(絵里)
大輝の様子が少し変だったのは練習が始まる前までだった。練習が学校に始まると、私たちのサポートをしっかりとこなしつつ、少しふざけたりして私たちを和ませる。すっかりいつも通りの調子の彼の様子に、私が勘違いしたのかな、って思えてくるわ。
「綾瀬先生、今日もおつかれさまでーす」
「雄大、その言い方やめてって言ってるでしょう?」
「うぇ~い」
多分、やめることはないんだろうな。適当な返事を返してポケットからビスケットを取り出した雄大はそれをサクサクと食べ始める雄大を見て、そう思う。ビスケットと言っても表面をチョコでコーティングしたものよ。その辺はやっぱり雄大ね。、、、いったいいくつのお菓子を常備しているのかしら?
練習を終えた私たちは着替えを済ませ、そのまま下校する。12人が一塊になって帰るなんて、ちょっと前までの私なら考えれなかったのに、今ではそれが心地いい。
「あ、あの!μ 'sの皆さんですよね!?」
私たちがちょうど校門を出た時だった。一組の中学生と思われる女子二人がこちらを見て声をかけてきた。
「オープンキャンパスを見て、大好きになりました!私たち、音乃木坂に入学したいんです!」
「本当!?ぜったいだよ!」
穂乃果が飛び上がってそして、入学したいと言ったこ子の両肩をつかんでグワングワン揺らす。
「わわわ、目が回る~」
「あ、ごめんね」
「い、いえ、それで、、、あの、握手して貰っても、、、いいですか?」
その子は少し俯き加減にそう言い、言った後で更に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に染めて手を後ろで組んだ。
「ふふっいいよーはいっ!握手!」
「キャッ!」
穂乃果は恥ずかしがるその子の腕をつかんで手を自分の前まで持ってきて、そして、半ば無理やり握手した。その子は突然の穂乃果の行動に驚いた後、状況を理解したのかさっきより一層顔を赤くして、ペコペコとおじぎし始めた。
「なんだか微笑ましいな」
雄大が穂乃果とその子のやり取りを見ながらそう言う。
「雄大、なんだかおじいちゃんみたいね」
「そう言う絵里だってオバァちゃんみたいな顔してたぞ?」
「なっ!そっそんなことないわよ!」
「あ、エリチ照れてるやん!」
「照れてないわよ希!!って、私は真姫じゃないんだからそう言うのはナシ!」
私は真姫みたいに赤くなったりしないんだから!
「絵里が真姫化したかどうかは別にどうでもいいとして」
「どうでもいいって、もとは雄大、あなたのせいなのよ、、、」
「いや、あれは自爆だろ。まぁ、出待ちされるくらい人気出たってのは良かったんじゃないか?なぁ、にこ、、、にこ?」
雄大が話を振ったにこの表情は厳しい。なぜかしら?にこなら真っ先によろこびそうなものなのに。
「人気が出たからよかった?甘いわよ、雄大!みんな!このあと時間あるわよね!?ついてきなさい!」
にこが突然メンバー全員に問いかけると返答を待つこともなく歩いていってしまう、、、なんとなく、いやな予感がするわね、、、
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
にこに連れられ来られたのはこの街の中心部、学校や仕事終わりの人で賑わうアキバの街だった。しかし、ただ連れてこられたわけじゃない。
「あ、暑い、、、」
隣で穂乃果の呻く声が聞こえた。無理もないわ。私たちはアキバに来る途中でにこに『変装』させられたのだから、、、ロングコートにサングラス、マフラーを巻いてマスクまでしている状態だ。初夏にこんな格好をしたらそれは暑いに決まってるわ。しかし、にこは平然と、さもこれが当たり前というような態度だ。
「いい!にこ達はアイドルなのよ!いつ何時も誰に見れているかわからない。常に人に見られる事を意識して行動しなさい!」
、、、人に見られる事を意識するならこんな不審な格好しない方がいいんじゃないかしら、、、
「あー!かよちん見てー!これA-RISEにゃー!!」
「ホントだ!ここ、スクールアイドルのお店だ!!」
早くもにこの話に興味を無くした凛と花陽が制服姿に戻ってなにやらとあるお店の前で騒いでいる。
「二人とも、あまりお店の前で騒いだら迷惑よ?」
にこにさせられた変装を解きながら凛たちに話しかける。後ろの方でにこがなにやら文句言っているのは、きっと気のせいよ!
