ソードアート・オンライン 《神聖剣》と《神魔剣》   作:あけろん

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第7話です。
ここから「星なき夜のアリア」のエピソードになります。
また、長くなってしまうかもしれませんがお付き合いくださいませ。



第2章《第一層フロアボス討伐》
星なき夜のアリア1


エルナディータside

 

一度だけ、本物の流れ星を見たことがある。

 

『彼』と彼の恋人がキャンプに行くというのに無理やりついていった先でのことだ。

しかし、その時の彼の目には流れ星など映ってはおらず

 

『エルナ。君は空飛ぶ城に行きたいと思ったことはないかい?』

 

と流れ星とは全然関係ないことを言う彼に、私は呆れながら

 

『あれば行ってみたいわね。それだけの重量を空中に静止させる技術には興味があるわ』

 

私がそう言うと彼は『君らしいな』と言って笑ったのを憶えている。

この流れ星の下での奇妙なやりとりが、私の義兄である『彼』との最後の思い出だった。

 

「まさか、本当に来ることになるとはね……」

 

と私はその時を思い出しながら考えに耽る。

世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》が正式がサービスを開始して1ヶ月がたとうとしていた。

すでに死者が2千人にのぼっている現状で、まだ私は幸運にも死神の鎌にかかってはいない。

今でも思う。

 

あの時『彼』に会わなければ、私はここに来ることはなかったのではないか。

あの時『彼』とあの星空を見なければ、このような気持ちになることはなかったのではないか。

 

帰り道も失った今、私はここで『彼』を見つけるしかなくなった。目的を果たすために。

そのためには、一人でいることが最善だったはずだ。この目的は誰にも知られるわけにはいかないのだから。

だが、私は今一人の少年と共に旅をしている。

最初はホルンカの村で別れるつもりだった。助けてしまった手前見捨てるのが後味悪く、基本的なことを教えたらあとは一人に戻るつもりだった。

だが、あの少年タクトのSAOを心から楽しんでいる姿や、人の危機に危険を顧みずに飛び出す姿を見るにつれ、私は自分の心が軽くなっていることに気がついた。

デスゲームと化したこの《ソードアートオンライン》でタクトのような人間がいるのは、私にとって救いだったのだ。それが私の責任からの逃げだったとしても、もっと彼の姿を近くで見ていたいと思ってしまった。

 

「どうしたんだエル。早く行こうぜ」

 

いつのまにか私を「エル」と呼ぶようになっていたタクトが、立ち止まっていた私に声をかける。

特に顔立ちが整っているわけではない。10人いれば10人が「どこにでもいる顔」と答えるだろう。

だが、その目には他のプレイヤーに必ずと言っていいほどある「悲壮感」が感じられなかった。このデスゲームに巻き込まれた被害者意識とでもいおうか、彼はどうやら「この世界にこれてよかった」とさえ思っている節がある。

その目にまた心が軽くなるのを自覚しながら

 

「こういうときは淑女のペースに合わせるのが紳士のたしなみってものじゃないのかしら」

「俺より数段強い人間を淑女扱いしろと言われてもなぁ」

「なんですって?」

「なんでもありません」

 

そう言いながらもタクトはこれから入る迷宮区が楽しみで仕方ないようだ。

私は苦笑しながら、歩くペースを早めた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

レベル6の亜人型モンスター《ルインコボルト・トルーパー》が振り下ろす無骨な手斧が、一直線に突っ込んだタクトをかすめる。

そのまま両手剣の間合いにトルーパーを捕らえたタクトは、2回目の攻撃モーションに入るコボルトにカウンター気味の一撃を叩きつける。

攻撃により硬直したコボルトの側面に回りこみ、両手剣が紫のライトエフェクトを纏う。

 

「うらぁ!」

 

両手剣二連撃技《タイガーバイト》

側面からコボルトの腹と背に高速で斬撃が入る。

敵が更なる硬直状態におちいったところで

 

「スイッチ!」

 

私はタクトと入れ替わり前衛に踊り出た。

私自身の運動命令によって加速された斬撃が、硬直しているコボルトの腕と眉間を切り裂く。

硬直から脱したコボルトが手斧を繰り出してくるが、遅い。

1撃、2撃、3撃目を回避したところで大きく体勢を崩したコボルトに

 

