ときめきのアンサンブル ~ Story of Nico   作:Kohya S.

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9. 花陽の告白

 夏休みも中盤に差しかかったある日の朝。

 μ'sの練習へ参加する前に、にこは駿河台下の公園に行った。個人的なトレーニングのためだった。

 

 メニューは自分で調べて考えたものだが、にこは内容にはあまり自信がなかった。それにμ'sの練習と並行しているのでそれほど無理もできない。

 

 すこしずつ続けてるけど、効果、出てるのかしらね。

 

 公園につく。緑の多い公園は涼しいものの朝日からは暑さの予感がした。

 

 軽くストレッチをしてから、まずはコースをゆっくり一周しようと公園の出口へ向かう。すると行こうとした方向から智也が来るのが見えた。ちょうど出口のあたりで出会う。

「おはよう、ニコちゃん」

 彼はいつものように笑った。

「おはよう」

 にこはいったん足を止めたが、そのまま走り出した。彼はくるっと回ってついてくる。

「なんでついて来るのよ……」

「別に、たまたまだよ」

 

 住宅や雑居ビルの間のゆるい上り坂を走りぬけ、駿河台へ向けて男坂の階段を一定のペースで上がる。すこし走ってから今度は女坂を下る。そしてもと来た道を公園へ。

 

 公園へついても、にこの息はほとんど上がっていなかった。まあ多少、マシにはなってるかしら、と思う。

 

 にこはずっとついてきていた智也へ向きなおる。彼も平然としたようすだ。

「……あんたもよく続くわね。陸上部、止めたんじゃないの」

「吹奏楽も、体力、いるんだよね」

「あら、そうなの。意外ね」

「ずっと吹き続けなきゃだし、応援とか、炎天下だし……」

 そんなものなのか、とにこは思う。

「へえ、ちょっとライブに似てるかしら」

「そうだね。……ニコちゃんも、がんばってるね」

 彼ははげますようにいった。

「まあね」にこはその口調につられて、思わず続ける。「その……九人になったでしょ……やっぱり比較しちゃうのよね」

「比較?」

 彼は繰り返した。

 

 にこはため息をついた。ベンチまで歩いてそこに座る。

「春にあんたにいろいろ聞いて、がんばってるけど……。ほら、私、こんな体格でしょ」にこは自分の体を軽くしめして続ける。「μ'sのメンバーにくらべると、いろいろ不利なのかな、って」

 智也はにこを見下ろしたままいう。

「うーん、格闘技でもないし、そんなことないと思うけど……」

「でも、カリスマだっけ、もうすこし魅せられるような動き、したいのよね……」

 にこは足を投げ出して空を向いた。

 彼はにこのとなりに座った。

「そうか……。持久力は、ついてきたでしょ」

 にこは彼に向きなおる。

「そうね。LSDのおかげかしら。ただ、最近はあまり伸びてない気がするわ」

「負荷を上げてもいいかも。脈拍とか、はかってる?」

「はあ? 運動中にはかるわけ?」

「そうだよ。……」

 

 しばらく彼の説明が続いた。相対的に負荷が低くなったのは、にこの能力が上がったせいだが、あまり低くても当然ながら効果は出ないらしい。

 

「あとは、筋トレかなあ、地味だけど」

「げっ。地味なのは苦手よ」

「LSDも十分地味だよ……」彼は苦笑する。「それと、食生活も大事だよ」

「……それは難しいわね」

 いろいろ倹約してメニューを考えてるのに、さらに改善できるのかしら、とにこは思う。

「小泉さんたちと、食べ歩きしてるとか?」彼はにやりと笑う。

「……ち、違うわよ。うちの家計を考えてたのよ」

 ま、まあ食べ歩きもしてないっていったら、嘘になるけどね。

「そうか、ごめん」

 彼は素直に謝った。にこの心にちょっぴり罪悪感がわいた。

「でも、安くてもタンパク質が豊富なメニュー、あるから……」と彼。

 

 今度は筋トレと食事についてひとしきり話した。

 

「……いろいろあるのね。参考になったわ」

「ならいいな。でも、μ'sの練習もあると思うし……無理はしないでね」

「わかってるわ」

「いつでも相談に乗るから……」

 彼ははにかむように笑った。

「……その、ありがと。智也」

 にこがそういうと彼はますます笑みを深めた。

 

