オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

12 / 13
オバロ続刊がもうすぐですね。


ダクソDLCももうすぐですね。


最早は言葉は不要ですね?






第十一話

 

 

 

 

 

 

「スー…スー…」

 

 

 

 

 

雲海を突き抜けそびえ立つ異様なまでに高い塔。

 

巨大な月に照らされたその頂上には、丘の上に建つ小さな家と、真っ白な花で埋め尽くされた庭園が広がっていた。

 

その家のふもとに腰かけ、静かな寝息を立てる人形が一つ

 

そしてその周囲からは地面から沸き立つように異形の小人が現れ、耳障りな呻き声を上げながら人形に呼びかける。

 

 

 

「スー…スー…ハッ…また私は…」

 

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

 

 

「おや、どうかなさったのですか?」

 

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

 

 

 

目を覚ました人形はしゃがみこみ、ゆっくりと球体関節の手を伸ばす。

 

すると小人たちはその小さな形も定まらない手で、人形の指先へと触れる。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…-----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー狩人様が戻られたのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

最近まで居住区だったであろう、いくつもの屍が転がる戦場

 

そしてその屍の同胞による怖気が走る絶叫が、至る所から発せられる。

だがその根源の一つ一つを念入りに潰すかのように、鈍く汚れた刃が振り下ろされる。

その都度絶叫が一つ止み、辺りに血と臓物がまき散らされる。

 

血と汚物が混じり合った悪臭が周囲の土地と空気を汚し、それに呼応するように新たな絶叫がいくつも生まれる。

だがそれは恐怖によるものだけではなく嬉々とした…また狂気の片鱗を感じさせるものまでもが含まれていた。

 

 

 

「…ハ…ハハッ…」

「…なんだ…ありゃ…」

 

 

 

居住区の建材を利用して組まれた防壁の上で、くたびれた兵士たちが乾いた笑い声をしぼりだす。

 

 

ビーストマン

人を喰らう亜人

獅子の頭部をもつその亜人は知性に薄く、いくら同族が無残な死を迎えようとも張り裂けんばかりの絶叫をあげながら向かってくる…名前通りの獣…いや本能すらまともに機能していないあたり獣以下の存在といえる。

 

 

竜王国の民は兵士に限らずこのビーストマンに食料として狩られ続けていた。

人間の何倍ものスペックをもつビーストマンを討伐するのは容易ではなく、たとえ一体倒すことができたとしてもその間に五人は死んでいるという有様だ。

そのうえこちらは疲弊する一方なのに対して、相手は人間を殺せば殺す程に、その食欲を強めて攻め入ってくる。

 

 

 

 

 

ーーーだが今はどうだろうか?

 

 

 

 

 

「また吹き飛んだか…俺たちの戦いがまるで児戯じゃないか…」

「ビーストマンが細切れになったり肉塊になって吹き飛ぶなんて誰が想像できるかよ…」

 

 

 

絶叫の主であるそのケダモノ共は、一つの人影へととびかかっていく。

 

 

だがそれはただ飛び掛かっていくだけで、後には何も続かない。

 

 

ある者は一刀のもとに両断され、ある者は足を切り落とされもがき苦しんだかと思うと謎の破裂音と共に脳髄をまき散らして絶命する。

 

またある者は飛び掛かった矢先に逆方向へと吹き飛び、四肢の原型がなくなるほど地面を転がった挙句に死に絶え、ある者は元がなんであったのかわからないほどに切り刻まれ肉塊へと姿を変える。

 

無数のケダモノの死体があたりに散らばり、先ほどまで生きていたそれらからは生温かい血が噴き出している。

噎せ返るほど濃厚な血の匂いが支配する戦場の中心から、全身に血を滴らせた一人の男が、奇妙な形をした武器の血を払うように現れる。

 

 

 

「あれが英雄ってやつ…なのか?それとも帝国のワーカーってのはどれもあそこまで強いのか?」

「そんなことあってたまるか。俺たちと戦闘中だったビーストマンを20秒足らずで壊滅させるような単体戦力だぞ?イレギュラーに決まっている」

「確かにイレギュラーだな…あんな化け物みたいな動きしているがあれで爺さんらしいぞ」

 

 

 

