(穂乃果)
「大輝くんおっそーい!!」
生徒会室の前で私は遅れてきた大輝くんを叱る。大輝くんは駆け足で私の前で片手を顔の前まで上げる。
「穂乃果、悪い悪い、ちょっと考え事してた」
「もう!マイペースなんだから!」
「穂乃果、お前がそれ言う?」
「うっ、、、」
大輝くんの言葉にすぐ私には反論できなかった。
「うるさーい!!ともかく今は生徒会長!!」
「私がどうかした?」
「「あっ、、、」」
振り返ると生徒会室のドアが開いており中から生徒会長その人が顔を出していた。
「廊下で大声が聞こえたから何かと思ったけど。廊下で騒いではダメよ」
「ううっ、ごめんなさい」
生徒会長の言葉に小さくなる。生徒会長は口調こそ優しいけどその表情は厳しい。けど、今回ばっかりは私たちが全面的に悪いので反論もない。
「それで?私に何の用?オープンキャンパスに向けて私たちも忙しいのだけど」
厳しい表情のまま生徒会長は続ける。しかし、いうべきタイミングは今!!私は生徒会長の目を見て背すじを伸ばす。
「生徒会長、お忙しいのは分かってますが、お願いしたいことがあります。私たちにダンスを教えてください。私たち、うまくなりたいんです!お願いします!」
そこまで言うと私は深く頭を下げる。しかし、しばらくたっても返事が返ってこない。恐る恐る顔を上げると、生徒会長がさっきと同じ厳しい顔のままこちらをじっと見てきた。そして
「、、、申し訳ないけど、それは難しいわね。さっきも私たち生徒会もオープンキャンパスに向けて忙しいの」
「そんな、、、」
「ごめんなさいね」
生徒会長は言葉では謝ってくれたけど、その表情は一切変化がなかった。そしてそのまま生徒会長は生徒会室に戻ろうとする。それを見た私は考えるよりも先に体が動いていた。
「お願いします!生徒会長!私たちオープンキャンパスを絶対成功させたいんです!見に来てくれた人を感動させるようなダンスで、廃校を止めたいんです!それには生徒会長の力が必要なんです!お願いします!」
気がついたら生徒会長の手を握っていた。しかし、私は生徒会長の目から視線を外さない。不思議と誰も話さなかった。最初に声を出したのは生徒会室の中にいた人だった。
「絵里、付き合ってやれば?この子、このままじゃずっと居座るぞ?」
絵里先輩が振り返ると中には生徒会のあの眼鏡かけた大っきい先輩が椅子に座ったまま話していた。
「作業自体ならなんとかしとくから、サッと行ってサッと片付けてくれた方が助かる」
「雄大、、、はぁ、仕方ないわね。だけど、教える以上、私が納得のいくレベルに達するまで」
「やった!」
思いもよらない形で交渉がうまく行ったことに軽くガッツポーズを決める。
「それなら早く行きましょう?言っておくけど、生半可な教え方はしないから」
生徒会長はそういうと私たちと一緒に歩き出す。私たちは屋上へと登った。
*☼*―――――*☼*―――――(穂乃果→絵里)
前を行くμ 'sのリーダー高坂穂乃果さん(移動中にメンバー全員が自己紹介してきた)に続いて彼女達の練習場所の屋上に出る。放課後、少し日が傾き出したと言っても夏の太陽の位置はまだまだ高かった。強烈な日光のせいか少し眩暈を感じているとμ 'sの8人が、おそらくフォーメーションなのだろう配置に着いた。
「生徒会長、とりあえず私たちが一回踊るのでみて下さい。それからアドバイスをお願いします!」
高坂さんは私にそういうとスタートのポーズになって静止した。8人は加藤君の手拍子で踊り始める。あの時、講堂で踊ったときに比べれば確かに上達はしているのだろう。各々の動きも少しは機敏になっている。だけど、ダンスの基礎がなってないのが明らかだった。ステップは覚えたのだろう。けれど、それを支える足腰がなってない。筋力はある程度あるらしいけど、しなやかさに欠けるため動作一つずつがどこかぎこちなくなる。また、ふとした時に体を持っていかてしまい次の動作が遅れ、全体のズレに繋がる。
そんな風に私がμ'sのダンスを分析していると、ショートカットの子、星空さんが踊ってる途中で勢いをつけ過ぎて身体がついて行かず、盛大にしりもちをついた。
「にゃあ!?」ドン!
