ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
遅くなって本当にすみません。
そして書きたいことが増えた結果、終わりませんでした。
キリトとジュダの叫びを合図にするかのように、部屋の壁からにじみ出るように無数のモンスターが湧き出す。それはシルエットこそ人型のようだったが、影のようにのっぺりとしていてその色は全ての光を拒絶しているかのように真っ黒だった。
「安心しな。ここからは俺とこいつら《闇人形》が誰一人退屈なんてさせねぇからよ。存分に叫び、苦しみ、そして死んでくれ」
ジュダが指を鳴らすと部屋の入り口の扉が音を立てて閉まり、湧き出した《闇人形》が一斉に討伐隊に襲い掛かった。恐怖にかられて転移結晶を使う者もいたが、案の定無効化空間になっていて転移の声は部屋に響くばかりだ。
「取り巻きは支援隊に任せるんや! 壁役部隊は本命にあたれぇ!」
キバオウの指示が飛び、鎧に身を固めた壁役部隊が盾を構えながらジュダに突撃する。
迎え撃つジュダはここで初めてフードを脱ぎ捨てた。まず目に入るのは真っ白な髪の毛。肌も一切の光を浴びていないかのように白かった。やせ気味の体躯を真っ黒な鎧が包んでいる。
「ハッ! いいねいいね! こっちもいくぜ《グラウンドオブペイン》!!」
ジュダの大剣が突如漆黒のライトエフェクトに包まれ、勢いよく地面に突き立てられた。突き刺した剣を中心に黒い衝撃波が放射状に地面を走る。まさかそんな間合いから攻撃が来ると思っていなかった壁役部隊は、衝撃波をまともに食らっていた。そのHPが大きく減ると同時に、動きが硬直する。その頭上にはスタン状態のアイコンが出ていた。
「ハハッ! カモだぜこりゃ。《エグゼクトザイン》!!」
再び漆黒の光を放つ焔色の大剣が、壁役部隊の一人を切り裂く。上段からの袈裟斬りの一撃と下段から切り替えした逆袈裟斬りの一撃をまともに受けたそのプレイヤーは、X字に切り裂かれた己の体を信じられないといった目で見つめながらポリゴンになって砕け散った。ジュダはもうその様子には目もくれず、別のスタンしたプレイヤーに襲い掛かる。スタンが解けるまでの間に、6人いた壁役部隊は全てジュダの大剣によってポリゴンと化していた。
「うそやろ……攻略組の壁役部隊がこうも簡単に!?」
「ノロすぎて動きが止まって見えるぜ。もう少し食いでのある奴はいねぇのかよ」
そう言ったジュダが次の獲物を探そうとしたその視線を、両手剣を構えたプレイヤー――――タクトが遮った。
「これ以上は誰も殺させない。ここからは俺が相手だ!」
「分かってねぇな。次に死ぬのはテメェなんだよ!」」
タクトの挑発にジュダが地を蹴る。瞬く間にその間合いを詰め、その大剣をタクト目掛けて振り下ろした。タクトは反応できないのかジュダを見つめたまま動かない。
「テメェの力はさっきの一撃で分かった。テメェじゃ俺には勝てねぇよ」
タクトの頭にジュダの剣がヒットする刹那、それは横から割り込んだ盾によって受け止められていた。
「誰も俺『一人』で相手をするなんて言ってないぜ」
そう言ってニヤリと笑ったタクトの前でジュダの攻撃を受け止めたコペルは、右側から片手剣の一撃を胴へと放つ。第十層以降頻繁に討伐隊に参加するようになったコペルは、今ではタクトの討伐隊パーティーにおける固定メンバーになっていた。
「本当に避けないんだもんなぁタクトは。どうかしてるよその心臓」
「誰かさんと同じで毎回無茶するんだから」
コペルの声に同意したのはタクトの影から飛び出したアスナだ。そのままスピードを殺すことなくジュダの左側から閃光のような突きが三連続で放たれる。右側からのコペルの一撃を受け止めていたジュダは、一瞬反応が遅れ、攻撃がその体をかすめた。
「いい突き出すじゃねぇか。こいつはご褒美だ《エグゼクトザイン》!!」
漆黒のライトエフェクトに包まれた大剣がアスナを切り裂かんと迫る。重装備の壁役部隊を易々と葬ったその一撃は、エルナディータの盾に受け止められていた。《闇人形》が湧き出した時点でプレイヤーの視界には《クリムゾンクエスト》のアイコンが現れている。《神聖化》された装備に身を包んだエルナディータは、漆黒のライトエフェクトを放つ剣を見ながら目を見開いた。
「このソードスキルは……」
「お前がコノハの言ってた《神聖剣》だな? 面白れぇ、その盾ごとブった斬ってやらぁ!」
そう言ったジュダが力任せに押し込んでくる大剣の刃を、エルナディータは盾の上で滑らせ間合いを開ける。とその大剣の鍔元に盾を構えた鉄仮面が勢いよく体当たりした。
「うおぉ!?」
叫んだジュダの大剣が大きく横に弾かれる。そして飛びのいた鉄仮面の後ろから、タクトがジュダの懐に飛び込んでいた。
「らあぁ!」
