ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第22話です。
新着活動報告を書いていくことにしました。
主に話を投稿する際に書いていこうと思います。
この小説を読んでくれる人が増えてくれるといいなぁ。


月夜に震える猫

 突如始まった宴会はタクトとエルナディータの攻略組での話を肴に盛り上がり、あっという間に深夜になっていた。そろそろ上の階層に戻るという2人を、キリトは黒猫団メンバーと一緒に《タフト》の転移門まで見送りに来ている。転移門の前までくると2人がこちらを振り返った。ちなみにタクトはエルナディータの力づくの説得により、例のスーツから通常の装備に着替えている。

 

「でも、よかったなキリト。入りたいギルドが見つかってさ」

「そうね、いいギルドだと思うわ。色々複雑みたいだけどがんばってね」

 

 そう言って笑うタクトとエルナディータを見て、キリトの胸にはこみあげるものがあった。思えば《ネペントの森》で出会ってから、この2人は何かと自分を気にかけてくれている節があった。

 今回のことも出会ったのは偶然とはいえ、貴重なA級食材を提供して開いてくれた宴会は、新参者の自分と黒猫団の間にあるぎこちなさを多少なりとも緩和してくれたのは間違いない。

 

「2人共今日は本当にありがとな」

 

 ギルドに入る前も自分は決して『独り』ではなかったことを痛感し、キリトは言葉以上の感謝を込めて礼を言った。後ろに付いてきていた黒猫団メンバーも口々に2人に声をかける。

 

「ポークステーキうまかったぜ。俺達が最前線に追いついたらまた何かご馳走してくれよな」

「そうだな! 最前線にS級食材のご馳走が待ってると思えば、明日からのレベル上げにも気合が入るってもんだよなぁみんな!」

「おう! あのうまさを知ったからには、S級食材を食べるまでは死んでも死にきれないってな!」

「おいおい、僕達は人参を鼻先にぶら下げて走る馬じゃないんだぞ……」

 

 ダッカー、ササマル、テツオの言葉にケイタが苦笑いを浮かべた。タクトは笑いながら「おう、任せろ!」と言うと、手を振ってエルナディータと転移門へ歩き出す。

 

「あ、あの……!」

 

 しかし、サチの一言がそれを遮った。サチは思いつめた表情で続く言葉を言うべきか迷っていたが、意を決して口を開く。

 

「2人は……最前線にいて怖くないの?」

 

 キリトは下を向き両手を握りしめるサチを見つめた。その様子を見るに、宴会の時からずっと聞きたかったことだったのだろう。中層のモンスターが相手でもあれだけ怖がっていたサチにとって、最前線のモンスターを相手にしているタクトとエルナディータがどのような気持ちで戦っているのか知りたいと思っても不思議ではない。その場の全員の視線がサチに集まり、妙な沈黙が流れた。

 

「ううん……やっぱりいい。私、先に帰ってるね」

 

 そう言ってサチは首を振ると、タクトとエルナディータの答えを待たずに一人で走っていってしまう。突然のことで、とっさに誰も追いかけることができなかった。

 

「あいつ最近盾剣士への転向がうまくいってないからナーバスになってるんだと思う。気にしないでくれ。後で僕達が話を聞いておくからさ」

 

 わざと明るい声をだしてフォローするテツオの言葉に、サチが消えた方向を気にしながらも2人は上の層へ転移していった。それを見送るとキリトはリーダーのケイタに尋ねる。

 

「サチを追わなくてよかったのか。ケイタ?」

「しばらく一人になりたいんだと思うんだ。帰ったら盾剣士への転向のことも含めてみんなで話し合おう」

 

 そう言うと他の黒猫団メンバーも宿に戻り始める。キリトはすぐに追いかけた方がいい気がしたが、サチとの付き合いはケイタ達の方が長い。彼等が宿で話を聞くというならその方がいいのだろう。

 キリトはサチが走り去った方向をもう一度見ると、向きを変えて宿の方向へ歩き出した。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 転移門から走り去ったサチは、宿には帰らず街の水路に架かる橋の下に座り込んでいた。夜もふけており、プレイヤー達もみんな宿へ引き上げている時間だ。辺りに人の気配はなく、立っている街灯の光がサチの沈んだ表情を淡く照らし出している。

 

(悪いことしちゃったよね……)

 

 折角仲良くなれた相手に不躾な質問をして、しかも答えも聞かずに逃げてしまった。失礼なやつだと思われたに違いない。

 しかしサチはあの時、自分で尋ねておきながら答えを聞くのが怖くなったのだ。タクトはおそらくサチの質問に「何も怖くはない」と返すだろう。それを聞いてしまったら、たかが中層で怖がっている自分がすごくみじめな存在に思えてしまう。サチにとってそれは耐えがたいことだったのだ。

