オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

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すぐ(約一日後

切るタイミングがなかったので今回は長めです。






第十話

 

 

 

帝都アーウィンタール

 

 

 

夜の帳が下り、帝都は昼とはまた違った賑わいを見せている。

通りには街灯がいくつも立っているが、それがなくとも店々からはあたたかな光が通りを照らし、昼間と変わらない…それどころか昼間よりも強い活気にあふれているようにも感じる。

 

日中から商いを続ける店もあれば、露店は夜の装いへと姿を変えて仕事に勤しむ者や娯楽に興じる人々の声

客引きによる耳に通る呼び声や、酒場から響く下品な笑い声

靴が舗装された道を叩く音や、扉の開閉音。皿やグラスがぶつかる音やどこかから響く楽器の演奏

 

それらは所謂雑音なのだが決して不快なものではなく、むしろ心地よささえ感じるものだろう。

 

しかし今の俺にはそれに耳を傾ける余裕もなく、心中乱れきったままに街を駆け、"歌う林檎亭"の扉をあけ放った。

 

 

「お帰りなさい"二人"とも…何かありましたか?」

 

 

店内は初日に見たとき同様に酒を酌み交わすむさい奴らでにぎわっており、それなりに繁盛しているように見える。

そんな喧騒を破り注目を一瞬集めるも、気にせず俺たちを迎えるロバーデイクのもとへと向かう。

彼は若干不安げな顔をしているが

 

 

「あぁただいま。ロバーデイクだけか?」

「二人は注文に行っています。ところで…どうしてアルシェはストレイドさんの小脇に抱えられているんですか?」

「ーーただいまロバー」

「あ、はいお帰りなさい」

 

 

その言葉通り。俺はアルシェを脇に抱え街を疾走し、今に至るのだ。

俺の脇に抱えられているアルシェとローバーデイクのやり取りは何というか間抜けなものだ。

ロバーデイクのいるテーブルへと向かおうとしたところで、そのテーブルは俺が粉砕し新しく買い替えられたものであると気が付き、できる限り店主のほうへと目を向けないままに向かう。

 

 

「理由は後で話す。とりあえず二人には注文をキャンセルするように言って俺の部屋まで連れてきてくれ」

「え?えぇわかりました。あの、ストレイドさんの一人称って"俺"でしたっけ?」

 

「ん?あちょまううぇあ、ン゛ン゛~~…ひとまず頼んだぞ」

 

 

慌てて変なことを口走ったが適当に誤魔化し、足早に自身の部屋へと向かう。

いずれロールプレイのボロが出るとは思っていたが、これほど早期にやらかす自分のアホさ加減に嫌気が差す。

そんな憂鬱に駆られる俺のもと、脇に抱えられているアルシェは最初こそ驚き戸惑っていたが、今は首をつままれた猫のようにされるがままである。

 

部屋の前へと到着すると"得意とする"探知形スキルを発動し、併用、ブーストすることで周囲全ての生体反応とヘイトの方向を確認し、手早く室内に入る。

アルシェを適当な位置に置くと、雨戸を閉め、アイテムボックスから取り出した"ランプ"を取り出し宿の床板に突き刺す。

 

床板が砕ける音が鳴る。

 

その音にアルシェが驚きビクつくが、ソレに構うことなく突き刺したランプの柱をなでる。

するとどこからともなく耳障りな重なり合った唸り声が部屋に響く。

そしてその声の主が姿を現すが、アルシェには見えている様子は無い。

 

悪夢から滲み出た小さな亡者たち。まともな"人"には見えないず、狩人を慕い、従う悪夢の住人。

特定のアイテムを使用した際に召喚されるモンスターーー"悪夢の使者"

 

ランプの根元から沸き立つように現れた小さな"二つの体"…小さな彼らはランプを見上げ、祈りをささげる。

その祈り意味があるかはわからないが、とりあえず俺は使者がの数が"潜伏者を示していないこと"を確認し、やっとといった具合にベッドに腰を落ち着かせる。

 