        ・

 

 数日後、μ'sの練習を終えたにこは、制服に着替えて音ノ木坂学院を出た。

 そのまま徒歩で秋葉原へ向かう。今日は、しばらく前に借りたDVDを返すために智也と待ち合わせていた。

 彼に会うのは先日の朝以来で、にこは心なしか早足になるのだった。

 

 DVDを返したあと、一緒に買い物でも行こうかしら。あいつ、なんていうかしらね……。

 

 UTX高校に近い、いつかのファーストフード店へ。

 一階には智也はいないようだったので、ドリンクだけ注文して二階に上がった。

 

 階段を上り店内を見渡すと隅のほうに彼の姿が見えた。にこはそちらへ行こうとして――彼がひとりでないことに気付いた。誰かと話している。それも女性のようだ。胸がざわつく。

 智也と相手の女性は四人掛けの席に斜向(はすむ)かいに座っていた。

 にこは彼らの視線に入らないように、なんとか近くの席にすべり込んだ。

 呼吸を落ちつけてから耳を澄ます。

 

「……とても素敵だと思います」

 と女性の声。この声は……花陽じゃない。にこは驚きと安堵の両方に襲われた。声をかけようか一瞬迷う。

「そういってもらえると、嬉しいですね」

 智也は楽しそうだ。しかし、話の内容がきな臭く思えて――にこはそのまま聞き続けることにした。いつでも出ていけるしね……。

「……わたし、あこがれちゃいます」

 花陽の台詞はどこか熱を帯びているように思えた。

「そういえばすこし、小泉さんに似てるしれません」

 彼は微笑んだようだ。

 

 フロアの奥にいた若い女性のグループが、退出するのだろう、にことふたりの間を通りがかった。一瞬、声が聞こえなくなる。

 

 ああ、もう、と思いつつ、にこはふたたび聞き耳を立てた。花陽がささやいた次の言葉に、にこは耳を疑った。

「……私、その、大好きです」

 にこは「えっ」と思わず口に出しそうになり、あわてて自分の口を押える。いまなんていったのよ……。

「僕もですよ」

 なんですって……。

「えへへ……」

 花陽は、恥ずかしそうな声音で笑った。

 

 ち、ちょっと待って、どういうことよ……。そんなことになってるなんて、知らないわよ……。

 

 にこは眩暈(めまい)がした。テーブルを見つめておさまるのを待つ。

 ふたりはいったん会話を止めているようだった。すると新たにもうひとり、聞き覚えのある声がした。

「かーよちん、お待たせだニャ」

 凛だった。

「あ、凛ちゃん」

「こんにちは、星空さん」

 花陽と智也が答える。

「あ、ニコちゃんの彼氏だ」と凛。

「違いますよ」

 智也は言下に否定した。

 

 にこはそれ以上、聞いていられなくなり――三人に気付かれないように身をかがめて階段まで進み、下に降りて店の外に出た。

 

        ・

 

 にこはどこへ行くともなく秋葉原の街を歩いた。

 しばらくするとスマートフォンに着信があった。無視しようかとも思ったがいちおう鞄から取り出してみる。智也からだった。

 そのまま切ってしまおうとして――大人げないと思いなおし、受話ボタンをタップした。

 

「あ、ニコちゃん」

「……なによ」

 声が冷たくなるのは否定できなかった。

「その、もう時間、すぎてるけど……」

「きょうは」そういって大げさに間を空ける。「ちょっっと、用事ができて、行けなくなったわ」

「そうなんだ……」

「きっとあんたも忙しいでしょうから、ちょうどいいわよね」

「えっ、どういうこと」

 それ以上は聞かずに、にこは乱暴に電話を切った。

 

 そのあと、にこは足早に帰宅した。

 

「お姉さま、お帰りなさい」

 自宅の扉を開けると妹のこころが迎えてくれた。内心は穏やかでないが、にこはいったん封印する。

「ただいま」と微笑む。

「今日は早いのですね」

 そっか、食事してくるかも、っていっちゃったから……。

「うん、用事が早く終わったのよ」

 

