ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第5話です
神聖剣って謎なスキルですよね。
作者が知る限りソードスキル名も出てこないし、特徴もキリトが「硬すぎるぜ」と言っただけでなぜ同じく剣と盾を持った他のプレイヤーより硬いのかの説明もありません。
しかし、そこがいい。
原作の設定がない分好きに妄想ができるからです。
作者の妄想まみれの神聖剣ですが気に入ってもらえればうれしいです。


はじまりの日4

エルナディータside

 

「管理者権限にて発動!ソードスキル《神聖剣》ダウンロード!」

 

ボイスコマンドにより、カーディナルシステムから私のアバターに神聖剣のソードスキルが書き込まれ始める。

 

「早く早く早く……!」

 

ダウンロードが完了する前に、カーディナルのプロテクトに回線を切断されれば神聖剣の取得は失敗だ。

たった一度きりのアクセス権がその瞬間に無駄になってしまう。

100%に向けてジリジリと上がり始める数字を凝視しながら私は祈る。

まもなくして

 

『complete』

 

という文字がウィンドウに浮かんだのを最後にカーディナルからの回線がシャットダウンされ、最後のシステムウィンドウが閉じられた。

 

「ふぅ……」

 

安堵の溜息をつくと同時に冷えた私の頭が、今の自分の状況を冷静に認識した。

やってしまった。

この一度きりのアクセス権は、私が目的の遂行が不可能だと判断した時に、ログアウトするための最後の命綱だったのだ。これで私は後には引けない。目的を果たすか、このゲームのなかでポリゴンとなって砕け散るか。私の後ろの道は崩れ去り、前に進むしかなくなったのだ。

 

「今更……!」

 

そう今更だ。タクトは私に「信じる」と言い、私は彼に「信じて」と言った。

ならば今はためらっている時ではない。

 

「《神聖剣》アクティベート!」

 

この《神聖剣》というソードスキルは、この世界に10種しかないユニークスキルの中でも極めて特殊な性質をもつスキルだ。その性質の一つが『装備神聖化』である。

既存の武器防具では神聖剣のソードスキルは発動しない。《神聖剣》をアクティブにした状態で装備している武器防具を神聖化し、専用のものに作りかえなければならないのだ。

私を取り囲むように足元に光の環が現れ、装備の神聖化を行うべく上昇を開始しようとしたその時。

短い警告音と共に私の目の前にウィンドウが現れた。

 

『アバターに前提条件が確認できません。ペナルティが発生しますがよろしいですか?Yes/No』

 

前提条件?ペナルティ?

私は予想していなかった事態に焦りを覚える。私が知る限り《神聖剣》取得に特別なクエストやステータスは必要なかったはずだ。このスキルは、あるIDのためだけににつくられた特別なソードスキルなため、私のIDにダウンロードした際に何かの不具合が起きてしまったのかもしれない。

私はペナルティという文字に一瞬躊躇したが、しかし

 

「これも今更よね」

 

私は手を伸ばしYesを選択する。ここでやめるくらいなら初めからこんなことはしていない。

こんどこそ光の環がゆっくりと上昇しはじめる。光の環をくぐった部分の神聖化が始まった。私が身に着けている簡素な皮鎧は白く光沢のあるレザーアーマーに、腰に吊ってある鈍い色の片手剣は銀色の光を放つナイトソードに形を変えた。私の頭上まで上昇した環が消えると同時に装備の神聖化が完了する。

 

「盾がないのは仕方ないか。よし!」

 

それを確認した私は、キリトを助けるべく走り出そうとしたところで

 

「え……?」

 

私は体に違和感を覚えてその場に膝をつく。

 

「か、体が……」

 

重い。突然自分のアバターが鉛になってしまったかのようだった。間接も砂がつまっているかのようにうまく動かすことができない。

 

「一体何が……」

 

私は自分の身におきていることを確認するためにメニューウィンドウをだし、自分のステータス画面を表示させる。そこには

 

「敏捷値がゼロ!?」

 

動きの素早さを司るステータスである敏捷値がゼロになっていた。前に見たときはこんなことにはなっていなかったはずだ。

もしかしてこれが

 

「ペナルティってわけ?」

 

一瞬《神聖剣》をウェイト状態に戻すことを考え、それを否定する。『装備の神聖化』はきちんと発動している。ペナルティが発生していることが、逆に他の神聖剣の性能が正常に働いていることを裏付けていた。

それならば……!

 

「この……まま……!」

 

私は剣を抜き地面に突き立てながらそれを支えに立ち上がると、のろのろとした動きで移動を始める。システムにログインする自分の姿を周りから隠すため、少し離れた森の中へ移動したことが仇になっていた。赤子が這うような速度でようやく元の場所に戻ってくる。

そこには以前と変わらない光景が、いや中央で戦っているキリトの様子がおかしい。もう集中力が限界にきているのだろう。被弾する回数が目に見えて多くなっていた。時間がない。

私は重い足をなんとか踏み出そうとしたところで致命的なことに気が付いた。

この状態でどうやってあの数のリトルネペント全てのヘイトをとればいいのだろう。

普段の状態ならそう難しいことではない。あの群れの何カ所かのネペントにタイミングよく攻撃をしかけ、ヘイトの伝染をを促せばいいのだ。

しかし、この満足に動けない体で複数の場所をすばやく移動することは不可能だ。

 