このランプは一定エリア内での協力者や敵対者の数を、使者が自身の召喚数をもって知らせるという隠された機能が存在している。

しかしその示す数字は極端に少なく、基本的に味方のパーティーメンバーを下回る数しか知らせることができなかった為に、ソロでのPK警戒ぐらいでしか使用する機会はなかった。

 

アルシェが使者の存在を確認できないということは、ユグドラシルの時同様に何らかの友好関係の証、ギルドやフレンド、盟約などがなければ他者が設置したランプは利用できないのだろう。

 

だがそれでよかったとも思う。

狩人の供である使者を懐かしむと同時に、アイテムテキストにもある通り"普通の人間が見る存在ではない"のだから、少なくとも予告なしに目前に出していいものではない。

今でこそ可愛らしく見えるが、初見のプレイヤーは往々にしてその外見の醜悪さを嫌っている。

無論アインズ・ウール・ゴウンではそれなりに親しまれていた。

フォーサイトに見せる機会があるとすれば"壺祭り"に変更しておいたほうがいいかもしれない。

 

 

「あの、ストレイドさん…?」

「ん?あぁすまん、驚かせてしまったか」

「いえ、これまでに比べれば特には…それで一体何をしていたんですか?」

「盗み聞きや盗み見の対策だ。追手が来ているとも思えないが警戒しておくに越したことはないだろう。10キロ狙撃でもない限り明らかなヘイトは感じ取れるはずだ。攻勢防壁は無いがロケート関係にも気がつくことが出来るはずだ」

「へ、へいと…ろけーと…えっと、よくわかりませんが苦労をお掛けしてすみません…私のせいで…」

「いいや、これは全面的に私に非がある。事を荒立てて申し訳ない」

「ーーいえ、そんな…」

 

 

謝り合戦になりそうだったが、どちらがということもなく口を噤む。

そして互いに落ち着きを取り戻し、再び状況を整理とそれぞれが話すことを確認する。

 

すると少し速足にこちらに近づく足音が聞こえ、数回のノックの後、扉を開けて三人が神妙な面持ちで部屋に入ってくる。

 

 

「みんな集まってくれたな。とりあえず適当にかけてくれ」

「ロバーから緊急事態って聞いたんですけど…何があったんですか?」

「もしかして武器の密輸が衛兵にバレたとか?」

「いや、今回の仕事についてのことじゃぁないんだ。…アルシェ、事情を話してもいいか?」

「ーーいえ、私から話します。その後のことはお願いします」

 

 

それぞれがベッドや椅子に腰かけ、アルシェの言葉に耳を傾ける。

溶鉄に関するトラブルでないのなら何なのか?といった具合に俺とアルシェを交互に見た後、それぞれが思案顔を浮かべている。

そしてアルシェは少し顔色が悪くなり、若干貧乏ゆすりのように足を揺らした後、重い口を開く。

 

 

「実は…借金がある」

「「「借金?」」」

「…うん」

「緊急事態っていうのはそれなのか?まさかストレイドさんが練成所を吹き飛ばしてそれの弁償代が急遽必要とかーーー」

「ーー私個人が抱える借金」

「…でもアルシェが入ってからでも私たち相当稼いでるでしょ?何か返せない事情があったとか?」

 

 

大変不名誉なことを考えられている気もするが、正直そういった考えに行き着くのも妥当だと言える。

急遽発生した金銭が絡む問題ともなれば、その原因となりえるのはまず俺なのだから。

事実として林檎亭の机粉砕による臨時支出…それに今回の事態も直接的な原因は俺にある。

アルシェの事情を事前に聞いていた身としては、こんな暴露をさせる羽目になって大変申し訳ない限りではあるのだが…コレばかりはフォーサイト全員で共有し、解決しなければいけない事態である。

 

 

