遅くなってゴメンナサイ!
「ドナドナドーナー」
「「ド~ナ~」」
「「「子牛を乗~せ~て~」」」
「なんかすっげぇ耳につく歌だなー」
パァンッ!!
「「きゃっ!?」」
やわらかな日差しがさし、穏やかな風が吹く道途。
どこかで聞いたような民謡をさえぎるように、破裂音が劈く。
それと同時に道の右側に広がる森に生える大木へと、何かが突き刺さるような音がする。
目を向ければ、その大木には指が通る程度の風穴が開いていることがわかる。
「うっわぁー耳ふさいでても結構すごい音ね」
「すごすぎだろこの…"銃"っていうの?攻撃が見えなかったぞ?」
「攻撃の速さもそうだが、銃の恐ろしさはその音と煙だとどっかの魔王が言っていたな。その音が鳴れば誰かが死ぬ…そう相手に植え付けることが最大の武器だとか何とか」
「それは確かに…指を動かすだけで巨木を貫くほどの威力を出せれば、たとえ人でなくてもそうなります…というか魔王?」
「びっくりしたねー」
「ねー」
カッツェ平原へと続くいつもの道。
だがいつもと違うのは、荷車を使用していることと、それに揺られるフォーサイトと"他二人"がいることだろうか。
先程までその"二人"と歌っていた俺はというと、荷車を引きながら吹き抜ける緑の香りと、荷台から匂う硝煙の香りを楽しんでいた。
傍から見れば老人に荷車を引かせるというあまりにひどい構図なのだが、馬代の節約と厩舎から馬を借りた痕跡を残さないために、俺は荷車を引いているわけだ。
最早俺の扱いに慣れてきたのか、四人は俺に目もくれずヘッケランが発砲した"獣狩の短銃"に興味津々だ。
"獣狩りの短銃"…狩人が獣狩りに用いる工房製の銃
獣狩りの銃は特別製で水銀に自らの血を混ぜこれを弾丸とすることで、獣への威力を確保している。
また、短銃は散弾銃に比べ素早い射撃が可能なため迎撃などに適する。
今から向かう仕事で銃を使用するかもしれないと言うことで、事前に非常に危険なものであると言う注意をした上で、武器の紹介を兼ねて試射させている。
この世界では魔法で似たことが出来る以上、仰天するなんてことはなかったが中々良いリアクションをもらうことは出来たので満足する。
だがその反応もそれぞれで、ヘッケランとイミーナは単純に感心しているが、ロバーデイクとアルシェは短銃を凄まじいマジックアイテムと訝しんでいるようだ。
「じゃあ次私ー」
「ほい」
イミーナの手に渡った短銃は、水銀弾を装填するために中ほどで折れる。
事前に説明した通りに装填できていることに頷き、薬莢が落ちる音に(この世界では薬莢が消滅することなく残るのか)と、一人納得する。
「じゃあそれぞれ撃ちながらでいいから銃に関して説明していくぞ。街をざっと見た感じこの世界に銃という技術は存在しないと思う。お前たちもソレを見るのは初めてなんだろう?」
「ーー寡聞にして知りません。こんなものがあれば戦いそのものが変わってしまいます」
「まぁそうなるだろうな。爆薬やら雷管の話は置いておくとして、銃と言うのは魔法ではなく薬品による爆発の力を利用して弾丸と呼ばれる金属の塊を飛ばす武器だ。まぁその銃には魔法的な効果は付属しているんだが、ひとまずその射程や速度に魔法は殆ど影響していない」
パァンッ!!
