ときめきのアンサンブル ~ Story of Nico   作:Kohya S.

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15. スーパーアイドル

 すこし街並みの奥へ入っただけなのに、公園は大通りの喧騒が嘘のように静かだった。白い照明がぽつぽつと灯り光の輪を投げかけている。

 時間のせいか公園には誰もいなかった。

 

 にこは両手を後ろ手に組んで公園の中央へ進んだ。

「夜は、こんな感じなのね」

「なんかちょっと……雰囲気が違うね」

 すこし離れたところから智也がいった。

 

 にこは空を見上げた。東京の空は、この前に見た合宿先の空よりもぼんやりと明るかったが、それでもいくつかの星が見えた。

 

 久しぶりに公園に来て――半年前、智也に再会したときの記憶がよみがえった。

 

 あれから半年……。いろんなことがあったわね……。そして明日は、ラブライブ、か。よくここまで来たもんね。

 

 そして途中、智也に背中を押されたこと、サポートしてもらったことも思い出す。

 

 にこはくるりと振り返った。

「智也……」

「ん?」

 急に名前を呼ばれたせいか彼がびくっとしたのがわかる。

「……その、いろいろありがとう」

 にこは目を落とす。

「……こちらこそ。今日は楽しかったよ」

 彼が相好を崩した。

「ううん、そうじゃなくて……」にこは首を振った。「その、いままで半年、のことよ。あんたのおかげで、ここまでこれたわ」

「ニコちゃん……」

 彼もなにか思うところがあるのか、いったん黙った。そして続ける。

「でも……違うよ、ニコちゃんのがんばりだよ」

「……お礼くらい、素直に受け取りなさいよね」

 にこは上目遣いになる。

「……うん、そういってもらえると、嬉しい、かな」

 

 にこはふたたび向きを変えた。照明の下まで歩く。

「それで……あんた、私のこと……その、どう思ってるの?」

 背後の彼に聞いた。にこは顔がほてるのを感じた。

「えっ……」彼はいいよどんだ。「……大好きだけど」

 それを聞いて、にこの鼓動は早くなった。

 

 でも……確かめなきゃ、ね。

 

「それって、単なるファンとして……それとも、女の子として、なの……」

 小さな声でいう。

「……ファンとして、かな」

 彼も小声で答えた。

 

 にこはその答えを聞いて――なかば予想していたのだが――胸がぎゅっと締め付けられた。彼へ向き直る。

「もう、どうしてそうなるのよ! あんた、なに考えてんのよ!」そう絞り出すようにいってから「……人の気も知らないで」と付け加える。

「だって……ニコちゃん」彼は目をそらす。「……アイドルに恋愛はご法度だって」

 

 彼にそう告げたことは忘れていなかったが、にこは知らんぷりをして続けた。

「はあ? そんなこと考えてたの、馬鹿! そんなの……そんなの……」

 にこは言葉に詰まった。

「にこみたいな、スーパーアイドルには当てはまらないのよ!」

 無理やりだと思いながらいい切った。

 智也は、にこの勢いにたじろいだ。

 

 にこは躊躇した。しかし、真姫の言葉を思い出す。ここでいわないと絶対に後悔するだろう。

 

「わ、私、あんたのことが好きなのよ!」

 そういってしまってから、顔から火が出るような気がして、また彼に背中を向けた。

 

「……ニコちゃん」

 すぐうしろから彼の声がした。

「僕も……ニコちゃんのこと、大好きだよ……。その、女の子としても」

「智也……」

 にこは振り返る。

 彼はにこを抱き寄せた。彼の体は大きくて、意外に筋肉質で――にこはすこし戸惑いをおぼえた。

 彼が耳元でささやく。

「えっと……お付き合い、してくれますか」

「……はい」

 にこはささやき、うなずいた。

 

 しばらくそうしていたものの――にこは急に恥ずかしくなって、体を離した。ふたりとも顔を真っ赤にして下を向いた。

 

 目をあわせずに、にこはいう。

「そ、そろそろ、か、帰りましょ」

「……そ、そうだね」

 

 ふたりは公園から出た。いつの間にか、しっかりと手を握りあっていた。

 

「家まで送るね」と彼。

「えっ、悪いわよ……」

「……それ、いまさらいうの」

「そうね……」

 にこは彼になら家の場所を教えてもよいと――むしろ教えるべきだと思った。

 

 淡路町の裏通りを歩きながら彼がいった。

「ニコちゃん……昼間、カフェで……」

「なによ、パンケーキ、私もあげたでしょ」

「そうじゃなくて」彼は苦笑する。「先輩だから、っていったじゃない」

「いったわね」

「そういうの……止めてくれるかな。……その、もう、お付き合いしてるんだし」

 にこが彼を見ると彼はまた頬を上気させていた。にこは可愛くなって、くすりと笑う。

「ごめん、悪かったわ」

「……ありがとう」

 

 昌平橋を渡り、にこは彼に告げる。

「ここでいいわ」

「えっ、でも、家まで送るって……」

 彼が当惑をのぞかせる。

「だから、ここよ。このマンション」

 にこはすぐそばのビルを示してみせる。

「えっ……」

「ま、いままでも、家まで送ってくれてたってわけ」

 にこはため息交じりでいった。

「そうなんだ……」

 

