(大輝)
矢澤先輩にアイドル研究部の部室を追い出されたオレ達は、重くなってしまった空気のまま練習する事も出来ず、今日はお開きとなった。
穂乃果、海未、ことり、そしてオレの二年生組は何もする事も無いまま昇降口までフラフラとやって来て、ぼぉっと降る雨を見ていた。
「、、、これからどうしましょう?このまま雨の日が続くようでは練習もままなりませんし、、、」
雨を眺めたまま海未は、呟くように聞いてきた。
「正式な部活じゃないと空き教室も音楽室も使えないんじゃあ、練習場所が無いよぉ、、、」
不安げな声でことりは答える。二人の言う通り、現状のままではまずい、何とかしてμ'sが正式な部活動になる必要がある。
「って言っても、アイドル研究部の部長があんな調子じゃあ、明日また行っても同じ結果になりさうだからなぁ」
「にこ先輩、何か事情がありそうな感じだったけど、、、」
「穂乃果、何かとは?なんですか?」
「う~ん、うまく言えないけど、、こう、こう!」
もしゃもしゃと頭をかきまわしながらうなり続ける穂乃果。
「やっぱり、にこっちに追い出さたみたいやね」
「希先輩!?」
下駄箱の影から顔を出したのは、アイドル研究部に話をつけてこいと言い出した張本人の希先輩だった。
「ふふ、にこっちの様子はどうやった?」
「どうって、μ'sの活動のために部活を合わせてほしいって話したら、『お断り』の一点張りッスよ。真姫じゃないんだから、、、」
「にこっちも相変わらずやなぁ」
含みのある言い方で希先輩は笑う。
「?それはどういうことですか?」
「にこっちはな、あなたたちと同じだったんよ」
「オレ達と同じ、だった?」
「1年生の頃にね、あなたたちと同じ。『音乃木坂学院スクールアイドル』やったん」
「にこ先輩が、スクールアイドル、、、
『だった』ってことは今はもう辞めてしまったんスね?」
「にこっち本人は辞め取らんよ、。ただ、、、他のメンバーがね、、、
アイドルとしての目標が高すぎたんやろうな。付いていけないって一人辞め二人辞め、、、最終的に、グループにはにこっち一人になってしもうたんや。部活動自体にはもう一人、当時マネージャーをやってた子がまだ在籍しとるけどね」
「希はどうしてそれを?やけに詳しいと言うか、、、」
「にこっちとよく話すようになったのは二年生になってクラスが同じになってからかなぁ、さっきの元マネージャーの子を通じてね。この話もそのマネージャーの子から聞いたんよ」
「そうだったんですか、、、」
まさかにこ先輩もスクールアイドルだったとは、、、アイドル研究部なんてのに所属してるくらいだからきっとアイドルが好きなんだろうとは思ってたけど、、、
「にこっちはきっとあなたたちのことが羨ましいんやないかな。
歌にダメ出ししたり、ダンスにケチつけたり出来るってことはそれだけ興味があって見てるってことやろ?」
一通り問答を終えたオレはある事に気がついた。希先輩は話している間ずっとオレ達は窮地に追い込まれているのにも関わらずにこにこと笑顔のままでいた。
希先輩は何か企んでいる。わざとオレ達にぼかした表現をして、思惑通りに行動させようとしている。だからオレ達が困っていてもにこにこし続けられるのだろう。
希先輩のにこにこ顔、その表情にどこか見覚えがあった。
ああ、そうだ。昨日生徒会室でオレ達に頑張れと言った時も同じ表情、オレ達だけじゃなくて他の誰かを思うような表情。その相手こそ希先輩の企みのターゲット。
そして会話から察してそれは、にこ先輩のこと。
希が先輩は何を言っていた?
