僕達の女神   作:Isaac 1,92

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金髪と黒髪と

(絵里)

 

「っ!あなたは、、、」

 

「、、、生徒会長」

 

 黒髪をストレートに伸ばしたμ 'sのメンバーのその子は、私を見るなりその表情をこわばらせる。無理もないか。この子に私は散々突っかかってきた訳だから。私たちはお互いに、なんと言えば良いのか分からず互いに見つめ合ったまま、いや、にらみ合ったままの方がいいのかも、そのまま動けずにいた。

 

「おーい、どうしたー?」

 

 黙ったままの私たちを見かねて雄大が私たちの間に割り込んで来る。おどけた様子で私と黒髪の子顔の前で手を降ってみせる。雄大の事だから亜里沙に気を遣わせないようにするための配慮なのだろうけど。

 

「何でもないわよ。亜理沙、行きましょう」

 

「待って下さい!」

 

 亜里沙の手を取りこの場から離れようとする私を、黒髪の子は思い切ったような、半分金切り声のようになりながらも呼び止めた。

 

「、、、お話したいことがあります」

 

 

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(絵里→雄大)

 

 

 

 

「おまたせしました!どうぞ!」

 

 場所を公園に移した俺たちに絵里の妹、亜里沙ちゃんが自販機で買ってきた缶を手渡していく。が、手渡されたそれは、、、

 

「、、、おでん?」

 

 黒髪の子にも同じ物が渡されたらしい。亜里沙ちゃんが渡してきたそれは、飲み物はでも無く、さらに季節外れのおでん缶だった。

 

「ごめんなさい、向こうでの暮らしが長くて、まだ日本に慣れてないの。亜里沙これは飲み物ではないの。別なのを買ってきて頂戴」

 

 向こう、というのはロシアの事だろうか。絵里は確かロシアのクォーターだったからな。亜里沙ちゃんが再び自販機の前に向かい俺達三人だけになる。が、絵里も黒髪の子も何も話さない。気まずい、と言うか俺がここにいる必要ってあるのか?、、、

  亜里沙ちゃん自販機の前で唸って困ってる。利用させてもらうか、、、

 

「亜里沙ちゃん悩んでいるみたいだから様子見に行ってくるわ」

 

「え、ちょっと雄大。それなら私が」

 

 絵里が焦った風に俺を引き止めようとするが

 

「その子は絵里に話があるんだろ?じゃあな」

 

 やや強引だったが、何はともあれ気まずさからは脱した訳だ。チラッと振り返ると黒髪の子が何やら絵里に話し始めた様なのでどうやら暫く戻らない方がよさそうだ。俺は未だに自販機の前で唸っている亜里沙ちゃんの方に足を向ける。

 

「亜里沙ちゃん、何を買うか決まった?」

 

「ウワァ!あ、どうもえっと、、、」

 

「あ、そう言えばまだ名乗って無かったかも。俺は鈴木雄大。絵里と一緒に生徒会の仕事してる。宜しくね」

 

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「それで、何を買うの?」

 

「こ、これが何か分からなくて、『おしるこ』?ってなんですか」

 

「、、、おしるこなんて自販機に並べるなよ、、、」

 

「え?」

 

「あ、いや、独り言。気にしないで。えっとね、亜里沙ちゃん。おしるこも飲み物じゃないんだ」

 

「хорошо(ハラショー)」

 

「それロシア語?ハラショーだから『凄い』って意味だっけ?」

 

「はい!それ以外にも単に驚いた時などで使います」

 

「ヘー、亜里沙ちゃんはロシアに住んでたの?」

 

「はい!お祖母様がロシアに住んでいて、おねぇちゃんとわたしは小さい頃そこに住んでました!おねぇちゃんはお祖母様の指導でバレエをしていて大会とかも出てたんですけど、私より先に日本のお父さんお母さんの所に移ったんです。私はその後で日本に移りました」

 

「え?絵里ってバレエやってたのか。しかも大会ってスゲェな。初耳だぞ?」

 

「はい!おねぇちゃんはすごいんですよ!大会でも何回も入賞していて。お祖母様も『私の自慢の孫だ。私の賢い可愛いエリーチカ』って知り合いに話して喜んでました」

 

「へぇ。それじゃあ今もこっそりやってたりするのかな」

 

「あ、ええっと、、、おねぇちゃん今はもうバレエをやってないんです」

 

 そこまで言うと亜里沙ちゃんはこれまで嬉嬉として話していたのに、その表情に陰が落ちる。

 

「おねぇちゃん、確かにバレエの実力はすごかったんですけど、実は優勝、一番になった事が無いんです。お祖母様は『運が悪いだけだ』って言って気にしてなかったみたいで、むしろ『エリーチカが笑顔なら順位なんて関係ない』って言ってたんですけど、、、おねぇちゃんはそれが納得出来なかったみたいで、、、」

 

「それで、バレエが嫌になった?」

 

「はい、、、多分そうなんだと思います」

 