「……じゃ、気を付けてね」とにこ。

「ニコちゃんも、ライブ、がんばって」

「そうね。……あんたのためにも、ね」

「うん、期待してる」

 彼は今日一番の笑顔で笑った。

 

 彼は途中で一度手を振り、帰っていった。

 にこは彼の姿が消えるまで見守った。そしてマンションの階段を上った。

 

 

 ―――――――― エピローグ ――――――――

 

 

 翌日。

 メンバーは配信の舞台であるUTX高校に集まった。

 

 控室でステージ衣装に着替える。ことりが作った衣装にはいつか専門店街で買った生地が使われていて、にこは嬉しくなった。

 

 先にA-RISEが配信をおこなった。新曲「Shocking Party」のパフォーマンスにメンバーは圧倒された。

 しかし穂乃果の激励と音ノ木坂学院のクラスメイトたちの応援もあってメンバーはやる気を取り戻した。

 学院生の姿を見て、智也も来ているはずね、とにこは思う。

 

 すっかり日が落ちた暗闇のなか、UTX高校の屋上の特設ステージが幻想的に浮かび上がった。

 そして披露する新曲は「ユメノトビラ」。

 

 メンバーが位置についた。

『♪~♫~』

 曲にあわせて穂乃果が歌い始めた。アップテンポなAメロから、一転してゆったりとしてBメロへ。にこは絵里、真姫と組んで、歌い踊っていく。

 客席は闇に沈んでペンライトの光しか見えないが――智也がいることは信じられた。

 最後に初めの位置に戻って、全員でポーズを取った。

 

 一瞬の間をおいてから観客席から上がる拍手と歓声。

 

 にこは感慨に打たれて――後悔はないわ。そう思った。

 

        ・

 

 ライブのあと、全員で打ち上げにいった。

 

 にこのスマートフォンには智也からのメールが来ていた。短いが心のこもった賞賛の文章に、にこはまた胸が熱くなった。すきを見て返信しておいた。

 

 打ち上げは大いに盛り上がった。しかし翌日は学校があるのでメンバーは早めに切り上げた。予選の結果が出るまでは落ち着かない日々が続くことになるだろう。

 

 二年生の三人は一緒に帰っていった。凛は希とラーメンを食べに行くといい、絵里も同行した。花陽はそれについて行きたそうにしていたが、にこと真姫のあいだになにかを感じとったのか、結局あとに残った。

 にこは真姫、花陽と帰路についた。

 

 秋葉原の夜は意外に早い。まだそれほど遅くないはずだが、大通りの店はすっかり閉まっていた。

 そこから離れると、あたりはさらに静かになる。

 

「それで……そのあと、どうなの、ニコちゃん」

 真姫が話し始めた。

 にこは花陽をちらっと見る。

 

 はあ。まあ、花陽なら、知られてもいいかしらね。

 

「いい、絶対、ぜーったいに、みんなには内緒だからね」

 にこは念を押した。

「は、はいっ」

 花陽は前のめりになって答えた。

 

「……その前に……。花陽、あんた……その、とも……山名のこと、どう思ってるわけ」

「山名さん? どうって……えっと、話が合うかなって……」

 花陽は戸惑いの色を浮かべた。

「あ、でも。山名さん、ニコちゃんと仲良くなってくれたらなって思います!」

「そっか……」

 にこはほっとして微笑んだ。

 

「それで、どうなのよ」

 真姫がじれたようにいう。

「……お、お、お」

 いざとなると恥ずかしくて、にこは頬を真っ赤に染めた。

「お?」と花陽。

「お付き合い、することになったわ!」

 にこはやけ気味に宣言した。

 

「えーっ、ほんとですか」

 なによ、その意外そうな声は……。

「……よかったわね、ニコちゃん」

 真姫はやさしく微笑んだ。

「ありがとう。……真姫のおかげよ」

「そんな……。ニコちゃん、こんなに可愛いんだから、当たり前よ」

 真姫は目をそらし指先で髪の毛をくるくるといじった。

 

「……だからなんですね」と花陽。

「……なにがよ」にこは聞く。

「ニコちゃん、なんとなく、最近、前よりすてきになった気がしてたの」

 花陽は体の前で両手を握り、もじもじとしながらいった。

「やっぱり、恋する乙女って、違うんですね……」

「……」

「ほら、わたしのいった通りじゃない」と真姫。

「……ふん」

 にこは照れくさくなってそっぽを向いた。

 

 昌平橋が近付いてきた。信号待ちをしていると、交差点の向こう側の橋のたもと、広場の前に人影が見えた。智也だった。にこに気付いたのか大きく手を振る。

 

「……あっちから帰りましょ」と真姫。

「そ、そうですね」

 花陽も答える。

「あんたたち、なに、気使ってんのよ」

 にこはそういったが――。

「じゃあね、ニコちゃん」

「また明日ね」

 ふたりはそのまま横断歩道を渡っていった。

 

 はあ、仕方ないわね。にこはため息をついた。

 

 信号が青に変わった。にこは小走りで交差点を渡った。

 




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