 そのあとはしばらく弟妹の相手をして、帰宅した母を手伝って食事を済ませ、みなで入浴して――にこが落ち着いたのは夜九時過ぎだった。

 

 暗い部屋のなか、にこはクッションに座り込んだ。カーテンを開けてある窓からは秋葉原の街の光が差し込んでくる。

 ひとりになると日中のことが、ファーストフード店で聞いた会話が思い出された。

 

『大好きです』『僕もですよ』……あいつと花陽、あんなこと話してたけど……。あれは……聞き間違いじゃないわよね。どういう関係なのかしら……。

 

 にこはぬいぐるみを抱え込んだ。顔をうずめる。

 

 あいつ、私のこと、どう思ってるのかしら。やっぱり単なるファンとしてしか、見てないのかしら。……でも、この前のライブのあとで、デートだっていってたし。

 だとしたら……。『ニコちゃんの彼氏だ』『違いますよ』って……たしかにそうだけど、そこまで否定しなくてもいいじゃない。

 

 にこはだんだんと腹が立ってきた。右手でぬいぐるみをぼすっと殴りつける。当然、ぬいぐるみはなにも答えず――にこはもう一度、それを抱えなおした。

 

 別に、あいつと……その、付き合ってるわけでもなんでもないけど……もう、どうしてこんなに気になるのかしら……。

 

 誰に腹を立てているのか――智也になのか、それとも自分自身になのか、わからくなってきて、にこはため息をついた。

 

        ・

 

 翌日、朝に公園には行かなかったものの、μ'sの練習は当然ながらあるので――花陽と顔をあわせることになるはずだった。

 

 はあ、気まずいわね。

 

 先に屋上に上がったにこがストレッチをしていると花陽もやってきた。

「おはよう、ニコちゃん」

 いつものように挨拶する花陽。その笑顔はにこから見ても可愛くて――いつもは妹のように思えるのだが、今日は不思議と大人びて見えるのだった。

「おはよう……」

 にこは目をそらして答えた。

「あの、ニコちゃん、昨日のことなんだけど……」

 にこの雰囲気を感じ取ったのか花陽がおずおずと話し出す。

「やめて……聞きたくないわ」

 にこは花陽をさえぎった。いまさらなにを聞かせようっていうのよ……。

「ニコちゃん……」

 花陽は戸惑っていたが、それ以上なにもいわなかった。

 

 それからはなるべく練習に集中してなにも考えないようにした。練習を終えて、にこは早々に学院を後にした。

 

 歩き始めてしばらくすると、にこのスマートフォンが軽快に鳴り出した。この着信音は――智也からだ。ため息とともに、にこはスマートフォンを取り出し電話に出た。

 

「……なによ」

「あ、ニコちゃん……その、昨日はどうしたのかなって……」

「別になんでもいいじゃない」

 ぶっきらぼうに答える。

「……」

 彼はしばらく無言だった。にこは胸のざわめきを抑えられなくなり思わず口にする。

「あんた……花陽のこと、どう思ってるの?」

「えっ」

 彼は突然のことに面食らったようだがぽつりぽつりと答える。

「……そうだね、とても可愛いし、頑張り屋だし、話もあうし……。嫌いじゃないよ」

 そっか、やっぱりそうなのね……。

「でも……僕はニコちゃんが……」

 彼を制して、にこはいう。

「もういいわ。どうせ花陽のほうがいいんでしょ。お幸せにね!」

 にこは電話を切った。とりあえずスマートフォンをマナーモードにして、鞄の奥に突っ込んだ。

 

 にこはふたたびゆっくりと歩き出した。楽しそうに話している彼と花陽の姿が頭に浮かぶ。

 

 ひょっとして年の差なのかしらね。ふたつも違うと、構えちゃうでしょうし。やっぱり同い年のほうが、いいのかもね。……たしか花陽は早生まれだから、あいつのほうが年上なのよね。

 

 その日はなにも手につかず、にこは早めに床についたのだが――なかなか眠りは訪れて来なかった。

 

        ・

 

 翌日。

 智也からの連絡はそれ以降なくて、にこはさらに思い悩んだ。μ'sの練習はなんとかこなし、今日も早めに帰ろうとした。

 

