ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》 作:あけろん
全国に5人はいる(といいなぁ)彼のファンの皆様
お待たせいたしました!!(ヤケクソ)
「『討伐隊 第三十層フロアボス《グランシェル・ザ・ホロウシザース》を撃破』……か」
男は片手に持った新聞の見出しを読みながら第二十八層主街区《レイアード》の大通りを歩いていた。
「がんばってんだな。あいつら」
落ちくぼんだ三白眼が目立つ人相の悪いその男――――クラディールは目を細めて口を吊り上げる。本人はほほえましい気持ちで笑っているのだが、傍から見ると悪いことを考えているようにしか見えない。
見た目はともかくクラディールがこのような気持ちで笑うようになったのはつい最近のことだ。以前は他人の足を引っ張ることしか頭になかったクラディールだが、第十層のフロアボス戦での経験がこの男を変えた。
あのフロアボス戦でリンドとの取引を反故にしたクラディールは、攻略組として最前線にとどまることはできなかった。キバオウのギルド《アインクラッド解放軍》が第二十五層で大打撃を受け攻略組から身を引いている今、リンドに目をつけられることはすなわち討伐隊に参加できなくなることを意味するからだ。タクトやエルナディータはそれでもクラディールを討伐隊に誘ってくれたが、彼らまでリンドに目をつけられる可能性がある為断り続けていた。
現在は最前線から少し下の階層でソロプレイヤーとして狩りにいそしむ毎日だ。今も《狼ヶ原》での狩りを終え、昼食を取るために街に戻ってきたところである。
「混まないうちに昼飯をすませるか」
この街を拠点にしているプレイヤーは案外多く、飯時にはNPCレストランは混みやすい。
クラディールは新聞を見ながら足を速めようとした。ところで脇道から足早に一人のプレイヤーが姿を現す。クラディールは新聞に目を移していた為避けることができずそのプレイヤーとぶつかってしまった。
「おっと……悪い」
そう言ってそのプレイヤーを見たクラディールはそれが見覚えのあるプレイヤーであることに気が付いた。
全身を黒の装備で固め片手剣を背負うそのプレイヤーは、第十層で共にフロアボスを倒した8人の内の一人だったからだ。
「お前、キリトか? ひさしぶ……」
そう声をかけようとしたクラディールの言葉が途中で止まる。
その顔は以前のキリトとはかけ離れたものだった。目はうつろで足取りもフラフラとおぼつかない。ただその瞳の奥に燃えるような感情を見た気がしてクラディールは言葉を飲み込んだ。
キリトはクラディールに気が付かなかったのか無言で脇を通り過ぎるとフラフラと迷宮区の方へ歩いていく。
「お、おい……」
その背中に声をかけようとしたところで、その脇道からもう一人のプレイヤーが飛び出してきた。
陽の光に輝く艶やかな麻亜色の髪と整った顔立ちのそのプレイヤーにもクラディールは見覚えがあった。先ほどのキリトと同じく第十層でのフロアボス討伐隊の一人だったアスナだ。
アスナはあわてた様子で辺りを見回し何かを探しているように見える。やがてその視線がクラディールを捉えると走り寄ってきた。
「第十層で一緒だったクラディールさんよね? キリト君を見なかった? ええと第十層で一緒だった黒い装備の……」
「ああ、分かるから大丈夫だ。迷宮区の方に歩いていったぞ」
「そう、ありがとう!」
アスナはそう言うと迷宮区の方に向かって走り出そうとする。
「あ、アスナ!」
そんな彼女をクラディールは呼び止めていた。
アスナが「ん?」とこちらを振り向く。
「その……がんばれよ」
クラディールが何を言おうか迷った後、やっと口にした言葉は実にありふれた励ましだった。
それを聞いたアスナは一瞬きょとんとした後に小さく笑う。
「ええ、あなたもね」
アスナはそう言って今度こそ迷宮区の方角へ走り去る。
先ほどのキリトの様子は普通ではなかった。もしこれがタクトであったなら「俺も一緒に追いかける」と言っただろう。
しかしクラディールは「がんばれ」と言うだけで精一杯だった。
悪事からは足を洗ったクラディールだが聖人君子や正義の味方になったわけではない。所詮自分はアスナやタクトのようにはなれないのだ。
「行くか……」
アスナが走り去った方角に背を向けて、クラディールは目的のNPCレストランへの道を急ぐのだった。
◆ ◆ ◆
アスナとのやりとりで少し遅くなったせいか、昼時を少し過ぎたレストランの店内はあまりプレイヤーがいなかった。クラディールは奥の目立たないテーブルにつくと注文をとりにきたNPCからメニューを受け取る。
先ほどの一件で沈んだ気持ちを吹き飛ばそうと思い、高いものでも頼んでやろうとメニューを覗き込んだところで店の一角が妙に騒がしいことに気が付いた。
そちらを見ると一人のプレイヤーと4人のパーティーが言い争っているようだった。