「そっか」

 

  人に歴史あり、とは言うがまさか絵里にこんな過去があったなんてなぁ。

 

「ねぇ、亜里沙ちゃん。さっきの感じからしておでん食べたこと無さそうだから今、それ食べてみない?」

 

 やや強引に暗くなりかけた雰囲気を変えるため話題を逸らす。

 

「これ、どうやって食べるんですか?」

 

 亜里沙ちゃんは興味をもうおでん缶に移して、缶をひっくり返したりしている。話題転換は上手くいったようだ。

 

「ちょっと貸して、これはここを、、、」

 

「亜里沙、もうお話は終わったわ。帰りましょう」

 

 缶の蓋に手を掛けようとした時に、絵里が俺達の傍にやって来て、亜里沙ちゃんに声をかける。

 

「何だ、もう終わりか。折角亜里沙ちゃんにおでんを食べさせて上げようと思ったのに」

 

「残念だけど、それは次の機会にね、雄大。さぁ、亜里沙、帰りましょう?」

 

 と、そこに先ほどまで絵里と話していたのであろう黒髪の子が駆け足にやってきた。はっきりと怒りをその顔に表して、そして

 

「あなたに、そんなふうに言われたくありません!!」

 

 

「、、、行きましょう」

 

 絵里はその子に背を向けてサッサと歩き出した。睨みつける黒髪の子と歩いて言ってしまう絵里の間でどうしたものかと思っていると、亜里沙ちゃんがその黒髪の子に近づく。

 

「μ 'sの園田海未さんですよね。私、μ 'sが大好きです!頑張って下さい!」

 

 亜里沙ちゃんはそれだけ伝えると照れくさそうに、それでもどこか誇らしいような笑顔を浮かべて、既に先に行ってしまった姉を追いかけていく。

 その様子を何をするでも無くぼんやりと見ていると黒髪の子(園田海未さんか)の刺さるような視線が俺に向いているのに気がついた。

 

「何?」

 

 絵里と園田さんの間でどのような会話があったのかは分からないが、良くないことは明らかだった。だから、俺はきっとその事で園田さんは、生徒会の一員である俺も厳しい目付きで見ているのだと予想した。だが、その予想は大きく外れる。

 

「、、、先程、あなたに頭を下げた時に見えたのですが、、、何故あなたが私たちの、しかも未発表の新曲の楽譜を持っているのですか」

 

 園田さんの問いが予想とまるで異なったことによって少し詰まる。すぐには答えられず、園田さんはその間で更に目付きを鋭くする。

 

「、、、あー、まぁ、趣味の一環って所か?」

 

 説明がすると長くて面倒なのでだし、本当のことを言っても俺の話じゃ信じてもらえるかどうか、、、結局俺は曖昧に答えることにした。詳しくなら作曲した真姫ちゃんに聞けば分かることだし。

 

「答えになっていません」

 

「本当に趣味なんだって。まぁ、詳しくは作曲者に聞きな。説明すんの面倒だから」

 

「面倒だからって、、、」

 

「それじゃあな、オレは帰るぞ」

 

「ちょっと、待ちなさい!まだ話は、、、」

 

 それでもなお、しつこく聞いてくる園田さんが、いい加減鬱陶しくなってきた。不満そうに詰め寄ろうとすると園田さんから強引に背を向けさっさとその場を後にする。彼女はきっと明日、西木野さんに問い詰めるだろう。その事を考えると厄介事を押し付けた様な気分に少し罪悪感を感じたけど、結局その後は、俺はこの新曲にどんな効果をつけようか、そればかり考えながら帰路に立った。

 

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(雄大→海未)

 

 

 

 

 私は歩き去って行く先輩のような背中から視線を逸らさない。遅れて自分の眉間に知らず知らずに力が入っていることに気がつく。

 

 廃校が決定しては私たちの活動の意味が無くなってしまう。何とかして阻止するためにオープンキャンパスでの発表したをより良くするために懸念材料だった生徒会長に話を聞いてみようと思ったのだが、思わぬ発見もしてしまった。

 

 生徒会長はやはり私たちのことを良くは思ってなかった。いや、それどころかスクールアイドル自体を嫌っているようで、あのA-RISEですら『素人にしか見えない』とまで切り捨てた。過程の努力を無視した様なその態度に私は強く憤りを感じた。けれど、一体何が生徒会長にそこまでの自信を与えているのか、、、

 

 そしてもう一つ。何故かあの背の高い男の生徒会の先輩が私たちμ 'sの未発表の新曲の楽譜を持っていた。それらは作詞した私と圭、更に作曲の真姫以外にはまだタイトルすら分からない、μ 'sの他のメンバーすら知らないはず。なのにあの先輩はその楽譜を持っていた。これは一体どういう事なのか。

 

 私はその先輩の背中が見えなくなってからも何も無い空中を睨みつけ、二つの疑問の答えを必死に導き出そうと頭を捻り続けた。

 

 

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