僕達の女神   作:Isaac 1,92

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仲直りのチョコレート

(希)

 

「途中で投げ出したあなたとは、違う!!」

 

 エリチの背中が遠くなっていく。だけどウチはその背中を呼び止めることは出来なかった。

 

「、、、途中で投げ出した、、、か、、、」

 

 何も反論できなかった。確かに、エリチからしたらそう見えたのかもなぁ。オープンキャンパスの直前でμ'sに入って生徒会になかなかいけなくなっていたからなぁ。

 

「、、、あなたとはっ、、ちがうっ、、かぁ、、、」

 

 何もエリチのようになろうと思ったわけやない。でも一番の親友から言われた拒絶の言葉は『私』の心を深く貫いた。うまく息ができない。いつの間にかほっぺたには雫が流れて行った。

 

「、、、ちゃんと変われてましたね、希先輩」

 

「、、、大輝くん?聞いてたん?君も性格悪いね」

 

 いつからそこにいたのだろう。振り返ると大輝くんが立っていた

 

「盗み聞きしたのは悪いとは思いますけど、、、でも、希先輩は変われたって、分かったからよかったっす。オレの出番なんてなかったっすね」

 

 ウチが、変われた?

 

「うんん、ダメやったよ。やっぱりウチにはエリチは救えなかった。変わろうって思ったけど、あかんかった。現に言われてももうた。『あなたとは、違う』ってな」

 

「それがどうしたっていうんですか」

 

「え?」

 

 大輝くんの反応に意表を突かれ、素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「生徒会長と希先輩が違うなんて当たり前じゃないっすか。どうしてそんな事気にするんすか?」

 

「で、でも、、、」

 

「それよりも、今は『ケンカ』できたことの方がよっぽど重要ですよ。いい方向で」

 

「ケンカ、そっかエリチとケンカしたんやなぁ」

 

 悲しかった、親友とケンカしてしまった事が何よりも。しかし、大輝くんはそんなウチを見て、笑った。

 

「さぁ!希先輩。『ケンカ』した後は『仲直り』っすよ!」

 

「え?」

 

「常識っすよ。『ケンカ』して、『仲直り』して、また明日!大丈夫っすよ、希先輩は俺達の仲間なんだから、きっとみんな力を貸してくれますよ!」

 

 大輝くんが言い終わるとμ'sのみんなが走って来た。

 

「あ!いた!希先輩と大輝くん!」

 

「さがしたよ~。って希先輩、泣いてるんですか!?」

 

「大輝!あなた何をしたんですか!?」

 

「希先輩、大輝先輩の何かされたか、正直に話してくださいね」

 

「真姫ちゃん、まずその前提がおかしいことに気がつこうよ」

 

「でも、圭くん!ジョウキョウ的に大輝先輩が一番怪しいにゃ!」

 

「希先輩、大丈夫ですか?おにぎり食べます?」

 

「大輝も落ちるところまで落ちたってわけね、、、」

 

「ダーッ!!なんでいい場面だったのにみんなそろって俺を悪者にするんだ!」

 

 μ'sと大輝くんと圭くん。みんなの掛け合いが面白くて、、、少しだけ噴き出してしまった。大輝くんの言う通り、みんななら受け入れてくれるはず。不思議だけどウチにはそう確信できた。

 

 

 

 

 

 

「みんな。すこし、ウチのわがままを聞いてもらってもええかな?」

 

 

 

 大輝くん、やっぱり君は自分の出番なんてないなんて言ったけど、そんなことないよ?

 

 君のおかげで私は変われる。親友と『仲直り』なんて、初めてのことだから、、、

 

 

 

 

 

 *☼*―――――*☼*―――――(希→絵里)

 

 

 

 

 

 

 雄大が教室を出て行った後も私は窓から外をぼんやりと眺めていた。せっかくもらったチョコレートにもまだ手は付けていなかった。

 

「、、、憧れ、、、か、、、」

 

 思い返すのは雄大の言葉。『嫉妬は憧れの言い換え』。もやもやの正体が嫉妬ならば、私はずいぶん前からμ'sに憧れていたのかもしれない。

 

「、、、今更になって、気が付くなんてね、、、」

 

 しかし、気が付くのが遅すぎた。先程そのμ'sに背を向け、さらに一番の親友であった希まで、傷つけた。

 

「、、ははっ、、、ほんとに、、、不器用ね、、、私って、、、」

 

 ずいぶん前から自分が周りとうまく付き合えないのは自覚していたつもりだった。けれど、それ以上に私は不器用だったようだ。まさか自分の気持ちすらわからなくなっていたなんて。机の上に、ぽつ、ぽつ、雫が落ちる。それが自分の目から流れ出た物だと認識するのにすら、少しの時間を要した。

 

 と、突然

 

 ガラッ!「いた!生徒会長!」

 

 勢いよくドアを開けて入って来たのは、練習しているはずの高坂さんだった。続いてμ'sのメンバーに加藤君と長谷川君も続いて入って来る。反射的に私は自分の頬をぬぐい、自分が泣いていたことを隠した。

 

「生徒会長!いや、『絵里先輩』!お願いがあります!

