るにかなりの強敵だ。キリトが持てる全ての力を出し切っても勝てるかどうか分からない。自分が命がけで時間を稼ぎ、他のメンバーを逃がすしかないと考えたキリトは、そのモンスターに向かって1歩踏み出そうとしたところで
「なんちゃってなー。ビックリしたかキリト?」
モンスターの発した一言に目が丸くなる。キリトはそのモンスターのカーソルの色に気が付き、体の力が一気に抜けるのを感じた。続いて自分を精神的にここまで追い込んでくれたその相手に、沸々とした怒りが湧き上がってくる。キリトはニヤリと笑いながらモンスターに向かって剣を構えなおした。
「俺にモンスターの知り合いはいない。みんな騙されるなよ。これはきっと突発的なクエストだ。こいつを倒せばさっきのブタの親か何かが出てきて、敵討ちのお礼をくれるに違いない」
「ちょ、キリトなんのつもりだ?! 後ろの皆さんもどうして武器を降ろしてくれないのかな? ホ、ホラ、凶悪なブタモンスターならこの正義のHAPPA仮面が倒したからね? 森の平和は守られました! じゃあ俺は光合成しなきゃいけないからこのへんで……」
そういって木陰に戻っていこうとするモンスターの前にキリトはすばやく回りこんだ。わざと神妙な顔をしながら、片手剣の切っ先をモンスターに向けると不敵な調子で言い放つ。
「そう言うなよHAPPA仮面。光合成ならここでしていけばいいじゃないか。いろんな光をプレゼントするぜ?」
「それってソードスキルのライトエフェクトのことだよね?! 殺る気満々だよこの人! なんか後ろの女の子泣いてるしどうしたらいいの俺?!」
黒猫団包囲網がうろたえまくる緑モンスターにジリジリと迫る。
「そこまでにしてあげて頂戴」
聞こえた声にそちらへ目を向けると、金色の長い髪を三つ網で一つにまとめた少女が木陰から出てくるところだった。少女は青い瞳をジトっと細めながら盛大にため息をつく。
「認めたくないけれど。ええ、ほんっとうに認めたくないんだけど、ソイツは私の連れなのよ。あなたもそろそろ悪ふざけはやめなさい」
そう言われたモンスターは「あ、これがあるからか!」と声を上げながら、頭部を覆っていた葉っぱを取り去った。そこに予想通りの顔を確認し、キリトとその少女エルナディータは改めて深いため息をついたのだった。
◆ ◆ ◆
その後黒猫団メンバーになんとか武器を収めてもらい、キリト達は黒猫団の拠点である第十一層の街《タフト》の宿屋に戻ってきていた。
「いや、ほんと悪かった。まさかあそこまでビックリしてくれるとは思わなくてさ」
そう言って宿屋までついてきた謎のグリーンモンスター改めタクトは、深々と頭を下げた。
「ビックリどころの話じゃない。こっちは命の覚悟もしたんだぞ」
「あのまま退治されてた方がよかったかしらね。惜しいことしたわ」
「洒落になってないぞ。エル……」
疲れた声を出すキリトと厳しい突っ込みを入れたエルナディータに、タクトは顔を引きつらせている。
「で、どうして攻略組のあんた達がこの中層にいるんだ? しかもタクトはそんな恰好までして」
そう言ってキリトは若干、いやかなり引きながらタクトの方を見た。フィールドから変わっていないタクトの恰好は――――緑の全身タイツだった。所々に葉っぱのようなものがついており、これに先ほどの葉っぱのマスクをかぶればどう見てもモンスターである。周囲のドン引きな視線を気にすることなくタクトは見せつけるように胸を張った。
「よくぞ聞いてくれました! この装備こそ俺が最前線で手に入れた《ブリリアントフォレストスーツ》だ! 森の中での高い隠蔽効果もさることながら防御力も高い! セットの《エクセレントブッシュマスク》をかぶればもう気分は森の王者だぜ! さぁキリト、もう1セットあるからお前も……」
「いらない。それと装備の説明じゃなくてなんでこの層にいるのかを聞きたいんだが?」
「そんなこと言うなよ~。エルはなぜか着てくれないんだよ~」
「着るくらいなら死んだ方がマシね」
騒がしいやりとりを続ける3人だったが、口を開けながらポカンとしている黒猫団メンバーに気が付き、キリトが紹介を始める。余計なことを口走らないように目くばせをした上でだ。
「ああ、この2人は俺が始まりの街で知り合ったタクトとエルナディータだ。俺と違って攻略組だから会うのは久しぶりなんだけどさ」
「何言ってるんだキリト。この前もフロアボス討伐で一緒だったじゃ――――ぶべらっ!」
「ええ、とても久しぶりねキリト。また生きて会うことができて嬉しいわ」
