(大輝)
ことりと別れてオレは階段に向かった。あれで良かったんだ。これでオレはμ 'sから手を切れるし、皆もまた、前に進めるはず。
「女の子泣かせるなんて、カッコ悪いで?」
階段の下で待っている人が居た。
「、、、練習はいいんですか?希先輩」
希先輩は階段の踊り場の壁に寄りかかってオレを待っていた。
「ウチは今、マネージャーがサボって休んだせいで、自分でなくなった飲み物を取り行かなければならなくなり、今まさに部室に向かう途中やから、サボってるわけやないで?」
ケロッとした顔で言い訳を作る希先輩。
「でも、こっちから来ると部室って遠回りですよね?」
「あっちゃー、これはウチやってしもたな。学校で迷子やー」
額に手の甲を当ててわざとらしく「しまった」とボディランゲージをする希先輩をオレは思っきりジト目で睨みつけてやった。
「はぁ、これはオレがやめた後の海未か絵里先輩の負担が増えそうだ、、、」
「ふふふ、大輝くん、そのことなら心配ご無用やで?」
「へぇ、生活態度を改めるんですか?」
「いや、ウチが大輝くんをやめさせないからや」
希先輩は自信満々に言い切った。
「、、、」
「言ったやろ?ウチがもらった恩を返すまで、勝手にいなくなるのは許さないって」
「恩なら、もう返して貰いましたよ?十分楽しかったですよ」
「いや、それじゃあダメや。ウチが満足できひん」
「そんな、自分勝手な、、、」
希先輩の屁理屈に呆れてため息をつく。と、希先輩の表情はいつの間にか真剣なそれなっていた。
「自分勝手でも、何でも、ウチらは大輝くんには辞めて欲しくないって思ってるんよ?」
「、、、言いたい事は全部ことりに話しました。あいつから聞いてください。オレはこれで良かったんだって思います。それでは」
オレは階段を早足で降りた。意外にも、希先輩はそれ以上何も言ってこなかった。
*☼*―――――*☼*―――――(大輝→絵里)
屋上、いつもの練習場所で私たちは待っていた。
「もう!ことりも希も大輝も遅いのよ!せっかく大輝奪還作戦を始めようと思ったのに!」
にこがじっと屋上のドアを睨みつけて始めてからもうすぐで10分くらい立つのではないかしら。真姫はその横で退屈そうにあくびをしている。
「にこ先輩その作戦うまくいくんですか?」
{行くわよ!、、、多分」
「信憑性ないにゃー」
「うっさいわよ!凛!」
と、ドアの開く音がした。私たちがあわてて振り返ると
「こ、ことり!どうしたの!?」
希に背中を撫でられながら、ボロボロと涙を零すことりが、そこに居た。私たちは慌ててことりのそばに駆け寄る。
「ことり?大丈夫?何があったの?」
私は屈みながらことりを見上げるような体勢で話しかけた。
「絵里先輩、、、大輝くんが、、、、」
「慌てなくていいわ。ゆっくりでいいから」
私たちはことりを日陰に敷いて置いた敷物の上に座らせた。ことりが落ち着くまでにはしばらく掛かったが、ことりはようやく少し落ち着きを取り戻したようだ。
「ごめんなさい、、、」
「謝らなくていいわよ。それよりも、何があったのか話してくれない?」
私が尋ねるとことりは小さくうなずいた。そして、ゆっくり話してくれた。
大輝を引き留めようとしたこと。私たちが大輝の中学時代の事件について知っていることを話した事。それでも、大輝の気持ちが変わらなかった事。
「もしかしたら、大輝くんがこのまま練習に来ないんじゃないかって思ったら、悲しくなっちゃって、、、」
ことりは自分の涙の理由をそう説明した。
「、、、おかしいよ」
その声にみんな振り返る。
「やっぱりおかしいよ!大輝くんがいなくなってもぜんっぜん、私たちにいいことなんてない!」
穂乃果は力を込めているのか、拳を握って立っていた。
「大輝くんは私たちのためって言ってるのかもしれないけど、それって間違ってる!今度はみんなで説得しに行こう!?」
「穂乃果、、、ですが、今の大輝が説得に応じてくれるとはとても、、、」
「じゃあ!海未ちゃんはこのままでいいの!?大輝くん本当に辞めちゃうかもだよ!?」
「それは、、、」
「穂乃果、少し落ち着いて。ね?」
ヒートアップした穂乃果をなだめる。口論になってしまった海未もうつむいて黙る。誰も話さなくなったことで私は周りの様子を見ることができた。ことりは敷物の上に座り込んでまた泣きそうな顔をしていて、希がその隣で慰めている。穂乃果と海未はどちらもうつむいて何も話さない。にこはどうしたらよいのかと考えているのか、腕を組んで考えているようだし。一年生の4人は不安げな目であたりを見ている。雄大もこういう問題は苦手のようで、顔をしかめて考えこんでいる。
「みんなはどう思うの?」
黙っていても仕方がない。私は一人一人の考えを聞こうと思った。
「私は、大輝に辞めて欲しくない。けど、大輝は私たちみんなのことを思ってのことなんだから、私たちもみんなで結論を出しましょう?」
「、、、僕は、」
最初に答えたのは、圭だった。
「僕がμ 'sに入ったのは大輝先輩に誘われてでした。それから、μ 'sのマネージャーを大輝先輩とずっと一緒にやってきて、今まで感じたことのないくらい楽しかったから、わがままかもしれないですけど、大輝先輩には辞めて欲しくないです」
「わ、私も圭くんと同じです」
花陽が圭の後に話しだす。
「私、運動苦手だけど、大輝先輩、私ができるようになるまで丁寧に教えてくれてたから、大輝先輩には辞めて欲しくないです」
「凛も大輝先輩に辞めて欲しくない。凛がμ 'sに入ったのって、あの時大輝先輩が背中を押してくれたから」
「私も、凛と同じよ」
花陽に続き、凛と真姫も大輝が辞めることには反対みたいね。
「それなら、ウチだって大輝くんに勧められてμ 'sに入った。にこっちもそうやんな?」
「わ、私は別に自分の意思で入ったわよ!、、、ただ、あいつがいなくなると私の飲み物を持ってくる奴がいなくなるからあいつがやめるのは認めない!」
「ふふ、にこっちも素直やないなぁ。ウチも勿論、大輝くんがやめるのには反対や。雄大くんは?」
「俺か?俺はお前らの決めたことに従うよ。大輝はμ 'sの為になると思って決断したんだから、それをどうこうしようっていうなら、μ 'sが決めたことに従うのがいいと思うからな」
これで、一年と三年のメンバーの意見は出揃った。あとは、
「穂乃果、海未、ことり。あなた達はどうしたい?」
「私は!絶対反対!」
穂乃果が彼女の良く通る声で強く言った。
「私も、反対です」
ことりが指先で涙を拭いながら言った。
「、、、二人が大輝が辞めるのに反対なら、私がなんと言っても聞かないでしょう?」
海未は少し呆れつつ、それでも笑って答えた。
「じゃあ決まりね」
μ 'sは大輝にマネージャーをやめて欲しくない。みんなの気持ちは同じだ。
「ふふふ、それじゃあ。大輝奪還作戦パート2よ!」
「にこ先輩、そのネーミングセンスだけはなんとかなりませんか?」
「確かにひどいにゃー」
「う、うるさいうるさいうるさーい!」
真姫と凛の痛烈な一言に、にこはすっかりお怒りのよう。それがおかしくて私たちはまた、笑った。