ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第27話です。
題名には突っ込まないでください。
お願いだから~><


stand and fight

 武骨な鉄仮面の下から現れたのは青い髪の青年だった。整った顔立ちをしており、先程の声にふさわしい爽やかな印象を漂わせている。コペルは初めて見る鉄仮面の素顔に驚きを隠せない。

 

「顔を隠した人間が何を言っても聞いてはもらえないと思ってね。もう一度言おう。みんなが戦っている中、座り込んで泣いている。君達はそれでいいのかい?」

「あなたに何がわかるんですか!?」

 

 棍使いの少年が青年を睨み付ける。

 

「仲間が死んだんですよ! 今まで一緒にがんばってきたんだ! いつか攻略組入って……それで……」

 

 そこから先はもう声にならないようだった。再び泣き崩れるパーティーをコペルはハラハラしながら見守るばかりだ。

 

「俺もフロアボス討伐でつらいことがあってね。その時俺は攻略組から逃げ出したんだ。でも蘇生者の間でかつての仲間の名前に二重線が刻まれていくのを見るたびに後悔したよ。俺がそばにいれば、この盾で守ってやれたかもしれないって。どんなにつらくても疎まれても、そばにいれば守ることができたのにってさ」

 

 青年の言葉にパーティーの面々は驚いたように顔を上げる。棍使いの少年の口が「守る……」とつぶやいた。

 

「気が付けばここに戻ってきていた。未だ顔を晒す勇気は出ないままだけどね。今、状況はかなり厳しい。君の仲間を含め犠牲者もかなり出てしまった。でも、これ以上はなんとしても食い止めたい。みんなを守るために君達の力を貸してほしいんだ」

 

 そういうと青年は強い眼差しで座り込んだパーティーを見つめる。コペルも緊張の面持ちで成り行きを伺った。棍使いの少年は離れた所で戦っているキリトの姿に目をやり、立ち上がると誰に言うでもなくつぶやいた。

 

「ずっと自信がなかったんだ。プレイヤーのみんなを守りたいなんて言いながら、実際の僕達にはそこまでの力はない。こんなこと他の人に言っても誰も本気になんてしてくれないだろうなって」

 

 それを聞いたパーティーの短剣使いが涙を拭きながら立ち上がる。

 

「ああ、だからキリトが俺たちの思いは本物だって言ってくれた時は嬉しかったよな」

 

 そう言った短剣使いに続いて、鎚使いと槍使いの少年が顔を上げながら言った。

 

「ここで全部投げ出したら、あのキリトの言葉に顔向けできないぜ」

「俺達の思いが試される時だ。一緒にがんばってきたサチの為にも泣いてなんていられない」

 

 気が付けば座り込んでいた4人が全員立ち上がっていた。彼等は顔を見合わせるとうなずき合い、一瞬黙祷のように目を閉じる。そして開いた4人の目にもう迷いはない。リーダーらしき棍使いの少年が青年の方を向いて言った。

 

「思い出させてくれてありがとうございます。忘れていました。僕達もアインクラッドのみんなを守りたくてここまで来たんです。僕達は何をすればいいんですか?」

 

 しかし、なんとそこには再び無骨な兜をかぶり、鉄仮面に戻ってしまった青年の姿があった。そこからは『もうしゃべりませんオーラ』が分かりやすく放たれている。再び鉄仮面になってしまった青年は一つうなずくと身を翻してしまう。棍使いの少年が困ったようにコペルを見る。コペルは心の中でこっそりため息をつくと、棍使いの少年に答えた。

 

「奥の扉が開いているのが見えるだろう? その前にいる闇人形を突破して第二十六層をアクティベートするんだ。方法は……」

 

 コペルが切り取った集団をまとめて自爆させる方法を説明すると、4人はすぐに理解したようでコペル、鉄仮面を加えた即席の闇人形突破パーティーが編成された。簡単に自己紹介を済ませ行動に移る。

 

「よし、行こうケイタ。第二十五層攻略は僕達にかかってる」

「分かったよコペル。行くぞ月夜の黒猫団! そして見ててくれサチ! 僕達の思いが『本物』であることをこの一戦で証明してみせる!!」

 

 6人は目標である第二十六層への扉を見る。その前には無数の闇人形が群れをなしており、コペルの策をもってしても突破は容易ではないだろう。絶望的な状況をくつがえすべく、6人はその群れへと走り出した。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「うおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!」

 