「セアァ!」

 

片手剣三連撃技《シャープネイル》が決まり、ルインコボルト・トルーパーは無数のポリゴンになって爆散した。

「よっしゃぁ!」と大げさに喜んでいるタクトを見ながら、私は前から思っていたことを言う。

 

「タクト。あなたあの一直線に敵に突っ込むクセは直らないの?あんまりギリギリで避けていると、手痛いカウンターを食らうことになるわよ。あのコボルトは3撃目の後に隙ができるんだから、それを待って攻撃を入れればいいでしょう?」

「でもさ。俺は敏捷値にあんまりステータスを振ってないだろ?普通の隙だとどうしても最初の攻撃が直撃しないんだよなぁ」

 

この時点で私のレベルは9タクトのレベルは8だ。

ステータスの傾向は私が筋力:敏捷が4:6敏捷値重視なのに対して、タクトは筋力:敏捷が9:1の筋力値重視のに割り振られている。

「なんでこんな割り振りなのか」と聞いた時に「面白そうだから」という返事を返された時は頭をかかえたものだ。

両手剣の長所はその攻撃力の高さと重さだ。相手がよほどの重量級でなければ、当てれば硬直やノックバックが入るし、気絶状態にもしやすい。

反面短所は攻撃を当てにくいことだ。どうしても速度に劣る両手剣は総じて敵に避けられやすい。一撃当てれば相手の硬直から連続で攻撃を入れられるが、その最初の一撃が両手剣の場合は一番難しいのだ。敏捷値にステータスを振っていないタクトならなおさらだろう。

なるほど、ならばタクトの戦法は理にかなっている。相手の攻撃を最小の動作によるステップ防御でかわせれば、反撃の開始速度で攻撃速度の遅さを補えるというわけだ。

 

「だからって、こんなリスキーな戦法とらなくてもいいじゃないの」

「俺はこのやり方が一番やりやすいんだ。変える気はない」

 

この戦法には優れた動体視力と敵の攻撃に真正面から向かっていく度胸が必要になる。

HPが0になったら現実の死が待っているこの世界で、こんな戦法を好んで使うのはタクトくらいのものだろう。

 

「ならせめてステップに変化をつけて……」

「おっ!あれキリトじゃないか?」

「聞きなさいよ……」

 

私はため息をつきながらもタクトの指差した方向をみた。

確かに先の十字路に隠れるようにして、リトルネペントの一件で一緒に戦った剣士キリトが何かをじっと覗き見ている。

 

「おい、キリト何してるんだ?」

「うわっ?!なんだタクトとエルナディータか。脅かすなよ」

「何を見ているの?」

 

私たちも通路の影から顔だけを出すようにしてキリトの視線の先を見る。

そこにはレイピアを装備し、頭から腰近くまでを覆うフード付きケープを羽織ったフェンサーがコボルトと戦っているところだった。

コボルトの攻撃をギリギリの間合いでかわし、細剣カテゴリ単発突き攻撃《リニアー》が凄まじい速度で突きこまれる。

 

「かなりの速度ブーストね。ベータテスターかしら」

「刀身がやっと見えるくらいだな……」

「俺はライトエフェクトの軌跡しか見えない。目がいいんだなタクト」

 

私たちが見ている先で3回目の《リニアー》を放ってコボルトを倒したフェンサーを見て私は「おや?」と思った。

 

「なぁ、最後の一撃はソードスキルじゃなくてもよかったんじゃないか?」

「ああ、そうだな。動きの割りに随分と素人くさいんだよな……」

 

タクトとキリトも気づいたようで不思議そうな顔をしている。

ベータテスターだと思ったのは勘違いだったようだ。あの動きはあのプレイヤーの天性によるものなのだろう。

コボルトを倒したフェンサーはその場でよろめき、通路の壁に背中をぶつけるとそのままずるずると座り込んだ。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

倒れたフェンサーにタクトが駆け寄る。フェンサーの反応はない。

 

「お、おい……」

 

タクトは肩を揺り動かそうと手を伸ばそうとして

 

「触らないで」

 