飛沫を避けるように作られている軽装の鎧と、枯れた羽根を模したような特徴的な帽子

その全てが赤黒く染まり、不潔な血を滴らせている。

元々そういった状態になることを想定して作られていたのだろうか、威圧感を放つ目元以外は完全に覆い隠されており、誰も彼が老人だなんて思いもしないだろう。

老いどころか疲れさえ見せない彼は、どこからともなく奇妙な形をした武器を取り出し、戦場を血で赤く染めていく。

討伐数はもはや200に届く勢いなのだが、その勢いは留まることなく軽快にビーストマンを惨殺していく。

その成果はまさに英雄のそれなのだが、武器のせいか、はたまた返り血のせいか、何か理解できない不気味さを感じさせた。

 

 

 

 

「信じられるか…なんて言おうかとも思ったが、ありゃ多分超高位のマジックキャスターだな。何にもないところから武器が現れるなんてどんな魔法だ?マジックキャスターの癖に肉弾戦までつよいなんてな…」

「あぁ、本当に異常な強さだな。そういえば強いってんなら"あいつら"も異常だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

 

 

 

「そこの兵!槍の先をずらすな!ロバーの再装填が終わるまでは絶対に気を抜くな!!」

 

 

近くで鳴り響いた破裂音と、後ろから掛けられた怒声に二人の兵士は慌てて長槍を構えなおす。

先に響いた破裂音と共に、十数メートル先からこちらへ向かっていたビーストマンの一体がその場に倒れこみ、それに続いていた群れが怯みと仲間の転倒によって勢いを失う。

 

これは彼らワーカー…フォーサイトが来てから散発している現象の一つなのだが、彼らが各々長さ形が異なる筒のようなものを敵に向けると、破裂音と煙が出た後に何故か相手が倒れているのだ。

時に敵の体に穴が開き、時に四肢を弾き飛ばすその攻撃は戦場の誰もが理解できないものだった。

 

真っ先に思いつくのはマジックキャスターの魔法という考えなのだが、コレはすぐさま除外された。

フォーサイトと言えば兵士間で知っている者もおり、他国まで名が届くほどのワーカーとなれば十二分な実力なのだろうが、少なくともマジックキャスターの集団ではない。

結局彼らが何をしているのかはわからないが、その圧倒的な攻撃性が味方であるということに誰もが希望を抱いた。

ミスリル冒険者に匹敵するという話だったが…少なくとも現状の討伐数から考えるなら、件の老人を除いてもアダマンタイト級を超えるだろう。

 

そんな彼らを戦力に加えた戦場は二つに分かれていた。

前線本隊と1キロ程離れた左翼では老人が一人で迫り来る敵を殺しつくし、右翼はフォーサイトの指示の下ビーストマンの一体も防壁に触れさせることなく討伐が進んでいる。

最早戦場ではなく狩場に相応しい一方的な蹂躙がそこでは行われていた。

 

だが突然現れた英雄級の力を振るう彼らの活躍は、敗北と疲弊を繰り返していた兵士たちにはどこか現実味を感じさせなかった。

 

 

 

「ヘッケラン、再装填が完了しました。ですがあと二回の装填が血液の限界かもしれません」

「わかったがあまり無理をするなよ?全員!陣形をそのままに頭を下げろ!」

 

 

 

その指示に隊全員が異を唱えることもなく、指示通りに頭を下げる。

指揮権がフォーサイトのリーダーにあるわけではないのだが、彼らが行う攻撃を目の当たりにした今では従わざるを得ない。

陣形を崩すことが出来るのであれば今すぐにでも耳を覆いたいところなのだが…それも仕方ない。

 

 

 

ガコッ

 

 

 

先程ロバーと呼ばれていた男が持つ"箱に何本もの筒が取り付けられたかのような道具"の筒の部分がゆっくりと回転し始める。

 

そして…

 

 

 

「ストレイドさんも耳栓推奨ぐらい言ってくれたらよかったんですが…では斉射します!3、2、1ーーーーー」

 

 

 

 

鼓膜を破るかのような"連続"する轟音が響き渡る。

 

 

 