「「凛ちゃん!!」」
仲がよいのだろう、茶髪を肩まで伸ばした子、小泉さんと手拍子を打ってなかった方の男子、長谷川君が駆け寄る。
「全然だめじゃない。これでよくライブしようなんて言えたわね」
あまりのひどさに私の口調がつい荒くなるのは仕方ないだろう。
「うー、さっきはバッチリだったにー!」
「基礎がなってないからムラができるのよ。足開いてみて?」
星空さんは言われた通りに開脚する。彼女は私がこれから何をするのか理解できてないらしく、不思議そうに私を見上げる。私は背中に手をのせて、
グッ!「ッ!?!?!?い、痛いにゃーー!!!」
私が彼女の背中を押すとすぐに彼女は悲鳴を上げた。つまり、彼女は体が硬い。これでは激しい動きの後にさっきのように体の踏ん張りが効かなくて体勢を崩してしまう。星空さんの体の硬さはというとダンスをする上では致命的なほどね。まさかこれほどとはね。
「これで?少なくとも、開脚した状態でお腹が床に付くようにならないと。柔軟性を上げることは全てに繋がるわ。まずはこれを全員ができるようにして」
一度μ's全体に指示を出してから私はため息をつく。まさかここまでとは。
「柔軟か、、、見落としてたな、、、」
加藤君が何やらノートに視線を落とし呟いていた。
「それは練習ノートかしら?」
「ん?ああ、そうっすけど」
「見せて」
私が手を出すと彼は意外にも素直に、それを手の上に置いた。私はパラパラとページをめくって内容を把握していく。
「このメニューは誰が作ってるのかしら?」
「オレと海未っす」
「そう、、、園田さんは確か弓道部だったわね。あなたも何か運動を?」
「高校に入る前までずっとバスケしてました。そん時にやってたメニューを参考にして作ってるんすが」
「バスケット、、、」
「なんかまずい点でもありましたか?」
「いえ、基礎体力はこれで十分よ。ただ、さっきもいたけど柔軟性が足りてないわね、それと体幹が少し弱いかしら、片足立ちになったときにふらついてるのが目立ったから」
「うす。ええっと、そしたらこれ以上にどんなトレーニングが必要っすかね?」
「、、、ずいぶん素直なのね」
μ 'sは私に対して好意は持っているとは思えなかった。それなのにここまで私の言うことに文句無く従うのはやはり意外だった。
「生徒会長のダンス、オレも見ましたから」
「理由はそれだけ?」
「それだけっすよ。それにメンバーがやりたいって事をマネージャーがサポートしないでどうするんすか」
「、、、そう」
そのあと体幹周りを鍛えるトレーニングを教えたのけど、案の定メンバーのほとんどが付いてくるだけで精一杯という感じだった。
「このくらいできて当たり前!ダンスで人を魅了したいんでしょ!?」
それでも誰一人として根を上げる人はいなかった。
「あと十分この姿勢をキープ!」
ふらふらと安定しないけれど途中で投げ出さず全員が必死に喰らいついてくる。
「ラストもうワンセット!」
その時だった、
ドサァ!
メンバーの中でも特に運動が苦手そうな小泉さんが体勢を崩し、後ろ向きに倒れる。
「かよちん!」「花陽!」
「、、、もういいわ。今日はここまで」
「「え!?」」
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない?」
小泉さんの傍にいたもう一人の一年生、西木野さんが私の態度に不満を口にする。敬語を使わないのはわざとかそれとも癖なのか。
「私はただ、冷静に判断しただけよ。これで自分達がどのくらいできないのかわかったでしょ?オープンキャンパス当日、発表ができないのなら早めに言ってちょうだい。時間が勿体ないから」
自分でもわかるほど冷たく、μ 'sを突き放すと私は踵を返し屋上のドアに向かう。思ったよりも時間をかけてしまったわね、早く戻って仕事に戻らないと、、、
屋上を出ようとドアに手をかけた時だった。
「生徒会長!!『ありがとうございました!!』
明日もよろしくお願いします!」
振り返るとリーダーの高坂さんだけでなく、自分たちのことをマネージャーと言っている2人の男子に、先ほど転んだ小泉さん、不平を言っていた西木野さんまで頭を下げていた。
私は、何も言えなかった。
無言のままドアをくぐり、閉める。太陽の光が直に届く屋上と違い電気の点いていない屋上までの階段は薄暗く、冷たく感じられた。
「随分長いこと教えてたみたいだな」
声のした方に目をやると雄大が自分の鞄と生徒会室に置いてあった私の荷物を持って壁に寄りかかっていた。
「生徒会はもう閉めたぞ。仕事も一段落着いた」
私に荷物を差し出しながら雄大は言う。
「そう、ごめんなさいね、面倒かけて」
「いいって、にしても元バレリーナとして、久しぶりに踊ってテンションでも上がってたのか?」
「いえ、そんなんじゃないわよ、、、って。雄大に私がバレエやってたこと言ったかしら?」
「亜里紗ちゃんから聞いた。『私の自慢のエリーチカ』の話」
「ちょっと、その名前は、、、はぁ、亜里紗ったら、、、」
亜里沙の話好きも困ったものね。御婆様にそう呼ばれていたのは希にも言ってないくらい恥ずかしいのに。
「で?しばらくあの子達に付き合う事になるのか?絵里が息抜きになるなら俺は構わないけど」
雄大は私の恥ずかしさなんてどうでもいいのか(正直どうでもいいわよね)いきなり話題を変えた。、、、そうね、明日もあるよのねきっと。
「、、、もしかしたらそうなるかもね。明日もよろしく、と言っていたから」
「気に入られたな、『先生』?」
「からかわないでよ、まったく」
雄大は私の反応に満足したのかポケットからチョコレートを出して口に含んだ。
「食べ過ぎは良くないわよ?」
「それは俺が決めることだ」
雄大の無茶苦茶な理屈に呆れながら私は学校を出た。
明日、また、あの子達にダンスを教える。本当なら面倒なはずなのに、、、あんなに出来の悪い子たちなのに、、、
それでも、、、
自然と笑顔になってしまうのは、何故?