「すごっ!魔法なしにこんな威力の攻撃が出来るなんて…コレがあれば私の弓とか要らないんじゃないかしら?」
「いやいや、私のいた世界では銃なんかより弓の方が遥かに恐ろしかった。私がこの銃で友人の弓使いに戦いを挑めば、なすすべなく爆殺されることだろうよ」
「…弓で爆殺?」
「単純に爆発するほどの威力…だったはず。もしかしたら魔法が付与されていたかもしれないが、遠距離爆撃なんて味方ながら恐ろしい限りだったな…まぁそんなことは置いておいて、次は銃の魔法的効果というものを説明していこう」
「ねぇねぇ、おじい様の友人ってどんな人?」
「ん?あぁ~悪い意味じゃないんだが…お前たち二人にはあまり会わせたくない人だな…うん、アルシェも危ないかもしれない」
「え?」
「はい次はロバー」
「はい」
おじい様…何か変な気分ではあるが悪い気はしない。
そんなフェチズムを感じつつ、話題に上がったかつての仲間の一人を思い出す。
アルシェたち三人は基フォーサイトのメンバー、そして世界の住人全般がやたら美形が多いので、あの人はハーレムだと喜びそうだとか失礼なことを考える。
いや彼に対してなら失礼でもなんでもないのかもしれない。
もちろん彼も変態の代表格の一人だ。
バァンッ!!
「おぉ、確かにこれはすごい!」
「水銀弾…それが射出されている物体の名前なんだが…」
「水銀が射出されているのですか?」
「水銀を触媒に自身の血液を混ぜ合わせたものを撃ち出している。自身の血液を混ぜ合わせることで水銀弾の威力は変質するんだが、それは血質というパラメータに左右されるな」
「「「…???」」」
「まぁ要は血液を混ぜ込む場合は人それぞれ威力が異なるんだ」
「では今しがた撃ち出した物はさらに威力が上がるかもしれないということですか?」
「おそらくな」
ユグドラシル時代に水銀弾に対して自分の血液を混ぜ込むなんて作業はしたことなかったが、"血質"に左右されていたのは間違いない。
アイテムテキストには混ぜ込むと記されているが、もしかしたら銃を持っただけでそれが作用している可能性もあれば、今まで撃たれていたのは純粋に水銀のみを触媒とした弾丸なのかもしれない。
後者だった場合でも、十分な威力を発揮しているが、そのうち試してみる必要はある。
"血質"というパラメータは特定の武器や銃を持つことでコンソール画面から確認できる所謂隠しパラメータである。
ユグドラシルの情報開示を行わない運営スタイルのせいで確かなことは言えないのだが、種族がかかわっていることだけは周知の事実だった。
彼らが純粋に人間であるということはわかっているのだが、血質に左右されるものはどのように変化するのか…
そもそもユグドラシル産のアイテムに対してゲーム的な縛りは存在するのか…
この世界に来てからもう何日か経つのだが未だにこうした疑問はふとした拍子に湧き上がるものだ。
「それにその水銀弾なんだが、実は作り出すことができる」
「ーー製造方法は気になるところ」
「製造方法とは少し違うな。この銃の魔法的効果の部分なんだが、その銃を持った状態で自傷することで、ダメージに応じた分だけ血液を水銀弾へと作り変えることができる。この子たちがいる手前実践はしないがな」
「なーにおじい様?」
「さっきから難しいお話ししてるね」
「そうだな、少し二人には難しかったな。今日の夜流れ星でも見せて上げるから少し待ってくれな?」
「流れ星!!」
「おじい様流れ星を呼べるの?!」
「あのー…ストレイドさん、流れ星って…」
「フフン、アルシェよ…何も・問題は・無い」
「流れ星楽しみだねー」
「ねー」
アルシェの凄まじく不安そうな視線を感じるが、前回の失敗を踏まえた俺に死角は無かった。
前回はアルシェに何の前触れもなく夜空の瞳を見せたわけだが、原因はそこにあったのだ。
そりゃあ真横から隕石が飛んでいけば誰だって腰を抜かす。
事前に何をするのかを教えておけば同じ轍を踏むことはない。
それに"二人"は帝都を出たことがないとの話だ。