「ーー金貨250枚…それが私の抱える借金」

「250...かなり多いですね」

「現実的に無理な額ではないが…確かに多い。どうしてそんなことに?」

「ーー私の家は鮮血帝に貴族位を剥奪された家…」

 

 

三人が軽く息を飲む。

俺自身詳しくは聞いていないのだが、少し前に出たこの国バハルス帝国…ようするにここの国の皇帝がその鮮血帝というらしい。

ジルクニフ…なんとかロードなんとか…という皇帝は色々あって貴族を粛清したりや何やらで鮮血帝と呼ばれており、皇帝に反抗しなかったものの貴族位を奪われた家の一つがアルシェの実家ということのようだ。

鮮血帝…なんとも耳あたりの良い渾名だ。アルシェにとっては憎かろう相手なのだろうが、血を名に冠する人物だ…少しばかり興味が引かれる。

 

 

「でも問題はその後だった。両親は未だに貴族のような生活を続けている」

 

「「…」」

 

「…借金の原因はそれか?」

「そう。両親は性質の悪いところからお金を借りている」

「…そうか」

 

「「…」」

 

 

 

アルシェは顔を伏せ、ソレを見た三人は互いを見合わせると一斉に立ち上がる。

 

 

 

「よしぶん殴ろう」

「賛成」

「同じく」

「手を貸そう」

 

「ーーあれ?ストレイドさん?」

「冗談だ」

 

 

雰囲気で立ち上がり他にあわせて拳を鳴らしていたが、俺の声が発されたとたんアルシェは驚いた顔を上げる。

冗談とは言ったものの、アルシェの両親に腹が立っていないというわけではない。

鼻に"虫"でも突っ込んでやろうかと画策するほどには不愉快だ。

だがまずはそんなことではなく、今回の発端を明かすべく俺は口を開く。

 

 

「緊急というわけで今回集めさせてもらったんだが、その直接的な理由は俺にあるんだ」

「やっぱり練成所を吹き飛ばしたんじゃ…あれ?ストレイドさんって"俺"ってーー」

「ン゛ッン゛ーッ!わ・た・し・が!そんなことしていたら街中でもっと騒ぎになっているだろう」

「あ、はい。そうですね」

 

(ストレイドさんが戻ってきたとき私に"俺"って言ってたんでもしかしたら本当の一人称は俺なのかもしれませんね)

(そうなの?何でそんなことしてるのかしら?)

 

「…」

 

 

自分が思うカッコいいロールプレイだから…などとは言えない。

最早誤魔化せていないことを悟った俺はその内ロールプレイをやめることを心に誓った。

だがいかんせん突然素に戻るのは恥ずかしいので今日のところは適当にしらばっくれる。

そして事の発端を話すべく深く息をして覚悟を決める。

 

 

「まぁ順を追って説明していくとだな…溶鉄の帰りに件の金貸しがアルシェに絡んできたんだ」

「まさかアルシェ何かされたんじゃ…!!」

「ーー大丈夫…私は大丈夫だった」

 

「それで相手は常軌を逸した鬱陶しさだったんでな、思わず殴ってしまった」

「あーソレはまずいかもしれませんね。でもアルシェがチンピラになんかされそうになったらイミーナあたりだったらぶん殴ってるな」

「私が特別暴力的みたいな言い方やめてくれる?あんたたちも殴るでしょ?」

「俺はロバーがいないと殴らん。回復できないからな」

「まぁ私もそれでアルシェが助かった上で誰も結果的に傷ついていないのなら止めませんが」

 

 

思ったより軽いのりで受け取ってくれたことに少し驚くが、ココは現代日本ではなく異世界なのだ。

この世界に来て短いが、通りで殴り合いが起きていたのも既に見かけていることからさしたる事件というわけでもないのだろう。

 

だがこの世界におけるイレギュラーである俺が人を殴るというのは、割とただ事ではなかったのだ。

 

 

 