 SAOが茅場晶彦によってデスゲームと化した時、正直サチは《はじまりの街》から出たくはなかった。HPが0になれば死んでしまう世界でモンスターと戦うなど怖くてできるわけがない。しかし、一緒にログインしたパソコン研究会のメンバーであるケイタ達がフィールドに出ると言った時、街に一人で置いて行かれることも怖かったのだ。

 仕方なく街の外に出たサチにとってこの世界は地獄だった。襲い掛かってくるモンスター達、プレイヤーを標的にするPK達、最近は特殊で強力なNPCも出現しているという話も聞いている。その全てが自分を狙って物影から見ているような気持ちになりよく眠れない夜が続く。サチの心は恐怖に削られ限界にきていた。

 

(でも……彼がきてからは……)

 

 サチは最近ギルドに入った少年の姿を思い浮かべる。その少年は強く、いつもパーティーを、サチを助けてくれる。狩場の情報にも精通しており、彼が入ってから黒猫団はかなりのスピードでレベルアップしていた。このままいけば最前線に追いつくのもそう遠いことではないだろう。最前線に行くなど怖くて仕方ないが、彼が、キリトが守ってくれるなら私は――――。

 その時サチは誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。考えてみればかなり時間がたっている。心配したギルドのメンバーが探しに来てくれたのだろう。

 

「誰? キリト?」

 

 サチは近づいてくる気配に向かって呼びかける。もしキリトだったらこの胸の不安をを打ち明けよう。そして彼が「君は死なない」と言ってくれれば私は大丈夫だ。

 気配はサチの問いかけには答えずに近づいてくる。他のメンバーなのかもしれない。心配をかけたから怒っており、それで何も言わないのだろうとサチは考えた。

 

「ご、ごめんね。今帰るか……ら……」

 

 近くで立ち止まった気配を察したサチは、謝りながら伏せた顔を上げ、迎えに来てくれたであろう黒猫団メンバーを見る。しかしその目は恐怖に見開かれた。

 

「いいや。お前はもう帰れねぇよ」

 

 まずサチの目に焼き付いたのは血に浸したかのような紅のフードだった。紅のフードは全身を覆っていて顔も見えないが、体格と声で自分と同じぐらいの歳の少年であることがうかがえた。

 サチの体がガタガタと震えだす。なぜならサチは知っているからだ。SAOに出回っている新聞の号外でその存在を知り、その夜は恐怖で眠ることができなかった。紅のフードをかぶり、第十層で圧倒的な強さを見せつけた最悪のNPC。

 

「クリムゾン……ナイツ……」

「へぇ、知ってるようだな。そういえば前にコノハが馬鹿正直に名乗ったんだっけ? ならこれからお前がどうなるのかも分かるよなぁ?」

 

 そう言うと紅のフードはサチに近づいてくる。

 

(殺される!)

 

 サチはとっさに立ち上がろうとするが、恐怖に足が思うように動かず壁に沿ってズリズリと後ずさるので精一杯だ。死神はあっさりサチとの距離を詰めると、フードから出された異様に白い手がサチの首筋を掴み、その体はそのまま宙に持ち上げられる。サチの口から苦しげな息が漏れるが、その手はかまわずギリギリとその圧力を強めていく。ぞっとするような手の冷たさと、これから殺されることへの恐怖にサチはあっさりと屈服し、為すすべも無く空中に吊り上げられた。

 

「チッ! 少しは抵抗してくれりゃ楽しめるものを、武器も出さねぇなんてな。アルベリヒの野郎つまらねぇお使いさせやがって」

「い……や……死にたく……ない」

「ハッ! 死にたくないくせにまともな抵抗の一つもできないってかぁ? お前はな、口では「死にたくない」とか言いながらもう諦めてんだよ自分の命を。そんなザマじゃどの道この先長くなかっただろうぜ。じゃあ、あばよ」

 

 そう言った紅フードの少年の手に赤い大剣が現れる。焔色に輝く刀身を片手で一振りすると、その切っ先がサチに向けられた。ここは《圏内》と定められている街の中あり、普通に考えればあの剣が自分を傷つけることはありえない。しかし少年から発せられる殺気と剣から感じられる禍々しさはサチに更なる恐怖を与え、とうとう限界を迎えたサチの意識はゆっくりと闇に沈んでいく。

 

「……と言いたいところなんだがな。お前が諦めた命でも欲しいヤツがいるらしい。残念だが俺はお前の恐怖に歪んだ顔が見られただけで満足してやるよ。よかったなぁ、死なずにすんでよ」

 

 少年の口が何かを言っているが、サチの耳にはもう何も聞こえていなかった。最後に見えたのは一切の光が消えうせているかのような少年の瞳。

 

「まぁ、死んだほうがマシだと思うかもしれなねぇが……な」

 