帝都は電気的な明かりはないもののコンティなんとか、がある以上、満点の星空というわけではなかった。
故に間近で流れ星を見るという体験はきっと彼女たちの心に残る、良い経験になることだろう。
俺の子供時代できなかった経験は"彼女"達にはさせてあげたいというものだ。
まぁよくよく神秘なんて誰だって経験できないものなんだが…呪詛であろうが神秘は見てくれだけはいいものだし、喜んでくれるなら何だって経験させてあげたい。
「なら…わかりました」
「え?何?流れ星?アルシェは知ってるみたいだけど、ストレイドさんって流れ星も呼べるの?」
「そ、そんなことより…その銃のことなんですけど、昨日のストレイドさんのスキルの時もそうでしたが、随分血液に関係が深いんですね」
露骨に話題を変えるアルシェなのだが、その質問は以外にも俺の確信に近いものだった。
だが血に関することはいずれ突っ込まれることはわかっていたので珍しく動揺もなかった。
「確かに私の持つアイテムのほとんどは血にまつわるものだな。私自身も血の業を得意としている…むしろ私のすべては血によって成り立っている」
「ーーさっきの自傷による水銀弾の増加や、血を混ぜ込むことによる威力増加はストレイドさんの業というわけじゃないんですか?」
「あぁなるほど。私でなくともそんな超常現象を起こせるのかということだな?」
「あ~それは確かにちょっと気になるところだな。ストレイドさんって何かと規格外だし、単純に俺たちには出来ないことっていう可能性もあるわな」
「ふぅむ、確かにそれは色々と実験をしてみないと確実とは言えないところだな。だがまぁ発砲できることがわかっただけでも今回の仕事には十分役立つはずだ」
「これ以上に何か機能を引き出せるのなら、凄まじいの一言に尽きるマジックアイテムですね…国宝級のマジックアイテムなんじゃないでしょうか?」
「ーー威力や距離のこともそうだけど、血液を完全に別の物質へ変化させるなんて信じられない…どれだけの研究価値があるか計り知れない代物」
改めて実験をする必要があることを認識する。
この世界では血液が水銀弾の"数字"ではなく、本当に水銀弾"そのもの"へと変化することは容易に想像できるのだが、"シモンの曲剣"の矢にそれを当てはめると、左太ももから巨大な矢を引き抜くという…それはもう気持ちの悪いことになるのではないだろうか?
実験するにしても人目を選ばなければならないことは確かだ。
しかしながら件のアイテムである獣狩の短銃程度が国宝級というのは、自慢気と同時に不安も生まれる。
比較的安価で作れる短銃が国宝級なら、ギルド防衛設備の一つである固定ガトリング砲台なんて持ち出せば、国を滅ぼす神造兵器に成り得るんじゃないだろうか?
そのガトリング砲でさえ、ユグドラシルの大規模ギルドでは配備するのにそこまで苦労するものではない。
これから彼らには仕事のためにそれぞれ銃火器を貸すわけだが…それほどのアイテムと称されると、緊張で手元が狂わないかと少し心配になる。
「ねぇお姉さま、銀色の筒が落ちてた。たぶんあの棒から落ちたやつだと思う」
「ありがと。でも私じゃちょっとわからないから、ストレイドさんに見せてもらえる?」
「はーい。おじい様ーこんなの落ちてたー」
「おぉ薬莢か、ありがとな二人とも。私は今手が離せないから帽子に突き刺すなり転がしておくのが危なかったら捨ててしまっても構わない」
「コレって捨ててしまうの?キラキラしててきれいだけど…」
「ん?あぁ別段使い道はないが…欲しいか?」
「「うん!」」
「そうかそうか、なら二人にそれをあげよう。それは少し危ないものだからとりあえずお姉ちゃんに渡しておきなさい。アルシェ、"竜王国"についたら適当に水洗いしてあげてくれ。大丈夫だとは思うが一応水銀に触れているものだからな」
「わかりました。でもよかったんですか?」
「本来捨ててしまうものだからな、喜んでくれるならそのほうがいいさ」
「おーいいなー二人とも」
「「えへへー」」
「よかったわね、"ウレイ""クーデ"。ストレイドさんにお礼を言うのよ?」