「私の場合はロバーデイクがいても不味かったかもな。殴った相手なんだが…相手は殴った衝撃で"きりもみ回転"しながら大通りを転がったんだ」

「…え?」

 

「たぶん死んではいない…と思う」

「…ん?」

 

「それを衛兵の一人に見られた」

「…は?」

 

「その瞬間アルシェを抱えて逃走」

「…お?」

 

「途中で狩装束を変えてトップスピードで宿に向かう」

「…」

 

「到着後、探知スキルで追っ手が来ていないことを確認して現在に至るというわけだ」

「それは…その…」

 

「すまない!何の申し開きも出来ない!!」

 

「いや、謝らないでください。さっきも言いましたけど、アルシェが同じように絡まれてたら俺たちだって殴り飛ばしてたと思いますし…やり過ぎ感はありますけど」

「それにストレイドさんの全力の移動と、先の一瞬の換装であればまず衛兵の方は問題ないでしょう。幸いストレイドさんは普段から顔の殆どを隠しているわけですし」

「帝都の軍の警邏が普及しているとは言っても、場所によっちゃ殴り合いなんてしょっちゅう起きてるしね…回転しながら飛んでいくなんてまずないとは思うけど」

 

「だが問題は取立て屋か…その辺は大丈夫なのかアルシェ?」

 

 

全員が気まずそうになんとも言えない表情をしていたが、俺の謝罪は…こう言っては何だが案の定受け入れてもらえた。

フォーサイトのお嬢であるアルシェのことなのだ、やり過ぎとはいえ殺さなければ大体許してくれるんじゃないだろうか?と密かに考えていたこと的中したというわけだ。

 

 

溶鉄の帰り、錬金といってもその名のとおりでただ金属を溶かす小さな窯を仮に借りにいっただけなのだが、ゲームでは簡単だった金属の加工がこれほど時間がかかるというのはある種新鮮な体験であったとアルシェと話していたところを、道中突然見知らぬ男に声をかけられる。

がたいのいい男がニタニタと下卑た笑みを浮かべながらこちらへ向かってきたとき、アルシェが冷や汗をかき始めたのが分かった。

男がアルシェの肩を掴んだ時点で、もう先のとおりである。

 

その瞬間を衛兵らしき男に見られた俺はアルシェの革鎧をひっつかみ、"遺骨"を砕いて路地を文字通り目にもとまらぬ速度で駆け抜ける。

抱えたアルシェが気絶しない程度の速度を維持しながら、さっきの男との関係と道案内、そして今後の対応を同時に聞きながら今に至るというわけだ。

 

新しい生を謳歌しようと少し羽目を外した結果、鬱陶しさ故にに殴ってしまったが、羽目を外すにしても賢くならなくてはいけないと俺は学んだ。

こんなとき獣であれば生き易いのだろうと、一人頷く。きっと最初の獣の病の発症者は俺のような考えのない阿呆なのだろう。

 

 

 

「ーーそこが少し問題。もし取り立ての人が再起不能になっていた場合でも他の人が来る。それどころか多分私が関わっていたことが分かれば取り立てが激しくなると思う」

「でも借りてるのは親なんだろ?そんな親の借金わざわざアルシェが返すことはーー」

「ーー私も早く縁を切りたいと思ってる。でも…家には妹がいる…二人はまだ小さいから…」

「妹がいたのか?…確かに稼いでいるアルシェがいなくなったらその妹は危ないな」

「だからストレイドさんと一緒に作戦を考えた」

 

「「作戦?」」

 

「…その…それを実行しようと思うと妹たちを連れ出さなきゃいけない。…トラブルを持ち込んでただでさえ迷惑なのはわかってる。けど、どうか…少しの間だけでいいから妹達が同行するのを許してほしい。その後はお礼も出来る限りするし…これ以上トラブルを持ち込まないためにフォーサイトを追い出してくれても構わない。だから………お願いします」

 

 

