ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第29話です。
誤投稿をしてしまいお騒がせいたしました。
教えてくれた方本当にありがとうございます。
こちらが正真正銘の第29話でございます。
ご覧ください。


姉妹の秘密

 ギチギチと顎を鳴らしながら森の暗がりから現れた無数の《ダイナストホッパー》が、タクト達が守る畑をぐるりと取り囲む。タクトが先程倒したのはあの中の最初の1匹にすぎなかったらしい。

 

「そういえばこういう虫は大群でくるのもお約束だったな」

 

 そう言ってタクトが両手剣を構えなおすのと同時に、3匹の《ダイナストホッパー》が畑の作物を狙って跳びあがった。空中にいるホッパーに両手剣は届かない。投剣スキルでも持っていれば別なのだろうが、タクトは武器スキルは両手剣しか上げていなかった。空中にいる3匹のホッパーの軌道を見ながら三か所の着地点を予測し、一番近い場所へ走る。

 

「オーライ、オーライっと」

 

 ホッパーの着地点に回り込むとジャンプしながら両手剣を一閃。モンスターをポリゴンに変えると、次の場所へダッシュする。着地しようとしている2匹目の横腹に助走の勢いを乗せた一撃を叩き込み、一気にモンスターのHPを0まで削りきる。その体がポリゴンになるのを見届けることなく3匹目の着地点に目をやると、そのホッパーはもう着地しており次の跳躍体勢に入るところだった。畑までの距離を考えるともう1度跳ばれると畑の間近まで近づかれることになる。そうはさせまいとタクトは3匹目との距離を詰めようとするが、このままではホッパー跳びあがる方が早いだろう。

 

「それならッ!」

 

 タクトは走りながら両手剣を構えるとソードスキルのモーションを起こす。突進系斬撃技《ソニックチャージ》のシステムアシストを得て、タクトの体が加速する。間に合うはずのない距離を一気に詰めたタクトは青いライトエフェクトを放つ両手剣で3匹目のホッパーを切り裂き、そのHPを消し飛ばした。

 

「一丁上がりっと」

 

 無数のモンスターを前にしてもタクトは冷静だった。1匹がそれほど強くないこともあるが、第一層の《リトルネペント》の大群や第二十五層の《闇人形》など多数のモンスターと相対することになれてきているのだ。数々の修羅場をくぐった経験は伊達ではない。

 

「さてと、向こうは大丈夫か?」

 

 3匹の《ダイナストホッパー》を仕留めたタクトはユウリとアイリの様子を確認する。自分と違って中層プレイヤーだと思われる彼女達には今の状況は厳しいだろう。苦戦しているようならフォローに入らなければ。 そう思ったタクトがユウリのいる方向をみると、今まさに4匹のホッパーがそちらにむかって跳び上がるところだった。まずい。タクトでも3匹同時に相手して最後にソードスキルを使わなければ間に合わなかったのだ。中層プレイヤーの彼女では4匹は捌ききれないだろう。モンスターのヘイトが畑に向かっているので命の危険はないとはいえ、折角彼女から誘ってくれた狩のオチがクエスト失敗では後味が悪い。

 タクトはユウリのフォローをするべく走り出す。がそれは完全に杞憂だったことを彼は思い知った。

 

「やあっ!」

 

 ユウリらしい元気な掛け声が響く。彼女はホッパーに向かってジャンプすると、握り締めた右拳をホッパーの腹に向かって叩き込んだ。わずかにHPの残ったホッパーに、空中ですばやく体勢を整えたユウリの足が青いライトエフェクトに包まれる。

 

「たあぁ!」

 

 システムアシストによって加速した蹴りがホッパー突き刺さり残ったHPを消し飛ばす。しかしそれで終わりではなかった。蹴りの反動で彼女の体は尚も空中を跳ぶ。方向を変えたその先にいる2匹目のホッパーはすでに彼女の獲物だった。再びユウリの右拳が今度はホッパーの側頭部に打ち込まれ、止めの蹴りで再び彼女の体は宙へと舞い上がる。3匹目も同様に空中で倒したユウリは、最後に着地している4匹目に向かって空中で方向を変えると、落下スピードまで乗せた見事な飛び蹴りが炸裂し、4匹目のホッパーはポリゴンになって砕け散った。

 

「あれ? お兄さんどうしたの?」

 

