シリアス回はあまり多くありません。
「”我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う”…かぁ…」
一世紀以上前に流行したあるテレビゲームのセリフを呟く。
真っ白な病室の中、透析器が血液を循環させる無機質な音だけが耳に入る。
「人を超えるなんてことはなかったなぁ…まぁそもそも俺ビルゲンワース支持してるわけでもないし…」
汚染によって生まれた新しい血の病。
それにおかされた俺の体は、獣化することもなければ、宇宙的叡智による発狂を引き起こすこともなかった。
只々、静かに…じっくりと壊死するかのように、意識を残したまま体は死へと向かっていた。
そして今がまさにその終わりなのだろう。
今まで漠然としていた死に対する感覚が生々しく伝わってくる。
「はぁ…うぅ…あぁ…なんで俺が…っ!俺はこんな…こんあところで…たった一人で…」
嗚咽と涙が漏れる。
家族は同じ病で死んだ。
家族だけではない、俺が住んでいた一帯の住人全てが汚染によって、ひとりひとり死んでいった。
安全圏に住んでいたにも関わらず、詳細が伏せられた事故によって、その生活は一瞬にして奪われた。
最初こそ近しい者の死に深い悲しみを感じ、事故に対する怒りを燃やしていた…だがそれは、徐々に孤独と自分の死への恐怖を増長させた。
「うぁ…うぅ…ぐっゲホゲッホ、ハァッハァッ…はぁ…ふぅ…あぁ~ちくしょう」
感情が高ぶっただけで死にかけるほどに弱った俺は、もう本当にいつ死ぬかわからない状態にあった。
家族は死んでしまったが、俺にも友人がいた。
だが完全隔離状態にある俺には、面会すら許されず、会うことができる人間といえば防護服を着た医者ぐらいのものだった。
このまま見知った人に看取られることもなく死んでしまえば…自分の存在は本当に消えてなくなってしまうのではないだろうか?といった恐怖が、死を悟ったが故に拭えずにいた。
「あーあ…死に際なのに我ながら情けない…うん?」
自分の情けなさに悪態をついていると、ベッドの横に置いてある電子端末から受信音が聞こえる。
数日前にやっとこさ用意された代機であり、もうじき死ぬのにこんなものを用意するあたり嫌がらせに近い。
「施しようがなくなってから使えるようになるとは…よっこいしょ」
だが気づいてしまったものは仕方なく、枯れ枝のような腕を必死に伸ばして画面を開く。
たったそれだけの行動を起こしただけでバイタルサインが急変する自分の体にほとほと嫌気がさすが、それももうすぐ終わりなので文句を言っても仕方がない。
「っはぁはぁ…えっと?んーお悔やみのメールばっかりか…見なきゃよかっーーーーー
目障りなメールを読み飛ばしていると、ある一通のメールに目が止まる。
『差出人:モモンガ
件名:ユグドラシルのサービス終了につきまして』
同様のタイトルのメールがいくつかあり、つい先ほど受信したものがコレのようだ。
内容は、12年の栄華を誇ったDMMO-RPG”ユグドラシル”のサービスが終了するにあたって、その最後をギルド”アインズ・ウール・ゴウン”のみんなで分かちあわないか…といったものだった。
「モモンガさん…そういえば、みんなに事情を話すことすらできていなかったなぁ…いや、事情どうこうがなくてもログインはしなくなっていたか…俺なんかが顔出していいのかな…っ…ぐっ…」
突然胸に杭を打ち込まれたかのような痛みが走り、全身から汗が噴き出す。
こういうことは以前から時折あったのだが、今回の痛みはとびっきりのものだった。
そしてそれは痛みだけではなく、自分の中で決定的な何かが崩壊しているかのように感じた。
それを証明するかのように、先程から騒がしかったバイタルサインが、更に細かく音を発し始める。
「ぐぁっ…ぁ…ふぅっ、ふぅっ…いよいよまずいかもなぁ…今更…許してもらえないかもしれないけど…っ、謝れるなら…誰かと会えるなら…ギルメンと…っ」
震える手で再び端末を操作する。
周りの音が聞き取りづらくなってきたが、そんなことはどうでもいい。
『アップデートがあります。しばらくお待ちください』
メッセージが表示され、端末を通してニューロンナノデバイスへのインストールが始まる。
もはや目の焦点も合わず、バランスを崩すようにベッドに深く沈む。
途端に猛烈な眠気が襲って来る。
「…少し…少しだけ眠れば…ナザリックに…」
抗えない眠気に瞼を閉じ、インストールの完了を待つ。
時間の感覚すら感じ取れず、朦朧とした意識は泥のように沈み始める。
『ピー…ピー…ピー…ーーーですーーーてーーーさい』
何か機械音のようなものが聞こえるが、バイタルサインだろうか?インストールの完了音だろうか?
もはやそんな判断もつかないまま音を聞き届け、痛みすら感じなくなった体はーーーーー
ーーーーー静かに眠りに就いた。
人間性限界の心ですが、コメント、感想、指摘など是非お待ちしております。