 まるで悲鳴のような雄叫びを上げながらキリトが片手剣を繰り出す。サチを殺されたことへの怒りと憎しみで我を忘れているキリトは、それ故に己の限界以上のスピードで動いているのだ。ジュダの顔にも余裕はなく、キリトの斬撃を大剣で防ぐので精一杯のようだった。だが、キリトの動きはひどく危なっかしい。端から見れば、まるでここで燃え尽きようとしているかのように見えるのだ。

 

「キリト、一旦スイッチするんだ! 後は俺達に任せろ!」

「うるさい! こいつは俺が殺す!」

 

 タクトが声をかけるもキリトはジュダから離れようとはせず、その動きはさらに苛烈に、そして危うくなっていく。

 

「アスナ、キリトのフォローに入れない? あなたのスピードなら……」

「あの次元になると私でも無理だよ。あの様子じゃ動きを合わせてもらえそうもないし」

 

 エルナディータの言葉にアスナが悔しそうに首を振る。本当ならすぐにでもフォローに飛び込んで行きたいのだろう。しかし下手に飛び込めば逆にキリトの動きを邪魔してしまい、キリトが致命的な一撃を食らいかねない。3人はいつでもフォローに入れる位置を維持しながらフォローに入るタイミングをうかがうしかなかった。

 その時それまで防御に徹していたジュダの動きに変化が現れる。

 

「チッ! 見えちゃいるんだがな。カーディナルに抑えられたパラメータじゃ防ぐのがやっとだぜ。だが、テメェと俺じゃ決定的な差があるんだよ」

 

 ジュダがそう言うとキリトの一撃を受け止めた大剣から漆黒のライトエフェクトが放たれた。暗黒剣が来ると読んだキリトもソードスキルの体勢に入る。発動するのは水平四連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。それをもって暗黒剣の威力を相殺しようというのである。

 

「これで死んどけ! 《ガイストレイド》!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ジュダの暗黒剣ソードスキル《ガイストレイド》とキリトの片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》が真正面からぶつかった。上段から振り下ろされる漆黒の斬撃を水平に繰り出された斬撃が押し返そうとする。その一撃は《ガイストレイド》の勢いを若干弱めただけだったが、キリトが繰り出したのは ”四連撃” ソードスキルだ。残る三連撃で《ガイストレイド》の勢いを殺しきる。キリトはそう思っていた。

 しかし――――

 

「え……」

 

 キリトは自分の異変に気がついた。剣を包んでいた水色のライトエフェクトが消えている。それと共に自分の体を加速していたシステムアシストも消滅していた。突然の《ホリゾンタル・スクエア》の消失。そんなキリトをあざ笑うかのように、ジュダの暗黒剣《ガイストレイド》の一撃がその体をVの字に切り裂いた。

 

「ぐああああああああああ!」

 

 キリトのHPが一気にレッドゾーンまで減少する。《ホリゾンタル・スクエア》の一撃目を当てていなかったら、おそらくキリトの体はポリゴンになって砕け散っていただろう。

 

「《暗黒剣》には《スキルイレイザー》って特殊効果があってなぁ。暗黒剣に触れたソードスキルはその瞬間消滅するってワケだ。俺の《暗黒剣》はまさに全ソードスキルの頂点に立つ存在なんだよ。テメェのチンケな片手剣ソードスキルとは決定的な差があるってことだ」

「く、くそ……」

 

 衝撃で膝をついたキリトだが、その目から戦意は失われていない。だがあと一撃食らえば死んでしまうような状況で前に出ようとするキリトを、周りの三人が黙って見ているはずがなかった。

 

「やらせるかぁ!」

「アスナ、あなたの役目よ。キリトを押さえて!」

「キリト君! もうやめてぇ!」

 

 タクトとエルナディータがジュダに向かって攻撃をしかけると同時に、アスナが立ち上がろうとするキリトにしがみつく。キリトはなおも立ち上がろうとしたが、アスナはさらに強い力で抱きつき、その動きを押さえこむ。タクトの両手剣を受け止めたジュダは、獲物を仕留めそこなったとばかりに忌々しげな視線をタクトに送った。

 

「また、テメェか。《神聖剣》ならともかくテメェじゃ俺には……」

「そう言うなよ。ここからは一味違うぜ。《神魔剣》アクティベート!」

 

 タクトの両手剣が《装備魔剣化》により黒く染まる。それと同時に発動した《神魔剣》のソードスキル《リベリオン》が、漆黒のライトエフェクトを放ちながら真一文字に繰り出されジュダを押し返した。

 

「なんだと!?」

 