 走り出そうとした体勢で硬直しているタクトに、ユウリは不思議そうな顔をしながら首をかしげた。タクトの背中に冷たいものが走る。彼女が使っていたのはおそらくソードスキル《体術》だ。武器を装備せず己の体を武器とする《エクストラスキル》である。しかし《エクストラスキル》といってもそれほど珍しいスキルというわけではない。クエスト自体は第二層で受けられるものだし、内容も今となっては特に難しいものではないのだ。

 しかし、このスキルをメインに戦っているプレイヤーをタクトは今まで見たことがなかった。その威力と間合いに大きな難があるこのソードスキルは、モンスターの攻撃で武器を落とした時やメインの武器スキルの隙をカバーする《補助スキル》として使うプレイヤーがほとんどだったからである。彼女の《体術》がホッパーを瞬殺できるほどの威力を持っているのはひとえに使い手のポテンシャルの高さゆえだろう。《体術》ソードスキルをメインスキルとしてこうも鮮やかに使いこなすプレイヤーがいたとは。

 

「い、いや……大変そうだったらフォローしようと思ったんだけど大丈夫みたいだな……」

「もっちろん! この程度のモンスターなら同時に100匹来たってへっちゃらだよ!」

 

 ここまでの動きを見せられるとあながち冗談にも聞こえない。タクトは引きつった笑みを浮かべながら、それならばとアイリの姿を探す。このユウリの姉ならば、多分心配はいらないだろうが。

 

「姉ちゃんなら心配いらないよ。ボクよりずっとずっと強いんだから!」

 

 そう言ってユウリが指差した先にアイリはいた。こちらはユウリと違って右手に一振りの片手剣を装備している。そのたたずまいは静かで、そして美しかった。アイリの前にも当然ホッパーの群れは近づいており、作物を狙って跳び上がっていた。その数5匹。

 

「ハッ!」

 

 アイリが動いた。と思った時にはもう1匹目が切り裂かれてポリゴンになっていた。

 

「なっ!?」

 

 タクトは思わず声を上げてしまう。だがタクトが驚いたのはその速さにではなかった。確かに速かったが日ごろからキリトやアスナなど規格外の速さを目にしているタクトにとっては捉えられない速さではない。驚くべきはその動きの ”無駄” が全くないことだ。『最小限の動きを最速で実行する』現実世界で『達人』と呼ばれる一握りしか持ちえないスキルを彼女は持っていた。例え現実世界の達人をVR世界に連れてきたとしてもVRに対する高い適応能力がなければこうは動けまい。どれだけの才能と努力があればこれだけの動きを身に付けられるのだろう。動きが自然すぎてホッパーからアイリに斬られにいっているように見える。一切の無駄が削ぎ落とされた彼女の動きはまるで舞踊のようだった。

 

「やっぱり姉ちゃんはすごいや!」

「ああ、戦ってるはずなのに嘘みたいに綺麗だな……」

 

 5匹のホッパーをあっと言う間にかたずけたアイリは、自分を見る2人に気がつくと穏やかな笑みを浮かべた。

 

「2人してそんなに見つめてないでください。そんな暇はないはずでしょう?」

 

 我に帰ったタクトが周りを見回すと、さらに森から現れた《ダイナストホッパー》達が畑に向かって飛び立とうとしている。タクトとユウリは顔を見合わせてうなずき合うと、それぞれの持ち場へ戻るのだった。

 

 

 どれくらい倒しただろうか。本来ならこのクエストはパーティーのフルメンバー6人推奨のクエストに違いない。いい加減うんざりしながら、もう数えるのもやめた《ダイナストホッパー》をやけくそ気味に倒した時。高らかにファンファーレが鳴り響いた。見ると周り暗がりに光っていた瞳が一つまた一つと減っていく。やっと終わったかとタクトは両手剣を下ろした。

 

「お兄さんご苦労様」

「タクトさんお疲れさまでした」

 

 ユウリとアイリも構えを解いてこちらに歩いてくる。その様子からは少しの疲れも感じ取れなかった。タクトはもう驚くまいと苦笑しながら手をあげる。

 

「ああ、お疲れ様。この後はどうなるんだ?」

「そんなの決まってるじゃない。お楽しみの収穫タイムだよっ!」

 

 そう言ってユウリが中央の畑を指差すと、植えられている作物がみるみるうちに成長していき、花をつけたと思ったらその後に丸々とした実が膨らみ始める。それはタクトの頭より大きくなったところでようやくその成長を止めた。数は3つ。どうやら参加した人数だけ実をつけるようになっているらしい。ユウリがその内の一つに近寄ってその実をタップした。すると実がポンと弾け、中から大量の種のようなものがザラザラと出てくる。