 部室から出ようとしたにこを花陽が呼び止めた。

「ニコちゃん、お話があります」

 その目は真剣で――振り切って帰ろうとしたにこは思いとどまった。

 

 でも、どんな話なのよ……。もし……もしよ、あいつとの話だったりしたら、私、聞いていられるかしら……。

 

「……なに、花陽」

 どうしても口調がとげとげしくなってしまい――花陽がすこしひるんだようなので、あわてて笑みを浮かべる。花陽はほっとしたように微笑み、小声で続けた。

「あの、ここだとちょっと……。いっしょに帰りませんか」

「いいわよ」

 

 一緒に帰るという凛を、アイドルのディープな話をするからとかわして、にこと花陽は学院を出た。

 

 ゆるくて長い下り坂を歩いていく。すこし傾いた日がふたりを照らす。

 

「それで、話ってなんなの」

 にこは花陽にぎこちなく微笑みかけた。

 花陽は恥ずかしそうに下を向いた。

「あの、この前、秋葉原で……その、山名さんに会ったの」

 花陽の口から彼の名前が出て、にこはどきっとする。

「それで……?」

「こんなこというのは、どうかなって思ったんだけど……」

 花陽はにこに顔を向ける。

「あの、ニコちゃん、山名さんと喧嘩とか、してるのかな?」

「べ、別にそういうわけじゃないけど……ちょっとした意見の相違よ」

 

 ああっ、もう。これはあれかしら、喧嘩したからあいつが花陽に相談して、仲良くなって……ってパターンかしら。あれ、でも、もめてるのは、秋葉原に行ったあとよね……。

 

 花陽は確認するようにいう。

「ニコちゃん、あの日待ち合わせ、してたんだよね」

 にこはうなずいた。

「私、たまたま同じ店に行ったの。……山名さん、ニコちゃんが来れなくなって……すごく、落ち込んでたみたい」

「……はあ?」

「だから……あの、許してあげても、いいんじゃないかなって」

「……」

 思わぬ方向に話が進み混乱するにこ。

 その沈黙を怒りととったのか――。

「その……余計なお世話だったら、ごめんなさい!」

 花陽はすっかり恐縮したようすで頭を下げた。

 

 これってどういうこと……。もしかして花陽とあいつには、なにもないってわけ……。もしかすると私……。

 

「ううん、とんでもないわ。ありがと」

 にこは花陽を安心させるようにいった。花陽は顔を上げて。

「……どういたしまして」と、はにかむように笑った。

 

 さて、どうしようかしら。あそこにいたなんて、いえないしね……。

 

「あ、それで……」

 にこが逡巡していると花陽が思い出したようにいった。足を止めて自分の鞄のなかを探す。にこも立ち止まる。

「これ、山名さんに渡してもらえるかな」

 花陽が差し出したのは、薄くて白い紙袋だった。

「なあに、これ」

「アイドルのDVDなの。あのとき、貸す約束をしたので……」

「ふーん。わかったわ」

 にこはとりあえず受け取った。

 

「その……アイドルの話でも、したの?」

 にこは探るようにいう。

「はい、山名さんと同じグループが好きって、盛り上がって。それで、このDVDを貸すことになったの。……ニコちゃんとは、よく会ってるから、渡してくれればって」

 

 そういえば、いってたわね。『大好きです』『僕もですよ』って。……参ったわね。これって本格的に私の誤解っぽいじゃない……。

 

「はあっ」

 にこはため息をついてふたたび歩き出す。花陽も一歩遅れてにこについていく。

「……ニコちゃん、お付き合いとか、してないの?」

 にこが振り向くと、花陽は顔を伏せて上目遣いでにこを見ていた。

 もう、その目はなんなのよ、とにこは思う。

「し、してないわよ」

 にこは頬をすこし赤らめながら花陽から目をそらす。

「そうなんだ……」

 花陽は目を落としてぽつりとつぶやいた。

 

 もう、どういう意味よ、それ……。

 

 にこは気になって仕方なかったが、それ以上追及する勇気は出てこないのだった。

 

        ・

 

 その日の夜、にこは直接、話す気にはどうしてもなれなかったので、智也にメールすることにした。明日、DVDを渡したいことを書いて――さらにこの前はごめんなさいと書き足して、送信した。

