ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第6話です。
原作でいきなりキリトにトラウマ物な外道を働くコペル君ですが、作者は決して嫌いではありませんでした。デスゲームという現実をいち早く受け入れ、人を殺す覚悟を決める。いいか悪いかはともかくとして実はコペルってすごいやつなんじゃないでしょうか。と作者は思ったりしているのです。


はじまりの日5

タクトside

 

俺とコペルはエルナディータの指示どうり、リトルネペントの群れを迂回して反対側へ出るべく森の中を走っている。

正直、俺はあの時ヘイト役を譲る気はなかった。だが

 

『私を信じて』

 

そう言ったエルナディータを見たとき、俺は何も言えなくなってしまったのだ。

彼女は死にかけていた俺を助けてくれた。

勝手に飛び出した俺を助けてくれた。

そして今、俺のかわりにもっとも危険な役回りを引き受けようとしている。

 

(信じないわけがないじゃないか)

 

ならば俺は自分の役割を全力で果たすだけだ。

 

「コペル。エルナディータがネペントを引いたら飛び出すぞ。前衛は俺がやるから、お前は一直線にキリトを目指すんだ」

「うん、わかった。必ずキリトを助けてみせる」

 

コペルは力強くうなづいた。

エルナディータとネペントの群れを挟んで反対側へたどり着いた俺達は、そこからヘイトを取らないように足音を忍ばせながら様子を伺う。

ネペントの群れの中央で戦っているキリトは、30はいるネペントを相手に驚異的な粘りを見せていた。

四方八方から迫るツタを回避、あるいは切り払いながらネペントの猛攻を凌いでいる。しかし、流石にその顔には疲労が見える。被弾する回数も徐々に増えてきているようだ。

 

「もう少し、耐えてくれよ……」

 

俺はすぐにでも助けに飛び出したい自分を抑えながらチャンスを待つ。

コペルもそれは同じようで固い表情で祈るようにキリトを見つめていた。

その時

 

(きた……エル……タ)

「なにか言ったか?コペル」

 

よく聞こえなかったがコペルが何か言ったのだろうとそちらに聞き返す。

コペルは訝しげにこちらを見て。

 

「いや、僕は何も言ってないよ。どうしたんだいタクト」

(なら……こ……手を……せて……う)

「いや、だってこの声」

 

しかし、それきり声は途切れ後には何も聞こえなくなっていた。

今のは何だったんだろうか。聞こえたというより、頭に響いたというような、これは……。

先ほどの声の内容をよく思い出そうと考えを巡らせようとした時

 

「キ、キリト!!」

 

コペルの叫びで俺は我に返った。群れの中心にいたキリトがついに2本のツタをまともに食らい。もう足も踏ん張れないのかその場にガックリと膝をついたのだ。動けないキリトに周囲のネペントがとどめを刺そうと迫る。

俺はどうにでもなれと飛び出そうとしたところで

 

『タクトのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「な、なんだ!?」

 

エルナディータの大声が辺りに響いたかと思うと

 

パァァァァァァァァァァァァン!

 

何かが破裂するような音が聞こえ、辺りに強烈な臭いが立ち込めた。

俺には何が起こったのかよくわからなかったが、コペルは嫌なことを思い出したかのように顔を歪めた

 

「実だ。誰かがネペントの実を割ったんだ!」

 

次の瞬間ネペントの群れに劇的な変化が起きていた。

キリトを取り囲んでいたネペントが攻撃をやめ、グルリと後ろに向き直ったのだ。

その先にはいつのまに買っていたのか、白い革鎧と銀色の剣を携えたエルナディータの姿があった。

 

「コペル今だ!」

 

何をやったのかは分からないが、今のこのチャンスはエルナディータが作り出したものだと確信した俺は、森の中から今度こそ飛び出した。

続いてコペルも俺のすぐ後ろについて走り出す。

ほとんどのネペントはエルナディータの方向に移動を始めていたが、俺たちに一番近い位置にいたネペントと、キリトにツタをお見舞いしたネペントだけは、キリトへのヘイトに実のヘイトが及ばなかったのか、まだその場に留まっている。