「これはどういうことだいカイン! いきなりギルドを抜けるなんて!」
4人パーティーのうち一人は女性プレイヤーだった。気の強そうなその女性が男に詰め寄っている。
「そうッス! 俺達に一言も言わずにどういうことッスか!」
「抜け忍は処罰。慈悲はないでゴザル!」
「ボクの右腕が暴走しないうちに早く謝るんダナ!」
残りのパーティーメンバーも女性プレイヤーの後ろから口々に男を責めたてている。
一方カインと呼ばれた男は見たところかなりのイケメンだった。茶色の髪をふわりとなびかせ、何食わぬ顔で4人に向かって言い放つ。
「おいおいロザリア。何を目くじら立ててるんだ。合わないメンバーがギルドを抜けるなんてよくある話だろう?」
「ああ、そうだろうさ。でもギルドリーダーがギルドの全財産を持って抜けたとなると話は別だよ!」
「あれはみんなのお金ッス!」
「共有にしていた道具類もあったでゴザル!」
「ボクのお宝SSだけでも返してほしいんダナ!」
やり取りを聞きながらクラディールはおおよその事情を把握する。おそらくあの5人は元々同じギルドのメンバーだったのだろう。ある日あのカインというギルドリーダーが何かと理由をつけてメンバー全員のアイテムを預かり、そのまま行方をくらます。MMOではよくある詐欺の一つだ。
「人聞きの悪いことを言わないでほしいね。これは俺の報酬さ。下層でうだつの上がらなかったお前らをこんな最前線近くまで連れてきてやったんだ。むしろ感謝してほしいくらいだね」
「あんた……最初からそのつもりだったんだね。私達を騙してたのかい!」
「アハハハッ! 特にお前はチョロかったなぁ! この顔で迫ったら一発でコロリだ」
ロザリアと呼ばれた女性プレイヤーは悔しげに顔を歪める。もうどうしようもないことが分かっているのだ。
現実世界ならば詐欺は警察に届ければいい。または通常のMMOであるならば運営側に告発すれば場合によっては奪われた品は戻ってくるだろう。
しかし《ソードアートオンライン》の世界にはそういった抑止力が存在しない。結果このような詐欺に始まり果ては殺人にまで走るプレイヤーもでてきている。クラディールも一歩間違えばそういった者達の一人になっていたかもしれないのだ。
「お前らの金やアイテムならさっき俺のレア装備に化けたところだぜ。これで俺も最前線で攻略組の仲間入りってわけだ」
「カイン! あんたって男は!」
「許せないなら追ってこればいい。まぁ、お前らが最前線に来た所でフィールドモンスターに瞬殺されるだけだろうがなぁ!」
笑いながらレストランを出て行く男を残った4人は見送るしかない。
「すまないねあんた達。アタシがあんな奴を信用しちまったばかりに……」
「あねさんは悪くないっス!」
「そうでゴザル! 悪いのはあのカイン=サンでゴザルよ!」
「これだからイケメンは信用できないんダナ!」
クラディールはNPCに料金を払うと席を立つ。そのまま立ち尽くす4人の脇をすり抜けレストランの出口の扉に手をかけた。
先程アスナとのやりとりで味わった苦い思いが再びクラディールの心に蘇る。だが、彼は4人に話しかけることは出来なかった。
(高い授業料を払ったと思って諦めるんだな)
胸の中で独り言をつぶやきながらレストランを出る。閉まりかけた扉の向こうで軽鎧姿のシミター使いが4人に近づくのが見えたが、クラディールは特に気にすることはなく午後の狩場へと歩き出した。
◆ ◆ ◆
午後の狩場といっても場所は同じ《狼ヶ原》である。パーティー用とソロ用にエリアが別れているこの狩場はソロプレイヤーにとってはやりやすい場所の一つだ。
この場所に沸く《ブラウンハウンドウルフ》は基本集団で現れるのだがソロ用のエリアでは1体づつしか沸かないためクラディールでも狩ることができる。
1種類だけ気をつけなければならないモンスターはいるのだが、そのモンスターは遠目でも目立つため周囲を見渡しながら戦っていればすぐに見つけることができる。その時は潔くその場から離れればいいだけだ。
「おらぁぁぁ!」
クラディールの両手剣が《ブラウンハウンドウルフ》の胴を捉える。
だが浅かったのか瞬時に体勢を整えたウルフはこちらに向かって体当たりを仕掛けてくる。
「うおお!?」
すんでのところで地面を転がりながらそれを避けると、隙のできたウルフに背後から一撃。《ブラウンハウンドウルフ》はポリゴンになって砕け散った。
「ふぅ……」
クラディールは息をはき出す。
狩りの効率はお世辞にもいいとは言えなかった。クラディールはキリトのような超人的な反射神経も、タクトのような卓越した動体視力も持ち合わせてはいない。
どうしてもソロでの狩りにはそういったプレイヤー自身の能力とスキルの差が顕著に表れてしまうのだ。
(それでもアレが使えればもう少し楽にはなるんだがな)
アレというのはクラディールが第十層で手に入れたLAボーナスのことだ。それは幸運にもクラディールのメインウェポンである両手剣だったのだ。