 タクトの両手剣が放つ漆黒のライトエフェクトを見たジュダは、驚いた表情で目を見開く。

 

「どういうことだ。あの漆黒のライトエフェクトは《暗黒剣》の……。いや、そんなはずはねぇ! なんなんだあれは!?」

 

 ジュダの目はすでにタクトではなく、漆黒の光を放つ両手剣に吸い寄せられていた。

 

「猿マネ野郎が! 化けの皮剥いでやるぜ! 《ガイストレイド》!!」

「試してみるか!? 《クリスクロス》!!」

 

 《暗黒剣》と《神魔剣》

 共に漆黒のライトエフェクトを放つソードスキルがぶつかり合った。《クリスクロス》が《ガイストレイド》に触れた時点で《暗黒剣》の特殊効果《スキルイレイザー》が発動する。しかし《クリスクロス》の漆黒のライトエフェクトは消失しない。タクトの《クリスクロス》は十字を描きながらV字の軌道で迫る《ガイストレイド》を完全に弾き返した。

 

「《スキルイレイザー》で消滅しないだと! なんなんだそのソードスキルはよぉ!」

 

 ジュダが叫ぶ。《暗黒剣》に酷似したソードスキルの存在。それはジュダの心を大きく揺さぶるものだった。

 

「《暗黒剣》はソードスキルの頂点に立つ唯一のスキルなんだ! このスキルが ”唯一” じゃなけりゃ俺は……俺の存在は……!」

 

 《神魔剣》に対して予想外の反応を見せるジュダにとまどいながらも、タクトにも予想外の事態がおとずれていた。タクトのHPが減り続けているのだ。体の疲労感も確実に蓄積していっている。これはクリムゾンクエスト中であるにもかかわらず、《神魔剣》のペナルティが消えていないこと示していた。

 

(エルの動きを見るに《神魔剣》のペナルティは確かに消えている。《神魔剣》は《神聖剣》とは系統の違うソードスキルなのか?)

 

 時間をかけることはできないと両手剣を構えなおしたタクトに、ジュダが攻撃をしかける。

 

「俺は誰のコピーでもねぇ。俺は唯一無二の存在なんだ!!」

 

 かろうじて繰り出される大剣を受け止めるタクト。ここで初めてタクトは正面からジュダの目を見た。そしてその背筋に冷たいものが走る。その瞳には一切の光というものがなかった。全ての光を拒絶するかのような闇が瞳の奥にわだかまっている。

 

「ああ、痛ぇ! 頭が痛ぇんだよ! どうしてくれんだよテメェ!!」

「こいつ、何を言って……」

 

 タクトから間合いをとったジュダは片手で頭を押さえながらうめく。相手の尋常ではない様子にタクトも下手に動くことができなかった。やがてそのうめきがピタリと止まり、ジュダの瞳がその闇をさらに深くしながらタクトを見る。

 そこに浮かぶ感情は――――殺意。

 

「ハハッ! 簡単なことだったぜ。テメェがいなくなればいいんだ。テメェが死ねばこの頭痛だっておさまるにちがいねぇ。そうさ、俺は消えねぇ! 俺はジュダ。《暗黒剣》のジュダなんだからなぁ!」

 

 ジュダの叫びに呼応するかのように手にした大剣から漆黒の光があふれる。だがそれは今までの暗黒剣のライトエフェクトとは違うものだった。もっと深く重く暗い。それはまさに『闇』だった。それが炎のように渦を巻きながらジュダの大剣を包みこみ、膨れ上がっていく。

 

「殺すだけじゃおさまらねぇ。テメェはここから ”消えろ” 」

 

 そう言ったジュダがその《闇の剣》を振りかぶったその時。

 

「そこまでよジュダ。クリムゾンクエストクリアから90秒が経過しているわ。ただちに帰還しなさい」

 

 ジュダの前に突如白いフードを被った人影が現れた。フードで顔は見えないが、その声から女性であることが分かる。タクトが辺りを見回すとコペル達の姿がなかった。あの闇人形の群れを突破し、第二十六層をアクティベートしてくれたのだろう。

 

「邪魔するんじゃねぇよ《アストレイア》。俺はコイツを消し飛ばして――――」

「ジュダ」

 

 アストレイアと呼ばれた女は、警告を無視して動こうとするジュダを一言で制する。

 

「また ”あそこ” に戻されたいのかしら?」

 

 その一言を聞いたジュダの動きが止まる。その目が一瞬タクトとアストレイアの間を行き来し、ジュダが舌打ちをすると大剣を覆っていた闇が消えた。それと共に闇人形も地面の中に溶け込むように消滅していく。