タクトの両手剣が青いライトエフェクトを放ち、ソードスキル《フリクションボルト》が発動する。上段から振り下ろされた斬撃は途中で上に切り替えされ、再び斬り下ろされる。雷のマークのような軌跡を描いたタクトの剣は、ジュダの肩口と脇腹を切り裂いた。しかし浅い。
ジュダは弾かれた大剣の勢いに逆らわず大きく飛びのいていたのだ。タクト達とジュダの間合いが開く。
「なかなかやるじゃねぇか。特に《神聖剣》は聞いてた通りの硬さだぜ。俺の《暗黒剣》を完璧に受け止めやがった」
ジュダの言葉にエルナディータの予感は確信に変わる。
《暗黒剣》
それはエルナディータの《神聖剣》、コノハの《抜刀術》と並ぶ10種のユニークスキルの一つだ。その性能は普通のソードスキルを凌駕し、一つに付き一人に与えられるソードスキルということになっている。
ただ、この《暗黒剣》に似たスキルをエルナディータは一つ知っているのだが……。
「なんて奴だ。5人がかりでかすり傷がやっとだよ」
「泣き言は聞かないわよコペル。暗黒剣は私が引き受けるわ。だから――――」
コペルを叱咤するエルナディータの言葉が不意に途切れる。その視線はジュダではなく、その向こう側に吸い寄せられていた。
(これはもしかしたら……)
エルナディータの脳裏にある考えが浮かんだその時。タクト達の横を黒い人影が稲妻のような速度で通り過ぎた。タクトが止める間もなく、キリトは瞬時にジュダとの間合いを詰めると右手に持った片手剣を繰り出す。
「よくもサチを! 殺す! 殺してやる!」
「いい殺気じゃねぇか。来いよ! きざんでやらぁ!」
ジュダが大剣の一撃を返すが当たらない。その隙に、キリトの反応速度にブーストされた斬撃がすさまじい速度で放たれる。自らの反応速度の限界以上で動き続けるキリトの前に、ジュダは防戦一方に追い込まれた。
「一人で突っ込むな。キリト! 俺も一緒に――――」
「待ってタクト」
「なんだよ。あんな状態のキリト一人を戦わせるわけにはいかないだろ」
「あれを見て」
ジュダの方へ走り出そうするタクトを引き留めたエルナディータは、部屋の奥を指差した。タクトがそこに目を向けると、無数にうごめく《闇人形》の向こうにある扉が見える。26層へと続く階段のへの扉だ。
それが――――開いていた。
「え!? どうして扉が開いてるんだよ」
「忘れたの? ここのフロアボスはもうジュダによって倒されているのよ」
確かにその層のフロアボスを倒せば次の層への扉が開く。誰がやったにせよ第二十五層のフロアボス《ザ・パニッシュホーン》が倒されているのは事実なのだ。ならば次の層への扉が開いているのも道理というものだろう。
「私がコノハと戦った時、クエストがクリアされた時点で彼女は引き上げたわ。そしてクリア条件は必ずしもクリムゾンナイツの撃破ではないのよ。今回のクリア条件が『第二十六層のアクティベート』とは考えられないかしら」
「そうだとしてもサチは、壁役部隊のみんなはアイツにやられたんだ。アイツを避けて26層に向かうなんてできるかよ」
「冷静になりなさいタクト。今、この現状で私達がアイツに勝てると思う?」
タクトは奥歯を噛みしめながらジュダ見つめた。キリトは押しているが、その動きは燃え尽きる前のロウソクのような危うさが感じられる。そして絶望的なことにジュダの四段あるHPは、一段目の半分も減っていなかった。
「……分かったよ。じゃあどうにかあの《闇人形》の群れを突破して26層をアクティベートすればいいんだな」
「あら、私達はジュダを抑える役に決まってるじゃない」
「ということは26層をアクティベートするのは僕達ってことだね」
近くで話を聞いていたコペルと鉄仮面がうなずく。
「私はジュダの方に行きたいんだけどいいかしら」
同じく近くで聞いていたアスナが口を開いた。その視線はジュダと戦っているキリトに向けられている。
「ええ、もちろんよ。あなたには多分重要な役割がまわってくるはずだから」
「……? 分かったわ」
エルナディータの言葉にアスナは一瞬不思議そうな顔をしたが、思い直したようにうなずく。
「じゃあ、行こう。みんな頼んだぜ」
タクトの掛け声と同時にパーティーは二手に分かれ、それぞれの戦場へと走り出した。
◆ ◆ ◆
コペルと鉄仮面はタクト達から離れると、討伐隊を指揮しているキバオウにエルナディータの考えを話した。キバオウはあまり人の意見を聞く方ではなかったが、第十層での件以来コペルには一目置いていることもあり、26層をアクティベートする案はすぐに聞き入れられた。
「話は分かったわ。でも、あの人形ども下手するとジュダよりやっかいやで。なんせ――――」
「うわあああああああああああああ!」
「くそっ! またかい!」
キバオウは苦い顔をしながら叫び声の方向を見る。そこには闇人形に剣を突き立てたプレイヤーがいた。 闇人形のHPは0になっており、あとはポリゴンになって砕け散るだけのはずである。