 その瞳の闇に吸い込まれるようにサチの意識はブツリと切れた。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 キリトは《タフト》の街を走っていた。しばらくは宿でサチの帰りを待っていたのだが、あまりにも遅いためさすがに心配になり探しに出たのだ。ケイタ達も一緒に出たのだが、キリトは隠していたスキル《追跡》を使うため単独行動し、サチの足取りを追った。

 しかし《追跡》スキルにより浮かび上がった足跡は、水路に架かった橋の下でぷっつりと途切れていたのだ。辺りを見回しても来た道以外に足跡はどこにもついていない。

 

「どういうことだ。どうして足跡が途切れている?」

 

 こうなってはもう街の中をしらみつぶしに探すしかないと考え、せめて外には出ていないことを祈りながら走りまわっているのだが、どこにもサチの姿はない。なぜか心の奥から湧き上がってくる嫌な予感を拭い去るため、最悪のケースを覚悟しながらメニューウィンドウを呼び出し、ギルド画面にあるサチの名前を確認しようとしたところで、視界の左上にメールの受信アイコンが出たことに気がついた。送り主はケイタであり、その内容を読んだキリトは急いで宿に引き返す。

 高い敏捷値をフルに使い、全速力で帰ってきたキリトは宿の扉を勢いよく開いた。

 

「わぁ、ビックリした! どうしたのキリト?」

「サ、サチ……よかった」

 

 そこにいたのは見慣れた黒髪の少女サチだった。勢いよく開いた扉に驚いたのか目を丸くしてキリトを見ている。その普段どおりの様子にキリトは体の力が抜けていくのを感じた。ケイタからのメールには「サチが見つかった」と書かれてはいたが、本人を前にするとドッと安心感が押し寄せてくる。キリトは自分の悪い予感が当たらなかったことを心から喜んだ。

 

「こいつってば俺たちが一通り探して宿に帰ってきたらもう中にいて『あ、おかえり』なんて言うんだぜ。全くお騒がせだよなぁ」

「ごめんね。メールでも送ればよかったんだけど、ちょっと気まずくて……」

 

 ダッカーはサチの頭をポンポンと叩きながら苦笑いする。サチは首をすくめながら申し訳なさそうにキリトの方を見た。

 

「ごめんねキリト、心配かけて。タクトとエルナデイータにも悪いことしちゃった」

「いや、あれくらいで気を悪くする奴らじゃないよ。気にしないでいいさ」

 

 そう言うとキリトはギルドリーダーであるケイタの方を見る。サチが気に病んでいる盾剣士への転向の件を早いうちに話し合うべきだと思ったのだ。走り去った時の様子から見ても、サチはモンスターと戦うことに自分達が想像する以上の恐怖を抱いているのが分かる。これ以上モンスターとの接近戦を強いられる盾剣士への転向を強要するのは酷というものだろう。

 キリトの意図を読み取ったケイタは一つうなずくとサチに向かって話しかける。

 

「サチ、無理させてごめんな。今後はテツオとキリトに前衛をがんばってもらうことにするからさ。それで足りないようなら僕が盾剣士に転向するよ。だからお前は今まで通り槍を……」

「ううん、私ならもう大丈夫。明日からも盾剣士がんばるから心配しないで」

 

 サチの口から出た予想外の一言に黒猫団メンバーは驚いた。あれほどモンスターとの接近戦を怖がっていたのが嘘のようにサチは笑みさえ浮かべながら大丈夫だと言う。

 

「ほ、本当に大丈夫なのかサチ? 俺のことは気にしなくてもいいんだぞ」

「本当に大丈夫だってば。折角ここまでがんばってきたのにここでやめたらもったいないよ。それに、危なくなったらキリトが守ってくれるでしょ? もうモンスターなんて怖くもなんともないよ!」

 

 無理をしているのではと不安になったキリトは念を押すが、サチは笑いながら力強くうなずいた。その表情には無理をしている様子は見られない。

 キリトは今までのサチの怖がり様や、走り去った時に表情を思い出す。あの深く思いつめたサチがこの短い時間でここまで心変わりすることなどあるのだろうか。キリトの胸に、去ったと思っていた嫌な予感がむくむくとよみがえってくる。

 

「サチ……何かあったのか?」

 

 キリトはその予感を懸命に否定しながらサチに問いかけた。サチは一瞬不思議そうな顔でキリトを見ると。

 

「ううん。何も――――なかったよ」

 

 と言ってサチは明るく笑ったのだった。

 




はい、あとがきです。
原作とはこの時点でかなり違ってきております。
このエピソードはキリトがメインで進んでいくため再構成っぽい話になる予定です。もちろんオリ主も出てきますが、影が薄くなってるかも。
原作に《クリムゾンナイツ》を介入させるという今回の試みが吉と出るか凶と出るか、全ては作者の腕次第(すごく不安)。どうなるのか作者にもわかりませんw

ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。
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