 

「次は必ず殺す」

 

 ジュダはタクトにそう言うと身ををひるがえした。その体が虚空から現れた紅のフードに包まれる。ジュダはそのまま部屋の奥へと歩いていき、第二十六層への扉の奥へと消えた。

 

「逃がすか!」

「あっ! キリト君!」

 

 それを見たキリトがアスナを強引に振り払いながら立ち上がり、ジュダを追いかけて奥の扉へ走りだす。キリトを止めるかと思いきや、アストレイアは討伐隊を一度見渡しただけでそのまま宙に溶けるように消えてしまった。

 タクトはキリトを追いかけようとしたが、《神魔剣》を使ったペナルティで体が思うように動かない。少し離れたところにいるエルナディータもアストレイアの消えたあたりを見ながら茫然としていた。

 フロアボスの部屋に勝利の歓声は響かない。誰もが突然の戦いの終わりにただとまどうだけであった。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 フロアボスの部屋にいる討伐隊がとまどいながらも戦いの終わりを感じている中、ただ一人自分の戦いを続ける者がいた。扉の奥へ消えたジュダを追って、キリトは第二十六層への階段を駆け上がる。限界を超えた反応速度で動きすぎたせいかこめかみの辺りがひどく痛んだが、今のキリトには関係ない。アスナに無理やり飲まされたポーションで若干HPは回復していたが、例えHPがレッドゾーンのままでもキリトはジュダを追いかけただろう。自分の体がどうなろうと、サチの仇を討つまでキリトは戦いをやめるつもりはなかった。

 

「いた……!」

 

 階段を登り切り、第二十六層のフィールドに出る。一面の草原になっているそこに紅のローブを着た背中が見えた。

 

「待て、逃がさないぞ!」

 

 キリトが叫ぶと紅のローブがゆっくりとこちらを振り向く。その顔は見えない。両手にも先程までジュダが手にしていた焔色の大剣はなかった。一方抜き身の片手剣をぶら下げたキリトはその目に殺意の炎を灯す。

 

「お前だけは許さない! 必ず殺す!」

 

 キリトはさらにこめかみが痛みだすのも構わず斬りかかった。それは己の身を全くかえりみない ”特攻” だった。

 

「……私を殺す? それはできないわ」

 

 紅のローブの奥から声が漏れる。もしこの時キリトが冷静だったなら、その小さな声を聞き取り、それがジュダとは違う少女のものであることに気が付いただろうし、そのフードに包まれた体がジュダより一回り小さいことにも気が付いたかもしれない。しかし殺意で心を塗りつぶしたキリトには、そのどちらも望むべくもなかった。

 高速で迫るキリトを前に相手の右手が動いた。その手に紅の槍が現れ、キリトに向かって突き出される。ここでキリトは初めて相手に違和感を覚えた。

 

(得物が違う? だが同じことだ!)

 

 キリトは攻撃を止めはしない。今のキリトにとって紅のローブを着ている者は全てサチの仇であり、殺すべき ”敵” なのだ。突きのスピードは大したことはない。最小限の動きで槍をかわしたキリトは、そのまま剣を振り下ろそうとして。

 ――――背後から何かに胸を貫かれた。

 

「がはっ……!?」

 

 体に伝わる衝撃で意識が遠のく。とっくに限界を超えていた脳が今の衝撃で落ちようとしているのだ。意識を必死につなぎ止めながら、キリトは自分の胸を見る。そこからは見覚えのある紅の槍の穂先が飛び出していた。

 

(なぜだ……確かにかわしたはず……)

 

 突き出された槍が引き戻されたり、横にはらわれたりした気配はない。そもそもそれでは ”背後” から貫かれたことの説明がつかない。つなぎ止めていたキリトの意識が限界を迎え、ゆっくりと目の前が暗くなっていく。

 

「そう、私は死なない。この魔槍《エンドレス》があるかぎり、私に『死』というエンドは訪れない」

 

 フードの奥から声が聞こえる。キリトが意識を手放すその刹那、いるはずのない『彼女』の顔が見えたような気がした。

 

(サチ……すまない……)

 

 キリトはその顔に向かって謝ると、ドサリとその場に崩れ落ちた。




はい、あとがきです。
これで黒猫団編は一旦完結です。
次回からは新エピソードになります。新しいキャラも出てくる予定ですので
お楽しみに。


ここまで読んでくださってありがとうございました。
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