 

「なんだこりゃ? 種しかないんじゃ食べられないじゃないか」

「違いますよタクトさん。よく見てください」

 

 アイリが手にすくった種をこちらに差し出してくる。その種に顔を近づけてじっと見たタクトは驚愕の声を上げた。

 

「これもしかして米か!?」

 

 あまりにも現実世界の稲と違うために気がつかなかったが、その実から出てきたのは紛れもなく米だった。粒をタップするとウィンドウが現れ名前が《シルバーグレイン》と表示される。なるほど、初めてユウリと出会ったときに彼女が持っていたおにぎりはこれから作られていたわけだ。

 

「お兄さん初めて会った時に、ボクのおにぎりのことすごく聞いてたでしょ? だからここを教えてあげたら元気だしてくれるかなぁって思ってさ!」

「本当はあまり教えたくはなかったんですけどね。私達がゆっくり狩りができる場所の一つでしたから」

「ユウリ……アイリ……」

 

 タクトは胸がいっぱいになった。ユウリは元気がないタクトのことを本気で心配してくれたのだろう。そしてアイリもそんなユウリの気持ちをくんで、米の収穫できるこの秘密の狩場に連れてきてくれたのだ。タクトを励ますその為に。

 

「2人共……本当にありがとうな」

 

 タクトの感謝の言葉に太陽と月の姉妹はそろって笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「なぁ、2人はいつも中層で狩りをしてるのか?」

 

 クエストを終えた3人は第十層主街区である《マホロバ》に戻ってきていた。時間ももう夕方にから夜にさしかかるところだ。流れ的にはここで解散というところだろう。だがタクトはその前にどうしても2人に話したいことがあった。

 

「うん、そうだね。今日みたいに新しい街が開放された時は見に行くけど、それ以外は中層で面白そうなクエストをやってることが多いかな」

 

 ユウリの答えにタクトは心を決めると、大きく息を吸い込んで言った。

 

「2人共攻略組として最前線で戦う気はないか?」

 

 タクトはユウリとアイリの戦いぶりを見て、どうしてこの2人が中層にいるのか不思議で仕方がなかった。彼女達の実力は攻略組のトップクラスと比べてもなんの遜色もないものだ。それに彼女達はあの戦いで基本のソードスキルしか使っていなかった。彼女達が全力をだしたならあのキリトさえも凌駕する実力かもしれない。そんな2人が攻略組として最前線や討伐隊で戦ってくれたらどんなに心強いことだろう。

 

「2人の強さなら攻略組でも十分やっていけると思うんだ。元気なユウリと礼儀正しいアイリなら攻略組の連中ともすぐに仲良くなれるよ。良かったら次のフロアボス討伐隊で俺のパーティーに入って参加してみないか。エルには会ったことあったよな? 他のメンバーもいい奴らばかりなんだぜ」

 

 タクトの言葉にユウリは一瞬目を輝かせたが、何かに気がついたようにその表情は暗いものに変わっていく。タクトは妙な胸騒ぎを覚えながらもユウリとアイリになおも誘いをかける。

 

「周りとなじむまでは俺とエルがいくらでもサポートするから……」

「お断りします」

 

 断固とした拒否の言葉はアイリのものだった。その表情は今まで見たことのないほどに冷たい。それはあらゆる反論を許さない完全な拒絶だった。断るにしても彼女らしからぬ様子に絶句しているタクトを見てアイリはハッと我に返る。

 

「そ、その……そうです! フロアボス討伐なんて危険なことユウリにさせられるはずありません! この子にもしものことがあったりしたらどうするんですか!」

 

 一転今度はとって付けたような言い訳を慌てながら言うアイリ。またしても彼女らしからぬ様子にタクトはとまどうが、言っていることは間違っていない。最前線やフロアボス討伐の危険度は情報が出そろっている中層とは比べ物にならない。彼女達ほどの強さをもってしても絶対に死なないとは言い切れないのだ。そのことを自分は第二十五層のフロアボス討伐で思い知ったばかりではないか。

 

「そうか……そういうことなら仕方ないな」

「ごめんね、お兄さん。ボク達は……」

 

 完全にシュンとしてしまったユウリの頭をタクトは無意識の内になでていた。彼女にこんな表情をさせてしまったことを後悔しながらわざといつも以上に明るい声を出す。

 