しかし、闇人形は赤く変色し膨れ上がったと思うとその体が火の玉になり、剣を突き立てていたプレイヤーを飲み込みながら爆散した。後を追うように飲み込まれたプレイヤーのアバターが砕け散る。
「自爆だって!?」
「そうや。奴ら強さは大したことないんやが、HPが0になると自爆してプレイヤーを道連れにしよるんや。爆発の範囲は一定みたいやから倒すと同時に離れろ言うてるんやけどな。たまに間に合わんとああなるんや。おかげでウチのモンがかなりやられてしもうた」
キバオウはそう言って悔しそうに闇人形の群れを睨み付ける。その体は失ったギルドメンバーを思い、怒りに震えていた。
コペルはその表情をつらそうに見つめると、現状を打破する策を考える。コペルの右手がゆっくりを上がり、右目の前にその手のひらが持ち上げられる。その時コペルの脳裏に電撃のように閃くものがあった。
「一つ試してみたいことがあります。協力してもらえますか?」
「ええけど、なんや?」
コペルはキバオウと鉄仮面に考えた作戦を話した。キバオウは「なるほどな」とうなり、鉄仮面はこくりとうなずく。
「では2人共お願いします。仕上げは僕がやりますから」
「分かったで。行ってくるわ」
そう言った2人は闇人形の群れに近づくと、ヘイト値を調整しながらその一部を引き離す。攻略組の中でも指折りのプレイヤーである2人は、見事な動きでその集団を前後に挟みながら密集させつつ、さらに群れから引き離していく。
「準備ええで。頼むわ!」
「いきます!」
合図と同時にキバオウと鉄仮面が同時に集団から飛びのく。コペルはその間にHPを減らしておいた1体の闇人形を、重斬撃技のソードスキルを使い集団の方向へ突き飛ばした。ソードスキルを食らった闇人形のHPが0になり、集団の中心で爆発する。その周りにいた闇人形が爆発に巻き込まれHPが0になる。連鎖的に爆発が広がっていき、終わった後そこには1体の闇人形も残っていなかった。
「よっしゃ! ザマァミロや闇人形ども!」
「キバオウさん。みんなにこの方法を伝えてほしい。これなら効率的に数を減らせるはずだ」
「分かったで。たいしたもんや、助かったわ」
そう言って離れていくキバオウを見送りながらコペルは周りを見渡した。先程の作戦は人数が多い方がより多くの集団を群れから切り取って殲滅できる。自分達と一緒に扉への道を切り開いてくれるパーティーを探す必要があったのだ。
しかし、どのパーティーも闇人形の対応に追われており、一緒に来てくれそうなパーティーは見当たらない。焦るコペルの肩を鉄仮面が叩き、一つのパーティーを指差した。そのパーティーは闇人形の相手をするでもなく床に座り込んでいる。中には泣いている者もいるようだった。
「君たち! 手伝ってほしいことがあるんだ。僕と一緒に来てくれないか?」
コペルはそのパーティーに近づくと声をかけた。その声に反応した棍使いの少年は一瞬コペルの方を見たが、また下を向きうつむいてしまう。
「何がしたいのかは知りませんが、僕達のことは放っておいてくれませんか。サチが死んだんです。僕達の……目の……前で……」
そう言った少年の目に涙があふれる。他のメンバー達も下を向きながら嗚咽を漏らしていた。
「そうか…最初にやられた娘は君達の……」
最初に一人の女性プレイヤーがやれらた時、タクトが「サチ」と言っていたのをコペルは覚えていた。コペルはゆっくりと踵を返す。初めてギルドメンバーを失った彼等はとても戦えるような状態ではない。別のパーティーを探そうとコペルが再び辺りを見回そうとした。
「君達はそれでいいのかい?」
聞こえた声に驚きながら振り返る。それは鉄仮面が発した一言だった。思えばコペルが初めて会った時から彼はいつも鉄仮面で顔を隠し、一言も言葉を発しなかった。最初は不審に思っていたコペルだったが、彼の盾さばきとそこに見られる『騎士』のような精神には何度も助けられ、今では全面的に信頼している。
その鉄仮面が床に座り込んだパーティーに語りかけていた。無骨な鉄仮面に似合わない爽やかな声に、パーティーの視線が集まる。
その場の全員が見つめる中、声の主は鉄仮面に手をかけるとゆっくりとそれを外したのだった。
はい、あとがきです。
あれ、ヤツが出ていないと思ったそこのアナタ。彼の出番は別に用意してありますのでもう少しお待ちください。
後半のコペルの主人公っぷりがヤバイ。決して「実に面白い」とか言ったり、いきなり数式を書き出したりはしませんのでご安心ください。
更新が遅れていて本当に申し訳なく思っています。書きたいことはまだまだあるので、なるべく早く更新できるようにがんばります。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。