 

 

 

 

 μ'sに入って下さい!」

 

 

「、、、え、、、」

 

「一緒に歌って、踊ってほしいんです!スクールアイドルとして!」

 

「ちょ、ちょっと待って。どうして突然?それに第一、私がそんな事するはずないでしょう?」

 

 突然の出来事に頭がついていかない。私が、、、μ'sに、、、?突然のことに私はすぐに否定の言葉を出してしまった。しかし、それでもこの子たちは引き下がらない。再び手が差し伸べられる。

 

「だったら、なんで机の上に水なんてこぼれてるんすかぁ?」

 

 ニヤニヤしながら近づいてきたのは加藤君。視線の先には、私が先程こぼした涙が机の上に小さな水たまりを作っていた。加藤君は確実に私の気持ちを理解したのだろう、勝ち誇ったような顔になる。

 

「あっ、いや、これは、、、」

 

「ふふっ。なんか『絵里先輩』って結構にこ先輩と似てる?」

 

「ん~?圭、それってどういう意味よ、、、」

 

 μ'sのメンバーは全員私の机の上の水たまりとその意味を理解したのだろう。長谷川君はにっこり微笑む。私と矢澤さんが似てるの?

 

「素直じゃないって意味なんじゃない?」

 

 西木野さんが自分の綺麗な赤髪の毛先を指でつまみながらそういうと、矢澤さんはキッと西木野さんを睨んだ。

 

「真姫ちゃ~ん?どぉ~う~意味かな~?」

 

「そのままよにこちゃん、文字通りね」

 

「それを言ったら真姫ちゃんもにゃ~」

 

「ちょ、凛!?ナにソレ、イミワカンナイ!」

 

 星空さんにからかわれた西木野さんが顔を真っ赤にして照れている。昨日の練習では見られなかった一幕だった。

 

「楽しそうやろ?」

 

「っ!希、、、」

 

 振り返ると椅子のすぐ後ろに希が立っていた。目の周りは赤く腫れていて、私の心がキュッと締め付けられた。

 

「希、、、私、」

 

「ウチな、エリチに伝えたかったんよ?前に行ったやんな?『自分の気持ちと、それに伴う行動。その二つが合わさったときにきっと何かが変わる』って。今ならもうわかったんやない?」

 

「希、、、まったく、そしたらあの時から希は私をμ 'sに入れたかったってことかしら?」

 

「フフッ、ウチは何のことだかサッパリや~」

 

 わざとらしくそう言う希はすっかりいつも通りの様子だった。しかし、直後再び悲しそうな顔に変わる。

 

「あのな、エリチ、、、ごめんな。エリチを置いて勝手にμ 'sに入って、、、入る前に相談でもすれば良かったのに、、、」

 

「、、、いいえ、私こそごめんなさい。あんなに酷いこと言って。希が途中で投げ出したなんて、ほんとうは私のことを考えてくれていたのに、、、」

 

 二人の間に会話が無くなる。お互いになんていえばいいのかわからない。こんな沈黙、希と知り合ってから初めてだった。それは何処かむず痒くて、、、それでも温かかった。

 

「お?どっちも謝ったっすね?それじゃあ『仲直り』の印に握手ってことで、、、」

 

「きゃっ、だ、大輝くん?」「えっ?ちょ、ちょっと」

 

 加藤君が希と私の手を無理やり取って、重ねた。

 

「ハイ!これで仲直り!」

 

 自分の成果に満足したように加藤君は手を離す。私と希の手が自然の繋がっていた。

 

「えっと、エリチ、、、これからもよろしくな?」

 

「フフッ、私からもよろしく。希」

 

 お互いを見つめ合って、可笑しくなって笑った。

 

 

 

「なーんか、お見合い見たい」

 

「ちょっと、にこ先輩!」

 

退屈そうに話す矢澤さんを長谷川君が注意する。そうね、、、『仲直り』か、、、

 

「そういえばあなたともまだ、仲直りしてなかったわね。矢澤さん?」

 

「うぇ?に、にこぉ?」

 

 あの時、アイドル研究部での口論以来、私と矢澤さんは未だ仲違いしたままだったもの。時間はかかったけどこれも仲直りよね?

 

「ごめんなさい、矢澤さん。あなたの大好きな物を踏みにじるようなこと言ってしまって」

 

「わ、私も言いすぎたわよ!悪かったわ、、、あーもう!こういうの苦手なの!ほら、早く顔を上げて!」

 

 頭を下げた私に矢澤さんはとても困った顔して、無理やり私の顔をあげさせる。なるほど、矢澤さんは確かに素直じゃないかもしれないわね。

 

「仲直りっていうなら私のことを名前で呼びなさい!苗字で呼ばれるの好きじゃないの!いい?『絵里』!」

 

「ふふっ、わかったわ『にこ』」

 

 私とにこはこの時初めて、お互いの笑った顔を見た。

 

「お、こんなところにいいものが、、、先輩方!」

 

 加藤くんの言葉に私と希とにこはそちらを見る。その手には先ほど雄大から貰ったチョコレートがきっちり『3つ』乗せられていた。

 

「三人まとめて仲直りってことで、チョコレートでもどうぞ!」

 

「これ、私のチョコレートなんだけど?」

 

「細かいことを気にしたら負けっすよ!」

 

 ハハハ!と調子よく笑い飛ばす加藤君の手からチョコレートを一つ手に取る。希もにこもそれぞれが一つづつ手に取り、口に含んだ。

 

「それじゃあ、行きましょう?」

 

「え?絵里先輩、行くってどこに?」

 

 高坂さんが驚きながら私に聞いてくる。そんなの一つしかないのに。

 

「決まってるでしょ?練習よ!」

 

「そ、それじゃあ!」

 

「ええ、私もμ 'sに入れてくれないかしら?」

 

「、、、はい!よろしくお願いします!!」

 

「こちらこそよろしく!『穂乃果』!」

 

 

 

 

 口の中のチョコレートからは、雄大の言う通り、幸せの味がしていた。

 

 

 

 

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