僕達の女神   作:Isaac 1,92

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感動を目指して

(雄大)

 

「まさか希もそっちに興味があったとはなぁ。いや、おかしくはないかあの子たちの事をずっと贔屓してたし、、、でも、意外だなぁ」

 

 放課後の生徒会室で私が仕事をしている横で雄大は一枚の書類を眺めていた。そこに書かれていた内容に私は自分の目を疑ったし、何度も読み返したが、そこにある文字は変わることはない。

 

『入部届;東條希

 

 以上の者を以下の部活動の一員とする。

 

 所属先;アイドル研究部』

 

 希は雄大にこれを渡したらしい。希は今、生徒会室ではなくあの子達、『μ's』と一緒にオープンキャンパスに向けて練習しているのだろう。

 

 バンッ!

 

 目を通していた資料を勢いよく閉じるとその分厚い見た目にふさわしい重い音を立てた。両肘をついて机に着き手を組み合わせそこに額を当てる。無意識に取った行動だったがこうすることで雄大からは私の表情が見えなくなる。その姿勢ののまましばらく自分の胸をもやのように覆う得体のしれない感情について考える。

 

 これは何?希の入部をきっかけにはっきりと感じるようにはなったけど、似たような感覚になったのは以前にも、それも何度もあった気がする、、、初めては感じたのはいつ?ずっと昔のような気もするし、つい最近のような気もする。

 一瞬、ある光景を思い出す。私はとある舞台の下からその壇上に立つ少女を見上げて下唇をかむ、、、。いえ、これはもう何年も前の話。逆に考えてみましょう。最も最近感じたのは、、、アイドル研究部の部長と口論になったとき?それとももっと最近、、、この前公園でμ'sの一人と話したとき。そのどちらの時も同じように胸の中がもやもやと気持ち悪くなった覚えがある。

 

 ・・・

 

「絵里?どうした具合でも悪いか?」

 

 流石に長いこと同じ姿勢だったため雄大が心配した声を掛ける。

 

「ええ、大丈夫。少し考え事してただけ」

 

「そうか。無理はするなよ。最後のチャンスだから張り切るのはわかるけど。だからこそ、体調には気をつけろよ」

 

「あら、普段怠ける雄大がそんな風に言うなんて珍しいわね」

 

「俺はただ、全力を出し切れずに終わった時の絵里の相手が面倒なだけだ。そんな軽口叩けるなら大丈夫そうだな」

 

 雄大はそういうと持っていた希の入部届をファイルにしまい自分の仕事を片付け始める。そうね、希が抜けてもまだ雄大がいる。普段は怠けた風を装う彼だが、頼んだ仕事はきちんとこなしてくれるし、機転も利いてトラブルを防ぐこともある、頼れる仲間だ。それに生徒会の後輩だって今もオープンキャンパスの準備を懸命にしてくれてる。

 

 だから、きっと、私が出したこの結論は、間違い。バレエコンクールのことを思い出したのもきっと偶然だし、私がアイドル研究部の部長にそんな感情を持つわけない。

 

 

 

 私がμ'sに嫉妬してるなんて、、、きっと、、、間違い、、、

 

 

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(雄大→圭)

 

 

「圭くん部活行くにゃー!!」

 

 教室掃除を終えた僕に凛ちゃんが飛びかかって背中を軽く叩く。その後で花陽ちゃんが待っていて真姫ちゃんは退屈そうに壁に背を預けて髪の毛をいじっている。これがμ 'sに入って以来の日常となっている。

 

「うん、行こう。オープンキャンパスも近いからね」

 

 

 カレンダーに目を向けるとオープンキャンパスまでは残り三週間になっていた。真姫ちゃんが言うには楽曲はあとは編集するだけと言っていたので間に合いそう。ことり先輩の衣装も先日、発注先から素材が届きあとは細かな装飾を自分たちで加えるのみになっていた。着々と準備は進んでいきみんなのダンスのレベルも上がってきてる、と大輝先輩は以前言っていた。順風満帆というのはきっと今のような状態のことを言うのだろう。

 

 

 ☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

 

 ワン、ツー、スリー、フォー

 

 大輝先輩の手拍子でみんなはダンスを合わせていく。最後の決めポーズまで進み、タイミングがあってみんなの動きが停止する。

 

「んーーー!完璧ー!!」

 

 穂乃果先輩はグッとガッツポーズを決める。それもそのはず、今のダンスは過去最高の出来になっていた。

 

「ふぅ、オープンキャンパスには間に合いそうね」

 

「お疲れ様真姫ちゃん。曲の編集の方はどんな感じ?」

 

 飲み物を手渡しながら真姫ちゃんに聞くと、

 

「ゔぇ?あ、えっと、、、」

 

「、、、まだです、まだ、タイミングがズレてます」

 

 真姫ちゃんの返答を聞く前に海未先輩の、少し低い声が僕らの耳に届いた。

 

「、、、海未ちゃん?」

 

 怖い顔をした海未先輩を見て穂乃果先輩が疑問を口に出す。

 

「海未ちゃん、何かあったの?」

 

