(希)
4月の始めの、理事長が入学式の最後に学院の廃校について発表したあの日が、結局のところ全て始まりやった。その日エリチとウチは入学式の後片付けをした後で生徒会室に戻り、廃校を何とかして阻止するための方法を考えあった。でも、やっぱり難しくて、エリチとウチはそれぞれ学校のアピールポイントを探そうって事になった。ウチらは一旦そこで分かれて校内を歩き回った。中庭、弓道場、飼育小屋、、、本当に隈無く探した。そしてウチが見つけたのはこの学校がもう諦めかかってるって事やった。廃校だけやなくて、色んなものを諦めて、心の奥底に押し隠して、そんな子があっちにもこっちにも、、、でも、ウチはそれに気がつけただけで何も出来んかった。どうせればいいのかもわからんかった。エリチにもこの事話してないんよ。親友に隠し事をするのは気が引けたけど、それでエリチの苦労が増えるのも嫌やったから。
でも、出会ったん。まだ、諦めてない子達に。
次の日、やったな。その日も学校の中を色々歩いてた、今度はエリチと一緒に学院のどこがいいか話しながらな。図書室に立ち寄った時だったかな、その子達を見つけたのは。ウチらと同じように学校の資料をしていて探してきてはあれこれ考えてる四人組。大分考えてもいい案が出ないのかみんな困ったような顔をしてたけど、それでも周りとは違う、何かを動かすようなエネルギーを感じたん。そうしたら、次の日にはその子たちが部活を作りたいっていきなり生徒会に来て、びっくりしたで、ほんとに。それでもその四人の目にはやっぱりほかの子にはない輝きがあってウチはこの子たちに賭けてみようかって思ったん。この子達ならこの学校にある諦めかけた雰囲気を何とかしてくれるかもって。
ウチがそれまでに見つけた子達の中には色んな子がいた。自分の夢に板挟みになって苦しんでる子、本当の自分に自信が持てなくてそれを押し隠しながら明るく振舞ってる子、情熱を持っているのにあと一歩踏み出す勇気の出ないで悩んでる子、過去の自分に引きずられて前を向く事ができなくなった子、、、志が高くて一生懸命な分、周りとぶつかる事の多い子、、、自分を大切にする余り周囲と距離を置いて上手く溶け込めない子、、、そんな子達を、この四人なら何とかしてくれるかもって、救ってくれるんやないかなってな。
だから、その子達の分も合わせて名付けたんよ。9人の音楽の女神『μ 's』って。
ふふっ、そんなに驚かなくてもええやん。
それでね、今までは上手くい行ってたと思ってたんよ。μ 'sは部員を増やして、正式な部活動になって、、、新曲も出してたやろ?あれも結構人気やったやん。
でもね、ある時、ウチはぜんぜん知らないところでだったんやけど、、、エリチがにこっちと大喧嘩したみたいで。それ以来やな、エリチの様子がどことなく冷たくなったのは。雄大君は気が付いて無かったみたいやけど、、、きっとエリチ、にこっちに何かを言われて、それでもっと頑張らなきゃって無理してるんやと思う。元々頑張り屋さんやからそれで余裕が無くなって、それで冷たく感じるのかもって。
昨日もオープンキャンパスの事で絶対何とかするって言ってたけど、その時のエリチ、何かに憑かれたみたいに必死やったし、、、
本当はウチがエリチに何か言ってあげなきゃいけないんやけど。エリチ、ウチの言葉も全然聞いてくれないから、、、
結局、ウチにはエリチを救えなかった。助けてあげられなかった。だから、ウチはμ 'sに頼ったんよ。周りを変えちゃうようなエネルギーいっぱいのμ 'sに、、、
ウチはエリチを助けたい。だから、μ 'sに力を貸して欲しいの。それが今日、君たちと一緒にいた理由。だから、
大輝君、力を貸して下さい!