さっそく装備してみようとそのアイテムをジェネレートしその手に握ったクラディールだったが、その時彼は思ってしまった。
はたして自分にこれを使う資格があるのだろうか。と
自分がこのLAボーナスにふさわしい働きをフロアボス戦でしたのかと問われればもちろんNoだ。
そもそも足を引っ張ろうとパーティーに入ったあげくフロアボスから逃げた結果、たなぼた的にLAボーナスをかすめとったにすぎない。
(それに同じ両手剣使いなら俺よりあの剣にふさわしい奴がいる)
それはあのフロアボス討伐隊のリーダーだった少年、タクトだ。
彼はフロアボスに捕らわれたプレイヤー達のために8人という少人数で討伐隊を組織し、クラディールというお荷物を抱えながらも見事にこれを撃破して見せた。このことは今でも攻略組の間では語り草になっているほどだ。
以前クラディールはタクトを探し、LAボーナスの譲渡を申し出たことがあった。
だが『自分の筋力値では装備できない』ともっともらしい理由をつけたにもかかわらず、タクトは頑としてその剣を受取ろうとはしなかった。
『その剣はもうクラディールものだ。筋力値が足りないなら上げればいいだろ?』
アインクラッドにおける最高級品であるLAボーナスの譲渡をなんの未練もなく笑って辞退する少年に、クラディールはさらに自分との差を痛感するだけだった。
こうして自分の手に残ったLAボーナスの両手剣だったが、正直クラディールはこれを持て余した。
何度か装備してみたことはあるのだが、その度に色々な思いがクラディールの頭を渦巻き狩りへの集中力を奪ってしまうのだ。それで一度死ぬ思いをしたクラディールはその剣を封印しようと決めた。
そしてその剣は今も彼のアイテムウィンドウの中で眠っているのだ。
「そのうちオークションにでも出して売っちまうか」
未練がましく持ち歩くよりはその方がいいだろうと思いながら、次の獲物を探すべく周囲を見渡したクラディールは景色に違和感を見つけて眉をひそめた。
「そこで《
「アイエエエ!? 見つかったでゴザル!」
クラディールの言葉に反応してその視線の先から一人のプレイヤーが現れる。
忍者を思わせる布装備に身を包んだそのプレイヤーは顔を引きつらせながら冷や汗を流していた。
「せ、拙者の穏行の術を見破るとはなかなかやるでゴザルな」
「俺の《索敵》スキルで見つけられるんだからたいしたレベルじゃないだろ……ってお前は……」
そう言いながらクラディールは目の前のプレイヤーがあのレストランにいた4人パーティーの一人であることに気がついた。
(どうしてこいつがこんなところにいるんだ? しかも《
クラディールの脳裏に嫌な予感が走る。
しかし、今度は忍者姿のプレイヤーの動きがクラディールの対応を上回った。
「逃がさぬよ! 者共! 出合え出合え!」
辺りに声が響くと同時に4つの影がクラディールを取り囲んだ。
クラディールは心の中で舌打ちする。完全に逃げるタイミングを失ってしまった。
「転げまわりながら無様に狩りをしている奴がいるからどんな男なのかと思ったら、顔まで無様じゃないのさ。こいつはどうしようもないねぇ」
クラディールの正面にはあの時ロザリアと呼ばれていた女性プレイヤーが立っている。それなりに顔立ちは綺麗なのだが、人を見下すような視線と口元に浮かべた下品な笑みが全てを台無しにしていた。
「俺になんの用だ。俺とあんた達は初対面のはずだが?」
時間稼ぎのためにクラディールはわざと答えの分かっている質問をロザリアに投げかけた。
「顔も悪けりゃ頭も悪いんだねぇ。ああ、確かにあんたに恨みはないさ。でもアタシは決めたんだ。アタシから全てを奪った男共から、今度は全てを奪ってやるってねぇ!」
「あねさん素敵っス! 復讐するは我に有りっス!」
「この世はインガオホーでゴザル!」
「くくく……たぎる! 僕の右腕が血を欲しているんダナ!」
予想通りの答えにクラディールは頭を抱えた。彼らはここにモンスターを狩りにきたのではない。プレイヤーを狩りに来たというわけだ。
何も言わないクラディールを恐怖で口もきけないと取ったのか、ロザリアは嗜虐的な笑みを浮かべながら長槍構えた。
「さぁ、アタシらの新ギルド《タイタンズハンド》の最初の獲物になってもらうよ!」
それはクラディールの受難の始まりだった。
はい、あとがきです。
ここでのロザリアさんは悪落ちして《タイタンズハンド》を結成した直後という設定になっております。
原作でこの人の話を読んだ時に「絶対男に騙されて悪落ちしたんだろこの人」と妄想した結果がこれです。この小説では背中を押した人間もいるみたいですがね……。
原作ではなかった2人の話、楽しんでもらえればと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想をお待ちしています。