キリトのところへ駆けつけようとする俺達の進路にその1匹が立ちふさがった。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺は両手剣を抜き放ち、ネペントに向かってダッシュする。

一直線に突っ込む俺の左右から2本のツタが迫るが、ここで助走の勢いを殺すわけにはいかない。

俺は、ツタがヒットするその瞬間、さらに急加速。ツタを振り切りネペントに大剣を打ち込みつつ体当たりをかます。

 

「ギィ!?」

 

両手剣の重さと助走をつけた体当たりにより、ネペントに大幅なノックバックが発生し、後ろのコペルとキリトまでの最短距離が開かれた。

 

「コペル行けぇ!」

 

後ろからコペルが俺を追い越し、キリトの元にたどりつくと彼を踏み潰そうとしていた根を、左手のバックラーで受け止めていた。

 

「キリト、大丈夫!?」

「コペル?!お前どうして……」

 

コペルはそのまま根を弾き返すと、キリトをかばうように前に出た。

ネペントが繰り出す攻撃を匠に盾で防ぎながら、その1匹をポリゴンに変える。

まさか彼が現れるとは予想だにしていなかったのだろう。

キリトは呆然とした顔でコペルを見つめていた。

 

「ごめん。本当にごめんよキリト」

「コペル……」

 

謝るコペルにキリトが何かを言いかけようとしたところで

ネペントを片付けた俺がそれを遮る。

 

「悪いが話はあれを全部倒したあとだ。ぐずぐずしてると引き付けてくれているエルナディータが持たない」

 

俺はすでに彼女を取り囲んでいるリトルネペントの群れを指差した。

その悪夢の光景は、ただ役者が交代しただけだ。なぜか彼女は防戦一方でとても危なっかしく見える。

 

「あんたは?」

「俺はタクト。通りすがりだ。俺の仲間が群れを引き付けてくれている。あとは1匹づつ引きながら各個撃破していきたい。いけるか?」

 

突然現れた俺に、不審そうな顔をしたキリトだったが

状況を理解すると立ち上がりながら剣を構えなおす。

 

「分かった。そういうことなら一緒にやろう」

「盾を持っている僕が1匹づつ敵を引く。あとは3人でスイッチしながら確実に倒そう」

「よし、それでいこう」

 

コペルの提案に俺とキリトはうなづくと、戦闘態勢をとる。

盾を構えたコペルが群れの1匹に近づくと後ろからクリティカルポイントを正確に切りつけた。

 

「ギィィ!!」

 

怒りの声を上げながらネペントのターゲットがコペルに移る。

盾で敵の攻撃を防ぎながら少しづつ群れから引き離す。

 

「スイッチ!」

 

コペルの叫びにまずはキリトが飛び出した。

うなるツタを難なくすり抜け、胴体と足の接合部に《ホリゾンタル》を放つ。弱点に強打を食らいのけぞるネペントにすばやく2連擊、これも鮮やかに弱点に吸い込まれ

 

「スイッチ!」

 

俺が飛び出した時にはネペントのHPは2割も残っていなかった。

硬直したままのネペントに俺の《ブレイバー》が決まり敵はポリゴンになって砕け散る。

 

「すげーな。俺いらないんじゃないかこれ」

「いや、武器の耐久度がもうあまりないんだ。あの数を倒しきるなら、攻撃は全部弱点に当てるくらいでいかないと武器が持たないよ。時間もかけられない。弱点に当てられるだけ当てたらスイッチするから後は頼む」

「あー耐久度か。俺もやばいかも。ここからは全部弱点狙っていくしかないか」

 