「どうしよう……どうすれば……!」

 

こうしている内にもキリトの動きはどんどんと鈍くなってきている。

私は少しでも有利な情報はないかとネペントの群れを見渡し、視線がある一点で停止した。

 

「これなら、もしかしたら……!」

 

私は自分の考えを実行するべくまたずりずりと移動を始める。たいした距離はないはずなのだが、この状態ではそこまでがひどく遠く感じる。

やっとの思いでその場所にたどりつき、地面に落ちていた石ころを拾い上げるとソードスキル《シングルシュート》のモーションを起こす。

敏捷値がゼロだからだろうか、システムアシストがかかっていてもその動きはひどく緩慢だ。ゆっくりとしたモーションからやっと石が放たれる。

その石は赤いライトエフェクトを放ちながら群れの一番外にいる1匹に命中する。「ギィ!」という鳴き声をあげてその1匹の注意がこちらに移る。ここでダメ押しの一手だ。

 

「タクトのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

大声を出し、音に敏感なリトルネペントの注意をさらにこちらに引き付ける。

まぁ、セリフはなんでもよかったのだが、このセリフだとなんだか声に力が入りそうな気がしたのだ。

ただ、こちらに引き寄せられることができたのは石をぶつけた1匹だけだ。残りのネペントは依然キリトを取り囲んでいる。

だが私にとってはこの1匹で十分!

近づいてくるリトルネペントを十分に引き付け、私は再度《シングルシュート》のモーションを起こした。しかし今度手に持っているのは、はじまりの街で1本だけ買ったスローイングダガーだ。またも緩慢な動作でスキルが発動し、

 

「ふっ!」

 

もちろんこの一撃が当たったとしても敵のHPは1割も減らないだろう。

だが、私はこの瞬間、作戦の成功を確信した。

 

「《シングルシュート》は飽きるほどやったからね」

 

フレンジーボア相手に、タクトに戦闘のレクチャーをしていた時を思いだす。

赤いライトエフェクトに包まれたダガーがリトルネペントに向かって飛び。

 

「外す気はしなかったわ」

 

私の狙いどうりネペントの頭上にあった「実」に突き刺さる。

 

パァァァァァァァァァァン!

 

と派手な音を立てて実が破裂し、強烈な臭いが周囲にむかって放たれた。

少し離れた所に群がっていた無数のリトルネペントが、その臭いに反応して一斉にこちらを振り向く。

これが私の狙い。

群れの一番外側に実つきのネペントを見つけた私は、シングルシュートの射程まで移動し、ソードスキルと大声で実つきネペントを引き寄せ。残りのネペントをこちらに呼ぶように、スローイングダガーで実を破裂させたのだ。

この悪夢を引き起こした元凶が、今度は私たちの逆転の起点になるとはなんとも皮肉な話だった。

この一帯のリトルネペントがまとめてここに集まっているので、新たに近づいてくるネペントはいないが、30体ものネペントがこちらに近づいてくるのを見ると私の背筋が冷たくなった。

しかもこちらは満足に動けない。ソードスキルも投剣ならともかく、あのモーションの遅さで剣のスキルを当てる自信はない。

こちらに有利な要素があるとすれば

 

「ギィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

実を割られたネペントが体勢をたてなおし、私にむかってツタを繰り出す。

私は急所を剣で守るのが精一杯。

2本のツタがのろのろと動く私を打ち据える。

 

「ぐっ!」

 

なんとか直撃を避けて、視界の左上のHPバーを見る

 

「ここまでの性能とはね……」

 

HPは全く減っていなかった。元ははじまりの街で買った普通の皮鎧だが、『装備神聖化』により防御力に大幅なボーナスが加算されているのだ。

この分なら武器の方も期待できるかと、重たい腕でなんとかナイトソードを抜き放つ。

ゆっくりと(しかできない)モーションを起こすと、剣が純白のライトエフェクトに包まれた。

 

「てぇぇ!」

 

神聖剣単発斬撃技『ディバイダー』

斜め上から袈裟切りに振り下ろされた斬撃は、しかし

 

ひょいっ

「あう」

 

あまりのモーションの遅さに簡単に避けられてしまった。

スキル後の硬直で動けない私をネペントのツタが直撃する。

私のHPが数ドット削り取られた。

 

「やっぱり当たらないか……」

 

これでもう方針はきまった。

攻撃を捨てて急所を剣で守り、直撃を避けながら防御に徹する!

実つきネペントの後ろから無数のネペントがもう目の前まで迫っていた。

そのさらに後ろで呆然とするキリトに駆け寄る2つの影を確認すると

私は自分の役割を果たすべく、ネペントの群れに向かって剣を構えた。

 

 

 

 

 




はい、あとがきです。
原作の神聖剣を見て思ったのは「あれ、武器と盾どうしてるんだろう」ということでした。
一体化した専用装備のようなあの武器は、ヒースさんが毎回苦労してどこかから拾ってきているのだろうかと妄想すると少し笑えてきますね。
序盤に神聖剣をだす以上武器更新はさけて通れません。エルナディータにそこまでの苦労をさせるのは忍びないと考え出した苦肉の策が『装備神聖化』です。
《神聖剣》=「歩くサンドバックになるスキル」になってしまいましたがここからエルナディータが神聖剣をどのように使いこなしていくのか、作者と共に見守っていただければと思います。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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