アルシェは立ち上がると深々と頭を下げる。

それを受けた三人は面食らったようだが、互いに顔を見合わせて溜め息をつく。

 

 

「よしじゃあ早速行動に移そう。ストレイドさん、その作戦って言うのは?」

「ん?あぁ、まずアルシェの妹を連れ出す理由と方法なんだがーーーーー

 

「ちょ、ちょっと待って!了承してくれるのはありがたいけどこんな面倒ごとを何で…」

 

「あのなぁアルシェ、ストレイドさんを機軸に考えた作戦なんだろう?それなら失敗するはずないじゃないか…あれ?改めて考えたらちょっとまずい気が…」

「え?」

「ともかく!ここで断ったらお前ほどのマジックキャスターを、そんなくだらない親が原因で失うなんてな…そのほうが遥かに面倒だ」

「正直に"そんなこと気にしなくて良い"と言って差し上げればいいじゃないですか」

「なっお前!…まぁそうだよ、そんな小さいこと気にすんな。今はストレイドさんもいるんだし、一時的に子供二人ぐらい抱えるのなんて余裕だ余裕」

「ヘッケラン…お前は私を頼りにしているのかしていないのかわからんな」

「いやそんなことないっすよ!ものっすごい頼りにさせてもらってますから!」

「まぁ一部ポンコツなのは自覚してるから構わんさ、むしろ妥当だ。そんなことよりアルシェ、リーダーからの許可は出たんだ、作戦を説明するぞ」

 

「ーーはい。…皆、ありがとう」

 

 

アルシェはこの借金のことでフォーサイトを外されるのではと危惧していたようだが、それは稀有に終わった。

付き合いの短い俺でも戦力という付加価値があるとはいえ、一定の信頼をおいたうえで許してくれるのだ。家族のように、しかも溺愛されているアルシェが仲間から外されるなどあるはずがない。

むしろ彼らは仲間を助けるためなら犠牲を厭わないはずだ。

この世界に来て最初に見たロバーデイクの自己犠牲からも、それは容易に想像がつく。

正直…人の繋がりをすべて失った俺にとっては、彼らのそんな関係はなかなかうらやましい限りだ。

現実である以上比較出来るのかは微妙なところだが、どうしてもかつてのギルドメンバーのことが頭に浮かぶ。

 

 

「じゃあ早速説明していこう。まずはアルシェの妹についてだがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルシェの妹であるウレイリカとクーデリカ。

 

この二人をアルシェの実家に置いておくと、いくつか問題が発生する。

今回の一軒で差し押さえなどが早まった場合、家まで奪われることはないかもしれないが最早追加で金を借りることができなくなり、フルト家は金銭を入手する手段が完全に断たれるということになる。

 

無論両親が働くのであればそういった問題は発生しないが、アルシェ曰くまずありえないとのことだ。

家には何人かの使用人がいるとのことだが、彼らも生活が懸かっている故に給金が発生しない家で働き続けることはない。

むしろ解雇するのに更に金が必要になるはずだ。

 

すると両親はどうするか…彼らは子が親のために奉仕するのは当然だと考えている節があり、貴族としての生活水準を維持するためなら最早正常な判断ができなくなっているらしい。

 

自ら労働を行わない彼らが金銭を得るために取る行動は、妹たちを働かせることに行き着く…それほどまでに腐ってはいないと信じたいが、その考えは否定できないとのこと。

だが妹たちは幼い。労働を商品として提供できるほどに成長しているわけでもなく、貴族として育った彼女たちに突然働けというのは難しいものがある。

労働力として見込めない幼い二人の少女…そのあとは容易に想像がつくが、四人は一様に顔を伏せる。

 

これはあくまで憶測に過ぎない仮定の話なのだが、この一件がなくとも遠からず起きる問題ではあった。

両親は際限なく金を借り、借りた金以上の利子が積もっていく。

そうなれば両親がそんな外道のような判断を下す以前に、差し押さえと称して妹たちは金貸しに連れていかれることも考えられるのだ。

 

