(ことり)
ライブの後、私は着替えてすぐにアキバの街を走っていた。
先程の大輝くんの様子を自然と思い出す。それはライブ終わってすぐの事、大輝くんはすぐに私たちの控室まで来た。
「よぉ、みんなお疲れさま!いやぁすげぇな。A-RISEのお膝元なんて言われているアキバでこれだけのライブができるなんて」
大輝くんは笑っていた。いつものように調子のよさそうな顔で、
「これでオレも安心して後を任せられるってもんだ」
その言葉に私たちの間に明らかに暗い影が落ちた。それを追い払うようににこ先輩は務めて明るい声で言った。
「大輝!私は認めないからね!部長である私が認めないんだから、アンタがやめるって話はなしよ!ナシ!」
「にこ先輩も相変わらずっすね、ま、その明るさでみんなを引っ張って下さいや、部長!」
にこ先輩の言葉も軽く流した大輝くんは部屋のドアを開けて振り返って、
「それじゃ、みんな。これからも頑張ってな!」
バタン!みんなが大輝くんを呼び止ようとした声を掻き消すように大きな音とともにドアは閉まった。
それからのことは、実はあんまり覚えてない。夢中で部屋を飛び出したのは覚えてるけど、その時にみんなになんて言ってきたかも忘れちゃった。ただ、
ただ、
ただ、
夢中に走る。大輝くんがどこに行ったかなんてわかるわけないけど、何もしないでいることなんてできなかった。
行きかう人とぶつかりそうになったり、転びそうになったりしながらも走った。大通りを、路地裏を、いつもみんなで集まったファストフード店の前、UTX高校の前の巨大モニターの前を、、、
だけど、どこにもいなかった。
見つけられなかった。
みんなのところに戻るべきなのだろうけど、私はあてもなく歩きまわった。歩いていると見覚えのある景色になって来た。道を行く人の数もだんだんとまばらになって、ついにいなくなった。そこは、いつも私たちが通る、学校からの帰り道だった。どのくらい歩いたのか。自分でも呆れちゃうくらい長いこと歩いていたんだろう。ため息をついて歩き出すと、あの神社の前の通りに出た。神社の本堂までの長い階段がずぅっと続いている。吸い寄せられるように私はその階段を一歩、一歩と登って行った。
*☼*―――――*☼*―――――(ことり→大輝)
ここに来てからどのくらいの時間がたっただろうか。
ライブ会場から一度帰宅したオレは自分の部屋でグダグダと時間を過ごしていたが、兄貴が「暇ひてるなら、なんかお菓子買ってきて」とオレをパシリにして家を追い出した。サッサと買って帰ることもできたけど、なんとなく尺に触るので散歩も兼ねて遠回りで買いに行くことにした。
そして、途中、オレはいつものあの神社の前を通った。クソ長い階段を登りきってみた眺めは、少しの間見てなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりに感じる。
夕日が間もなく沈みそうだ。空は綺麗なオレンジ色を隠し始め、高いところから暗い紺色が垂れてきて、今にも光の筋を覆い尽くそうとしている。
その幽かな光をじっと見つめていたオレは目に疲れを感じて、少し目を閉じた。そして、再び目を開けた時。
「「あ」」
オレ達の目があった。
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「ここにいたんだ。大輝くん」
「まぁ、パシられついでにな」
「そうなんだ」
「「、、、」」
「、、、ライブ、良かったよ。皆、楽しんでた」
「うん」
「Wonder zone、だよな。あれがお前が作詞をした曲か?」
「うん」
「そっか、なんかお前らしいわ、あの曲。優しい感じがしてさ」
「、、、ありがと」
「『Wonder zone 君に呼ばれたよ、走ってきたよ』、、、か」
「え?」
「これ、穂乃果の事だろ」
「やっぱり、分かっちゃう?海未ちゃんにも言われたんだ」
「ああ、誰でもわかるぜ。ま、穂乃果本人は意外とそういうところで鈍いから気付かないだろうけどな」
「ふふ、海未ちゃんも同じこと言ってた」
「は、じゃあきっと当たりだな」
「「、、、」」
*☼*―――――*☼*―――――(大輝→ことり)
「あのね、大輝くん」
ずっとこうしてくだらない話をしていたかった。でも、それじゃあ何も変わらない。
「私、やっぱり大輝くんにやめて欲しくない。このままμ 'sを支え続けて欲しいの」
「、、、」
「大輝くん、辞めないで」
私の言葉は彼に聞こえているはず。だけど、大輝くんは遠い空の消えかけの夕焼けを見たまま返事を返して来ない。
「大輝くん、、、」
「オレはさ。このままオレがμ 'sに関わって行くと、いずれオレがμ 'sの足かせになるんじゃないかって思うと、嫌でさ。皆一生懸命やってるのに、オレ一人のせいで全部パーになりそうでさ」
陽の光はいよいよ弱くなる。
「そんなことない!大輝くんがいてくれたから、μ 'sはここまで来れた。だから、μ 'sには大輝くんが必要なんだよ!」
私は大輝くんの腕をつかんで訴えた。
「私ね、Wonder zoneの歌詞を考える時、皆のことを思い浮かべた!皆で過ごした思い出を考えたの!そしたら、その中にはいつも大輝くんがいて笑ってた!ファーストライブに向けて練習してた時も、花陽ちゃん達をμ 'sに誘った時も、にこ先輩を勧誘する方法を考えてた時も、絵里先輩にダンスを教わってた時も、オープンキャンパスでパフォーマンスした時も!」
私は大輝くんの腕を握りしめていた。
「大輝くん!いなくならないで!私達と一緒に、これからもずっと一緒にいて!」
後半はもう叫ぶように話していた。大輝くんの腕にすがりついた私は彼の肩に自分の額が当たるのを感じた。視界がぼやけていく。それが自分の目から溢れるもののせいだとわかるのには時間がかかった。
「ことり、、、」
大輝くんが話すのが聞こえる
「でも、μ 'sのためには、、、オレは」
「まだ、わからないんか?」
大輝くんのではない。関西弁を真似て話す少し高めの声が聞こえた。
「希先輩」
アルバイトだったのかな。長い階段を登った神社の入口、その場所に希先輩は立っていた。
「まーた女の子を泣かせて。大輝くんもダメな男の子やんな」
希先輩に指摘されて冷静になった私は、自分の顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。大輝くんの腕もサッと離す。
「希先輩、オレがいるとこれからμ 'sが危ない状況に追い込まれる可能性があります。だったらそのリスクはない方がいいに決まってる。これのどこが違うんですか?」
「大輝くん、やっぱり君はわかってない」
「、、、オレは何がわかってないんですか?」
大輝くんは単純に疑問を抱いている顔で希先輩に聞いた。
「大輝くん、君は見落としてるんだよ。君が今までに大切にして来たことを」
「、、、何のことですか?」
「ふふっ、それを言うのはウチの役目やないな」
希先輩はイタズラっぽく笑った。そして、望先輩は神社の奥に消えていった。と、その直後、タンタンタン、と長い階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。
「あー!ことりちゃん!大輝くん!こんなところにいたー!もう!探したんだからね!」
明るい色サイドポニーの髪を揺らして、穂乃果ちゃんは良く通る声で言った。