 ことり先輩も少し心配そうに海未先輩に声をかける。しかし、海未先輩は押し黙ったまま、何かいうべきかどうか迷っていると言った雰囲気だ。

 

「もう、何なのよ!はっきり言って!」

 

 しびれを切らしたように敬語を使わずに真姫ちゃんが海未先輩に詰め寄ると、

 

「、、、今のままでは、感動できないんです」

 

 海未先輩はぽつりと小さな声でつぶやいた。その言葉と海未先輩の苦しそうな表情に皆、黙ってしまう。

 

「、、、海未ちゃん」

 

 重くなりかけた雰囲気を壊したのは穂乃果先輩だった。

 

「教えて!私たちはどうしたらいい?どうしたら感動出来るダンスが踊れるようになるの?私、そのためならどんなに厳しい練習も乗り越えてみせるから!」

 

 その力強い言葉にその場にいた全員が励まされた。

 

 

 

 ☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

 

 

「「「「「「「「生徒会長にダンスを教えてもらう!?」」」」」」」」

 

 海未先輩から話を聞くため一旦部室に戻ってきた僕達に海未先輩は驚くべき提案をする。あの生徒会長からダンスを教わろうというのだ。

 

「私は反対!潰されかねないわ」

 

 いち早く異を唱えたのは真姫ちゃんだった。

 

「私も反対。3年生はにこと希で十分よ」

 

 にこ先輩も真姫ちゃんに続いて反対した。にこ先輩は前に生徒会長と口論になったことがあると言うので当然の反応と言えるけど。

 

「ですが、生徒会長のバレエは私たちのダンスの数段上のレベルでした。文字通り私たちのダンスが素人に見えるように、、、」

 

「そんなにすごいんですか?生徒会長のダンス。僕からしたらμ 'sのダンスかなりレベルが高いと思いますけど、、、」

 

 しかし、それでも海未先輩は引き下がらない。海未先輩は生徒会長のダンスの動画を見たというがいまいち信用することができ無い。μ 'sのダンスだってここ数ヶ月ずっと練習してきただけあって贔屓目なしに上手なはずだ。しかし、

 

「μ 'sもダンス自体はうまくなってきている。それは本当だとオレも思うけど、、、オレも生徒会長のバレエの動画をみたんだがな、、、なんていうか、やっぱりオレ達のダンスは、言い方が悪いけど、所詮付け焼き刃だって思っちまうくらい、それくらい生徒会長のダンスは上手かった」

 

 これまでμ 'sのダンスにおいて指導者のような位置にいた分、大輝先輩の言葉は重い。海未先輩の主張を後押しする形となり、誰も何も言えなくなってしまう。全員が少しうつむき加減に考え込む中、希先輩が申訳なさそうに口を開く。

 

「みんなはエリチがここに来るのがそんなに嫌?」

 

 希先輩がどこか寂しそうに言うのは、希先輩自身も生徒会に所属しているからだろうか?

 

「嫌、、というか、生徒会長少し、怖い」

 

「凛もかよちんと同じ意見。楽しい方がいいにゃ」

 

 花陽ちゃんと凛ちゃんが返答するけれどもそれきり部室の中は静まってしまう。しかし、

 

「、、、でも」

 

 誰かが口を開いた。やはり、僕らの道を切り開くのはやはりこの人だった。自分の直感で何にでも飛びつく、、、

 

 穂乃果先輩だった。

 

「私は生徒会長に教わった方がいいと思う。海未ちゃんが言った通り、このままじゃせっかくオープンキャンパスに来てくれた人を感動させられない!それじゃあダメなんだよ!だからダンスを教わろう!辛くてもみんなと一緒ならきっと大丈夫だから!」

 

「それじゃあ私も穂乃果ちゃんに賛成!!絵里先輩のダンスも見てみたいし」

 

 穂乃果先輩の意見を即肯定するのはことり先輩。2人のおかげで部室の中の空気が一気に変わった。花陽ちゃんも生徒会長のダンスを見たいと言い出す。最後まで渋っていたにこ先輩も不承不承ながら認めた。

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(圭→大輝)

 

 

「結果オーライ、っすか?」

 

 生徒会長にダンスを教えて貰えるよう頼みに部室を出ていく面々、そんな中でオレは希先輩に声をかけた。

 

「、、、せやね。少なくともこれで何かを動き出すはず。ほら行くよ?」

 

 希先輩はそう言うとみんなに追いつくように少し駆け足で部室を出ていった。しかし、

 

「、、、クソッ」

 

 何となく気分が悪い。原因はおそらく、希先輩を救うと啖呵切って置きながら結局何もできてない自分への苛立ちだ。

 

「希先輩、あなたはなんにも変わっちゃいない」

 

 今だって自分の主張を全くしなかった。絵里先輩を自分の力で救い出せるチャンスを見逃した。自分が変わるチャンスから逃げた。自分のペースで、と言ったが結局問題を先伸ばしにしているだけ、、、

 

 

 

 

 、、、いつまでも部室に残っているわけには行かない。オレはモヤモヤした気持ちのまま部室を出た。

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