 彼からはすぐに返信があり、そこには朝に公園に行くつもりだと、簡潔な文章で書いてあった。にこはお礼とだいたいの時間を返信しておいた。

 

 翌日の朝、にこはDVDをウエストバッグに入れて家を出た。

 いつもの公園について智也を探すが彼はまだ来ていないようだった。ベンチに座る。

 

 はあ、なんていえばいいのかしらね……。

 

「……ニコちゃん?」

 下を向いていたにこに上から声が降ってきた。

「あ、智也……」

 顔を上げるにこ。彼は悲しいような腹を立てているような――いつになく複雑な顔をしていた。

「その……おはよう」

「おはよう、ニコちゃん」

 彼は立ったまま。仕方なくにこも立ち上がった。

 

「……その、この前はごめんなさい。私、急に行けなくなって」

 にこは頭を下げる。

「うん、それはいいよ」彼はかぶりを振った。「……でも、そのあとの電話で……いきなり切ったり、ひどいよ……」

 そういってうつむく。

「うん、ごめん」

 にこは小声で謝った。ベンチに座りなおすと彼もとなりに座った。

 

「それで……電話でいってたけど、小泉さんがどうかしたの?」

 にこは目を落として地面を見つめる。

「えっと……」

 にこはいい出そうか迷ったが、これ以上、あやふやなままでいることには耐えられそうになくて――覚悟を決めた。

「……実は、私、聞いちゃったのよ。あんたと花陽の話を……あそこのお店で……」

「えっ」驚く彼。「あそこにいたの?」

「ごめんね」にこは彼に視線を戻す。「聞くつもりはなかったんだけど、お店に行ったら、ちょうど花陽とおしゃべりしてて……つい、話しかけられなかったの。……盛り上がってたでしょ?」

「うん、アイドルの話で……」

 にこは彼の顔色をうかがう。特に変わったようすは見られなかった。

「素敵とか、あこがれるとか……そのあと、好きですって、いってて……」

 にこは詰問するような、すねるような口調になる。

「……ああ、あの話か」

 彼は思い出したようにいった。

 

「それで私……その、あんたと花陽が、そういう関係なのかなって……」

「そういう関係……?」

 彼は首をかしげる。

「うん……」

 にこはまた視線を落とした。

 彼はしばらく黙っていたが、やがて「あははっ」と笑い出した。

 

「なに笑ってんのよ」

「……ごめん、そうか、そういうことか」

 彼は笑いをこらえている。にこはどうにも面白くなくて――。

「……で、どうなのよ」

 ふてくされるように聞いた。

「……素敵とかあこがれるっていってたのは、アイドルグループのことだよ」

「じゃあ、花陽に似てるっていうのは……」

「センターの子が似てる、って話」

「……」

 

「……ニコちゃん、そんなこと考えてたんだ」

 彼は責めるようにいった。

「だから、ごめんっていってるでしょ」

「でも、それで僕にあんなこというなんて、ひどいよ」

「……まぎらわしすぎるのよ!」

 にこは自分が悪いのはわかっていたが――照れくさいのもあって思わず反論した。そして続ける。

「あんたも、この前、私と真姫のこと、さんざん誤解してたじゃない!」

 彼はびくっとする。

「……そうだね。ごめん」

 にこはその急変ぶりが面白くて――。

「くくく」と笑い出した。

「……あはは」

 彼も笑った。

 

 ひとしきり笑ったあとでにこは思い出した。

「そう、これ。花陽から」

 DVDの入った袋を彼に手渡す。

「あ、ありがとう。見終わったら、ニコちゃんに渡すね」

「花陽に返せばいいじゃない」

「僕、小泉さんの連絡先、知らないし」

 そう聞いてにこは安堵する。

「……そう、わかったわよ」

 

 にこはつい顔がほころんでくるのを彼に気取られないように、勢いよく立ち上がった。

 

「じゃ、先に行くわね」

 にこは走り出した。

「あ、待って」

 あわててDVDをしまった彼がついてくる。

 

 坂道を並走しながら彼がいった。

「でも、ニコちゃんに、そう思われるってことは……」

「あーもう、それ以上はいわないでちょうだい」

 にこはぐっとペースを上げた。

 

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