案の定余計なことを口走るタクトを裏拳で黙らせたエルナディータは、極上のスマイルを浮かべその場を取り繕う。それ以上の詮索を頑なにこばむその笑顔に、黒猫団メンバーは冷や汗をかきながら自分達の自己紹介を始めた。最後のサチが自己紹介を終えると、タクトはばつが悪そうに頭をかきながら声をかける。
「黒猫団のみんなも悪かったな。特にサチは泣かせちゃったし」
「う、ううん。私が臆病だっただけだから……」
「よし! お詫びと言ってはなんだが「アレ」を食べさせてやるよ。ちょっと待ってな」
そう言うとタクトはキッチンの方に歩いていく。黒猫団のケイタはそれを目で追いかけながら傍らのエルナディータに尋ねた。
「あの、エルナディータさん。「アレ」ってなんですか?」
「敬語はなしでいいわケイタ。私たちがこの層で何をしていたかの「答え」よ」
しばらくしてキッチンから戻ってきたタクトの両腕には大量の料理の大皿が器用に乗せられていた。状況が呑み込めない一同を尻目にテーブルに次々と料理が並べられていき、あっという間にテーブルの上が様々な料理で埋め尽くされる。
「タクトがアルゴから情報を買ったのよ。アインクラッドで初めてのA級食材がこの森のモンスターから取れるってね。それでまだ情報が広まってないうちに取りにきたのよ」
「そう、そしてこれがアインクラッドで初めて発見されたA級食材《フェザーピッグの肉》ってわけだ」
タクトが最後の一皿をテーブルの真ん中にドンと置く。森でタクトが両断したブタがA級食材モンスターだったわけだ。キリトはホカホカと湯気を上げるその皿を覗きこむと感嘆の声を上げた。そこには肉汁たっぷりのポークステーキがうまそうな香りを放ちながら盛り付けられている。その見た目からは高い味覚パラメータをうかがうことができ、キリトは思わずゴクリと喉を鳴らした。自分も席についたタクトが手を合わせながらテーブルにいる全員を見渡す。
「さぁ、食べようぜ。俺はこの日のために1週間「肉絶ち」をして備えてたんだからな」
「それであんな唸り声上げてたのか。タクトらしいというか……」
キリトは苦笑いしながら手を合わせ。すでにものすごい勢いで食べ始めているタクトを横目に料理に箸をつける。他の黒猫団メンバーも遠慮がちに料理をつつき始めた。
「なんだこのポークステーキ! うますぎる!」
「他の料理もすごくおいしい!」
「SAOに来てこんなうまいものが食べられるなんてなぁ」
料理を食べた途端、黒猫団メンバーの顔がほころんだ。キリトも数々の料理、特にポークステーキの舌の上でとろける様なうまさと、発見されたばかりのA級食材を調理できるタクトの《料理》スキルの高さに驚くばかりだ。今現在A級食材を手に入れることができたとしても、それを調理できる者がどれだけいるだろうか。そう考えると目の前の一皿の価値は計り知れない。そのようなものを惜しげもなく振舞ってくれたタクトに、キリトは深く感謝した。
「なぁタクト、攻略組の話を聞かせてくれよ。僕たちも、がんばっていずれは攻略組の仲間入りをしたいと思ってるんだ」
「ああ、俺たちも全プレイヤーを守ろうって気持ちは負けないつもりなんだぜ」
すっかり打ち解けた黒猫団のササマルとダッカーの言葉に、タクトは笑みを浮かべると椅子の上に登り剣を構えるポーズを取る。
「ようし! じゃあ第十層のフロアボス討伐の話をしてやるよ。あの時は8人しかメンバーがいなかったんだが、俺の大活躍で……」
「あなたは肝心なところで気を失ってたじゃないの」
「エルナディータさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 本当のこと言っちゃいやぁぁぁぁぁぁぁ!」
涙目で抗議するタクトに、周囲から笑いが巻き起こる。さらに熱を帯びるタクトの話に盛り上がる黒猫団メンバーの中で、サチの顔にだけ微妙な影が差していることに、この時はまだ誰も気がついていなかった。
はい、あとがきです。
原作と場所やレベルが若干違うのは、今後の展開のためにキリトと黒猫団の出会った時期を、原作より一ヶ月ほど前という設定にしているためです。原作ではSAO開始5ヶ月でキリトは黒猫団に会うことになっていますが、この小説では4ヶ月で黒猫団に会っているということになるわけです。
これが後々どういう展開に結びつくのか、また読んで確かめて頂ければと思います。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
感想をお待ちしています。