コペルが次のネペントを引いてきている。

俺とキリトは顔を見合わせてうなづくと敵にむかって駆け出した。

そこからはコペルが引きつけ、キリトが削り、俺がとどめを刺すというパターンが出来上がり、無数のネペントの群れを端から次々と潰していった。

数が10を切ってからは、なぜか銀色装備じゃなくなったエルナディータも攻撃に参加し

 

「ギィィィィィァァァァァァァァァァァァ!」

 

最後のリトルネペントが俺の《ヘヴィスラント》によってポリゴンになった。

 

「「「「お、終わったー……」」」」

 

俺たちはその瞬間、声を揃えてその場に座り込んだ。

 

「ナイスファイトだったぜキリト。攻撃全部避けてたな。どういう反射神経してるんだよ」

「そっちこそ、よくあんなに一直線に突っこめるよな。きちんと直撃は避けてるし、どういう心臓してるんだよ」

「タクトは何にも考えてないだけよね」

「考えてるさ、一直線に突っ込むのが一番早く倒せるだろ?」

「ほら、何も考えてない」

 

エルナディータの厳しいツッコミで3人の顔に笑顔が浮かんだその時

 

「キ、キリト……」

 

立ち上がったコペルが、思いつめた表情をしながらキリトに声をかけた。

それを聞いたキリトも笑顔を消して、立ち上がりながらコペルを見つめる。

その瞬間、コペルは地面に手を付き深々と頭を下げた。

 

「キリト!本当にすまなかった!」

「コペル……」

「僕は僕の弱さから、君を殺そうとした。謝っても許してもらえるとは思っていない。でも、償うチャンスをくれないか。僕はこの2人に会って自分の過ちに気がついたんだ。この世界は僕を殺そうとしてるわけじゃないんだって。そんなのは自分次第なんだって。でも……」

 

そう言うとコペルは装備していた剣と盾を外すと地面に放り投げた。

 

「それすらも君が許せないと言うなら、僕に《完全決着》のデュエルを申し込んでくれ。僕は抵抗しない」

 

コペルは再び地面に手をつくと自らの首を差し出すように頭を下げた。

 

「僕を殺しても罪に思う必要はない。僕はそれだけのことを君にしたんだ」

「そうか、覚悟はできてるんだなコペル」

 

そう言うとキリトはメニューウィンドウをだし、操作をし始める。

 

「お、おいキリト……」

「外野は黙っててくれ。これは俺とコペルの問題だ」

 

さすがに止めに入ろうとした俺を、キリトはするどく睨みつけて操作を続ける。

俺はなんとか言ってくれとエルナディータを見るが、こちらも黙って見ているだけだ。

やがてYes/Noを迫るウィンドウがコペルの前に現れる。

コペルはうつろな目をしながらも迷いなくYesを押した。

 

「ちょ、待って……!」

 

俺はこれから始まろうとしていることを止めるべく足を踏み出そうとして

 

「え?」

 

コペルが発した気が抜けたような声に目をひそめた。

デュエルは始まっているはずなのにキリトは剣も抜いていない。コペルはウィンドウを見たまま固まっている。

不信に思った俺はマナー違反とは思ったが、コペルの前のウィンドウを横から覗きみた。

そこには

 

『「コペル」が「キリト」の《フレンド》に登録されました』

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

 

俺の顔を見たキリトが「ぶっ」と吹き出す。

 

「なんて顔してるんだよタクト。なんだと思ったんだ?」

「いや……俺はてっきりキリトがコペルをばっさりと……」

「操作の動き見てれば分かることじゃないの。全く……」

 

いや、画面がこっちから見えないのに動きだけで判断するとかできないから!