「「ありがとうストレイドおじい様!!」」
(アルシェって妹のイメージが強かったけどすっごいお姉ちゃんしてるわよね)
(確かに、しっかりしていると前々から思っていましたが何かこう…ギャップがありますね)
ヘッケランがおだてると自慢げに胸を張る"ウレイ"と"クーデ"と呼ばれる少女二人。
アルシェによく似た顔立ちの二人は、小さな子供であり、百センチにも満たないその身長は少女というより幼女といえる。
そんな二人に笑顔を向けられると、危うく心身ともにジジイ化してしまう可愛らしさを誇っている。
ウレイリカとクーデリカ、その姓はフルトであり、アルシェの妹にあたる。
年齢はまだ五歳と少しといったところで、双子である上に未成熟な二人の容姿はアルシェ以外には見分けがつかない程そっくりである。
だが見分けがつかないのもそのはずで、二人の存在をフォーサイトのメンバーが知ってからまだ数時間程度しか経過しておらず、彼女たちを分ける判断材料を得るには圧倒的に時間が足りていないのだ。
二人はフリルが沢山ついたドレスを揺らしながら荷台ではしゃぎまわっているが、絢爛な屋敷であるならまだしも、小汚い荷台にいるその姿は不釣り合いでしかない
では何故二人がこのような対岸のような場所にいるのか
「ヘッケラン、この調子で行けば向こうに着くのはどれぐらいになりそうだ?」
「そうっすねー明日の日没前には…ってぐらいだと思いますよ?だいぶ速いペースですし…今更ですけど、こんな長距離本当に大丈夫なんですか?」
「休憩を取っていないわけじゃないからさして疲労はないさ。さて、それなら少しだけ急ぐとするか。ちょっと揺れるかもしれないから酔いそうになったやつは言うんだぞ?」
「「りょーかい」」「「はーい」」
「それなら少し早めに着きそうだし今のうちに向こうでの行動を打ち合わせしておくか。
ゴホン…作戦を説明する。
提案者はGぇ…まぁ俺だ。目標は竜王国を攻撃中のビーストマンの排除になる。
ビーストマンは亜人系モンスターで討伐対象としての難度は極めて高く、ミスリル級冒険者であっても数の暴力の前では全く歯が立たない。それゆえにこれまで竜王国の頭痛の種だったわけだ。
それを倒すというからにはもちろん理由がある。ストレイドさんの提案により俺らはこの銃という武器を利用し中距離からの攻撃に徹する。この威力と火力があればある程度の討伐は見込めるだろう。
これは不確定情報だが、竜王国の軍は冒険者に対して組合を通してビーストマン一体毎に歩合制をとっているらしい。ビーストマンを相手取る以上仕事を受けられる冒険者の数は限定される上に猫の手すら借りたい程疲弊している竜王国の現状だ、俺たちワーカーでも直接交渉に持ち込めば依頼をねじ込ませることができるだろう。
まずは大人数が宿泊できる宿屋の確保と同時に、前線軍との交渉を行う。これを二班に分けて到着し次第始める流れになる。宿に関しては最悪郊外でストレイドさんのマジックアイテムを使用してもらえるから、軍との契約が最優先になるな。
こんなところか…危険な仕事だがそれでも見返りは莫大だ。やるか?」
「やるかも何もそれしかないでしょ」
「その通りです。それに前からビーストマンの悪逆には憤りを感じていましたし」
俺の支援があるとはいえ、なぜこのような危ない橋を渡る必要があるのか、そして…
「…ごめん、みんな」
「謝る必要はありません。誰も迷惑だなんて思っていませんから」
「そうだぞアルシェ。お前はよく頑張ったんだ、むしろ早く相談しなかったことに怒っているくらいだ…いやそれよりも腸が煮えくり返るのが…
ウレイリカとクーデリカが楽しそうにしているのを背に、表情には出さないものの、三人は再び苛立ちを募らせる。
何故このような混沌とした状況が生まれているのか、それは数時間前の俺の行動が原因となっている。
ハリウッド版のバトーさんの眠らない目が気になる今日この頃、ドナドナに深い意味はありません。
次はたぶんすぐに投稿します。
柵の中にコメントを投げ入れてください。
喜びます。