 

 

ここまで聞いた時点で、フォーサイトのメンバーは我慢の限界に来ていたらしく、すぐさまフルト家からのウレイリカとクーデリカの救出という名の誘拐が行われることとなった。

 

 

 

だが誘拐といってもやることは至極簡単なものである。

 

アルシェが家に帰り、家族が寝静まった頃合いを見て妹たちを連れ出し、"妹を社会見学のために連れていく"といったような置手紙を置いてくるというだけのシンプル極まりないそれだけでは作戦でも何でもないものだった。

 

だが作戦と呼ぶからにはしっかりとした下準備も存在していた。

実家で働く使用人たちの買収だ。

買収というと聞こえが悪いかもしれないが、ただ単にアルシェが使用人の解雇に必要な額を先に支払ってしまうという魂胆だ。

幸いにもアルシェは彼らの信頼を獲得しており、彼らも退職金が支払われることが分かればある程度アルシェに協力してくれるらしい。

 

では彼らには何をしてもらうのか?

それは両親が衛兵に誘拐事件として訴えた場合、衛兵に対して、"アルシェは自分の妹を社会見学に連れて行った"とだけ口添えしてもらうのだ。

 

家族間の問題である以上そもそも衛兵が動くかどうかもわからない。

それに疑われた場合でも、使用人の証言があればまず家族間の問題として回避することができるだろう。

そもそもフルト家は貴族位を皇帝によって奪われた家である以上、衛兵たちがまともに取り合わない可能性も存在する。

 

以上のことから留意点はほとんどなく、アルシェにレンジャーであるイミーナが同行するということで作戦が実行された。

 

 

 

結果としてウレイリカとクーデリカの誘拐は滞りなく完了した。

使用人も件の要求を快諾し、期間満了までの間はフルト家で働き衛兵が来た場合は協力させてもらうとの了解を得ることができたのだった。

 

そして話の中心人物である妹二人はと言うと、アルシェの両サイドで彼女の腕に抱きつきながら、歌う林檎亭に帰ってきた。

二人は外見を目立たせないために灰色のローブを纏っているのだが、子供用のサイズが手に入らなかったそれは少しダボついており、アルシェの腕に抱きつきながらしきりに周囲を見回すその姿はむしろ少し目立っていたかもしれない。

 

二人はアルシェと比べると活発な性格をしており、俺みたいな見知らぬジジイが話かけても最初こそ戸惑っていたものの元気に返事をする非常に好感を持てる子供だった。

 

 

 

そんな彼女たちを迎えたのは俺一人であり、リーダーのヘッケランと最年長ロバーデイク…今や外見的には俺が最年長であるが…ともかく、二人が居ないのにはわけがあった。

 

 

 

アルシェ姉妹が実家を離れるにあたって、帝国領で生活するとなれば取り立て屋の影は付きまとう可能性がある。

もしも差し押さえを行わず、今まで通りアルシェに対して搾り取るような取り立てや、嫌がらせのような行為が続くとなれば妹を連れ出したこと自体があまり意味を成さない。

それに帝国領を出たとしても、相手が執拗に追い回してくる場合は言わずもがな。

 

では後腐れなく全てを終わらせるにはどうすれば良いのか?

 

それは正式に借金を返すことである。

アルシェが払う義理はないのだが、これを公的な場で金貸しに返済し、家族との縁を切ることで、金貸しと両親双方とのつながりを後腐れなく完全に断つということが目的だ。

 

そこで問題になるのが金貨250枚を稼ぐ手段である。

大金を稼ぐ為とはいえ、あまりに長い期間仕事で姿を消していた場合、難癖つけて借金が膨れ上がったり家族の縁切りに面倒が起きる可能性も存在する。

 

であれば早急に金貨250枚を稼ぐ必要があるのだが、その前準備としてヘッケランとロバーデイクは行動を起こしている。

 