フェンサーに手を払われた。

キョトンするタクトだったが、今の声を聞いて私の中で合点がいった。

このフェンサーもしかして……

 

「……今のはオーバーキルすぎるよ」

 

今度はキリトがフェンサーに声をかける。

キリトは剣技と戦術のアンバランス、そのことについて聞かずにはいられなかったのだろう。

その質問に関しての彼女の答えは

 

「私の勝手でしょう。放っておいて」

 

……結構頑なな性格みたいね。

「そうですね」といいながら、回れ右して逃げ出そうとするキリトの首をひっつかまえ

私はフェンサーに話しかける。私の勘が正しければ、ここは私が話しかけるのが一番いいだろう。

 

「男2人が不躾でごめんなさい。私はエルナディータよ。あなたは?」

 

フェンサーは私の声にピクリと反応すると初めて顔を上げて私を見た。

私が思ったとおりフェンサーは女の子だった。フードで顔はよく見えないがライトブラウンの瞳が強い光を放っている。

彼女はなにか眩しいものを見たかのように目を細めた後、掠れているが綺麗な声で

 

「……アスナ」

 

と名乗った。

 

「そう、アスナ。その様子じゃこれ以上戦かうのは自殺行為よ。街まで一緒にいくから……」

「……どうせ、みんな死ぬのよ」

 

彼女のライトブラウンの瞳が暗い光を放っている。そこには他のプレイヤーと同様に、いやより強い「悲壮感」が感じられた。

 

「たった一ヶ月で二千人死んだわ。このゲームはクリア不可能なのよ。どこでどう死のうと早いか遅いかだけの違いだわ……」

 

「クリア不可能……か」私は彼女が言った意味を考えかけてやめる。この先は考えてはいけない。

私は別のことを彼女に問いかける。

 

「なら、どうしてあなたはここにいるのかしら?」

「そ、それは……」

「それはあなたが『戦って死ぬ』ことを選んだからよね?でも、このまま戦ったらどうなるかしら、私は近いうちに失神して倒れると思うわ。そして、近くにPOPしたモンスターと戦うこともできずに殺されるでしょうね」

 

身も蓋もないことを言う私にアスナは目を丸くしたが、すぐにキッと私を睨んで

 

「そうなったからってあなたになんの関係が……」

「関係ないわ。あなたは初心者みたいだから、一応判断のための知識を教えておかないとフェアじゃないと思っただけよ。私の今の話を聞いて、まだ狩りを続けるというなら私は止めないわ。このままここから離れて、あなたにはかかわらない。でも、もしあなたが明日戦って死のうと思うのなら、今日は一緒に帰りましょう」

 

と言って私は彼女に手を差し出した。

アスナは私の手をじっと見て何か考えているようだったが、やがて私の手を握ると

 

「一緒に行くわ」

 

と立ち上がった。

私は彼女に肩を貸すと、さっきから妙に静かな後方を振り返った。

そこには

 

「女の子に触らないでって言われた女の子に触らないでって言われた女の子に触らないでって言われた女の子に……」

「そうですね勝手ですよねそうですね放っておいてですよねそうですね勝手ですよねそうですね……」

 

全身にかつてない「悲壮感」を漂わせた2人の男が床に「の」の字を書いていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ようしキリト!出口までどっちが沢山モンスター倒せるか勝負しようぜ!」

「いいだろう。負けたほうが勝ったほうに昼飯オゴリな」

「望むところ!」

 

アスナが2人に

 

「さっきはごめんなさい。入り口までよろしくお願いね」

 

と謝ると、男2人のテンションはいきなりトップギアに入り、すごい勢いでモンスターを倒していく。

なんか、納得がいかない。

 

「どうして、あんなに楽しそうなのかしら……」

 

アスナが信じられないといった表情で2人を見ている。

私もタクトに会ったばかりの頃はそう思ってたわね。

 

「ああいう奴等もいるってことよ。なんだか馬鹿らしくなってくるでしょう?」

「ほんとうね」

 

アスナはそう言ってクスッと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、あとがきです。
キリトとアスナが出会う。最初のシーンだったのですが、完全にエルナディータが食ってしまいました。
キリトには後できちんとアピールタイムを設けたいと思っております。
百合展開?そんなものはありませんよHAHAHA。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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