秒間に何度起きているかわからないその音は、その場全ての音を掻き消す。

鎧や手に持った槍からはビリビリと振動が伝わり、肌が痺れるかのような感覚に陥る。

音にあわせるように無数の光の線がビーストマンへと飛来すると、こちらへと駆け出していた群れの姿は一変する。

 

横一線になぎ倒されるかのようにビーストマンの群れは崩れ、光の線に次々と貫かれてあっけなく死んでいく。

ブチブチと皮膚や筋肉が千切れ、血飛沫を撒き散らしながらゴミのように死んでいく。

 

随分と長く感じた轟音が余韻のような回転音へと変わりはじめると、あたりは酷く静かに感じる。

 

そして数秒の後に耳が慣れ始めると、群れの前衛が倒れもがき苦しむ騒音と、おぞましいながらもはっきりと恐怖や痛みを含んだ叫び声が群れから次々と湧き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな簡単に…」

 

 

 

 

 

 

 

誰かがつぶやいた。

 

そして一様にある思いがよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

((ーーーまるで昨日までの俺たちじゃないか…))

 

 

 

 

 

 

ビーストマンに襲撃された場所や戦場では、はらわたが抉り返されていたり四肢が引きちぎられていた上に半分ほど齧られていたりなど…端的に言うと…食い散らかされたたような凄惨な光景が広がっていた。

これまで殺され弄ばれる人間だけであり、その逆は決してなかった。

 

 

だが今目の前に広がる現象がその常識を次々と塗り替えていく。

 

 

 

 

 

「よっし!第四波の前衛も瓦解した。イミーナ、停滞している群れに対して"アレ"を曲射しろ。ストレイドさん曰く扱いには気をつけろよ」

 

「了解。人の進化の現実ってやつを教えてやるわーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーシッ!」

 

 

 

 

 

 

リーダーの男が指示を出すとエルフと思しき女が弓を引き、7~8本の矢を順次発射する。

 

後方から発射された矢は大きく弧を描くように自分たちの頭の上を過ぎていく。

そしてその矢は阻まれることなく、群れの中ほどへと飛来する。

 

 

 

目が良いものなら矢の先に何かが結びつけられていたのが見えただろう。

耳が良いものなら何かが規則的に刻まれる音が聞こえただろう。

 

 

 

 

だがソレは矢が群れに消えた瞬間にかき消された。

 

 

 

 

立て続けに響く先程とは比べ物にならない爆発音が響き、爆炎が巻き上がる。

 

ファイヤーボールにも似たその攻撃は、細い矢から生まれたとは思えない圧倒的な暴力を生み、群れの中枢を完全に破壊する。

 

集団としての機能を完全に無くし、数えるほどにまで減った五体満足のビーストマンは、聞いたこともないような情けない悲鳴を上げながら散り散りに逃げ惑う。

そしてその臆病風をあざ笑うように、同属のバラバラになった欠片が降りかかる。

 

 

 

 

「うっわ!また随分吹き飛んだわね。残りの"時限爆弾"も数えるほどだけどー…相手は?」

「残りは引いていくな。後詰もいないみたいだし、コレでひと段落といったところじゃないか?ふぅ」

「この"時限爆弾瓶"って言うの?…これがあったら私帝国最強狙えるんじゃないかしら?」

「アルシェに肩車してもらって《飛行(フライ)》で上空からそれ打てば最強だろうな。まぁ無理だろうけどな」

 

 

 

リーダーの男はガラスの入った筒のようなものを覗きながら息をつく。

 

そしてワーカーの三人は各々武器?を下げ、リーダーの男の下へとあつまる。

 

 

 

「追撃の必要もないだろ。討伐数はこっちだけで300近いんじゃないか?」

「300って…冷静に考えて三人で出していい討伐数じゃないわよね。でも残量的にちょうど良かったんじゃないかしら?接敵されたら私は何も出来なかったし」

「実は私既に貧血気味で…前衛として出るのは危なかったかもしれません」

「今回文字通り一番身を削ったのはロバーってことか…とりあえずはしっかり休んでくれ」

「わかりました。帰ったら今日は久々にがっつり夕食をいただこうと思います」

「あ!ストレイドさんの方も後退し始めたみたいよ」

 

 

 