 

 

闘技場による一攫千金…

 

 

 

帝国特有の賭博可能な娯楽施設である闘技場にて、無名でありながら常軌を逸した戦闘能力を有している俺を利用することで大金を獲得することが最終的な目的である。

イカサマくささは拭えないのだが、この話をした時点でフォーサイトの彼らの行動は早かった。

 

イミーナとアルシェは先の妹の誘拐へと向かい

ヘッケランとロバーデイクはより多くの掛け金を得るために短期間で大金を得ることができる仕事の発見と消耗品や必要備品の準備、そして闘技場におけるできる限り高いオッズとの対戦予約などその他準備へと向かった。

 

そして作戦の要点となる俺はというと、街に慣れていないということと何かしらのトラブルを引き寄せるという理由から、留守番というわけで宿屋に残ることとなった。

最強の留守番…ストレイドのお披露目だ…諸君、派手に行こう。という訳にも行かず、一人酒とつまみを食らいながら準備が整うのを待っていたという訳だ。

 

 

 

そして準備は整い、ヘッケランからこれから行う作戦が発表された。

 

俺の戦力を利用した竜王国でのビーストマン狩り。

国内で大金を稼ぐとなれば、金の動きに敏感な金貸しにかぎつけられる可能性がある上に、戦いによって大金を得るとなれば軍部が大きい帝国でおいしい話は少ない。

 

そこで白羽の矢が立ったのが竜王国である。

竜王国は人間の国でありながら王族が竜の血を引く特殊な国であるとされている。

この国そのものに魅力があるわけではないが、国外となればかぎつけられる心配も薄く、万が一資金調達に失敗したとしてもアルシェと妹たちを逃がすことは可能である。

 

それに金貸しが竜王国に来たがらないであろう理由は他にもあった。

この国は近隣に存在するビーストマンの国から度々侵略活動を受けており、近年発生した大侵略によって国力の疲弊を晒し続けているとのことだ。

そんな命の危機に晒されるような国に進んで行きたいとも思えないのだが、今回に限っては最も適した場所であるといえる。

金貸しの目から逃れると同時に、竜王国の軍は連戦でその数を大きく減らしており、現状であれば猫の手でも借りたい状態らしい。

そこで単純な暴力装置としては一級品の俺が暴れることで、大金をせしめるというのがこの計画の全容である。

 

 

どんな仕事になるのかと思えば、俺の十八番である獣狩りだ…それも数が多いとなれば血と汚物に塗れた匂いたつ狩場を全身で感じることができるのかもしれない。

 

 

強く惹かれる内容であると同時に、単純でありながら効果的な作戦である。

実益としても理に適っている上に、心情的にも誰も損はしない。少なくとも俺は大喜びだ。

仮に竜王国の軍と契約できなかった場合、一時的にだれか一人を冒険者として契約させることで、ビーストマンの討伐報酬を得ることも可能であるとのことだ。

 

 

 

そしてこれらに異議を唱えるものはおらず、準備が整った俺たちはその日のうちに街を出ることにした。

 

 

 

街を出るまで終始沈んでいたアルシェだったが、入出審査を無視するために三人を抱えて城壁を飛び越えたあたりから色々と吹っ切れた様子だったので安心する。

 

そんな姉をよそに、俺やフォーサイトメンバーに慣れた妹二人は終始はしゃいでいた。

城壁を飛び越えるとなればさすがに怖がるのではないかと思っていた二人なのだが、叫び声は上げたもののそれは嬉々としたものであり、むしろアルシェのほうがビビっていたようにも感じられた。

 

 

 

 

二人は俺より肝が据わっているんじゃないだろうか?

 

 

 

 




要約:竜王国で稼いで、帝国の闘技場で増やす。妹はフォーサイトと遠足





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喜びます。
あと今回誤字脱字ひどいかもしれません…ゴメンナサイ
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