僕達の女神   作:Isaac 1,92

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逆位置の星

(絵里)

 

「よーし!今日も練習だ~!」

 

 放課後、高坂さんが元気よく飛び跳ねながら屋上に入っていく後ろ姿を私は見送る。そのまま屋上のドアの前まで行き、そこについているガラス窓から気付かれないように様子を伺う。

 

「覗きですか?生徒会長」

 

 後ろから声を掛けられ振り返るとそこには赤毛一年生、西木野さんが立っていた。言葉だけ取れば私の行為を責めているけど、西木野さんは穏やかに笑っていた。

 と、突然背中を誰かに押される。

 

「にゃんにゃにゃんにゃにゃー♪」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 急なことで私は為す術もなくそのまま屋上に押し出されてしまう。背中を押していた星空さんは私から手を話すと楽しそうにニコニコしている。

 

 私に続いて西木野さん、さらに小泉さんに矢澤さん、希も入ってきた。

 

「あ、生徒会長、こんちは。まずは柔軟からっすよね?」

 

 唯一ある日陰に敷物を敷いていた2人の男子が立ち上がって、そのうち加藤君が声をかけてきた。

 

「、、、つらくないの?」

 

 気がつくと声に出していた。皆、驚いた顔をしている。思わず声に出してしまったが、今更引き返すことも出来ない。だから、私は感じたことをそのまま言葉にした。

 

「昨日あんなやって、今日同じことをするのよ?第一、上手くなる保証もないのに」

 

 素朴な疑問だった。彼女達は廃校に関して何の責務も負ってはいない。にも関わらず毎日放課後まで残り、体を虐めては、結果が出るのかどうかもわからないことを続けている。その原動力は一体何なの?

 何度思考を重ねても導き出せなかった疑問に、高坂さんは間を置かず、一点の曇もなく答える。

 

「やりたいからです!

 

 確かに練習はキツイです。体中痛くて、それでも大輝くんと海未ちゃんは厳しいし、、、でも、学校をなんとかしたいって気持ちは生徒会長にも負けません!!だから、今日もよろしくお願いします」

 

 言い切った高坂さんの目はじっと私を見つめていた。いや、さらにその先自分たちが廃校を阻止する未来まで見えているかのように、自信が溢れていた。

 私はそんな高坂さんから、目を逸らした。そのまま屋上をあとにする。後ろから高坂さんが私を呼ぶ声が聞こえたが、無視した。

 

 

 

 

 

 眩しかった。

 

 

 高坂さんの目を見た私はそう感じた。あまりの眩しさに目を逸らさずにはいられなかったの。

 屋上を逃げるように出た私はどこに行くともなく廊下をただ独りで、歩く。夏前の放課後の廊下は太陽の光よりも影の方が目立ち、消化栓の赤いランプがやけに目立つ。

 

「エリチ!」

 

 聞き慣れた、しかし、最近聞いていなかった声に私は振り返る。私のことをそう呼ぶのは一人しかいない。

 

「希、、、」

 

 希はおそらく屋上から走って来たのだろう。少し頬が赤くなっている。

 

「エリチあのな、ウチなエリチと生徒会をずっとやっていて思ってた事があるんや。エリチが本当にやりたいことってなんやろうなって。一緒にいると、わかるんよ?エリチが頑張るのはいつも誰かの為ばっかりで、だから、いつも何かを我慢しているようで、、、」

 

 私は希に背を向けた。聞きたくなかった。これ以上、私に踏み込んで欲しくなかった。それでも希は私の中に入ってきた。

 

「学校の廃校をなんとかしたいって言うのも、生徒会長としての義務感やろ!?だから、理事長もエリチのことを認めなかったんと違う!?」

 

 希らしくなかった。希はいつも私のそばにいてくれて、私を支えてくれたから。だから、こんなふうに私に対して強く踏み込んでくることは今まで無かった。

 

「何よ、、、」

 

 自分が自分でなくなるような感覚だった。

 

「何とかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!」

 

 希に向き直った私は気が付くとそう叫んでいた。突然大声を出したことに希が驚くとともに、表情が悲しそうに陰る。しかし、そんな希を見ても私は自分の中から湧き上がる何かを抑えられなかった。

 

「私だって自分のやりたいことだけやって、それで何とかなるんだったらそうしたいわよ!でも、、、私は違う!!途中で投げ出したあなたとは、違う!!」

 

 言ってしまった。気が付いた時には私は駆けだしていた。

 

 

 

 

 こんな時、いつも私を呼び止めてくれた声は、、、もう、かからない、、、

 

 

 

 

 

 私が行きついたのは自分の教室だった。放課後の誰もいない教室は日中の喧騒とは打って変わり静かで、、、夏も近いのに肌寒かった。自分の席に着き、窓の外をぼんやりと眺める。