先程までの緊張感は霧散し、和気藹々と仕事について語り合う三人。

そしてその話どおり、老人に群がっていたビーストマンは右岸の壊滅状態に臆してか、それとも老人の絶対的力にようやく気付いてか、我先にと逃げ出していく。

 

その光景とフォーサイトの気軽な話し声に、兵士の間で何かが決定的に崩れ始める。

 

 

 

「兵士の人たちもお疲れさん。さっきは偉そうに指示してすまんかったな」

 

「…った…」

 

「そういえば討伐数の確認ってどうすんの?」

「回収できたら部位回収。駄目なら話し合いだったんだが、今回の討伐は殆ど俺たちだし話がこじれることもないだろ」

 

「「…やった…」」

 

「ロバーはストレイドさん戻ってくるまで休んでいてくれ」

「いえ、私も回収ぐらいは」

「お前に倒れられると俺たちが困るんだよ。ほれ行くぞイミーナ」

「はいはい。こんなときアルシェがいてくれたら楽なんだけどねー」

「今は仕方ないだろ。そんじゃ兵士のみなさん俺たち一旦ビーストマンの部位回収にーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「やったぞおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」

「「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「おわっ!?」

「なにごと!?」

 

 

 

感情のタガが外れた兵士は槍を突き上げて力の限り叫ぶ。

感極まり崩れ落ちて涙を流すものもいればムサイ男同士で抱き合っているものもいる。

先ほどまで実感のなかった明確な勝利の感覚がドッと押し寄せ、誰もかれもが歓喜に明け暮れる。

 

誰も奴らの餌になることなく、何百という敵の骸を積み上げた完全な勝利ーーー

それは竜王国がビーストマンとの戦争を始めて以来最高の勝利であり、欠けることなく皆が享受するその余韻はもはや狂気に近い…ビーストマンのそれにも近い叫びだった。

前線の一部に過ぎない小さな勝利だが、彼らはそれだけで足りてしまうのだ。

 

 

 

「…と、とりあえず行くかイミーナ」

「そ、そうね…」

「…ちょっと怖いんで早く帰ってきてくださいね…」

 

 

 

異常なまでの歓喜に気圧されつつ逃げるようにその場を離れるヘッケランとイミーナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの後、部位回収を終えて戻ってくると顔面蒼白でぐったりとしたロバーデイクが胴上げされていたのはまて別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーもっとだーーーーー」

 

 

 

 

 

 

ーーー乾くーーー乾くーーー乾くーー乾くーー乾くー乾く乾く乾く乾く乾く

 

首筋がチリチリと焼け付くように体が猛烈な乾きを訴える。

群がってくる獣を五十程狩った頃だろうか?血を浴びた瞬間から腹の底でくすぶっていた言知れぬ乾きが全身を虫のように這う。

 

痒みにも似たその乾きは、血を浴びる都度仄かな癒しを与えた。

だがその度により強い乾きが襲い、より多くの血を求めるように狩りを加速させる。

 

 

 

「ーーーーー足りないーーーーーもっとだーーーー」

 

 

 

鋸を振るえば肉が引きちぎれる音が響き、鉈を振るえば何本もの骨を切断する感覚が伝わる。

 

斧、槌、剣、槍、爪や車輪に至るまで、あらゆる武器を振るえば振るうほどに乾きが増していく。

全てが一振りの下に狩りとられるが、より鋭く、より致命的に狩りへの集中力が研ぎ澄まされていく。

狩れば狩るほどによりそれは激しくなり、集中と引き換えに思考を着実に鈍らせる。

そして殺せば殺す程に、自分の中に何かが蓄積されていくような感覚が増し、脳内麻薬の分泌量を上げていく。

 

 

 

「もっとーーーもっとーーーもっとだーーー」

 

 

 

最早何体倒したかなどどうでもよかった。

 

自分が何のためにこのケダモノを狩っているのか、自分とこのケダモノに違いはあるのか、己が人を取り繕う意味…何もかもが思考とともに消え去り、自分の内に膨れ上がるモノの正体にさえも気が付かない。

ただただ酷い"酔い"のように、白痴へと沈んでいく。

 

 

 

 

「もっと…もっとッ…もっトッ!…もットダァッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストレイドさんっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斧を力の限り振り下ろしたところで、冷や水を被ったかのように急に頭が冷える。