「気にするなって! でも今日みたいに中層で一緒に狩りをするのはいいだろ? また面白いクエストがあったら俺も連れてってくれよ!」

「……! う、うん!」

 

 ユウリの顔に笑顔が戻る。タクトはそのことにホッとしながらユウリの頭をなで続ける。自分には姉しかいないが、妹がいたらこんな感じなのだろうか。ユウリも心地がいいのか、頭の感触に目を細めている。

 

「……いつまでなでているんですか?」

 

 横からかけられたアイリの言葉と笑顔(ただし目は笑っていない)に危険なものを感じたタクトは慌ててユウリの頭から手を離す。アイリはユウリの手を引くとその体を自分の後ろに隠した。

 

「全く油断も隙もありませんね。ユウリをなでたいのならまず私を通してもらわないと」

「姉ちゃん。ボクは別にいいんだけど……」

「いいえ、いけません。ユウリをなでなでできるのは身内だけの特権なんですから」

 

 そう言って幸せそうにユウリの頭をなではじめるアイリ。妹思いだとは思っていたが、さすがにこれは行き過ぎではないだろうかとタクトが見守っていると、ユウリが思いついたようにポンと手を打った。

 

「じゃあ、今からタクトさんをボクの『兄ちゃん』にしてあげるよ! それなら頭をなでてもらってもいいでしょ?」

『なっ!?』

 

 重なった声はアイリとタクトのものだ。

 

「何を言うのユウリ!? そんな簡単に身内が増やせるわけがないじゃないの!?」

「そうだぞユウリ。呼び方が『お兄さん』から『兄ちゃん』に変わっただけで身内ってことにはならないだろ?」

「それもそっか。じゃあ、姉ちゃんとタクトさんが結婚すればいいよ。そしたら身内ってことになるでしょ?」

『!?』

 

 もはや物が言えないタクトとアイリを見ながらユウリは満足げにうなずいた。

 

 

 

 結局ユウリはタクトを『兄ちゃん』と呼ぶことに決めたようだった。『お兄さん』と『兄ちゃん』では何がどう違うのか分からないが、ユウリが自分のことを身内のように思ってくれるのは素直に嬉しい。アイリが真っ赤になってブツブツ言っていたのは、この際見なかったことにしておこう。

 

「それじゃあまたね兄ちゃん!」

「け、結婚なんてしませんからね!」

 

 手を振りながら離れていく姉妹に手を振り返しながら、タクトは心が軽くなっているのを感じていた。今朝から心にわだかまっていた黒いものが、あの姉妹の気持ちに触れて綺麗になくなっていた。あの姉妹にまた会えるだろうか。その時に彼女達が困っていたら必ず力になろう。タクトはそう心に決めながら、並んで歩く2つの背中を見送ったのだった。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 だがタクトは知らない。彼女達がなぜ基本のソードスキルしか使わなかったのかを。

 

「少し遅くなっちゃったね。ボク達の ”本当のスキル” を使えばもう少し早く終わったんだけどな」

「仕方ないでしょう。タクトさんの前で使うわけにはいかないのだから」

 

 タクトは知らない。彼女達がどうして討伐隊への参加をあれほどに拒否したのかを。

 

「兄ちゃんの誘い嬉しかったなぁ。ボクも兄ちゃんと一緒にでっかくて強いフロアボスと戦ってみたいなぁ」

「やめなさいユウリ。かなわないことを思っても虚しいだけよ」

 

 タクトは知らない。彼女達が秘める悲しい運命を。

 

「……っ! さすがに今日は色々あって疲れちゃったかな。少し体が重いや……」

「外部から受取った情報量が多すぎたのね。早く戻らないと」

 

 タクトは知らない。彼女達が ”何者” なのかを。

 

「じゃあ、帰ろうか姉ちゃん」

「ええ、帰りましょう――――《ユグドラシル》に」

 

 タクトはまだ、何も知らない。




はい、あとがきです。
『強すぎる奴は大体敵』それがこの小説のコンセプトです。……今作りましたすみません。
しかし、予想してた人も多いのではないでしょうか。普通ならこの姉妹はSAOいるはずがないのですからね。
登場させるのならこの方法しかないと思っておりました。
作者も大好きなこの姉妹、いい意味でも悪い意味でも活躍させていくつもりですのでお楽しみに

ここまで読んでくださってありがとうございました。
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