 

「、、、私の、、、やりたいこと、、、」

 

 先程まで自分が何を思っていたのか。なぜ自分はあそこまで希に当たってしまったのか。思い出そうとしてももやもやと形が定まらない。それどころか自分が今何をすべきなのかもわからなかった。

 

「、、、そんなもの、、」

 

 結局答えは出なかったが、それでも自分が『するべきこと』は分かった。決意の意味も含めて独り、つぶやこうとするが、それは途中で遮られる。

 

「絵里。俺としてはそのセリフは聞き捨てならないんだけど?」

 

 顔を向けるとそこにいたのは、背の高い、眼鏡をかけた、最後まで私に付き合ってくれた仲間だった。

 

「雄大?」

 

「俺としては、ずっと君がやりたい事をしてるもんだと思ってたし、俺はその手伝いをしてるつもりだったんだが。君がそこまでやりたいことじゃないなら俺もあんなに頑張らなったし、、、」

 

「そんな、私は廃校をなんとかしたいのは本当よ、、、」

 

 以前、私は雄大に言われたことがある。私が挫折仕掛けた時にそう問われた。『これからどうするのか』と。私は続けると言った。あの時に私は誓ったの、生徒会長として、廃校を阻止すること、だってそれが私の『すべきこと』でしょう?

 

「まぁ、それはこの際置いといて」

 

「置いといてって、そんな事できるわけないでしょう!?」

 

 しかし、雄大は私の誓いを一言で切り捨てた。問いかけた本人であるにも関わらず、だ。つまり、私の誓いは、雄大からしたら間違いだったということ?

 

「その時点で、今の絵里は『生徒会長の綾瀬絵里』なんだよ」

 

「、、、何よ、それ、、、」

 

 雄大の言いたいことが分からない。けれど、私の中に以前感じたもやもやがまた、かかる。

 

「肩書と本質を混ぜるなってことだ。で、その本質のほうの絵里は何がしたいの?」

 

「、、、」

 

「わからないならアドバイス。絵里、昨日の帰りずっとμ'sのダンスについて話してたよ?遅れかけた生徒会の話題は一切なかったのにね」

 

「、、、え?」

 

「この先は自分で気づきな。はい、チョコレート。糖分は幸せな気持ちにさせてくれるから、泣いた後には最適だよ」

 

 そう言って雄大は包み紙に包まれたチョコレートを置いて教室から出て行こうとする。いつの間にか私の頬には水の跡ができていた。

 

「ねぇ雄大、、、『嫉妬』って何だと思う?」

 

 一度、否定した一つの結論を思い出した私は何気なく聞いてみた。今、私は雄大がとても大人びて見えたから。普段、仕事をサボる彼とは違う雰囲気を彼は持っていたから。雄大はドアの前で振り返って答えた。

 

「『憧れ』の言い換えだ。そして、嫉妬するの相手は、きっと自分の『理想』とする何かを持ってるって事だろ。ならひとまずそいつを目指してみたらどうだ?」

 

 答えると雄大はドアを開けて教室を出て行った。机の上に目をやる。

 

 

 

 

「、、、三つって、、、多いのよ」

 

 どうやら雄大は自分の基準でチョコレートを置いて行ったようだ。

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(絵里→雄大)

 

 

 

「雄大くん!」

 

 教室を後にし、生徒会室に戻ろうとしたところで後ろから呼び止められる。

 

「ん?希?、、、と、ああ、アイドル研究部か」

 

 呼び止めたのは希。そして、その後ろにはアイドル研究部の面々が勢ぞろいだった。

 

「雄大くん!エリチ見なかった!?」

 

 希にしては珍しい、慌てた様子で聞いてきた。

 

「絵里?さっき教室にいたけど」

 

「おっきい先輩!教室ってどこの!?」

 

 おっきい先輩って、、、。茶髪のサイドテールのリーダー格の子が希の隣から顔を出して聞いてくる。

 

「絵里のクラスだから、、、えっと、、、」

 

「エリチのクラスだね?それならウチが知っとる」

 

「わかった、希先輩!連れてって!」

 

「うん!雄大くんありがとな!」

 

 嵐のように言うだけ言うと希も含めたアイドル研究部は一斉にいなくなった。

 

「お、おう、、、」

 

 俺は一人、何が何だかわからんままそれだけ呟いた。

 

「、、、はぁ、、、」

 

 しかし、希の顔にも絵里と同じように涙の跡があったのを見逃さなかった。何が原因かは分からないが、恐らく喧嘩でもしたのだろう。そして、それにはアイドル研究部が一枚噛んでる。

 

「何をしたんだか、、、」

 

 面倒事にならなきゃいいが。俺は再び一人呟いた。

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