(大輝)
あくびをしながら、チャイムまであと2分のところで教室に入る。最近、どうもギリギリに登校するようになった。自分の席につくと、すぐにホームルームが始まる。先生の話す連絡事項をぼんやり聞き流していればそれもあっという間に終わる。ホームルームが終わったあとの数分間をぼんやり外を眺めながめながら、一限目の時間を待っていると、
「大輝、少しいいですか?」
「ん、ああ、海未」
「アキバでの路上ライブの日程が決まりました。今度の日曜日、2時からなので、集合は10時までにお願いしますね」
「了解」
海未は話し終えたのにも関わらず、オレの席の前に立ったままだ。
「、、、なに?」
「いえ、、、言わなくともわかるでしょう?」
それだけ残すと、海未は自分の席に戻って言った。
あの日以来、オレはμ 'sの練習に参加していない。ことりを泣かせた上に1人きりにしたんだから当然だろう?みんなに合わせる顔がないだろう。でも、それで良かった気がする。μ 'sとの関係がなくなるのが少し早まっただけ。そう考えていた。
だけど、オレの読みは外れた。
穂乃果やことりはそれでもオレを練習に参加させようと、放課後毎日オレのところに来るようになった。オレは毎回用事が忙しいって言ってるけど、あいつらもそれが嘘だって事はわかってるはず。なのにあいつらは笑うんだ。凛や圭、絵里先輩に、にこ先輩、さらにはあの膨れっ面女王の真姫までそんな感じになってる。
その上でライブに来い、と言って来た。オレは皆の心理を測れないでいた。何故、オレをライブに誘ったのか。練習に参加していないオレが行っても足でまといになるだけなのに。
だが、同時にオレは行かなくてはならなかった。オレは確かに今回のライブで最後にして辞めると言った。ならばせめて、最後に会わなければならないという事も事実だ。
今週の日曜日、その日がオレにとって、重要な日になるのだろう。
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あれから、皆がオレに絡んでくることが前よりも少し減った。それは単にライブの準備で忙しくなったからだと思う。ことりはどうにか作詞を完成させたようで穂乃果、海未、ことりの三人が昼休みも教室の隅で歌詞を覚えようとしたり、難しい音程のところを教えあってるのを見た。だけど、今回、ことりが衣装を作っているような感じには見えなかった。いつも衣装作りの時は持っていたクロッキーブックも見ていない。一体どうするつもりなのか。まさか、忘れているのか?いや、雄大先輩や、絵里先輩がいて、そんなミスをするとはとても思えないし、、、オレはライブまでの数日間、内心でハラハラしていた。
そして、
日曜日、海未に伝えられた時間よりも30分早めに集合場所にやってくると、既に雄大先輩がいていた。知らない女の人と話している。相手の人は痩せ型で丸メガネ、顔にもいくつかの皺が見えるあたりからしてかなり年上、40代前後くらいか。
オレが近くに寄るとちょうど話も終わったようだ。
「はい、ありがとうございました。
、、、おう。大輝か。早いな」
「こんちわっす。先輩、今の人は?」
「今回の路上ライブで場所を貸してくれた青木さんだ。アイドルショップの経営とかいろいろやってる人」
「はぁ、、、なるほど」
「なるほどって、大輝、お前いまいち理解してないだろ、、、ちょっと来い」
「え?」
雄大先輩は先程の青木さんが歩いていった方向に向う。ついていくと、小さなスクールアイドルのショップがあった。ここが青木さんのお店なのだろうか。
「青木さんの旦那さんはどっかの会社の社長さんらしい」
「は?」
雄大先輩は先ほどの謎のおばさんの身の上話を始めた。つーかあのおばさん、旦那が社長ってことは金持ちか。
「まぁ、青木さん自身もエリートだったらしい。結婚してから専業主婦をやっていたらしいけど、子供が大学に進学して手が離れてから、暇になった時間とそれまでに貯めた資金で自分の趣味のアイドルに関する小さい商売を始めたらしい。これはその延長だってさ」
「それってこのお店のことっすか?」
アキバのど真ん中なショップを持つってそんな片手間に出来ることかよ!先程のおばさんの評価をオレの中で大幅に修正する必要が出てきた。
「で、先輩、その人と、μ 'sに何か関係があるんすか?」
「関係な。スクールアイドルのグッズってよ。今までほぼ黙認状態で売られてたって知ってるか?」
「グッズっすか、うちわとかそういう?」
「それそれ。そういう物がなスクールアイドルに関しては権利の所在とかが明確に示されて来てなかったんだよ」
「え、それってまずくないんすか?」
「まぁ、正直ヤバイな。事件が起きたら朝のワイドショーもんだろ」
「それってそんな呑気してる場合じゃないでしょ!μ 'sもスクールアイドルでしょ!何か対策しないと、、、」
「まぁ、まぁ、大輝。話は最後まで聞けって。あーっとだからな。青木さんのところとオレ達μ 'sは手を組むことにしたんだ。青木さんのところで『公式』グッズを作ってもらうことにした」
「『公式』?」
「ああ、まぁ簡単にいえば青木さんのところで作ったものはμ 'sが、お墨付きを付けますって感じだな。これなら、青木さんは後暗いところなく販売出来る。ファンも安心して買える。そして、オレ達はそのファンの口コミで何もしなくてもアピールになる。どうだ、ウィンウィンな関係ってやつだろ?」
雄大先輩はニヤッと、笑って見せた。流石、細かいところを抜け目なく見つけ出す。
「それで、その関係を使ってライブ会場を?」
「まぁ、そんなところだ。ついでに今回だけ、衣装も優遇してもらった」
あぁ、だから今回ことりが衣装を作ってる様子が無かったのか。
「、、、」
「、、、ん?なんすか?」
雄大先輩はオレの顔をじっと見てくる。どうしても雄大先輩の方が背が高いから見下ろされるのだが、雄大先輩の顔はどうも無表情なことが多いので何を考えているのか図りにくい。
「いや、、、そういえば知ってるか?神話に出てくる音楽の女神達には、宴の際に彼女達が踊る時、竪琴を演奏して彼女達を導く神様がもう一人いたそうだ」
「あー!大輝くんもう来てる!いっつもはギリギリの癖に!」
穂乃果が相変わらず抑えの知らない声量でオレを呼ぶ声がした。そちらを見ると既にメンバーは全員集まっていたようで、あっという間に騒がしくなった。おかげで、オレは雄大先輩が何を言いたかったのかを聞きそびれてしまった、
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二時、オレはメイド服姿のμ 'sが即席の路上ライブのステージに立つ。集まってきた観客の中、オレはμ 'sがなんとか見えるような位置に立っていた。そのライブから、オレはμ 'sのただの一ファンになる。だから、ここでいいんだ。
「皆さん!本日はお集まりいただきありがとうございます!私たちは、音乃木坂学院アイドル研究部所属のスクールアイドル。μ'sです!」
穂乃果のMCで路上ライブは始まった。と言っても今日やるのは一曲だけらしい。それでも、集まった観客は歓声を上げた。それだけμ'sが人気になって来たという事だ。
「今日は一曲だけしかできないですけど、楽しんでいってください!」
穂乃果はセンターをことりに譲る。
「えっと、今日歌う曲は、私がこのアキバの街で感じた事や、大切な友達のことを歌にした曲です」
ことりが話し終えるとμ'sはそれぞれのポジションについた。
「聞いてください!」
そういったあと、オレはことりと目があった気がした。
「「「「「「「「「Wonder zone」」」」」」」」」