*☼*―――――*☼*―――――(希→大輝)
希が先輩は話終えるとオレに頭を下げてきた。先輩の話は、、、なんというか、色々と衝撃的なものだった。μ 'sの名付け親が希先輩であったこと、にこ先輩と生徒会長の大喧嘩の裏にそんな事が起きてたこと。そして、希先輩が生徒会長を助けるためにμ 'sと一緒に行動するようにしていること。だが、希先輩が生徒会長を助けたいと思うなら、オレの答えは
「希先輩、オレは希先輩の力になれるなら協力はします。けど、今のままだとするときっと何の解決にもならないと思うんす。だから、オレがμ 'sに生徒会長をしていて助けるように働きかける事は出来ません」
現状として、μ 'sと生徒会長は言わば敵対関係のようなものだ。そんな中でオレが生徒会長を助けようなんて言ったところで上手くいくとは到底思えない。それにオレ自身、希先輩を信じていない訳では無いが生徒会長になにかしようという気にはなれなかった。
「そっか、、、分かった。ごめんな急にこんな話して」
「希先輩、まだです。まだ、話は終わりじゃないです」
「え?だって今」
希先輩は驚くけど、むしろここからが本題だ。オレだってこんな話を聞いて黙ってるほど薄情じゃない。
「確かにオレ達は生徒会長を助けようって言うのは多分無理です。きっと強い反発もあるはずっすから。でも、希先輩の力になろうって言うなら話は違います。希先輩はμ 'sのみんなからも慕われてますから」
「ちょっと待って、それって何が違うん?」
「オレ達は生徒会長のために何かをするのは難しいっすけど希先輩に協力したくないかって言うと話は別なんです。だから、オレが出来るのは希先輩にμ 'sと生徒会、この関係を良くしてもらうきっかけを作る事だけっす」
「きっかけ?」
「そう、きっかけです。生徒会長とμ 's、両方の仲を変えて生徒会長を救うためのきっかけ。希先輩がμ 'sに入るっていうね」
「っ!でも、、、ウチは」
「希先輩、さっき自分で言ってましたよね?『自分を大切にする余り周囲と距離を置いて上手く溶け込めない子』がいるって。それって希先輩の事ですよね。偽物の関西弁なんて使って本物の自分を隠してる」
「、、、気づいてたん、、、?」
「分かりますよ。まぁ、確証は無かったっすけどね。でも、それが本当ならオレ達μ 'sは希先輩も救わなくちゃいけないっすよね。だから、どうですか?希先輩。変わるなら自分からだと、オレは思いますよ」
「、、、はぁ、大輝君には敵わんなぁ」
少し、困ったしかしどこか嬉しそうな表情になった希先輩は言う。肩の荷が降りた、そんな落ち着いた顔だ。
「ちょっと予定と変わっちゃうけど、それもええかな」
「それじゃあ希先輩」
オレはスッと手を差し出す。
「これからよろしくな♪大輝君」
希先輩がその手をそっと握り返した。
*☼*―――――*☼*―――――(大輝→希)
バイト終わりの帰り道、日に日に太陽が出ている時間も長くなってきて夕焼けが空を染め始めていた。
「見破られちゃったなぁ」
ポツリと一人落ちる言葉。本当ならエリチがμ 'sに入ってから最後にウチが入ってμ 'sが完成するつもりだったのに大輝君は予想以上に人の心の中を読むのが上手いみたいやね。想定外の展開にウチは内心で動揺しているのも、もしかしたらバレちゃってるかも知れんなぁ。
でも、
クスッ
これからμ 'sの一員になれるのかと思うと少し心が踊っているのも確かだった。朝練や今日一日の活動を見ていてとても楽しそうだったからあの輪の中に加われるのが素直に楽しみなんやな。
マンションの自分の部屋に着く。鍵を開けて中に入っても出迎えてくれる人は誰もいない。ウチは高校三年間一人暮らしやった。
両親の都合で転校の多かったウチは小学校からずっと友達と言える子が少なかった。いなかったわけではなかったが、どうせまた別れが来るからと途中から作るのもやめてしまっていた。ただ、高校からは転校が簡単にはいかなくなる。編入試験などの面倒事も増える。だから、高校からはウチは一人暮らしする事になったのだ。
そして、エリチと出会った。
自分と同じように不器用に周りに溶け込めない子。気が付いたら追いかけて話しかけてた。声を掛けてから急に恥ずかしくなって、それで自分に少しだけ嘘をついた。
『ウチ、東條希!よろしくな!』
それから、エリチと一緒に生徒会に入って今まで過ごしてきた。その年の生徒会はウチとエリチと雄大くんの三人だけやったからウチらは一緒にいる時間は特に多かった。特にエリチは同性という事もあってかウチにとって、初めての親友と呼べる存在になった。だからこそ、エリチを救いたいって思えたんやろうね。だけど、そう思ってからウチはずっと親友によりっかって来たんだって自覚した。
エリチは自分の力でどんどん前に進んでいける強い子だった。ウチはずっとその後にくっついて行った。支えていたって言えば聞こえはいいけど、実際はエリチの背中に隠れていただけやった。ウチはただ、親友だって思いながらその陰に隠れていただけの卑怯者やったんや。
だけど今はもうエリチは前に進めなくなってしまった。生徒会長としての責任感に追われて自分の思うとおりに動けなくなってしまった。急に立ち止まってしまった前を進んでいた背中が急に立ち止まってしまって、卑怯者はとても慌てた。どうすればいいのか分からなかった。でも、大輝くんに言われて気がついた。立ち止まってしまった背中を押すのはすぐ後ろにいるウチの役目やって。
『変わるなら自分から』
大輝くんに言われた言葉が蘇る。エリチを助け出したいならウチも変わらなければいけない。前を進んでいた背中に隠れていた『卑怯者』から、その背中を推し進められる強い本物の『親友』に、、、
明日からμ 'sに入る。ウチにとって大きな、とても大きな変化を前にもう一度少しだけ笑ってからウチはベッドに潜り込んだ。