「あ、絵里先輩、、、ごめんなさいにゃ~」
「もう、、、、それにしてもすごいわね、このお店。スクールアイドルに関するグッズばかり、、、」
凛たちのいたお店の中にはA-RISEを始めとした全国各所のスクールアイドルの団扇や缶バッチ、ポスターなど様々なスクールアイドルグッズが所狭しと陳列され、お店に設置されたテレビにはA-RISEのライブの映像が映っていた。
「何?近くに住んでるのに知らなかったの?ここはスクールアイドルの専門店よ!って言ってもまだ、アキバに数か所ある程度だけど」
「ほぉえ~、そんなにスクールアイドルって発展してるんだぁ」
にこが誇らしげに言うのに対し、圭はのほほんと返す。なんというか、花陽が男の子になったらこんな感じかしらね、、、
「そんなんですよ!圭くん!!今やスクールアイドルは、、、」
ま、まぁ、当の花陽はアイドルのこととなるといつもの様におかしなテンションになってるわけだけど、、、
「ん?ねぇねぇ見てみてー!」
「ん?凛どうしたの?」
「あ、絵里先輩。このバッチの子すっごい可愛いよー!まるでかよちんみたい!」
凛が皆が見えるようにその缶バッチを胸の前に掲げるけれどそこに描かれているのは
「っていうかそれ、花陽よ!」
「えー!?」
「み、みんなこっち来て!」
圭の声につられてそちらを見る。するとそこにはショッキングピンクので縁取られた派手な陳列棚がある。そして、そこに取り付けられた広告には
『新入荷!!新人スクールアイドル、《μ 's》!!』
「みゅ、μ 'sって私たちだよね?石鹸じゃないよね?海未ちゃん?」
「そ、そんなわけないでしょう穂乃果。な、何故スクールアイドル専門店で石鹸が置いてあるのですか」
その棚には私たちの缶バッチや団扇と言ったグッズが、他のスクールアイドルと同様に並べられていた。
「オレたちもグッズが作られるまでになったってことっすね」
「嬉しい気もするけど、なんか恥ずかしいわね」
「そんなこと言って真姫ちゃん本当は嬉しいくせに~」
「なぁ!?り、凛!そっ、そんなことないわよっ!」
真姫が顔を真っ赤にしてるのはもう、言うまでもないかしら?でも、自分たちの実績がこうして形になって見えるって言うのはやはり嬉しいわね。
しかし、メンバーの中で唯一、雄大だけが厳しい顔をしていた。
「雄大?どうかしたの?」
「ん、、、いや、少し気になることがあるだけ」
「気になること?」
「ああ、、、「あの!!」」
雄大が口を開きかけた時、店の外から大きな声が聞こえた。独特の声質で甘い声、、、この声って、、、
「すいません!ここに私の生写真があるって聞いて!あれはダメなんです!すぐになくしてください!!」
店の外でメイド服を着た誰かが、作業していた店員になにやら意見しているようだ。しかし、その独特の声と特徴的なベージュの髪の毛は、、、
「ことり?何をしているのですか?」
「ひゃぁ!?」
海未に声をかけられたそのメイドさんは最後の足掻きなのかすぐそばにあったスーパーボールを2つ手に取り自分の目の前に翳して
「コトリ?ファッツ?ダゥァレトコトデェスカァ?」
、、、本人からしたら大真面目なのだろうけど、それをこんなふうに見せられたらコント以外の何ものでもない。笑いを通り越して呆れの境地に達するわ。しかし、それは一瞬でも私たちに隙を作った。ことりは少しずつ少しずつ距離をとると、
「サラバ!」
「あ!逃げた!」
ことりが素早く人混みに紛れるのにいち早く反応した穂乃果、海未、大輝の3人が駆け出す。μ 'sの中でも運動神経のいい方の三人だ、少なくともことりよりは上だろうからすぐに捕まるかしら。
「あー!凛ちゃんたちも追うにゃー!」
「待ちなさい凛!今から行ってもはぐれるだけだわ」
私は飛び出そうとした凛を止めた。全員で追いかけたら、この人ごみの中だから、足の遅い花陽や圭ならば迷子になる可能性は十分にある。
「うー!でもでも、それじゃあもしかしたらことり先輩に逃げられちゃうかもだよ!」
それでも凛は納得しないのか頬を膨らませる。
「でも、あの三人が見失うなんて考えにくいわ」
「予め脱出ルートを用意してたらその限りじゃないかもしれないけどな」
「ゆ、雄大!ちょっと!」
「そうだよね!雄大先輩!ほら!みんなで追いかけるにゃ!」
予想外のところから凛の援護射撃が出る。でも、脱出ルートなんてあったら何人で追いかけても無理じゃない。グイグイ押してくる凛に私は遂に何も言い返せなくなってしまう。私が困った顔をしていると希が救いの手を差し伸べてくれた。
「まぁ、凛ちゃん。心配するのも分かるけど、今は落ち着くのが一番やで?」
「うー!でもでも!雄大先輩が言ったみたいに脱出ルートがあったらどうするにゃー!」
「そうやね。それならウチにおまかせやん?」
「にゃ?」
「ふふっまぁ、見ててみ?」
なにやら希は意味ありげに言う希はと一人、悠々と人ごみの中に姿を消した。希の雰囲気に気圧されたのか凛も先程のように私をグイグイ押すようなことはしなくなった。
そして、数分後。ことりを見失ったという穂乃果、海未、大輝の三人と合流した時、私たちのグループトークに希から連絡が入った。
『ことりちゃん捕獲したで~♪ほな、このビルで待ってるから来てな♪』
そして、一緒に地図アプリのスクリーンショットが送られてきた。
、、、希、あなたって本当に何者なのよ、、、