 

地面が揺れるほどの勢いで放たれた一撃は、眼前の肉袋を木端微塵に粉砕し、弾けるようにしてあたりに肉片が周囲にまき散らされる。

 

 

 

 

「ァ…あぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?すごい血まみれっすけど…」

 

「…」

 

「えっと…怪我はなさそうですね。とりあえず俺たちの方は兵士が部位回収手伝ってくれて早めに終わったんで…こっち手伝ったほうがいいかなーっと」

 

「…」

 

「と言っても、もう手伝い始めてるんですけどねハハ…は…」

 

「…」

 

「…ストレイドさん?」

 

 

 

斧を引き抜き姿勢を上げて周囲を見渡す。

回りには竜王国の兵士が点々とおり、各々ビーストマンの死体を一箇所に集めたり、部位の回収を行っている。

あれだけ群がっていたはずのビーストマンは見当たらず、戦場から離れた森へと逃げ去っていく姿が遠くに見える。

 

どうやら途中から狩りではなく、虫の息の獣をただ処理する作業になっていたようだ。

 

ヘッケランに声をかけられたことによって、"自分の現状"を瞬時に理解する。

 

 

 

 

だがーーーソレをとどめる理性と正気は差して重要ではなくなってしまっていた。

最早不要だ。

 

 

 

「大丈夫ですか?さっきからーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーー失せろ」

 

 

「え、ちょーーー

 

 

 

 

 

 

そう一言絞り出すと、俺はヘッケランから何とか視線を逸らす。

 

 

 

危なかったーーーーー

 

 

 

ーーーーー殺してしまうところだった。

 

 

 

 

だが…ただ、ただそれだけだ。

 

身近な人間を殺しそうになったことへの道徳感情など毛ほどもよぎらない…それほどまでに精神は影を無くし、今はただ溢れ出る殺意と乾きへの餓えへの衝動だけが体を突き動かす。

ビーストマンが逃げ去ろうとする森へと駆け出す。

 

後方から何か声をかけられた気がしたがそんなことはどうでもいい。

 

意味などない。ただ己の欲望を満たすため、ただ獣を狩るためだけに俺は足を速めた。

 

 

 

 

「これが"血の狂乱"か…こうなるか、面白い」

 

 

 

先の会話で取り戻した理性は今にも消え入りそうだが、赤く染まりつつある視界と沸き立つ乾きの正体に行き着く。

 

血の狂乱…出血効果を受ける相手の血液を浴びることによって、攻撃力を上昇させるスキル。

しかし同時に暴走状態ーーーターゲットの任意変更が出来なくなったり、アイテムの使用への弊害など様々なマイナス効果が働く。

所謂ペナルティスキルというものであり、一部職業にはこのような弱点が設定されている。

 

フレーバーテキストには"血を浴びることによって精神制御が利かなくなり殺戮衝動に身を任せてしまう"とあるが、今が当にその最中なのだろう。

なまじ発狂耐性が高かったが故にこのように客観的に観測できているのだろうが、それももう終わりだ。

ヘッケランのおかげで一時頭が冷えたが、その理性を留めておくにはあまりに誘惑が強すぎる。

 

 

 

「…人間気取りは今日までかもしれないな」

 

 

 

理性の箍が外れようというのなら、肉体の枷も最早必要ではない。

それに今や人としての生は失われ、己の肉体は人のそれではない。

俺は前世の病魔に蝕まれた体ではなく、今生の肉体と世界に歓喜したのだ。

であればかつて苦しめられた人の形にとどまっている必要などどこにあるだろうか?

 

 

 

「せめて…すべてが夢で終わらぬように…」

 

 

己が人であろうがなかろうが、正気であろうがなかろうが

あそこにだけは帰りたくない。

 

そして瞬く間に群れに追いついた俺は、この世界の実感を貪るように狩りを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてどれほどの時間がたっただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに"俺"は"俺"を認識することができなくなった。

 

 

 




要約:ジジイの物忘れが激しくなってきた




柵の中にコメントを投げ入れてください。
喜びます。
あと今回誤字脱字ひどいかもしれません…ゴメンナサイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。