コペルはなおも呆然としながらキリトを見つめている。

 

「キリト……」

「別に許したわけじゃないぜ。償ってもらうならメールで連絡とれないと不便だろ?一人だと難しいクエストとかあったら手伝ってもらうからな」

 

そう言ってキリトはニヤッとコペルに笑いかけた。

 

「ありがとう……ありがとう……キリト……」

 

そう言ってコペルは頭を下げたまま涙を流した。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

ホルンカの村に戻ってきた俺達は(オレとエルナディータは初めてきたのだが)宿に泊まり泥のように眠ったあと、村の入口に集まっていた。

 

「じゃあ、俺は行くよ。色々世話になったな」

 

背中にクエスト報酬である「アニールブレード」を背負ったキリトが俺たちに向かって挨拶する。

フレンド登録をした後一緒に行かないかと誘ったのだが、「ソロの方が性にあってる」と断られてしまったのだ。

 

「ああ、何かあったらメールしてくれ」

「あなたなら大抵のことなら大丈夫でしょうけどね」

 

俺とエルナディータはキリトに答える。

そして、キリトは俺達のとなりに目をやって

 

「コペル。またな」

「うん、またね」

 

そう言ってキリトは離れていく。

短いやり取りだったが、2人の間には細いが確かな絆があるように見えた。

 

「じゃあ、次は僕だね」

 

そう言ってコペルが俺達の前に進み出る。

 

「2人共本当にありがとう。僕が今ここにいられるのは2人のおかげだよ」

 

と言ってコペルは俺たちに頭を下げる。

 

「なぁ、やっぱり一緒にいかないのか?」

「ごめんね。しばらくソロで色々考えたいんだ」

 

コペルは俺に申し訳なさそうに謝る。

 

「でも、もう人に怯えることはしないよ。一人でがんばって強くなってみせる」

 

コペルの「強くなる」には「心」も含まれているのだろう。

コペルは「じゃあね」と手を振って、次の村への道を進んでいく。

そして、俺とエルナディータが残された。

 

「え、えっと……」

 

彼女に声をかけたものの、俺は何と言ったらいいのか分からなかった。

彼女との約束はホルンカの村までだったはずだ。ならば、ここで「ここまでありがとう。じゃ!」と言って別れればいいのである。

しかし、次の言葉が出てこない。

エルナディータには何か大きな目的があるはずなのだ。足手纏いを連れている余裕があるはずがない。ここで別れたほうが彼女のためなのだ。

 

「え、エルナディータ……その……ここまで……」

「あーーーーーーーーーーーー!!」

 

その時エルナディータが俺の言葉を遮るように大声を出した。

何事かと目を丸くする俺に、不自然なほどの早口で

 

「あれだけリトルネペント倒したのに『森の秘薬』クエスト受けてないじゃないありえないわこれからあの面倒くさいクエストを一人でやれっていうのもうネペントなんて1匹もみたくないのにでもここでアニールブレードを取らないわけにはいかないわええそうあの剣は強化すれば3層まで使えるはずだものどうしても取らないとねどうしようかしら」

 

と、そこまで一気に言い切ってこちらをチラッと見る。

俺は彼女が何を言っているのかわからず首を「?」とかしげてみせた。

とたんに彼女の顔が真っ赤になり、俺を上目づかいに睨むと

 

「い、行くわよ!」

 

と言って森の方へズンズンと進んでいってしまう。

それをボケッと見送りながら俺はなんだか無性にうれしくなっていることに気づく。

エルナディータは少し離れたところで俺がついて来ていないことに気づくと

 

「はーーーやーーーくーーー!」

 

俺は笑いながら彼女をあわてて追いかけた。

 

 

 

 




はい、あとがきです。
はじまりの日のエピソードはこれにて完結になります。
コペルを生存させると決めた時一番悩んだのが、キリトとの絡みでした。
自分を殺そうとしたやつと、どうやって絡めればいいんだよと途方にくれたものです。
うまく書けていればいいのですが・・・
タイトルは基本エピソードそのままにしようと思っています。
エルナディータにとって帰り道を失った今日が、本当のソードアートオンラインの「はじまりの日」だったのではないでしょうか。(こじつけ)

ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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