にこ先輩は以前スクールアイドルをやっていた。
にこ先輩はオレ達を羨ましく思っていて、しかも興味がある、、、
つまり、希先輩の企みは、、、
「希先輩は、どうするのがいいと思いますか?オレ達だけじゃなく、にこ先輩も、両方に取って」
「それはウチが言えることやないで。でも、
大輝君ならもう分かったんと違う?」
オレの中で推測が確信に変わる音がした。
*☼*―――――*☼*―――――(大輝→希)
「え~、大輝くん何がわかったの~?穂乃果にも教えて~!!」
「わかったからくっつくな!ったく、まぁ今日の夜にでもグループトークでみんなで話合おうぜ」
「わかりました、では大輝もそのとき話してください。ことりもそれでいいですか?」
「うん!あ、花陽ちゃんたちに連絡しとくね」
大輝くんは完全にウチの考えてることが分かったみたいやな。なら、もう任せても、あの子たちなら自力で解決してくれるやろ。
穂乃果ちゃんたちと別れたウチは生徒会室に戻ることにした。
スクールアイドル、μ's
神話に登場する9人の芸術の女神からその名をとった、この音乃木坂学院を救うかもしれない存在。って、名付けたの、実は、ウチなんやけどな。
でも、穂乃果ちゃんが学院を救うかもってのは本心。学院だけやなくて、ここにいる素直な気持ちになれない子たちも。
あの日、生徒会に講堂の使用許可を取りに来た穂乃果ちゃんは今まで見たこともないくらい、強い気持ちのこもった目をしていた。あんな目をしてる人にウチは初めて出会った。
ウチは知ってた、この学院には素直な気持ちを上手に表現できないで苦しんでる人たちがいることを。
ウチは思った、穂乃果ちゃんたちならその子たちを救えるのかもって
だから、ウチは賭けたん、穂乃果ちゃんたちμ'sに、
そして、ウチは決めた、穂乃果ちゃんたちを影から支えてるって。
穂乃果ちゃんたちはウチが何もしなくても、一年生の子たちの心の扉を開けることをやってのけた。
次はにこっち。
そして、その次は、、、
生徒会室に着いたウチはそのドアノブに手を掛けた。
「ただいまぁ。戻ってきたで~」
「あら、希、お帰り」
「っ!?」
はっきりとしない、けど確かな違和感がウチを襲った。
具体的に何が、とは言えないけれど、今のエリチは普段のエリチとは何かが違う。気のせいじゃない、確かにどこかがおかしい。ほんの少し、ハッキリとしない微小な、限りなく直感に近いけれど、それを拭うことがどうしてもできん。
「?どうかしたかしら、希?そんなところに立ったままで」
「あ、ああ、いやぁ~せっかく二人のところをお邪魔しちゃ悪いかあぁって」
「何それ。変な希」
またや、またさっきの違和感。おかしい、普通なら少し照れるか、呆れたって感じでわざとらしく溜息つく位の反応があるはずやのにそれすらない。
「そんなことより、希、手伝ってくれよ。絵里が俺のチョコ全部没収して返してくれないんだよ」
「雄大くん、生徒会室でお菓子食べようとしたん?そりゃぁ~いくら何でもあかんやろ~、な、エリチ」
「、、、そうね」
「、、、エリチ?」
「何?希」
「な、なんでもない、、、」
違和感はますます強くなっていく。エリチと話す度、違和感はどんどんと大きくなる。
「全く、絵里め、さっきまで弱音吐いてたのに、もういつも通りだ」
エリチが、弱音?
「思い出させないでよ雄大、もういいのよ、やっぱり私は学院のために努力しなきゃいけないって覚悟が出来たんだから」
「、、、まぁ、いつも通りならいいか」
溜息を付きなるが微笑む雄大くん。雄大はは気づいて無いんや、エリチがいつもと違うことに。
ウチが穂乃果ちゃんたちの様子を見に生徒会室を出ていく時まで、エリチに違和感を感じてはいなかった。つまり、エリチが変わったのはウチが穂乃果ちゃんとたちとあっている間。
その間にエリチは雄大君に弱音を吐いていた。なら、きっとそこに原因があるはず。
「エ、エリチが弱音なんて珍しいやん、なんかあったん?」
「なんかって、、、言っていいのか、絵里?」
「ええ、構わないわ。そんなに重大な事じゃないから一々聞かなくてもいいのに、、、」
「そうか、まぁ一応な。
ええっと、簡単に言うと、絵里が廃校を阻止する自信無くしてな、それで俺が止めてもいいんだぞって言ったんだけど、絵里はやっぱり続けるって。
そういうやり取りがあったって感じだ。合ってるよな、絵里?」
「随分端折ってるけど、まぁ間違いではないわ。ほら、無駄話はこの位にして続きの仕事をしましょう」
「無駄話って、絵里は冷たいな、、、」
!
雄大君の言葉にピンと来た。そうだ今のエリチは冷たい。冷た過ぎる。普段ならウチらの世間話を無駄話なんて言わないし、さっきからの受け答えも簡単なもの過ぎる。
雄大君はさっきエリチに『止めてもいい』と言ったと話していた。負けず嫌いのエリチの事だ、きっと続けると言うに決まってる。それを見越して雄大君が聞いたのかは分からないけど、きっとその時のエリチの気持ちは自分の意思でやりたい、と言うのものでは無かったはずや。さっき、エリチ自身も『努力しなければ」と言っていたように、今のエリチを動かしているのは、、、
義務感。
生徒会長として廃校を阻止しなければと言う義務感によってエリチは答えたはず。あるいは生徒会長が諦めてはいけないと言う強迫観念かもしれん、、、
ともかく今のエリチは自分の気持ちを押し殺してる。だからあんなにも冷たい態度なんやろう。
でも、
ウチには何もできひん。今のエリチにウチが何を言っても、エリチの中の本心を表に出すことは出来んやろう。それが出来るのはきっと、、、
ウチは変わってしまった親友に何もしてあげられない悔しさを感じながら、あの子達たちが一早く本当のエリチに気づく事を願うことしか出来なかった。